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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 武道大会編
73/123

19話 武道大会開幕

『さ~あ! 待ちに待って待ちまくった三年に一度という微妙な間の武道大会が遂に始まるぜぇぇぇ!!』


――オオオオオオオオオオオ!!!



清々しいくらいの晴天の下で響く観客の熱狂は途絶える事を知らない。

コロシアムの席は既に埋まっていて、席の外側のところで立って見ている人も大勢居る。

そしてその誰もが今から始まる興奮の連続に胸に期待を抱いていた。


三年に一度の武道大会が幕を開けた瞬間だった。



『今日行われるのは予選だぁぁぁぁ!!!』


――オォォォォォォォォォ!!!


「……凄い歓声ね」


「そりゃ、みんなが楽しみにしてたんだからな」



ここに集まっているのはカーラを初めとしたヤマトと宿を共にした三人とウルトを除いたローラ達、それからガノンであった。


ちなみに何故ウルトを除いているかというと……。



『ちなみに司会はこの俺! 最強の冒険者の連れであるウルトだぁぁぁぁ!!』


――ウルトォォォォォォ!!


「あいつ、何やってんだよ……」



ヤマトを初めとした一同は顔を引きつらせている。

今司会の席についているのは間違いなく、ツンツンと立たせた白髪に青い瞳をした青年なのだ。



「大会責任者と掛け合ったそうよ……」


「……馬鹿なのか? 馬鹿なんですかあいつは!?」



ヤマトは最早呆れの極みに達している。

何故に奴が選ばれているのか分からないがこの武道大会を混乱に陥らせるのは間違いないだろう。



「……もういいです。私達は普通に観戦していましょう」



遂に諦めたローラは席については溜め息を吐く。

一同全員も似たような状態であった。



『それでは、この街のギルドマスターであるシューターさんに挨拶をしてもらいましょうか!』



ウルトはそう言っては後ろに下がる。

それに吊られて観客のテンションも下がる。

こういう場での開会の挨拶には良くある事だが、話が長いと相場で決まっている。

今、皆が興奮を抑えきれない状態であるのに、その話を聞くのは待ちきれないし苦痛以外の何者でも無い。

だが、今大会での司会はウルトである。



「え~。本日は天気も良く、そして『はい! ありがとうございました~!』ええ!?」



長ったらしい台詞をいかにも吐きますと言ったようなしょっぱなの言葉にウルトは一刀両断。

ウルトにしても長ったらしい話はごめんなのだ。



『以上挨拶終わり! それでは野郎共!! 早速予選を始めるぜーーーーーーーーッ!!!』


――司会者サイコォーーーー!!



観客の心を掴み続ける現司会者。

ウルトに一刀両断されて、シューターは唖然としていた。

ウルトを知る者はこれに頭を抱えるばかりである。



「――あいつ……。さっそくやりやがった……」



最早ガノンは笑っている。

今までにギルドマスターの挨拶を中断した司会が居ただろうか。

いや、おそらくウルトぐらいであろう。


しかし、これに対して観客は大喜び。

再び火のついた観客の熱狂は今まさに爆発していた。



『予選第一試合から第四試合の奴らは準備してくれよ!』


――了解だーーーーーーーーッ!!



