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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 王宮襲撃編
93/123

1話 名誉の影響

プロローグが短かったので早めの更新をしました。

次回の更新はいつも通り、12日の日曜日です。

 トローレの街で武道大会が終了して三日目。

 ヤマトは冒険者ギルドの依頼をせっせとこなしていた。



「本当にありがとうございます!」


「大事にな」



 この三日間にこなす依頼はすべて街の中で行えるものであった。

 その理由として今だ体調が万全でないことが挙げられる。



(じっちゃんも無理は禁物って言ってたしな)



 街の依頼は移動時間が少なく済み、一日に複数の依頼を受ける事が可能である。

 この依頼でヤマトの三日間での依頼達成数は十を超えるものとなった。


 ヤマトの受けた依頼はまちまちで、怪我の治療や薬草を届けること(薬草はある程度保持しているから採取に行かなくて済んだ)や荷物運びや庭の手入れの手伝いなどなど。

 種類はいろいろあるがそのほとんどがヤマトの豊富な魔法で片付ける事が出来た為、ヤマトはさほど苦労はしていない。



「お、ヤマト君。今日はセクロの実が入ったけどどうだい?」


「う~ん。じゃあ二つほど貰うかな」



 二つほどのセクロの実(緑色で少しとがった感じの実)を受け取り礼を言う。

 そのあと「また来てくれよ!」と手を振ってくれヤマトもそれに返す。


 道行く人々の中でヤマトに向かい挨拶や手を振るものは意外と多い。

 それはヤマトが街の依頼をこなし、貢献した事が起因している。


 冒険者はギルドの依頼を選ぶとき、街の外で魔物を狩る討伐依頼をこなす者がほとんどである。

 その理由は単純に稼ぎがいいからだ。

 確かに命が掛かっているし、魔物の素材はあらゆる場面で役立っている為に報酬が良いのは当たり前であった。


 それに比べ、街で済ませる依頼は街の住人が依頼人であるのがほとんどなのだ。

 それは報酬が少ない事を意味する。


 魔物や盗賊を狩る討伐依頼は街に住んでいる個人が依頼人になることはほとんど無い。

 それは先ほども言ったように用意する報酬が高いので、それこそフィルムのような貴族や商人でないと無理な話である。


 大体は街の人が集団で依頼人となるか、商人や武器職人などの材料を必要とする者が討伐依頼の依頼人となるのである。

 だから高い報酬も用意出来るという訳だ。


 だが街で済ませられるこういった依頼は個人が依頼するのがほぼ全てである。

 それゆえ高い報酬が用意出来ない。

 そして高い報酬の方の依頼を冒険者が受けたがるのは必然である。


 こうした理由から街の中での依頼を受ける者は少ない。

 するとその依頼は受けるものが少ない為にどんどんと溜まってしまう傾向がある。


 だが、ヤマトはそんな街の依頼を三日で十以上こなしていた。

 ヤマトの知名度は武道大会で優勝している為に街の中でかなりのものとなっている。

 今はまだ街の外まで広がっていないだろうがすぐに広まる事は間違いない。


 それほどの人物が堅実にこういった依頼をこなしてくれるのだ。

 街の住人からすればありがたいものだろう。


 この短期間でヤマトはトローレの街では知名度の高い冒険者となっていた。



「次の依頼はっと」



 ヤマトは依頼完了をギルドに伝え、報酬を受け取り次の依頼を探す。

 そして見つけたのは薬草の採取依頼。



(何々――病に倒れたお母さんを救いたい……か。お、この薬草は持ってる奴で調合すれば代用できるし楽だな)



