9話 戦乙女との再会
ヤマトがフィルムを取り押さえて九日程。
六人は野を超え山を越え、草原を歩き荒野を後にして街道を渡った。
そうして前方には大きな城壁で覆われている街が見えてきたのだ。
「着いたぁ~~~~~!!」
ウルトが高らかに両手を天に掲げた。
「やっとだわぁ~~~~!!」
リリーが喜びのあまりウルトの背中をバシバシと叩く。
「……ふう」
スレイもどうやら街にたどり着いた事に安堵しているようだ。
そんな訳でヤマト達は遂に目的地、トローレに辿りついたのである。
「いろいろありましたけど、中々楽しかったですね」
ローラが感慨深そうに一言呟く。
それはヤマトも同じであった。
だが、ヤマトの場合はそれ以上にここに来た事で期待感を膨らませる。
(ここに“奴ら”の情報があるかも知れないんだな)
目の前に見える城壁に覆われた街は各地から冒険者が集まる。
しかもこの時期に集まる冒険者の量は馬鹿に成らないほど。
その理由は……。
「なんたって武道大会が開かれるからな」
武道大会、各地から集まる冒険者、騎士、傭兵などが己の力を試す為に、そして賞金をかけて戦う大会。
ヤマトは大会自体には興味が無かったが、大会のおかげで情報もかなり集まるだろう。
その為にフィーリアに来たようなものである。
「ヤマトは出ないのですか?」
「いやぁー。面倒くさいな……と」
「ふ~ん。ヤマトなら良いとこまで行きそうだけどね」
リリーが勿体無いと呆れて見せるが、別に名声などに興味は無いので苦笑しながら「別にいい」と手をひらひらと振るう。
「まあ中に入ろうか」
「はあ……。これでガノンさんとヤマトとはお別れか……」
ウルトがトローレに入る際に漏らした言葉。
それが他の三人にものしかかる。
「まあ、また会えるだろ?」
ヤマトは苦笑しながら四人を振り返る。
それにガノンも首を縦に振って同意した。
「なんだったら俺の工房に来てもらってもいいがな」
ガハハっと豪快に笑うガノンに皆が微笑んだ。
そうして門を潜り抜けてトローレの中に入る六人。
トローレは三大国の一つ、フィーリアの中で王都を抜けば一番大きな街である。
先のメドラの街もかなり大きかったが、ここはその五倍はあるだろう。
街の一番奥にはフィーリア王国の城の一つ、カルーラ城が佇んでいた。
その城は各国の武道大会を視察しに来た使者をもてなす場でもあるようだ。
街の中央に見える大きな建物は武道大会が行われるコロシアムである。
それは三年に一度ここで行われる大会の象徴のようなものであった。
「ほれ、これが依頼完了書だ」
ガノンが渡すその紙は護衛が終わった証拠である依頼完了書。
それを少しばかり寂しい表情を見せ、ローラが静かに受け取った。
「まあまた会えたらいいな」
ガノンはそれぞれの顔を見ながら頷く。
そして最後にヤマトに目を向けるとフッと笑った。
「ヤマトの刀も相変わらず分からないがな。また後で俺の工房に来いよ?」
「そうだな。後で行ってみるかな」
「約束は守れよ?」
「ああ。もちろん」
そうしてガノンは高らかに笑いながら五人の下から消えていった。
★★★
ガノンと分かれた後、五人はトローレの街の道を進みギルドに向かっていた。
ここで驚くべきなのは大きな街が街の人だけでなく、騎士や冒険者で埋まっている事。
店の数も今までの街とは比べ物にならない程である。
そんなトローレを歩きながら五人は遂にギルドにたどり着いた。
ローラ達はここでヤマトと別れるのだと思うと顔を顰めてしまうが、いつまでもここに立ってはいられないとギルドに足を踏み入れた。
するとどうだろう、騒がしい筈のギルドの中はしんと静まり返っているでは無いか。
「一体何があったの?」
リリーが首を傾げて辺りを見渡す。
すると一人の女性に目が留まる。
その女性はギルドの中央で一人の男を足元で寝かせていた。
しかし、リリーが……五人がその女性に目をやったのはそれが理由ではない。
その女性は髪は金髪で瞳はエメラルドグリーン色。
赤いコートの下には上半身を覆う銀の鎧を身に着け青の長ズボンを履いている。
その女性の指には赤い指輪が光っていた。
「カーラさん!!?」
