6話 襲撃
今回は話が飛ぶところが多くて掴むのが難しいかもしれません。
すいません…。
「アルおじいさん! これはいったい…?」
「どうやら大勢の盗賊と思われる集団がこちらに迫ってきているようじゃ」
その言葉に驚き、顔を蒼白させる村の人にアルは叫ぶ。
「女、子どもは避難! 武器を持つものは避難する人を優先的に守りながら応戦するんじゃ!」
「………!! わかりました!」
一人の若者がアルの言葉を聞いて大声で事の原因とアルの指示を伝えていく。
この辺りは互いの協力を重視するこの村においてさすがともいえるだろう。
それもたった二十過ぎの若者が実行しているのである。
大したものだ、と表情を緩ました。
その時、後ろの方からアルを呼ぶ落ち着いた声が聞こえた。
「じーさん。状況は?」
このような有事の時でさえも落ち着いて状況を聞きだそうとするサイを見て、「最近の若い者は見所があるのう」と漏らした。
「今から盗賊が大勢来るんでのう。皆は避難する人を手伝うように」
「じーさんは?」
指示を出されたサイは、アルの動きを訪ねる。
実際は予想できるし、おそらく間違いはないだろうと思っているので質問ではなく、確認なのだが…。
「なに、ここに残って若いもんの稽古をつけるだけじゃ」
やはりな、と密かに笑うサイはそれ以上言うこともないと、くるりと後ろを向き、アルの指示を全員に確認して避難している人の方に赴く。
他の五人もアルに「頑張って!」と一言だけ告げ、その場を去る。
昔に比べたら成長したものだ、とアルは微笑んだ。
(昔は今のような事態になったら泣いておっただろうにのう…)
そう思うアルは心の中で一つ訂正をつける。
幼いときでもサイは泣かなかっただろうな…と首を振りながら。
「よう! そこのじーさん! 金目の物、片っ端から置いていきな!!」
そんな思いに馳せていたアルの目の前に現れたのは茶色のベストに黒の短パンの山賊のような格好の大男。
そのあまりの典型的な台詞に呆れて溜め息をついた。
「ふむ…。それより若いもん。この年寄りと少し遊ばぬか?」
アルの対峙している数はおよそ百人弱。
自分が感知魔法を使った時はもう少し居たように感じたので、おそらく村の別の入り口から入ったのだろう。
そう考え避難している人の安否を心配したが、いやいやと首を振る。
(あの子らも無駄に鍛えてはおらんしのぅ。連携も得意じゃし下手な素人よりはずっと上、村の人もある程度戦えるし大丈夫じゃろ)
そういえばヤマトが居なかったが、といろいろ考えているうちにとうとう盗賊の男が痺れを切らした。
「じじいを殺して村人から金目の物を片っ端から取れ! 男と子どもは殺していいが女は生け捕りにしろ。くっくっく、後でたっぷり可愛がってやる」
「ふむ……。若い娘さんには興味はあるが、それはちといきすぎじゃな……」
アルは余裕の表情で「まあ準備運動にはちょうどいいかのう」などと他人事のように欠伸した。
「うるせぇ!! 野郎共、このじじいをぶっ殺せ!!!」
そしてそれを見た盗賊は逆上し、アルに一斉に襲い掛かった……。
★★★
一方その頃、村の広場では避難している人を狙い盗賊がバラバラに散らばっていた。
あちらこちらで盗賊と応戦している村人も見える。
「これじゃあ何処に行けばいいかわからないじゃない!」
苛立ちを露にしたセラは地団駄を踏む。
「俺らもバラバラになればいいんじゃね?」
手のひらの上にぽんっと拳を乗せるザック。
名案(?)が浮かんだとばかりに得意顔をするが、そんなザックをサイが冷静に批判する。
「ダメだな…。連携ならともかく俺達が一対一で勝てる相手とは思わない。全員で固まって少しずつ撃退していくぞ」
頷くメンバーを見て駆け出すサイはふと気づく。
後ろを振り返り自分の感じた違和感の正体を確認しようとして、その正体を知る。
――ヤマトがいない……。
「おい、ヤマトはどうした?」
「え……? それならここに――」
「……え…………?」
「んん……?」
サイの言葉に周りを見て存在を確かめようとする五人。
しかし、漆黒の髪と瞳を持つ少年は何処にもいなかった。
「どうやら逸れたようだな…」
『ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』
サイは溜め息をついた。
事が事だけに迅速に動こうと試みたが、そのせいで仲間と逸れれば本末転倒である。
自分の過失にさらに深い溜め息をつく。
「どどどどうしよう!!」
「そんなぁ……。ヤマトさぁ~ん!!」
顔を真っ青にさせるロイに、涙目で呼びかけるフィーネ。
他の三人も表情を暗くしている。
「仕方ない……。俺達だけで進むぞ。――あいつもそう簡単に殺られるヤツじゃ無いだろ」
サイの言葉にどこか納得してない五人であったが、ここで立ち止まる訳にもいかないので渋々と頷く。
そうして皆は先に進んでいく。
そんな中でセラは何処に居るのか分からない黒髪の少年を思い浮かべた。
(絶対……無事でいなさいよ……!)
