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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
8/123

7話 “覚醒”

遂にヤマトが魔法を使用します。

説明不足なところもあると思いますが許してください。

 村の入り口付近では、一人の老人と、それを相手する何十人の賊が戦っていた。

 だが、既に粗方片がついているようで、盗賊の元いた人数の半分以上は地に伏していた。



「どうした? もう疲れたのかのう? 若いもんは体力が取り柄じゃろうに……」


「……なんなんだよ! このじじいは!! 化け物か!?」



 その青い瞳を盗賊達に向けては呆れるアルに盗賊の一人が叫ぶ。

 しかし、そんな叫びを気にすることなく……。



「ほれ、かかってきなさい」


「!!」



 アルは構えて大きなプレッシャーを出して手招きする。

 その姿に盗賊の全員が後すざりした。

 全員が化け物のように強いアルと戦うことに戸惑いを見せていたのである。



「……くっそぉぉぉぉぉ!!!」



 しかし、一人の男が怒号をあげて、突っ込んでくる。

 それに合わせて何人かも同じように突っ走ってきた。


 だが、アルはニヤリと笑って地面に手の平を添えた。

 その瞬間、地面から土の柱が何本も打ち上げられ、走ってくる者に激突し、気絶させた。



「干渉魔法だと……!?」



 干渉魔法は地面や鉄、木材などの“物質”の形を変化させる魔法である。

 しかし、それにはかなり高度な魔法操作の技術を要する。

 自らの放つ魔法を形作るのはさして難しくない。

 むしろ魔道士ならそのくらいは出来て当たり前のレベルである。


 しかし、この干渉魔法は自らの魔力を使い、自らの物ではない物の形を変える。

 自分の体の一部を動かすのと、見に付けた道具を自在に操るのとでは扱いやすさが違う事と同様だ。

 そういった理由から干渉魔法を使える者は珍しい。

 それゆえにアルが干渉魔法を使う事に驚くのも無理はないだろう。



「ふむ……。時間が惜しいのでな。こちらから行かせてもらうとするのう」



 そう言ったアルは加速魔法で動きを加速させ、敵の集団のど真ん中に移動する。

 あまりの速さにアルが消えたと目をパチクリさせる集団の何人かが、突如に背後から衝撃をうけた。

 妨害魔法の障壁を発動させて、背後からそれをぶつけて攻撃したのだ。


 妨害魔法を使って何人かを吹き飛ばしたアルは呆気にとられて動けない盗賊たちに追撃として、両手をパンと気持ちのいい音をだして合わせたと思うと、直径五メートルほどの無数の火の玉を落とした。

 アルによって天から舞い落ちる流星群に成す術なく、絶句した盗賊たちは天の裁きに飲み込まれていった。



「――こんなもんじゃろ」



 無数のクレータが出来た村の入り口を干渉魔法で平らに整えていくアルは、百人ほどの盗賊の横たわった姿を見てそう呟く。



「さて、子ども達が心配じゃ。急がねばな……」



 そうしてアルは広場に向かっていった。





     ★★★





 戦場と化している広場では武器を持った村人と協力して盗賊と応戦しているサイ達の姿があった。



「うらぁぁぁぁ!」



 ザックが村人を襲おうとしている賊の一人を殴りつける。

 バランスを崩してよろめく賊にロイが両手に持ったショートソードで斬りつける。

 そんなロイに棍棒を振りかぶる大男がいた…が倒れた。

 サイとセラが後ろから大男を斬りつけていたのだった。



「いつ見ても戦いって好きになれないな……」



 ソラは呟く。

 ソラ達六人は幼いときからバランにいるため、人の死ぬところは何度も見ているし、アルに戦いの術を教えてもらってからは、自らの身を守るために人を殺めたことも何度かある。


 しかし、それでもまだ12~14の子ども。

 そんなサイ達はやはり戦いというものは、決して好ましいものではなかった。



「……ん…………?」



 その時ザックは気づいた。

 こちらに向かってくる賊が剣を取り出すのを……ではなく、その賊が20代の綺麗な顔立ちの女性だということに。



「綺麗なお姉さぁぁぁぁん!!」


「……なっ!?」



 そう言って女性に飛びつこうとするザックを見て、自らの身の危険を感じる女性は後すざる。(13歳の子どもにするような反応ではないが…)

