表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 武道大会編
72/123

18話 集う強者

――何者なんだ……?



今現在、ヤマトはギルドを出て街をぶらぶら歩いている。

やはり、明日から武道大会ということもあって、道にはかなり多くの人が群れをなして道を歩いていた。


ヤマトはそれに流されるように進んでいたのだが、そんなある時、自らが何者かに尾行されている事に気付いたのだった。



(何時から? 何処から? 俺が途中まで気付かないなんて……)



ヤマトは尾行に気付いている事を悟らせないように、何でもない顔をしながら感知魔法と耳の強化魔法を発動させる。



(とにかく何者かを探らないとな……)



ヤマトを尾行しているのは二人。

ヤマトは感知魔法と耳の強化で二人の居場所、足跡、話し言葉などを探る。

しかし、それが一向に功を成さない。



(妨害魔法か……。しかも遮断系で効果の範囲を自分の周りだけに正確に留めている。かなりできるな)



ヤマトは其処まで分析して、これからどうするかを考える。

このままにしておけば後々に厄介な事になりそうであるのは間違いない。

それにこのまま宿まで戻るわけにも行かなかった。

やるならば速攻で……そう考えたヤマトは近くにあった路地裏に突然駆け出した。


石が敷き詰められている路地裏の道の上をヤマトは走る。

路地裏にしては広いという所はさすがはこのトローレと言ったところか。

どちらにしろ広い方がヤマトにとって動きやすい。



「ここなら……おっと!」



ヤマトがさらに奥に進んでいると、何と尾行していた二人が魔法を放ちながらヤマトを追いかけてきた。

放たれたのは中炎弾エルファイア中水弾エルウォータ

詠唱は聞こえなかったのだからおそらく無詠唱の使い手である。


ヤマトは一瞬だけ後ろを振り返る。

尾行の二人は全身に黒のローブを纏っている。

フードを深く被っているので顔は分からないが、身体は比較的小柄な方である。


ヤマトはそれを確認してからその場に立ち止まった。



「――まさか“お前ら”とこんなところで会えるとはなぁ」


「「……………………」」



ヤマトはこの二人が“奴ら”に関係があると見て声をかける。

しかし、構う事無く二人は無言のままさらに魔法を放ってきた。

それをヤマトは自分の周りに風の竜巻を発生させる。

水と炎の魔法とヤマトの風の魔法は相殺した。



「お前らは下っ端? それとも幹部か?」


「……何を言っているのでしょう?」



どうやら声の主は女らしく、今度は返事が返ってきた。

しかし、その返事は首を傾けての純粋な疑問。

最初は誤魔化しているだけかと思ったヤマトだがどうやら本当に謎のようである。



(どういうことだ、“奴ら”じゃないのか? じゃあこいつらは一体……?)



「――悪いけどあなたを拘束させてもらうよ」


「うわっと!」



放たれる炎魔法をヤマトは即座に回避する。

どうやら話し合いが通じないと見てヤマトは懐から刀を取り出した。



「行くぞ!」



ヤマトは自らの身体に二重強化魔法デュアルチャージングを無詠唱でかけ、二人に切りかかった。



「……速い」



片方がそう呟いた。

ヤマトはこの者達を逆に捕らえて尋問する為、相手に向かう際に相手への刀の向きを峰の方にする。

そしてあっという間にヤマトは二人に近づいた。


しかし、ヤマトの振り下ろす峰打ちは弾かれる結果に終わった。

もう片方の女が無詠唱での妨害魔法をかけていたのだ。

ヤマトはすぐに後ろに下がり、刀を構える。



(これは多少手こずるかな……)



ヤマトは仕方ないとばかりに刀に魔力を集める。

それに気付いた二人は即座に動こうとして……すぐに止まった。

なぜ……?

そんなヤマトの疑問も直ぐに解けた。

なんと頭上から何かが降って来たのだ。

それは間違いなく人であった。



「なぜあなた様が!?」


「――ちょっと様子を見にね」



つまり、二人が動こうとした瞬間に上から何者かが降って降りてきたという事だ。

そしてそのままストンとその者は華麗に着地する。

どうやらこの二人の仲間らしい。

それでも二人はこの人物が来る事を予期していなかったのか、驚いたような声を上げているが。

ヤマトはそれに警戒したまま見据える。


突然現れた男と思われるその人物は二人と同じように全身を黒ローブで隠した格好をしていた。

違うのは背中にバスタードソードがかけられている事と、顔に面が付けている事。

口と目の部分に小さな穴が開いているだけの面で、目の穴の下からは薄赤い光を放っていた。



「さて、初めましてかな? “黒の民”」


「…………!?」



ヤマトはその言葉に呆気に取られる。

その男は確かに三年前にシードの放った言葉と同じ言葉を口にした。


それと共にヤマトは確信した。


……この男は自分の事を知っている……。



「……あんたは何者だ?」


「さあ?」



ヤマトは警戒しながら訊ねるが、男はそれの相手すらしない。

ヤマトはそんな男の態度に軽く舌打ちしながら周りの状況を確認する。



(今の状態は三対一。二人でもキツかったのに……)



ヤマトは冷や汗を流す。

ヤマトは先ほどまでの二人だけでも十分に覚悟を決めていた。

それだけ今回の襲撃者は腕の良いものであった。


自分も危うく気付けなかった程の尾行能力。

無詠唱で連発する魔法。

そして状況判断と身のこなし。


どれをとっても一流と呼べる程であった。


しかし、今現れた男はさらに別格であった。

その佇まいからは一切の隙を許さず、面の下からちらつかせる瞳はヤマトの立ち振る舞いをしっかりと見つめている。


この男は間違いなく自分より格上の存在であった。



(実力はカーラやじっちゃんと同じくらいか……?)



