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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 武道大会編
83/123

最終話 決勝戦 嵐を制する者

三章前半部もラストです。


ヤマトが諦めかけ、試合が決着したと思った人々は次に起こった光景に何度も目を疑った。

それだけ目の前の光景が信じられないのだ。


最初こそ決着は着いたかに見えた。

カーラの強さがヤマトを圧倒的に上回っていたのだから。

誰もがカーラの勝利を確信していた。



「何なんだよ……」



誰かが驚き呟くのが聞こえる。

このような驚きは二度目だが、一度目とは大きく異なっている。


一度目は純粋な賞賛であった。

まさか挑戦者であるヤマトがSSランクホルダーのカーラとあそこまで戦えるとは思わなかったのだ。

このとき観客全員はただヤマトの強さを認めただけである。


しかし、今度のそれは遥に違う。

何が原因かは分からない、どうしてこのような事になっているかも、またこの光景が本物である事すらも。


人々は疑うしかなかったし、疑いたかったという気持ちがあった。

それだけ目の前の光景はありえないものであったのだから。


その光景、それはカーラが血を流し、黒髪の青年に押されている姿。

最強無敵を誇るSSランクホルダーが劣勢を強いられている光景だった。


そしてさらに驚くべきなのは、試合がまさに一方的……ヤマトはいつしかカーラの攻撃にかすりすらしなくなっていた事だった。


だが、その事実にカーラは本気の狩人の目に変わる。

そこからの戦いは何が何であるか分からなかった。


ふと見ればコロシアムの端で斬りあい、その次はコロシアムの真ん中で魔法をぶつけ合っている。

二人が激突する度にコロシアム中の空気が揺れる。


ヤマトの刀をカーラが避けたと思ったらヤマトの背後に移動していて、ヤマトはそれを後ろに跳んで避けたかと思えば空を蹴ってカーラの懐にいる。


それをはっきりと認識できたものはいない。

居たとしてもそれは異常な程の実力者二、三人である。


それだけこの戦いは常人、もしくは一流の冒険者でさえも目で追うことが出来ないものであった。


いつしか風と雷が舞い、さながら嵐のようになっていた。

ゴウッと風が吹いたかと思えばピシャっと雷が落ちる。

一体どんな化け物同士の戦いなのか……。


すると二人は急にコロシアムの中で姿を現した。

二人は既に息が切れており、肩を激しく揺らしている。


そして二人が二、三言葉交わしたかと思えば魔力を集めだした。

ここで魔道士の多くは仰天する。

彼らが溜め込む魔力の量が常軌を逸していたからだ。

反応を示した魔道士の中で結界魔法が使える者は全て魔力全開でそれを唱える。

その中にはラーシアもいた。



「嘘でしょう!? これほどの魔力で唱える魔法なんて……」


「な、何を詠唱しているんですか!?」



ラーシアの慌てぶりから今から二人が唱える魔法はどうやら凄まじい物のようだ。

ローラはラーシアの返事を待つ。

するとラーシアが震えながらに言った。



「二人共……おそらく最上級魔法を唱えるつもりです……」


「へ?」


「は?」


「な……!?」


「「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」



ローラを筆頭にリリー、ガノン、ミルが絶叫。

最上級魔法とは一つの属性に対してに一つだけの最強の属性魔法。

それは普通の魔道士の五人分以上の魔力が必要とされる。


それを二人はここで放つというのだ。



「何で最上級魔法何てものを使えるんですか!?」


「知らないです! ただこのままじゃ不味い事に……」



そうこうしている間にも二人の魔力は十分溜まったようだ。

そのまま二人は魔法を唱え、一気に放つ。


勿論その瞬間、幾人もの魔道士が反応し結界を張る。

しかし、二人の魔力には無残にも一瞬で破られてしまった。


そしてそのまま大爆発。


魔力爆発は結界の為か横よりも上に大きな威力を発揮し、運良く観客席には被害が出なかったようだ。

全員がコロシアムの中の二人の安否を確認するようコロシアムを凝視する。


コロシアムの中は砂煙に包まれている。

コロシアム内がどうなっているのかは誰も分からない。

ただ、静寂であることは分かっている。

つまり、戦闘は終了しているのだ。


……そして、ついに砂煙が晴れていった。


どんどんと、晴れていくコロシアム。

その煙の中で一人の人物が立っているのが見え始める。

影なので誰かは見えないが、おそらくその者が勝利者だろう。


だんだんと煙が晴れてくる。

そしてその人物が観客の眼前に映った。

もう一人はその足元で倒れている。


……立っていた者はヤマトだった……。





誰もが絶句。

あの最強を誇ったSSランクホルダーのカーラがヤマトの足元で地に伏しているのだから。


動かない観客に向けて、ヤマトがそのまま片腕を上げた。

プルプルと動かすのもやっとのようにそのまま片腕を上げて静止。