 実際は効率がいいから街の依頼をこなしているとも言えるヤマト。

 早速依頼を受けてその依頼人の家まで向かう。


 ……その後ろからは何者かが尾行している姿が見られた……。





     ★★★





「ここか」



 ヤマトがたどり着いたのは石造りの小さな家。

 所々ボロボロであり、見るからに貧しい家だと分かる。


 ヤマトはとりあえずノックして誰かいないかを確認する。

 すると、ドタドタと足音がしたかと思うと扉が開けられた。



「あの~……」



 現れたのは十二、三歳程の少女。

 髪の色は茶色で痩せた身体に緑色のワンピースを着ていて、水色の瞳で不安そうにヤマトを覗いている。



「どちら様でしょうか……」


「ああ、一応依頼を受けたんだけど」



 ヤマトをゆっくりと凝視している少女にヤマトが苦笑いしていると、少女が「あ!」と小さく叫ぶ。



「ヤマトさんですよね!? 武道大開優勝者の!」



 どうやらこんな少女にも名前を知られているようでなんともいえない気持ちになる。



「本当に私の依頼を受けてくれるんですか?」


「まあね」



 ヤマトがそう伝えると「本当ですか!?」 と顔を突然輝かせる。



「良かった……。私じゃ薬草の採取が出来ないから……」



 上がってくださいと自宅の中へヤマトを招く少女。

 話を聞けば母の病が深刻な状況にまで陥って、このまま誰も依頼を受けてくれなかったら最悪な事もありえたと言う。



「じゃあ、ちょっと待っててもらっていいか? 今から薬草の代わりに薬を調合するから」


「調合?」



 ああ、と頷きヤマトは早速取り掛かる。

 修業時代にヤマトはアルに簡単な薬の調合の仕方を学んでいた。

 さらにヤマトの超感覚能力マストを使用して、どれとどれを調合すればいいかを直感で悟る事が出来る。


 ゆえにヤマトは材料さえあれば大体の薬を調合出来るのである。



「すごいですね」


「まあこのくらいは冒険者として出来ないとな」



 ヤマトは実にあっけらかんと言いのけるが、実際は調合で薬を作れる冒険者はあまりいない。

 冒険者は一つの事に特化する傾向があるからだ。


 剣士なら剣を、魔道士なら魔法を、調合師なら調合をといったように一つの事を伸ばそうとするのが普通である。

 ヤマトのように多くの方面に手を伸ばしている冒険者は器用貧乏になりがちであるし、実力がなければ他のパーティーからはあまり歓迎されない。



「出来た」



 そうこうしている間にヤマトは短時間で調合を終わらす。

 その手際に見とれる少女を横目にヤマトはそれを少女の母親の所まで持っていく。


 ヤマトは母親の寝ている部屋まで案内してもらい部屋に入る。



「誰でしょうか……?」



 ゴホゴホと咳き込みながら少女の母親と思われる女性がベットから声をかける。

 全体的にひどく痩せており、少女と同じ茶色の髪にも艶が無い。



「俺はヤマト。一応依頼を受けた冒険者って事で」



 ヤマトはなんとも軽い自己紹介の後に作った粉末状の薬を母親の口元まで持っていく。



「これでその病気も治るから」



 水の入ったコップを差し出しながらヤマトは言う。

 それに訝しげな表情になるが、母親はそれを飲んだ。



「飲んだらしばらく寝ててくれ。――治癒力を上げろ。治癒力向上ヒーリング



 薬を飲ませると同時にヤマトが詠唱した魔法は治癒力を向上させる治癒魔法。

 治癒ヒールがすぐに効果が出るのに対してこの治癒力向上ヒーリングは身体の抵抗力や治癒力を上げる魔法である。