そうしてなんやかんやあった武道大会がいよいよ始まったのであった。





     ★★★





「なんなんだあの司会は……」



コロシアムの最上段の特等席は周りをレンガで敷き詰められたバルコニーのようで観客席とは離れている。

そこで司会の言葉に驚き呆れているのはフィーリア王国の将軍及び王宮騎士団長・・・・・・ザクロ。

その隣では第一王女セリーナも椅子に座りながら苦笑いしている。



「まあ……武道大会ですもの。多少はいいんじゃないかしら?」


「はあ……」



ザクロはこれからの武道大会に不安を感じている。

何せあんな司会者に任せるのだ。

何やら波乱が起こりそうだとザクロの頬に汗が伝う。

しかし、セレーナはむしろ楽しそうであった。



「ザクロも出場するんだから、文句言わないの」


「私が参加するのは一回戦からですよ。今日は純粋に観戦しようと思ってますが……」



ザクロはそう言うと目の前のコロシアムの会場に目を向ける。

それは何かを探すような……そんな視線。

セレーナはその視線の意味に気付いたようだ。



「……あの黒い青年も参加しているのでしょうか?」


「分からないわ…。ただ予選に参加する人数は多すぎるから今確認するのは難しいでしょうね」



ザクロが気にしているのは以前にあったあの黒い青年。

もし彼がこの大会に参加しているのであれば、そしてその真価を見せようものなら……。


以前あったときにはあの短時間で魔道士十人分以上の魔力を内に溜めていた。

それほどの魔力を有する彼ならおそらくこの大会内でもかなり目立つ事になる。

そして他に引き抜かれる事になればかなりの損失であろう。



「もし彼が参加しているのなら必ず勝ち進む。そうなればザクロと当たるでしょうね」


「……可能性は高いでしょうな」



もし、黒髪の青年がこの大会に参加しているのならば勝ち上がって来る可能性は高い。

そうなればザクロと当たることもありえる。

しかし、たとえ当たったとしてもザクロに負ける気はない。

フィーリア最強の騎士として迎え撃つ、それだけである。



「今回の大会は荒れそうですね」



ザクロの言葉にセリーナは頷くだけであった。





     ★★★





フィーリア王国の代表であるセリーナ王女とは対極側のバルコニーの席に位置するのは、ゼウスを含む数人の騎士を引き連れたガラン皇帝ルリアである。

ルリアは用意された玉座のような椅子に頬杖を付きながら、下で今まさに始まろうとしている予選の準備を眺めていた。



「遅いのぅ。まだ始まらんのか?」


「恐れながら、もう始まると思いますが……」



騎士の一人が恐縮そうにルリアに申す。

その答えにルリアはふ~んと面白くなさそうな表情をしている。



「して、ゼウスよ。今回の武道大会をどう見る?」



暇でしょうがないとばかりの表情でルリアはゼウスに尋ねる。

実際に暇なのだからしょうがないとルリアは思う。



「まあ、前にも言ったとおりに十中八九カーラ殿の優勝かと。ただ……」


「ただ……?」



ゼウスが何かを考えるように顔を少し下げる。

そして観客席のある方向に視線を向けながら言った。



「昨日に会った青年、ヤマトでしたか。彼はどうやらまだ力を隠していたような感じがします」


「ほう……。それで、どのくらいの?」



ルリアが面白い事を聞いたと興味津々でゼウスに尋ねてくる。

ゼウスは多少考える素振りを見せた後に答えを口に出す。



「正確にはわかりませんが、もしかしたら“魔道王”以上の魔力を隠しているかも知れません」


「あのアルフォード=セウシスの魔力を上回るじゃと……!?」