 それを見てサイは銀の瞳を細めた。



「――フィーネ。頼む」


「……わかりました。吹き飛ばせ、突風ガスト!」



 何かを承諾したフィーネは魔法を詠唱する。

 勿論狙いは賊の女性…とそれに飛びつこうとするザック。

 そしてフィーネの唱えた魔法により起こった突風に、二人は後方に吹き飛ばされた。



「うごぉぉぉぉ!!」


「きゃああ!!」




 吹き飛ばされた二人は悲鳴をあげ壁に激突。

 賊の女の方は当たり所が悪かったらしく気絶している。

 衝撃により頭の上に星を作るザックに追撃としてセラの拳骨が入った。



「あんた戦闘中に何やってんのよ!!」



 ゴンッと鈍い音と共に地に伏すザックにセラは怒鳴りつける。



「――そりゃ綺麗なお姉さんが居たら飛びつくだろ、普通。……なんでそんな目で見るんだよ!」



 ザックの反論に呆れを通り越し冷たい視線で見つめる五人にザックが講義する。

 その時、ザックの背後から剣を持ってこちらに向かってくる賊の男が、サイ達五人の目に入る。



「ソラ、フィーネ!」


「了解!」


「わかりました!」



 そう言って弓を引くソラと詠唱の準備をするフィーネ。

 しかし、背後の賊に気づいていないザックは何を勘違いしてか、それが自分に向けられていると錯覚する。



「いや……その、な……? 男の性と言いますか……ね? 其処まですることは無いと思うししな……? いや本当すいません……。――ってギャーーーーッ!!」



 土下座の体勢で謝るザックに背後の男が剣を振りかぶるが、フィーネの炎弾とソラの放った矢によって倒れる。

 しかし、ザックにとっては、背後には自分を掠めて通過した魔法と矢によって倒れた男がいるではないか。



「あいつは本当にどうしようもないな」



 後ろで倒れる賊の男に「おっさん! ――くっ……。俺が避けたばかりに、すまねぇ……」などと涙目で男を揺さぶっているザックに呆れて、五人全員が溜め息をついた。

 そんな時、ふとサイが気づくと広場の方では騒ぎが治まりつつあった。



「ふむ。お前さん達は無事なようじゃのう」



 そこには事の騒ぎを治めたアルがいた。

 聞けば広場に着いたと同時に魔法で盗賊に攻撃を開始。

 人数もあまり多くなかった為、物の五分程度で片付けたようだ。

 そんなアルに感心する五人の後ろから、ザックがアルに懇願する。



「アルゥ……。ソラとフィーネの攻撃に巻き込まれたおっさんが……」



 それを聞いたサイはザックに拳骨をかます。

 はぁ、と息を吐くサイはその男が賊で背後から攻撃をしようとしていた事を伝える。

 事の真相を知ったザックは目を飛び出させた。

 そんな光景を横目にアルは訪ねる。



「そういえば、ヤマトの姿が見えんかったが……。どこにいるんじゃ?」



 その言葉に目をパチクリさせる六人。

 そして「しまった!」とばかりに口元を押さえ、呻いた。



「途中で逸れたっぽいんだ! 急がねえと!」


「どこかで一人で戦ってたら大変です!」



 ザックとロイの言葉に頷くアル。

 見ればセラとソラとフィーネも心配そうにしている。

 そしてサイが促す。



「じーさん。感知魔法を!」


「わかっておる」



 ヤマトを探す為にアルは感知魔法を使おうとした。

 刹那、アルの家の方角から膨大な魔力が突然に発生した。



「な……!?」



 あまりの魔力量にアルが目を丸くさせる。

 見れば、他の六人もその出来事に顔を仰天させていた。



「なんて凄まじい魔力なの……?」



 セラが信じられないといった顔で呟く。

 セラの反応も決して無理はなく、その魔力は魔道士として最上級の魔力量を持っているアルのそれを軽く凌駕していた。



「――あそこに一体何が……?」



 あまりの出来事に、不安に満ちた表情をするアル達。

 不意にアルが告げる。



「――皆は村のものをここから離れさせるんじゃ」


「――――!!」



 アルの言葉に絶句する六人。

 しかし、全員がその言葉に反論していた。



「何言ってんだよ、じーちゃん!」


「そうです! 僕達も行きますよ」


「一人で行くより皆で行った方が絶対にいいよ!」


「そうですよ! 皆で行きましょう!」



 ザック、ロイ、ソラ、フィーネが次々に自らの心を告げる。

 アルは呆れた顔で溜め息をついた。



「本当に何があるかわからんのじゃぞ?」


「愚問だな。俺達はもう覚悟を決めている。」


「第一、おじーちゃんがいないと冒険者修業が出来ないじゃない!」



 サイとセラの言葉にアルはいよいよ苦笑いするしかなかった。



「――全く。仕方のない子らじゃのう……」



 そう言って説得をあきらめたアルは、自分から離れないよう、何か気づけばすぐに自分に知らせるように注意した。

 それに六人はすぐさま同意する。

 それを見たアルは巨大な力の源のある方向に走り出した。





     ★★★





(……一体何なんだ!?)



 確か自分は今まさに怯えるガキを始末する寸前だったはず、そう思った黒いローブの男は前方の黒髪黒目の少年を見据える。

 そこには、さっきまで自分に怯えていた少年の姿はなく、あまりにも膨大な魔力を纏い自らの漆黒のまなこに決意を抱かせた少年が立っていた。



(……なにが起きたんだ……!?)



 男がナイフを振り下ろすその瞬間、事が起きた。

 少年の体から突如人間とは思えないほどの魔力が流れでて、男を吹き飛ばしたのだ。

 後ろに飛ばされた男はこの状況を把握しようと思考を超回転で働かせる。



(…………!? ま、まさか……!)



