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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 武道大会編
79/123

25話 ヤマトの思い出話 後編

武道大会の三日目も終了し、ヤマト達は宿で食事をしている最中だった。

その中で、ヤマトは仲間から賞賛を送られていた。



「いやぁ。それにしてもまさか本当に勝ち上がってくるとはな!」



ウルトが興奮気味にヤマトの背中をぺしぺしと叩く。

しかし、その顔は何故か包帯だらけ。



「ウルト。もう一回吹き飛んどくか?」


「いや、勘弁してください!」



ヤマトがウルトを一睨みするとウルトは慌てて手を大きく振りおずおずと後ろに下がる。

実はウルトの包帯の原因はヤマトで、ウルトの司会っぷりにいい加減カチンときての事であった。



「明日は真面目にやってくれよ?」


「勿論でございまする!」



ウルトは胸に手を当てて敬礼をする。

本当に分かっているのか……ヤマトは凄く不安になった。



「ヤマト、もう気にしても仕方ないです」


「――――そうだよなぁ……」



ローラの言葉に最もだと納得したヤマトはそのまま食事を再開した。

今現在ヤマト達はカーラとガノンを除いたメンバーでテーブルを囲んでいる。

ガノンはコロシアムからそのまま自らの工房に帰っていき、カーラは何故か知らないが一人でどこかに行ってしまった。



「それにしても凄いじゃない! 決勝よ!? カーラさんとの試合楽しみね」


「俺は全然楽しみじゃないんだけど……」



ヤマトはそれを考えると憂鬱になる。

何度も言うが、何せ相手はあのカーラなのだ。

ヤマトからすれば一種の拷問である。


カーラはこの武道大会においてすべての試合に三分以上をかけずに対戦相手を倒してきた。

それも全く傷を負う事無くである。

ヤマトは自分が勝てる方が可笑しいという。


しかし、皆はこの意見に肯定はしない。

何故ならヤマトもまたこの武道大会の試合を勝ち進んできたのだから。


確かにあのSとの試合は危ないものだったのかも知れないが、それでもヤマトに目立った傷は出来てない。

せいぜいかすり傷程度である。

ここにいる者達からすればどちらが勝っても納得するだろう。



「いや、カーラさんの強さはヤバイって」



しかし、それでもヤマトは首を振る。

今だ昔にカーラにボコボコにされたのを鮮明に記憶しているからでもある。

だがそれ以上にヤマトはカーラの実力を把握している事も要因に挙げられる。


ヤマトもそうだが、ある程度の実力者になれば相手の力量を大雑把に測る事ができる。

故にカーラやゼウス、さらにはSはそれぞれの実力を把握していたのだ。

そしてヤマトも分かるからこそ、自分はカーラより劣っている事を知っている。



(まあ、あのSに会えただけでも多少は収穫だったしな。負けても別にいいが……)



ヤマトは別段その事を気にしてはいない。

元々ヤマトは情報収集とマストの結果で武道大会に出ただけである。

優勝や勝利に拘っていないため負けても良いと思っている。



「まあヤマトにいは精一杯頑張ればいいだけだよ」



ミルはそう言って、カーラに挑戦する哀れな青年を励ます。

ヤマトもそうだな、と頷く。

そう、ただ自分は自分の力を出来るだけ引き出すだけである。


確かに勝利への意力はないが、それでもわざと負けるつもりも試合を流すつもりも毛頭無い。

せっかくここまで来たのだ、自分の実力を試すのも悪くないとヤマトは思っていた。



「そうです。セラちゃんもきっと応援していますよ」



ラーシアがそう言った途端にローラの顔付きが多少変わった。

というより笑顔になった……目は笑ってないが。



「そうそう。ちなみに私も応援していますよ?」



――ローラ……君の目は俺を射ぬかんとしてるんだけど。


ヤマトはローラの視線に気付かない素振りを続けた。

こういう場合は深く関わらない方が良い。

ヤマトはそれを十分に理解していた。



「ありがとな」



とりあえずローラの頭を撫でた。

セラの時もこれで何とかなった……ならばローラにもどうか。

予想的中、顔が少し赤くなっているがどうやらおとなしくなったようだ。



(グッジョブ! セラの時に学んでいるんだよ、俺も)