“魔道王”アルフォード=セウシス、彼の魔力は通常の魔道士の十数倍を有すると言われているのである。

しかし、ゼウスが言うにはヤマトはそれ以上の魔力を有しているというのである。

魔力があるという事はそれだけ魔法を自由に使う事が出来る可能性があるのだ。

もし極限までその莫大な魔力を使いこなせる事ができるならば……。



「おそらく、SSランクに匹敵するかと」



ルリアは絶句した。

昨日に会った青年は確かに一流の冒険者であっただろうが、まさかSSランクホルダーに匹敵するかもしれない強さを持っている事はまるで想像できなかったのだ。



「ヤマトはこの大会に参加しているのか?」


「調べたところ、どうやら一回戦から彼は出場するそうです」


「ほう……。推薦枠か」



ルリアはその口元を吊り上げる。

どうやら今度の武道大会はそれなりに楽しめそうである。



「まあ、まずは予選を見てみるか」





     ★★★





そうして始まった武道大会予選はまずは第一から第四試合までが行われる。

予選の一試合で百人以上の参加者が二人になるまで潰し合うというシンプルなものである。

倒す方法は殺しさえしなければ何でも良く、またラインの外に追いやることでも良い。


ちなみに第一試合から第四試合までは同じ時間に一気に行われる。

コロシアムの広さは半径三百メートル程の巨大な円でその中には四つの直径百メートル程の円のラインが引かれている。


故にその四つの円の中で予選を同時に行うのだ。


そして今まさにその四つの円の中に次々と参加者が入っていく所である。

そんなコロシアムの場外にいるヤマト達は今からの試合についてある人物の応援をしている。

忘れているかもしれないがローラの強制によりスレイとウルトも参加する事になっているのである。


しかし、ウルトはコロシアムの中ではなく、コロシアムの場外で司会をやっている。

よって参加するのはスレイのみである。



「ウルト……。あいつ絶対に参加を拒む為に司会になっただろ」


「……それでも簡単になれるもんなの?」



皆が口々にウルトに嫌味を言っているが、当然司会ゆえに遠く離れた特別な位置でコロシアムを眺めているウルトには届かない。



『え~! それでは! 今から予選を始めるぜーーーーッ!』


――オオオオオオオオ!!



会場にいる観戦者が遂に待ってましたと声が張り裂けんばかりに叫びだす。

それはまさに天にも届くのではないかと思われる程の大爆音だ。



「あいつノリノリだな」


「ああ」



ガノンの言うとおり見るからにノリノリである。

余程司会というものが気に入ったのか、あるいは自らが参加しなくていいからだろうか。

どちらかどうかはウルトのみぞ知るところである。



「あ……、スレイが来た!」



リリーが指差す方向にはスレイが自らの棍を手に持ちながら周りの参加者を見渡している。

おそらく敵がどのくらいのものかを観察しているのだろう。



「――あいつは」



ヤマトはそんなスレイからすこし離れた位置にいる大男に目が入った。

その男は昨日にヤマトにいきり立って斬りつけてきたパドラーであった。



「あいつも参加していたのか……」



ヤマトはその大男を見据えながらふっと笑う。

あの時はシューターに止められたが斬り付けられたことに関しては未だに許してはいない。

そもそも、許してやると捨て台詞を吐いて去っていったあの男は確かに実力的には中々のものだと思うが、それでも自分よりも強いとは思わないのだ。



(まあ……、俺と当たれば全力で潰すけど)



ヤマトは不敵に笑いながらスレイのいる第二試合の円の中をのぞく。

そしてもう一人、知った者を見つけた。



(昨日の――)