 そしてこのような現象が起こりうる唯一の可能性を導き出した。



「――――“覚醒”!?」



 その瞬間、月光に照らされた漆黒の少年が動いた。





     ★★★





 ――体何なんだろう? この感じは……。



 ヤマトは思う。

 今しがた自分は驚愕の表情を浮かべる目の前の男に殺されかけたはずだ。

 その時何故かは知らないが、突然不思議な力が沸いてきた。

 その瞬間、男がその不思議な力に押されるように吹き飛んだのだ…。



 ――今なら負ける気がしない!



 ヤマトは今ならばいけると気持ちを高揚させた。

 そうして、今の今まで起こってくれなかったあの衝撃も頭に走る。

 するとヤマトの感覚が研ぎ澄まされた。

 そして、ヤマトは今の自分の状態を直感的に悟った。


 突然に起きた現象のこと、魔力のこと、そして“覚醒”のこと……。

 自分の直感が戦えと訴えた。



「いくぞ!」


「――――!!」



 ヤマトが凄み、それに男が後ずさる。

 今のヤマトに敗北の二文字はなかった。



「我が身の身体を向上せよ! 身体強化チャージング!!」



 ヤマトは直感に従い詠唱する。

 そして導かれるように魔力がヤマトから流れでた。

 ヤマトが自らが神になったような錯覚を覚える程に。



(バカな……! 身体強化魔法だと……!?)



 男は驚愕した。

 何故なら、ヤマトの放った身体強化魔法は今の時代には誰にも使われていない、失われた古代魔法ロストスペルだったからだ。


 身体強化魔法は自らの身体能力を向上させる代わりに、“大量”の魔力を消費し“続ける”。

 故に並のものなら唱えるだけで精一杯の魔法である。

 そんな魔法を戦いの終始にかけ続けるほどの魔力量を持つものがほとんど存在しなく、そのまま廃れていき、今では誰も使用する者が居なくなっていった。


 今ではその道に精通したものしか身体強化魔法の存在を知らない。

 男は呪文自体の存在があることぐらいしか知らなかったのに、そんなものをヤマトのような少年が使ったのだ。


 そんなことを考えている男に向かい、ヤマトが刀を構える。

 そして、ヤマトは駆け出した。

 ローブ男が気づいた時には、ヤマトは既に男の懐に潜り込んでいた。



「はあ!」



 ヤマトは刀をなぎ払う。

 男はそれをナイフで受け止める……が完全には受け止められなかった。

 男は咄嗟に身を引いた。


 男の腹部に切り傷が出来ていて、そこから血が流れる。

 傷自体は致命傷ではないが、浅くないその傷口は男の動きを鈍らせる。

 そこにヤマトはいつの間にか拾っていた、男が投げたナイフを投げた。



「ナイフの動きを加速せよ! 加速アクセル!!」



 自分の直感に従い、ヤマトは詠唱する。

 直感に従い魔法を操る。

 しかし、ヤマトが行ったこの行為は決して褒められるものではない。


 魔法は自らが操ることで、“最も効率の良い魔法”を“最も効率の良く使う”ことができるようになる。

 直感に任せるということは、自らが何の魔法をどのように使うかが把握できないのだ。


 しかし、時として自らの生存本能による直感が自らの身を守るために最上の行動を示す時が稀にある。

 ヤマトの場合、生存本能ではなく謎の感覚能力の向上が原因だが、今のその状態がほぼそれと同義であった。



「うぐっ!」



 男が身を捻りかわそうとするが、ナイフが男の肩に直撃した。

 加速がかけられたそのナイフは、男の肩に深々と刺さり、男が呻く。

 そして、その瞬間にできた隙をヤマトは見逃さなかった。



「風の刃よ刀より放て! 風刃ウインドカッター!」



 そして放った風の刃の一撃は男を切り裂いた……。


 男の体が揺れる。

 そして大量の血を放ち、男が倒れた。

 それは戦いが終わったことを示していた。



「う……あ…………」



 既に大量の魔力はヤマトから消えていた。

 頭に連続して走っていた衝撃もいつの間にか消えていた。

 そうしたヤマトは冷静に現状を見た。

 “見てしまった”……。



「これは……俺が…………?」



 ヤマトの目の前には切り裂かれ、大量に血を流した死体が倒れていた。

 その光景を見たことで身体を震えさせて恐怖する。

 ヤマトは今まで“命がけの戦い”をしたことがない。

 よって人を殺したことは一度もなかった。



「……おえぇ…………」



 ヤマトは気持ち悪くなり、胃に詰まったものを吐き出す。

 死体の無残な姿にというよりは自分の犯した殺しの重荷で……。



(こんなつもりじゃ……)



 殺らなければ殺られていたと頭ではわかっているのだが、それでも自分の心が自分を許さなかった。



「……くぅ…………」



 男を捕縛出来なかったか、話し合いで説き伏せる事は出来なかったかと後悔するヤマトは目に涙を溜めた。

 しかし、それを流すその前に地面に倒れる。

 それからヤマトは死んだように動かなくなった。



……夜の満月は倒れたヤマトを見守るように光で照らしていた。






ちなみに古代魔法をロストスペルとしているのは古代魔法が今は公式上で失われているからです。

まあ、それでも使う人も数人は居ます。

その人物達は後に登場させる予定です。

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