ヤマトのこの癖はどうやらセラのご機嫌取り故だった。

その実態をしれば多くの者が同情するだろう。



「……ヤマトにい、私もして」



そんなヤマトに無茶振りを要求するのはミルである。

ローラの顔が一瞬だけむっとなった事に気付かないヤマトはミルのオレンジ色の髪に手を置き、クシャクシャと撫でてしまった。



「よし、これでいいだ……ローラ……?」



ヤマトは慌てて振り返る。

其処には平静を装っているが、どこか頬を膨らませたようなローラが佇んでいた。



――この光景何度も見覚えあんなぁ……。



ヤマトの本能はこの何とも言えない状況を敏感に察知した。



「それじゃ明日は早いし部屋に戻るから」



ヤマトは急いで席を立ち上がり、逃げるように部屋に戻っていった。

その途中、試合を見ていたものから応援のような言葉をもらいながら。





     ★★★





「なんかむちゃくちゃ明日不安なんですけど!」



ここに来るまでに多くの人から明日の試合がんばれよといった言葉をもらった。

冗談ではない、明日の相手はあのカーラだぞ、瞬殺されるわ!

そんな事を思いつつ、ヤマトは今日に戦ったSの言葉について考えていた。



「あいつの最後に言った言葉……」



――“黒の民”、数年前に消えた伝説の民族。君はその中でも選ばれた特別な存在。……良くも悪くもね。



あれはどういう意味だろうか。

ヤマトはそればかりを考えていた。


ヤマトは今、部屋から窓の外の夜空を眺めている。

満月は雲に隠れる事無く、ヤマトの姿を照らしていた。


部屋の中ではスレイとウルトが寝ている。

ウルトはいびきを掻いて、スレイは寝相が良く、ベットできちんと眠っている。


ヤマトはその光景にザックとサイを思い出す。



「みんな、今はどうしてるかな……」



ヤマトはふと呟いてしまう。

もしあの中の誰かがいたら、今の自分の抱える事を相談できたのかも。


そこまで考えヤマトは首を振る。

元々これは自分の考えである。

誰かを巻き込むのは気が引けるものがあった。



「とりあえず明日のことでも考えるかな」



ヤマトは今日に起きた事について考える事を打ち切り、明日の試合について思いを馳せる。

相手はあのカーラである。

生半可に戦っていればまず勝てる可能性は無いに等しい。



「となれば方法は一つ」



ヤマトが勝てる可能性があるとすればそれは超感覚能力マストの自然発動である。

それが発動すればヤマトには二つの奥の手がある。

其処まで考えてハッと気が付く。



「俺、いつの間にか勝つことに集中してるな……」



今まで勝利にとことん興味は無かったが、今ではどうすれば勝てるかを必死になって模索している。

何故だろうとヤマトはふと考えた。



「まあ、あの約束だろうなぁ」



ヤマトはその原因がわかった。

それは自らとセラがかわした約束。

それがされたのはヤマトの旅立ちが決まったときである。





     ★★★





ユスターヌ暦1346年。


つまりヤマトの旅立ちから一ヶ月程前のこと。


場所は大きな街外れの草原。

街が近いことから魔物も滅多に出なく、激しく動くにはぴったりの場所である。

……その場所で六人の人物に囲まれながら、二人の人物が横たわっていた。



「まさかここまでとは……」



アルは息がきれ、疲れた身体を横にさせている。

足はガクガクと動かず、立とうにも立てない。

つまりこれが戦闘中ならば十秒立たずに殺されているところである。


しかし、目の前の相手も自分と同じように倒れている。

その身体は胸の辺りが上下に激しく揺れている。

傷を受けた様子は無い・・・・・・・・・・が、身体中にびっしょりと汗を流してぶっ倒れている事から慢心相違なことが人目で分かる。



「フィーネ、唖然としとらんでヤマトを治療してくれんかのう……」



アルに言われてハッとしたのか、フィーネはすぐに倒れた青年、ヤマトに駆け寄り治癒魔法をヤマトに施す。

その周りには信じられないものを見たと全員が絶句していた。



「俺、じいちゃんが倒れるところって初めて見たかも……」


「私も……」



バンダナをつけた青年ザックと口に手を押さえたまま目を見開く若い女性ソラは口々にそう呟く。

つまり目の前の光景がそれだけ信じがたいものであったのだ。



「ヤマト君! あの動きは何なの!? 全く見えなかったよ!?」



ロイは興奮気味にヤマトに訊ねる。

しかしヤマトはそれに「ぜえ……ぜえ……」としか答えない、というより答えられない。



「ロイ君、ヤマトさんを休憩させてあげてください!」



そんなロイをたしなめるフィーネはこの三年でかなり気持ちが成長したと言えるだろう。

ヤマトとは本当に兄妹のように仲が良いという事もあるが。



「それにしても見事なもんじゃ」



アルはサイの肩を借りて何とか立ち上がる。

その顔に浮かんでいるのは賞賛と驚き。

自分の弟子がここまで強くなった事に嬉しく思い、また自分が倒されるとは思っていなかったという純粋な驚きがあった。



(まさかあんな戦い方をするとはのう。超感覚能力マストというのは本当に便利なものじゃ)