それは昨日にヤマトの襲い掛かった面をつけた男であった。

どうやらあの男も参加していたようである。

ヤマトはその事実に若干眉を顰めた。



「どうしたのですか?」



そんなヤマトを心配するようにローラが声をかけてきた。

そんな彼女の対応に慌ててヤマトはすぐさま表情を戻した。



「何でもない。大丈夫さ」


「そうですか? ならいいんですが……」



ローラハ尚も訝しげな表情を向けてくるがヤマトはそれを気にしないように意識する。

そうしていると、どうやら試合が始まるのか笛の音が鳴った。



『準備が整ったようです!』



ウルトがそれを言うと、今の今まで大音量で響いていた周りの音が一気に静かになる。

まるでウルトがこの会場を支配しているような……そんな気がするほどである。


……そしてウルトが高らかに叫んだ。



『それでは、予選――――開始!!!』



その一言と共に辺りから一気に歓声が沸く。

そして四つの円の中の人の群れがそれぞれに動き出した。





     ★★★





「遂に始まったか」



ルリアは上からコロシアムの会場内の予選を眺めている。

彼女の目に映るのは人が群れを成して生き残りをかけ戦っている様。

そんな時、その銀色の瞳に一つの影を映した。



「あいつは……」


「昨日の男のようです」



そう、二人が目にしている人物は、昨日ヤマトを襲った面の男であった。

今まさに背に担がれていたバスタードソードをゆっくりと手に取り、それを振るっている。

そして、姿は魅了されるほど洗練されたものであった。


面の男が参加しているのは第一試合。

その圧倒的な剣捌きに周りの参加者はあっという間に殲滅されていく。


しかし、そのせいでどうやら他の参加者の目の仇にされてしまったらしい。

数人が手を組んだのか一気に面の男に襲い掛かる。


だが、面の男はそれに焦る事無くバスタードソードを振った。

すると、剣先から光の斬撃が飛び出てきたのだった。



「無詠唱による光の斬撃。やはりかなりできる者じゃったな」


「そのようですね」



二人が密かに感心している間にも、面の男は着実に参加者の数を減らしている。

するとどうやらもう十人にも満たない数になっていた。


面の男はこれを機に一気に残りに向かい駆け出す。

数人はその面の男の動きについていけず、あっさり吹き飛ばされ、伸びている。


そして残りが五人ほどになったところで勝負をつけるためか、光の斬撃をいくつも残りのメンバーに放った。


一人は何とか危なげながらも逃げおおせたが、他のものはそれを避ける間もなく直撃。

そのまま避けられなかった者の全員が吹き飛びが気絶、予選第一試合で立っている者は早くも二人だけとなった。



『お~~っと! どうやら予選第一試合は決まったようだ! 特に面を被った男が強い! 彼はこの大会のダークホースなのか!?』



ガノン達はウルトの言葉にうざいと呟くが、ヤマトにその言葉は届いていない。

ヤマトはそれよりも面の男を凝視していた。


改めてみるとやはりあの動きと魔法は自分と同等、いやそれ以上のものである。

一回対峙してみたが、改めて凄いなと純粋に感じてしまった。

まさかカーラに匹敵するほどの者に出会うとは思いもしなかったのだ。



「ヤマトにい、どうしたの?」



面の男を深く見やるヤマトに疑問を持ったのか、今度はミルが訝しげに尋ねてきた。

ヤマトはそれに慌てた様子で先ほどと同じように何でもないと手を振った。



「それよりも……、スレイも順調だな」


「うん! そうだね」



第二試合で戦っているスレイはヤマトの言うように順調だった。

元々口数が少なく、影のようなスレイは周りに相手にされず、戦う回数は極めて少なかった。

よって今、第二試合で残っている二十人ほどの参加者でもスレイは一人だけ、戦っていない。


ヤマトはスレイらしいと苦笑いしながら、もう一人注目している大男に目をやる。

面の男よりも大き目のバスタードソードを軽々と振るいながら、ばっさばっさと参加者を倒していく。


この大会は人を殺してはいけない筈なのだが、この大男、パドラーは気にする様子もなく相手を切りつけていた。

しかし、今だ死者は出ていない為にパドラーが失格となる事はない。


そうしてパドラーがどんどんと参加者を削っている内に気付けば残る参加者は両手で数えられるほどの人数になっていた。

勿論スレイも生き残っていて、今まさに自分に気付いていなかった参加者の一人に打撃を頭部に加えて気絶させていたところだった。



『どうやら予選第二試合も大詰め! その中でも目を見張るものがある選手はあの灰色の髪の青年! 気付かれないように行動して確実に生き残ろうとする戦い方は卑怯そのものだぁ!!』



「「司会になってまで試合から逃げたお前にだけは言われたかねぇよ!」」



司会であるウルトにスレイの代わりにヤマトとガノンが思いっきりツッコむ。

しかし、ウルトに聞こえている筈もなく、彼はスレイが生き残っている事に何やら複雑な表情をしていた。


だが、そうしている間にも試合の時間は着実に動く。

司会の言葉にスレイの存在を知ったパドラーが一人に切りかかり、重傷を負わせた後にすぐにスレイに飛び掛ってきたのだ。



「今度はてめえだ!」



パドラーが叫んだ瞬間、スレイに向かい思いっきりバスタードソードが振るわれる。

しかし、スレイもそう簡単にはやられない。


棍でその攻撃を受け流しては先端部でパドラーの胸を突こうとする。

それをパドラーは寸前のところで避けて、棍に向かい思いっきりバスタードソードを振り下ろした。

振り下ろされたバスタードソードはスレイの棍に激突し、スレイの武器が宙に放り出される。

スレイの棍が空中に舞う中、パドラーはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。



「これで終わりだ!」



パドラーがそう言った瞬間、スレイに向かいバスタードソードが思いっきり振るわれる。

スレイはさっきの打ち付けで体制を崩し、それを避ける事ができない。


……そうして誰かの叫び声が聞こえた……。



『予選第二試合終了!』



……司会の声により、第二試合は終了した。





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