 ヤマトの作った薬と膨大な魔力も相まって母親は見る見る内に顔色を取り戻していった。



「か、身体が急に楽に……」



 その母親は驚いた顔をしながらヤマトをまじまじと見ている。

 ヤマトが立ってみるように言うと恐る恐るといった感じに彼女は立ち上がった。



「お母さん!」



 母親に向かい涙を流しながら抱きつく少女の姿にヤマトは微笑みながら見守るのであった。





     ★★★





「一応念のために予備の薬を渡しとくよ」



 このまま自然に回復するだろうが念には念をとヤマトは呼びの薬を少女に渡す。



「何から何まで本当にありがとうございます! 私、冒険者の方ってみんな乱暴な人だと思っていたんですけどヤマトさんは違うんですね」


「そうでもないさ。冒険者の中にはいい人もいる。――まあ、また何かあったらいいなよ」



 ヤマトは依頼を終えて、少女に手を振りながらギルドに向かった。

 辺りを見れば日も落ちかけ夕日が顔を覗かしている。



「街も大分落ち着いてきたな」



 武道大会の間はあれほどに賑やかであったが、さすがに三日と経てば人数も半分程に減っている。

 元々武道大会時には街を占めるのはほとんど冒険者になるし、元々のトローレも十分大きな街である為、寂しげな景色ではない。



(俺もそろそろ出るか……)



 ヤマトはある情報・・・・を聞いて次にはフィーリアの王都に向かおうと思っている。

 ちなみにこのことは宿屋でヤマトを待っているだろうローラ達にはまだ言ってない。


 そんな事をふと思いつつ、ヤマトは先に目の前の問題から片付ける事にした。



「何者だ? 尾行してるのは分かってんだ」



 ヤマトが落ち着いたような……しかし、はっきりと聞こえる声で後ろを向きながら言った。

 夕方とはいえ、当然街の人は少ないながら居るので周りはヤマトに視線を向ける。

 それを気にした様子も無くヤマトは前方を見据えている。


 すると一人の男が観念したようにゆっくりと近づいてきた。



「いつから気づいておられましたかな?」


「朝に宿を出たところから」



 ヤマトの答えに、さすがは武道大会優勝者とパチパチと拍手する尾行男。

 姿は白髪に蒼眼で一般人に紛れ込む為か、目立たない白のコートに薄茶色のズボンを履いている。



「いやはや聞いてた通りの青年ですね。それでは用件を言いましょう」


「どうせ国の勧誘だろ? 国に仕える気はないし、今まで全部蹴ってきたけど」


「――察しが良いですね……」



 男が少しばかり驚いたように目を見開く。

 だがヤマトからすれば、またかと呆れてしまった。



「この三日間はあんたのような奴がしつこく付き纏って来てたからな」


「それはそれは大変でしたな……」



 言葉のような気遣いが態度に全く現れていない。

 だが、別段ヤマトも気にはしない。

 そんなことはこの三日間で大分に慣れていた。



「近くの店にでもご一緒にいかがでしょう?」


「わかった。じゃあそうさせてもらうよ」



 断れば一国からどんないちゃもんを付けられるか分かったものではない。

 ならば話だけでも聞くか、そう考えたヤマトはおとなしく付いていく。



(さあて、また面倒くさい事になったなぁ)



 自分と男が話している間に別の気配が二つ程、こちらに視線を向けている。

 おそらくこの二つも男と同じような理由だろう。



(武道大会優勝者も大変だな)