アルは自分と相打ちまでに持ち込んだヤマトの魔法を思い出す。

自分は一切手を抜いたつもりは無かったが二つの切り札を前には苦戦は必死であった。

もし、あと一年修業を重ねていればどれだけ強くなっているだろうか、アルは其処まで考えヤマトの願いを優先させるべく口を開いた。



「これでわしから言う事はもうないのう」



アルの言った言葉にヤマトの口元が少しだけ緩む。

その意味することをヤマトは理解したからである。



「ヤマト! これで合格じゃ!」


「やったじゃない!」



赤髪を揺らして嬉しそうな表情で駆け寄るのはセラである。

ヤマトはそんなセラに笑顔を向ける。



「何とかね……」



ヤマトはそれだけしかいえなかった。

ヤマトが使った魔法はあまりにも体力を使い、しゃべることすら難しかったのだ。



「これでヤマトも旅立てるのう。とりあえずヤマト、出発の準備をするのじゃ」


「え……?」



しかし、アルの言葉に皆が絶句する。

アルの試験には確かに合格したヤマトだが、まさか一人で旅立つと言い出すとは想像出来なかったのだ。

そしてこれに物凄い剣幕で詰め寄ったのはセラであった。



「おじいちゃん! どういうこと!?」


「そのままの意味じゃ。ヤマトは一人で旅立つわけでのう」


「――……嘘よね? ヤマト……」



アルが淡々と語るのに対し、セラはヤマトの返事を待った。

セラはヤマトに反対して欲しくてヤマトを見たのだ。

だがそれは逆に絶望に落ちる羽目になった。



「悪い……。俺、やっぱり一人で行く事に決めたんだ」


「そういうわけじゃ」



セラはヤマトがそう言った最初は何を言っているのかわからないというような表情で、次第に怒りを露にする。

そしてその後、涙を流しながらその場から走ってどこかにいってしまった。



――一緒に行くって約束したのに。



……最後にそう言い残して。





     ★★★





そして時間は経ち、真夜中になった。

今宵は満月、それも雲が全く無くいくつもの星が輝いている綺麗な夜空であった。

その下でヤマトは一つの木にもたれかかって座っている。


アルに合格を貰ったヤマトは胸に嬉しい気持ちと寂しい気持ちを混ぜた感情になっている。

これで皆と別れると思うとやはり悲しくなるものだ。



「ヤマト……」



そんなヤマトに誰かが近寄ってくる。

その声は毎日のように自分の耳に響いていた声でこれからは聞けなくなると思うと少し悲しい。



「セラ、こんな夜中にどうした?」


「そういうあんたもね」



セラはそのままヤマトの隣に座り込む。

思えば三年間、いつもセラが近くにいてくれたな、と改めてヤマトは感じた。



「何と言うか……。ごめん」



だからこそヤマトは申し訳なくなった。

いくら巻き込みたくないとはいえ、セラとの約束を破ったのだ。



「……………………」



セラは無言である。

しかし、その表情は不服そうにしていることからまだ怒っていることがわかる。

ヤマトははあ、と溜め息をついた。



「なんであんな事おじいちゃんに言ったの?」



あんなこととはおそらく一人で旅をすると言ったことだろう。

ヤマトはそれに苦笑しながら答えた。