セラは心の中でヤマトに向かってそう呟いた。
★★★
仲間がヤマトの存在が居ない事に気づいた頃、夜空に浮かんでいる雲によって隠れている満月の下で、ヤマトは身を隠し、家の裏側の茂みに隠れて黒いローブ姿の人物の動向を探っていた。
六人と別れたヤマトは先ほどまで飛躍的に向上していた自分の感覚により、誰かがこの家の裏側から接近していることを知った。
そこで、こうして家の裏側の茂みに隠れて待機していた訳だが、そこにやって来たのは広場ですれ違ったあの全身に黒いローブを纏っているあの人物であった。
(なんであいつはここに…?)
村の方が騒がしいので、村に何かが遭ったのだろう事はここからでもすぐにわかる。
それにも関わらず慌てている様子も逃げる様子もこの人物からは感じられない。
ここに来るということは何か目的があってのことだろう。
しかし、それが何だか、ヤマトには検討もつかなかった。
(ともかく、じっちゃんにこの事を伝えるかな…)
そう判断したヤマトは後ろにゆっくりと音を立てずに下がろうとする。
だが、今日最大の不幸がヤマトに牙を剥いた。
パキッ
ヤマトはその人物を凝視するあまり自分が茂みの中にいることを忘れてしまっていた。
その結果、小枝を折ってしまい爽快な快音がその空間に鳴り響いた。
“鳴り響いてしまった”。
「誰だ!!?」
故に当然ローブの人物に自分の存在を悟られてしまった。
ヤマトは自分の不甲斐無さに泣きたくなり、手で顔を覆った。
頬に僅かな水滴が伝っているように感じるのは気のせいだろうか……。
ともかくも「しかたない…」と覚悟を決めたヤマトは茂みから飛び出す。
「――なんだ。ガキか」
ヤマトは茂みから出ると共に、その漆黒の眼で目の前の人物を見据える。
その声から察するに性別は男だろう。
その男に向かいヤマトは尋ねる。
「あんたは何でこんな所をうろついている?」
ヤマトはローブ姿の男の動きを警戒しながら言葉を発する。
しかし男はそれに答える必要は無いと吐き捨てる。
「ガキに教えるような事じゃない。…まあ見られたからには生かして置けんがな」
男はローブの下からナイフを取り出す。
それに合わせて同様にヤマトも刀を抜いた。
「くっく……。ガキが一丁前に戦うってか? 笑わせるねぇ」
そしてローブの男がヤマトにナイフを向け、構える。
構えからおそらく戦闘経験者であろうことがヤマトにはわかった。
この男はおそらくヤマトよりも強いだろう。
しかし、この半年間ヤマトは遊んでいた訳ではない。
このような時の為に剣の腕を磨いたのだ。
まだまだ半人前ほどもいってない腕ではあったが、それでも初心者の頃よりは上がっているだろうし、なにより化け物のように強いアルを毎日のように相手してきたのだ。
ヤマトはその事を考えるとあまり恐怖を感じなかった。
そして、雲に隠れていた満月が顔を覗かせ二人を照らす。
「あんたを…倒す!」
ヤマトはそう意気込んで刀を抜く。
息を深く吸い込み、吐き出す。
そうして構える。
「ガキが…。やれるもんならやってみな!!」
そうして満月に照らされた二つの影は同時に飛び出し、ぶつかった…。
★★★
先手を打ったのは黒ずくめの男。
ヤマトと接近するや、ナイフを突き出す。
「………!!」
間一髪のところでヤマトは身を捻ってそれをかわす。
