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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 王宮襲撃編
92/123

プロローグ

三章開始

 昨日に行われた武道大会。

 その結果はあまりにも予想外なものになることで幕を閉じた。

 それはSSランクホルダーである筈の“戦乙女”を一人の青年が下したというもの。

 この出来事には観客や冒険者はもちろん、貴族や各国の王にまで影響を与えていった。

 王達は思う、あの青年を自国に招き入れればこれ以上の戦力はないと。

 SSランクホルダーを所持する国というのはそれだけ冒険者ギルドからも優遇される。

 極稀に起こる危険度SSランクの依頼、それをこなす事が出来るのはSSランクホルダーだけであるからだ。

 SSランクホルダーを所持することによりギルドに大きく近づける、つまり太いパイプを繋げるのだ。


 これがどれだけ便利であるかはどの国も知っている。

 現在それを所持するのは三大国のガラン帝国だけであり、もしも他の国がSSランクホルダーを招くことに成功したならばそれは例え小国であっても一気に影響力の強い大国と並ぶ可能性がある。

 そして青年はそのSSランクホルダーに勝利を収めた。

 SSランクホルダーにこそ認定されていないが、ギルドから何かしらの優遇は間違いない。

 そうでなくてもそれだけの人材はやはり手に入れたいものである。


 さらに都合がいいのがその青年がSSランクホルダーに認定されていない点。

 SSランクホルダーを自国に招き入れている国が一国しかないのはSSランクホルダーを無理やり国に招くことが出来ないからである。

 そんな態度で彼らを手に入れようとする国があったならばギルドが敵対してしまう。


 さらにSSランクホルダーという資格を持つ時点で本来の仕事は彼ら以外誰もこなす事の出来ない危険度SSランクを遂行する事であり、国としてもそちらを優先させる必要があるのだ。

 これを犯す国もまたギルドと敵対することになる。


 つまりそれだけギルド側でもSSランクホルダーを重要視しているということであり、国としても動かしにくい人物となる。


だが、青年がSSランクホルダーでないならば話は別であった。





     ★★★





 ここはサルリア王国の王とその護衛が滞在している宿泊施設。

 赤い絨毯が敷かれており、その大広間のような部屋で一人の人物が席に着いており、その前には護衛の者が立っている。

 その全員が神妙な態度で話し合いを行っていた。



「つまりあの青年を自国に招き入れると?」


「そうだ。あれほどの人材を捨て置ける事など愚か者のすることだろう?」


「しかし何者かわからない素性の知れぬ者です。簡単に招き入れては国に影響が出るのでは?」



 一人の家臣の言葉に数人も頷く。

 

 だが、それでも武道大会優勝者である彼を自国に招き入れたいと王は口にする。



「あの者をこちら側の将として持ち上げれば国の軍事力も影響力も上がるはずだ。そうすれば三大国と並ぶ事も夢ではない」


「そう簡単にいくものでしょうか?」


「いや、だが彼の実力は未知数だぞ? あれを国に引き入れれば確かに有力な“兵器”を所持するものと同義だ」


「しかし、それで他の――特に騎士どもが納得するかどうかだが……」


「騎士など黙らせればよいだろう」



 会議は進んでいく。

 その方向は武道大会優勝者である一人の青年を引き入れるという方向で。



「手段は問わん。頼むぞ」


「はっ!」





     ★★★





 またサルリア王国の隣国であるハンス公爵率いるメルーア公国御一行。

 街の東側にある高級な宿の部屋の中では数人での緊急会議が開かれていた。



「治癒魔法、干渉魔法は軍において重要な魔法だ。それを取得している彼はぜひとも我が国に欲しいものだ」


「しかし、各国の王が動いていると情報が入っています。その内の一つにフィーリア王国も含まれていると」



「ふむ……、フィーリアが彼を手に入れればさらなる軍事力を誇る事になるな。それは避けたいものだ。数年後に起こる筈の戦争において我がメルーアも戦果を手に入れその存在の名を高めなければならないのだからな」


「これ以上フィーリアの地位が上がれば三大国の中でもガラン帝国と同等までになってしまいかねませんしな。そうなれば最早手が付けられません」



 やはりここでも武道大会優勝者である例の青年について語られている。

 そして上層部数人と話し合い、事の次第が大きいことを悟っていく。



「しかし、よろしいのか? 彼の素性は全く知れないのだ。正直国が混乱する恐れもあるが……」


「確かにリスクは大きい。たかが冒険者に其処までの高い地位は用意出来んからな」


「だがその見返りもまた大きいものだ」



 優秀な将が居れば周りの国からの影響も何かしらある。

 ガラン帝国の“剣聖”、フィーリア王国のザクロが良い例だ。

 それゆえにそういった人材は国としては欲しい。

 しばらくの間、議論は続く。

 そして……公爵は口を開いた。



「かの者と接触を試みろ」


「わかりました」





     ★★★




 そして街の西端部の屋敷を借りているマンドラ連合国の者達も彼らの女王と家臣で話し合っていた。



「これから先に起こる筈の大陸戦争。それを踏まえれば是非彼には我が国に招きたいものです」


「テアラ様、彼はどうやらこの街のガノン殿との繋がりがあるとの事です」


「それが本当であるならばいよいよ他国に招かせるわけにはいきません」


「唯でさえ我々は国として纏まり切れていな……すいません! ご無礼を申し上げました!」



 女王テアラは嘆息する。

 男の発言は国の者として、さらには女王の前にして軽々しく口には出してはいけないものだ。

 しかし、国が纏まりきれていないという発言は決して外れてはいない。

 だからこそ、彼女は彼を欲する。



「我が国を安定へと導く為にも、優秀な人材の協力は必要不可欠。大陸戦争が起これば我が国は大きな打撃を被ります」


「わかっていますわ。誰か、早急に使いを向かわせてください」


「では私が参りましょう」





 それぞれの国が動き始める。

 これからの未来を考え、良くも悪くも自分の為に、国の為に王は青年を求める。

 それが青年が求めるものでないとしても。


 しかし、その青年は仮にも武道大会優勝者でSSランクホルダーを下している。

 そしてその交友の幅は深い。

 つまり、彼もまたそういった動きに対しての対策を立てているのであった。





読了ありがとうございました。

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