そのあとゆっくりとその手をピースに変えた。



「――――……ヤマトが勝った」


「…………ああ」



ローラとガノンが呆けながら呟くように言った。

それが周囲に伝染していく。



「――――…………カーラが負けた」



誰かがまた一人呟いた。

どんどんとそれを言う者が波のように伝わっていく。

そして、次の瞬間に歓声が大爆発を起こした。



「ヤマトが勝ったあああああああああああ!!!」


「きゃああああああああああああああああ!!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」



観客から、見物していたものから歓声が一気に漏れる。

その叫びは大気を揺らすほどに強く、騒がしい。



「あそこから勝つなんてな……」



この試合をひっそりと見ていた<流離う者>のメンバー達も目を仰天させている。

シーミなどは目を飛び出さん程に開いていた。

コミュートはただただ感服といったように天を仰いでいる。



(本当にすごいな……)



あの状況では間違いなく勝てる可能性は皆無だったはず。

それをひっくり返して勝利を収めたのだ。

観客が興奮しないはずが無い。



「すごいすごい!!」


「ええ!!」



ミルとリリーが手を取り合ってはしゃいでいる。

先ほどまで俯いていた姿は今は無い。



「ヤマト……」



ローラは涙を流しながらヤマトを賞賛していた。

あのカーラを倒したのだから決して大げさではない反応だろう。



『まさかの予想外ぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 勝負を制したのは漆黒の青年、ヤマトォォォォ!!』


――ワアアアアアアアアアアアアア!!



「うるさいな……」



ヤマトはそのままヘナヘナと座り込む。

最早自分も満身創痍、良く立ったものだと我ながら感心した程である。



「身体中が痛い……」



これが三重身体強化トライデントチャージングの代償。

身体中が激痛に襲われ、次の日はまるで動けない。

もっと体力をつけたほうがいいなと改めて思う始末である。



『誰もが! 俺ですらヤマトの勝利を諦めていたが! 奴はやってくれたぁぁぁ!!』


――ウオオオオオオオオオ!!!



ヤマトが横になりながら見渡すと何処もかしこも涙を流しながら騒いでいた。

これほどまでに感動に包まれた武道大会は一体いつ以来だろうか。

少なくとも史上稀に見る素晴しい試合であったという認識を見ていたもの全員が思ったことだろう。


だが、SSランクホルダーのカーラとの試合、それに勝利したと思えばこの反応も納得だ。

カーラは本当に強かった。

自分ですら超感覚能力マストが発動していなければ負けていたとヤマトが確信するほどに。



「あいつらなら……まあ、似たように泣いてくれるんだろうなぁ」



ヤマトは今も修業しているであろう仲間達の事を思いながら目を閉じる。



(俺さ……約束どおり勝ったよ……)



突然身体が脱力する。

ヤマトはいつしか地面に倒れていた。

それから彼に襲いかかるのは強烈な睡魔。

ヤマトはそれに逆らわず、ゆっくりと眠りに着くのだった。





     ★★★





「馬鹿な……」



一同は唖然。

セレーナ、ザクロは呆けている。

国王バーンもまた同じような反応を示している。


呆気に取られて言葉が出ないとはまさにこの事だろう。


まさかのまさか、誰が予想しただろう。

コロシアム中央で豪快に爆睡している青年はSSランクホルダーを破ったのだ。



「…………! ザクロ、早急に手筈を!」


「――――! 御意に」



セレーナはすぐさま行動する。

おそらくこれからは国同士であの青年の取り合いになるであろう。


SSランクホルダーのカーラを破ったのだ。

おそらくSSランク以上の実力があると認められたと言っていい。


それほどの青年を今の時代に他の国がどのような手を使っても手に入れようとするのは明らか。

確かにフィーリアに仕えてくれれば万々歳だが、そうでなくても彼の身が多少は心配であった。


集めた情報では決して悪い男ではない。

むしろ好感が持てるほどである。


つい数日前にヤマトは国の緊急依頼に協力したという情報はすでに入っていた。

そのことは今まで国にとっての敵か味方かをはかり兼ねていたセリーナに敵ではないという事を確信付けていたのだ。


故にセリーナはヤマトの手助けをするようにザクロに言った。



「これから騒がしくなるでしょうね……」



せめてヤマトが他国に渡り、その結果フィーリアを脅かす事が無いように願うばかりであった。





     ★★★





「わはははは!!!」



一方のガラン帝国の皇帝ルリアはヤマトの勝利という結果に大変満足しており、愉快そうにずっと笑い続けている。



「やはりヤマトは期待通り……いや! それ以上じゃ!」



ルリアは面白いものを見たとばかりに顔を輝かせている。

そんな彼女の横でゼウスは考えに耽っていた。



(あれは一体……。まさか、な)