そして、そのまま腕がブレながらも刀を横にはらった。
しかし、男はそれをナイフで弾いて、空いている左手でヤマトを殴りつける。
ヤマトは咄嗟にしゃがんで男の左ストレートをぎりぎりで避け、刀を下から上に斬り上げようとした……がそれを実行される前に男はヤマトの腹を蹴った。
「ぐふっ…!」
ヤマトはその衝撃で後ろに飛ばされ倒れるが、受身を取りつつすぐに後ろに転がり男と距離をとる。
そして刀を構え直す。
「はははっ。なぶり殺しにしてやる!」
不気味に口元を吊り上げ笑うローブの男。
その男にヤマトは思いっきり踏み込み、跳んだ。
「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」
そうして男に刃を振り下ろす。が左に体を捻ってかわした男はそのままヤマトに右足で蹴りつける。
咄嗟に左腕で防御するが防ぎ切らず小さく呻く。
バランスを崩して尻餅するヤマトに男が死を誘うが如くナイフをなげた。
「くっ………!」
尻餅をついた状態で足と手に力を入れて力いっぱいヤマトは横に跳んだ。
間一髪ナイフを避けたヤマトは男を見る。
男は黒いローブの下から新しいナイフを握っていた。
緊張で息を荒くするヤマトは頭から頬を通る汗を拭った。
しかし、それは汗にしては妙にドロドロしていた。
ヤマトは拭った汗を見るため片手に目を遣る。
それは汗ではなく赤い液体…血であった。
どうやら今しがた男が投げたナイフがヤマトの頭を掠めたのであろう。
そう、掠めただけでしかない。
しかし、このことはヤマトにとって大きなショックが起こる出来事であった。
――殺される……。
実際このローブ姿の男と戦闘を始めてから、ヤマトが攻撃を当てたのは今だ“ゼロ”であった。
その事実から男との実力差を悟ったヤマトはそう思ってしまうのも無理は無いと言えた。
アルと実践の修業をしていたと言ってもそれは“実践訓練”であって“実践”ではない。
第一アルとの修業は妨害魔法と素手しか使われてなかった為、血を流すことがなかった。
それだけに自らの血を見ることになったヤマトは初めての“殺し合い”に恐怖した。
ブルブルと震えるヤマトを見て、男はにたりと不気味に笑って少しずつヤマトに近づく。
一歩、また一歩と自分に迫る死神を恐怖に支配された目で拝み、ヤマトは後すざる。
――……こんなところで……。
こんな時になっても先ほどまであった自分の感覚が研ぎ澄まされるあの現象は来ない。
こんな状況なのに自分の身体はまるで動かない。
そんなヤマトに死神が遂に目の前まで来てしまった。
「あばよ……。ガキ!」
ローブの男はそう言って逆手に持ったナイフをヤマトに振りかぶる。
振りかぶられたナイフが月の光に反射しキラッと光った。
そしてナイフが振り下ろされる。
――まだ死にたくない…! 記憶も取り戻してない! セラとも仲良くなってない! まだアルから教えてもらってないこともある筈なのに……。こんなところで……。
「――――……死んでたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その瞬間、暖かいものがヤマトを包む。
それが徐々に体の中に浸透していき、体の中の何かに触れた。
そしてそれが爆発した。
次回は“覚醒”。
遂にヤマトが魔法を使います。