ヤマトは今の状況で必死に打開方法を模索する。

今のヤマトに戦うという選択は無い。

この場からどうやって逃げるか……それだけである。



「逃がさないよ」



しかし、それを察したのか男は瞬時にヤマトに切りかかる。

いつの間にか手に握られているバスタードソードに一瞬驚きながらもヤマトは刀でその斬撃の軌跡を自分に届かせないように僅かに逸らす。


ヤマトはその後にバックステップで距離を取りつつ、刀を持っていない左手を突き出してその左手の先から風の塊を飛ばす。

それを面の男は首を傾けるだけでかわした。



「中々やるね」


「……どーも」



ヤマトは一掃警戒を強めながら、内心は焦っていた。

何せ逃げる隙が無い。

このままならば間違いなくやられるだろう。



(どうする!? このままなら……)



ヤマトが自らの末路を想像しながら後すざりする。

それを見て面の男は真っ先に切りかかろうと走り出した。


……その時、面の男のバスタードソードは突然に現れた第三者の手によって弾かれた……。





     ★★★





「たった一人に三人か。何とも卑怯ではないか」



ヤマトは目の前の光景に目をパチクリさせた。

今、自分の目の前には二人の人物が居る。

先ほどの面の男の攻撃を弾いた濃い青色をした黒の鎧と灰色のロングコートを身に着けた騎士、そしてその後ろで高らかに声を上げる紫色の髪に銀の瞳な少女である。


面の男もどうやら意外といった様子で警戒気味に二人を見つめていた。



「――まさかこんなところで“剣聖”に会うとはね」



面の男が目の前の騎士に向かいそう呟く。

その言葉に騎士は無表情のまま手に持った二本のロングソードを交差するように振るった。


面の男はそれを後ろに大きく跳躍してかわす。

しかし、そのまま戦闘に入ることは無く、すぐさま後退した。



「二人とも、逃げるよ」


「「わかりました」」



面の男は二人を連れてその場から一気に離れた。

その速さは二重身体強化デュアルチャージングのヤマトを凌ぐほどであった。

ヤマトは待て、と言いそうになるがここは路地裏であるが街の中でもある。

街中で本気の戦闘を起こすつもりもないし、何より自分一人だけなら間違いなく倒されてしまう。

故にただヤマトは走り去っていく三人の謎の人物の背中を眺めるだけだった。



「行ったようだな」



騎士がそれだけ呟きロングソードを下ろす。

それを見たヤマトはハッとなってすぐに礼をいった。



「ありがとう。あんたが来てくれて助かった」


「私はルリア様の命に従ったまで」


「ルリア様?」


「妾のことじゃ」



ヤマトは驚いただろうと言わんばかりの笑みで此方を見上げている少女に目を向ける。



「誰かは知らないけど助かったよ」


「――おぬし、本気で申しているのか……?」


「ん?」


「どうやらそのようです」


「……へ?」



ヤマトは間の抜けたような声を上げる。

それに呆れ果てる二人の姿に今度は困惑した。



「世間知らずもいいとこじゃぞ? いいだろう、教えてやる。妾はガラン帝国の皇帝、ルリアなるぞ!」


「…………いや誰が?」



ヤマトは「この子大丈夫?」というような視線でルリアを見つめる。

そんな様子にムッとなったらしく、ルリアは頬を膨らませた。



「ルリア様。おそらくこの者はバラン出身なのでは?」


「……なるほど。あそこの出身の者ならこの世間知らずっぷりも頷けるのう」



隣の騎士の告げ事でようやく納得といったように頷く紫髪の幼い皇帝。

ヤマトはそれにまたもや困惑するが、もういいやと諦めた。



「とりあえず助かった。あいつらかなり強かったからな」


「ふん。いくら強かろうとゼウスの前には傷一つ付けれんじゃろ」


「へぇ……。この人そんなに強いのか?」



ヤマトは目の前の騎士を見つめる。

確かに佇まいからは先ほどの面の男に勝るとも劣らない強さが分かる。



「当たり前じゃ。ゼウスは“剣聖”。SSランクホルダーの一人じゃからな」


「SSランクホルダー……。納得だな」



確かにこの騎士はカーラと同じような雰囲気を纏っている。

SSランクホルダーなら納得であった。



「しかしルリア様。先ほどの面の男はかなりのやり手でしたが、何者でしょう」


「……お前にそう言わす程か?」



ルリアはその言葉を聴き、表情を初めて真剣なそれにした。

何せSSランクホルダーのゼウスが強いと言うのである。

故にルリアは驚いた様子を見せたのは仕方のない事かもしれない。



「はい。おそらく私に匹敵するほどに」



そしてゼウスの言った言葉に硬直してしまった。

ヤマトも先ほどの男に対して思いをめぐらす。



(あいつはおそらく“奴ら”じゃない……。ならなんで俺を……?)


「あいつらは何故おぬしを狙っておったんじゃ?」



今まさに考えている事をルリアに聞かれた。

それに対してヤマトは分からないと首を振る。



「ふむ……。分からないのならば仕方ない。まあ何かある前に対策を立てるんじゃな」



ルリアはそう告げてここを離れようと足を動かした。

ヤマトはそれに対してまた二人に礼を言う。



「ありがとう。また会えたらな」


「そうじゃのう。また会えれば話をいろいろしたいの」


「それでは我々はこれで」



ゼウスの言葉を最後にヤマトは二人と別れた。

しかし、ヤマトの中は二人との別れのことより先ほどの面の男でいっぱいであった。



「あいつは一体何者だったんだ……?」



ヤマトはいくら待ってもたどり着かない答えを頭の中で自問自答しながら宿に帰っていくのだった。





読了ありがとうございました。

感想・評価を頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