突然にしてヤマトが異常な程に強くなったのはおそらくあの魔力操作力、魔力変換力が急激に上がった事が原因だろう。

そして、その正体……ゼウスはその答えにたどり着く。



「ゼウス? どうしたのじゃ?」


「――――いえ、何も」



ゼウスは其処まで考えてルリアに声をかけられる。

その時点で考える事を止めて、ルリアに次の準備をするよう促した。



「ルリア様、次の予定はフィーリア王国のバーン王と会見です」


「うむ、スクムト王国への対抗策の検討だったの」



ルリアは急に真面目な表情になり、頷く。

元々ルリアは娯楽と仕事できっちり気持ちを切り替える事が出来る。

それに現状でスクムト王国が不穏な動きを見せているので面倒くさがっている場合じゃない。



「それでは行こうかの」



ルリアは白を主体とした巫女服のようなころもを翻し、今まで座っていたその席を後にした。





     ★★★





そうして時間は経っていき、表彰式に移っていく。



『優勝者はヤマトーーーーーーーーッ!!』



周りの観客が盛大な拍手を捧げる中、ヤマトはゆっくりと進んでいく。


今はコロシアムの中央で大会のスポンサーのシューターや司会のウルトが賞金を片手に持って、ゆっくりと歩を進めるヤマトを待っている。

ヤマトの隣ではあちらこちらに包帯を巻いた準優勝のカーラも同じように歩を進めていた。


二人はそのまま進み、立ち止まる。



「――汝ヤマトを第167回武道大会を総べる者として認める」



この瞬間、ヤマトは武道大会において最強の冒険者となった。

そんな彼に観客が更なる大歓声を上げる。



「すばらしい戦いだった」



横を見ればカーラが微笑み手を差し伸べてきている。

ヤマトはそれに笑顔で手を握り返した。


そんなヤマト達の姿はいつまでも続く事は無い。

始まりがあれば必然に終わりがある。


今日を持って多くの者に感動を与えた武道大会が終了した。





     ★★★





ここはトローレからはかなり離れたとある洞窟の中。

空が薄暗くなっている中で、二人の人物の姿があった。



「例の実験……どうだったの?」


「途中までは良かったんだがな。いささか効果が大きすぎたようだな。調整が必要だ」



二人はどちらも全身を黒のローブで覆っている。

フードも深く被り、その顔も表情も分からない。



「予想よりもあまりの効果の大きさに奴も焦ったらしい」


「へぇ……。あの人が焦るほどねぇ」



想像したら噴出しそうだ、と一人が呟く。

それに対してもう一人は話を続ける。



「とりあえず冒険者により解決したらしいな」


「ふ~ん……。それで、三年前の時より進歩はどうなの?」



一人が首を傾げて尋ねる。

するともう一人の人物がふっと笑った。



「制御は出来るようになってきている。後一年もすればおそらく――」


「――――後一年ね」



三年前……バラン地方のとある街の近くで実験を行い、魔物を急激に集める事に成功。

その前段階として魔物の大繁殖も起こしていた為に膨大な量の魔物を集める事が出来た。



「着々と準備が進んでる訳ね」


「そういうことだ」



そして二人は洞窟の外に出ようと歩みだす。

洞窟内にはカツカツと足音が響く。

その時、一人がおもむろに呟いた。



「次の狙いは?」


「勿論フィーリアだ」



淡々と答えた後にふと立ち止まる。

それに吊られてもう一人も歩みを止めた。



「どうした?」


「いや、狙うって言ってもどうするのかな?」



何も知らないのかと一人が鼻で笑う。

それに別段気にする事無く教えようよと急かす。



「スクムトの二の舞は避けたいのでな。――今度は王女を狙う」


「確かに人質はいいかも……スクムトのお爺さんは追い詰めたら勝手に死んでいったからね」



それを最後に二人は洞窟を出る。

その者達は一体何を見据えるのか。

その先に待っているものに向けて、ゆっくりと歩み始める。


その時、一人の黒フードの下から……赤色の眼光がギラッと光った……。










     第三章 黒風の通る道 前半   ===完===






三章はあまりに長くなってしまうのでここで前半部終了とさせていただきます。

今日から1~2週間程更新をお休みさせて頂きます。

その後には三章に入る前に閑話を入れたいと思います。

速く三章後半部に入れという方は申し訳ありません。

詳しくは数日後くらいに活動報告に記入したいと思っています。


読了ありがとうございました。

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