「みんなを巻き込みたくなかったから……かな」


「――自分勝手じゃない」



セラは静かに、それでいて悲しそうに呟く。

それは静寂の真夜中にはなかなかに響くもので、ヤマトも一瞬戸惑ってしまう。



「そうだな、勝手だよな」



ヤマトにはそれが良く分かる。

もし立場が逆だったらやはりセラと同じように怒っていたから。

それでも自分の危険な道に皆を巻き込みたくない気持ちが勝った。



「また……会えるよね」



不意にセラが口を開く。

その呟くように言った言葉は静寂もあってかヤマトの耳にしっかり届いた。



「絶対会えるって」


「今度は嘘じゃない?」



セラは疑うように目を細めてヤマトをみる。

しかし、細くなった目からは涙が流れている。

ヤマトはそれに胸が締め付けられるようになった。



「嘘じゃない。全部終わったら会いに行くからさ、みんなで旅でも何でもしよう」


「……本当に?」



セラが確認の為かもう一度聞いてくる。

ヤマトはそれにしっかりと頷いて答えた。



「ああ。今度こそ絶対に約束する」



その言葉を聞いてセラの表情は幾分か緩んだ。

しかし、その後でまた元の表情に戻る。



「じゃあもう一つだけ約束して」



ヤマトはセラの瞳を見つめる。

その茶色の瞳は強く輝いていて、ヤマトは吸い込まれるような錯覚を覚えた。



「私がヤマトに追いつくまで誰にも負けないで」



セラとヤマトは相棒でもありライバルでもある。

何回も剣を交えて二人で試合をしたときもあった。

そしてその中でヤマトはセラに勝ち越している。


故にセラはそう言ったのかとヤマトは思った。

セラが負けず嫌いなのは十二分に知っている。

だからヤマトはそう結論したのだが、次の言葉にそれが違う意味も含めている事に気が付く。



「……絶対死なないで」



おそらくセラはヤマトが危険な輩、あのシードを追う事を察していたのだろう。

ヤマトはその言葉に多少動揺を隠し切れないでいた。

しかし、ヤマトはそれに首を横に振る事は無い。



「ああ。もとより死ぬつもりなんてこれっぽっちもないさ」


「……絶対だから」



セラはそれを聞いて安心したのかヤマトの肩に頭を乗せ、気付いた時にはスースーと寝息を立てていた。



「全く。セラには助けられてばっかだよなぁ」



思えばいつも励ましてくれたり力になるといってくれた。

それなのに自分はそれを無下にするように一人で旅立つと言ったのだ。

だがそれでも自分の事を心配してくれるセラにヤマトは感謝の気持ちでいっぱいだった。



(必ず無事に全部終わらしてやるさ……!)



ヤマトはそう固く決意した。





     ★★★





「あのときも今日のような星が綺麗な夜だったな」



ヤマトは決意した。

自分は負けないと約束したのだ。

ならば今度こそその約束を果たそう。



「明日は絶対勝つよ」



ヤマトは強くそう言い切った。


……そんなヤマトの胸にかけられたおそろいのペンダントが赤くキラリと光を放った。





読了ありがとうございました。

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