 面倒くさいながらも少しだけ構われている事に優越感に浸りながらも、ヤマトは男と共に指定された店を訪れた。





     ★★★





 やはり一国の家臣が有力な人材を国に招くために話し合いをする場だ。

 今まで来たこともないような高級な店だった。


 魔道具で作られているランプは鮮やかな遜色で彩られている。

 壁や天井のタイルからは華やかな印象を受けた。

 そんな店なのだから、一般的な品性をもつヤマトからすれば気後れしそうになる。



「――それでは話をさせていただきます」



 そう始めた男にヤマトも表情だけは真剣なそれに変える。

 勿論内心はだるい、と思っている。



「私はサルリア王国の者です。――単刀直入に言いますと、あなたに自国の将の地位についてもらいたい」


「将……ね。こちらにメリットはあるのか?」


「勿論用意させて頂きます。まずは金貨100枚がここにあります。さらに、功績によってはあなたに爵位と領地も与えさせてもらいます」


「まあ、妥当なもんだな。しかし、そこまで俺を欲しがる理由は?」



 ヤマトに国に仕える気はない。

 そして、その為の手は打ってある。

 しかし、情報を集める為にもヤマトは乗り気の仕草を見せて相手に多くを語らせようとする。



「まずはあなたの実力ですね。さらにギルド側があなたに目を付けるのも時間の問題。そうなればこちらもギルドと深い関わりを築ける可能性があります」


「ずいぶん正直に言うんだな?」


「あなたも薄々気づいていらっしゃるでしょうし問題はないでしょう」


「なるほど」



 流石に国にとって重要となるべき人材を招き入れようと寄越した人物だ。

 どうやら多少頭は切れるらしい。

 二日前に訪れた使者よりはずっと話がしやすい。



「――――ま、もうすぐ大規模な戦争が始まりそうだしな。少しでも強い奴は引き入れたいだろうさ」


「そういうことです」



 スクムト王国の動きが怪しくなり始めるこの頃である。

 やはり優秀な人材を招き入れたいのはどの国も同じだ。

 それゆえに、後の二人もこの話を黙って聞いているわけではなかった。



「少しよろしいか?」


「悪いのですが、こちらも何分急ぎの事でして」



 現れたのは二人の人物。

 一人は黒を基調とした隊服の男、もう一人は銀と緑を合わせたような鮮やかなドレスを身に着ける人物。

 そのどちらもが金髪碧眼である。



「メルーア公国とマンドラ連合国家ですか……」


「まあこっちに視線を向けていたことは分かってたから別段驚きはしないけど、常識がなってないな」



 今はこっちと話してるんだと迷惑そうに付け足すヤマト。

 だが、待てよと思い直す。



(纏めて話した方が時間の無駄がないか、うん)


「仕方ない、そこの二人の話も聞いてやる。というか俺の話を聞かせてやる」



 ヤマトの高圧的な発言に不思議そうな表情を見せる三人。

 話を聞かせるのはこちらなのに、なぜ目の前の青年は自分の話を聞かせると言ったのか。

 それには理由がある。

 ヤマトの今の立場がこれらの国の者よりも上の位置についているという事を示さなければならないからだ。



「まず初めにだ。俺はすでに所属国が決まっている」


「な、なんだと!?」



 メルーア公国の者だと名乗った男が声を上げる。



「――そんな情報は聞かされていませんが……」


「まあ、この情報が流れてないのは事実だけどな」



 この情報は本当に予想外な事に未だに出回っていない。

 ヤマトが考えるに、おそらく国としても自分の所属国が大国だけに手の出しようがなく、ならば情報を流さず他の国が自分を追い回す隙に別の人材も確保しようとしていると予想する。



「――――どこの国でしょう?」



 三人は訝しむようにヤマトを見つめる。

 それに対してヤマトはある物を提示した。

 それは銀のプレートである。

 そのプレートにはあるマークが刻まれている。

 赤い鳥が羽ばたくマークだ。



「な、これは――――」


「フィーリア王国……」



 三人が絶句する。

 そう、ヤマトが所属している国はフィーリア王国……と表上はなっているのだ。

 このプレートがそれを証明するだけに三人とも開いた口が塞がらない。



「すでに大国に取られていようとは……」



 これを見せればどの国も引き下がらないことはない。

 三大国に喧嘩を売ろうなんて考える国はいないということだ。



「そういう事だ。悪いね」



 ヤマトの含みのある笑顔にそれぞれが何を思ったのか。

 ただ、あまり良い感情ではないだろう。



「――ではもしも同じ戦線に立つときはどうぞよろしく」



 一番冷静であったのはマンドラ連合国家の使者である女性であった。

 その言葉に他の二人もそそくさと退散する。



(やっぱあの提案・・・・、受けといて正解だったな)



 ヤマトはこの状況を見るたびに妙に清々しい気分になる。

 中々に良い性格をしていると自覚しながらも彼は帰路に着くのだった。





あの提案、というのは次回に内容が明らかになるでしょう。


読了ありがとうございました。

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