「「「「“戦乙女”ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」
……目の前にいるのはSSランクホルダーのカーラだったのだ……。
★★★
「なんでこんな所に“戦乙女”が……」
「愚問だな。今は大会受付中。私が出てもおかしくは無いだろう?」
金髪美女、カーラがどうやらウルトの独り言が聞こえたらしく此方に寄って来る。
ローラは素早くウルトに拳骨を食らわし、カーラに向かい土下座させた。
「ごめんなさい。ウルトが馬鹿言ってしまって……」
「別に気にして無い。SSランクともなれば何かしら言われるからな」
「はあ……」
カーラが普通に話して良いとローラに言うが、どうやらスレイを除く三人はかなり緊張しているようである。
何せカーラはこの大陸で三人しかいないSSランクホルダーの一人であるのだから。
冒険者にとってカーラは憧れの存在とも言えるものだった。
そんな時、ふとカーラがローラ達に視線を向ける。
「――君たち、どこかで会わなかったか……?」
「あの……十一年前にウニーの街で……」
「ああ! あの時の」
ローラ達は十一年前にカーラとはバラン地方のウニーの街で一度会っている。
思えば彼らが冒険者になったのは目の前のカーラと青い髪の少年が理由だ。
「さて……」
カーラは息を吐きながら面白い物を見たような顔で視線の墨に居る者に気付く。
そうして一通り見渡すと……ヤマトの方を向いた。
……しかし、カーラがヤマトを向いたその瞬間、ヤマトは踵を返して全力で逃げ出した……。
「まあ待てヤマト」
だが、カーラはそれを許さなかった。
カーラがヤマトを一瞥すると……突然ヤマトが倒れた。
「カーラさん……。手厳しいっす……」
「君が逃げるからだろう?」
「いや……あんなことあったら……ね……?」
倒れて動かないヤマトを引っ張りローラ達の目の前に放りだす。
その様子を四人はただただ唖然と見ているだけであった。
「しかし、まさかここでヤマトに会えるとはな」
「一応じっちゃんから合格は貰ったんで……」
どんどんと話が長くなっていく二人。
それにハッと我に帰ったローラは二人に勇気を出して一歩踏み込んだ。
「あの……。カーラさんはヤマトと知り合いなんですか?」
四人はカーラとヤマトの関係について興味を持った。
それにはいろいろと理由があったが一番の理由はヤマトの怯えようである。
四人の目から見て、ヤマトはまさにどんな状況でも打開するような一流の冒険者。
そのヤマトが一方的に成すがままなのである。
これで興味を持つなというのが無理だと三人は思っただろう。
「そうだな……同じ師を持つ弟のような存在……か?」
「「「「「ええぇぇぇぇぇ!!!」」」」」
四人だけではない、周りの冒険者、受付嬢、さらにはカウンターの奥からも驚きの、最早悲鳴に近い声が上がった。
しかし、当のヤマトは面白くない表情をしている。
「良く言うなぁ……。俺は子分か何かだと思われているのかと……」
「ふふっ。まさか。私にとっては立派な弟弟子だ」
「へー?」
不機嫌を示すヤマトは立ち上がる。
どうやらカーラに魔法で拘束されていたらしく、身体にまだ痺れが残っていた。
「ちなみにヤマトとカーラさんの師匠って……?」
オドオドしたようにローラが訊ねる。
それに合わせて聞き漏らすかと周りが一斉に静かになった。
何せ“戦乙女”を鍛えた師匠である。
それはそれは大層な方だと誰しも思うだろう。
良く見ればギルドの受付も成員も此方に目を向けている。
そんな様子に首を傾けながら……。
「ん? 名前は確か……アルフォード=セウシスだった気がする」
ヤマトはその名前をぶちまけた。
「「「「「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」」」」
……本日三度目のギルドに響き渡る絶叫が巻き起こった……。
★★★
「ヤマト様! すいませんでした! 数々のご無礼お許し下さいぃぃぃぃ!!」
ウルトが涙を流して土下座した。
その身体はガクガクと震えている。
「ヤマト……。あなたはやはり本物ですねぇ……」
ローラは最早諦めたように額に手を添えて床に倒れた。
「あんたが化け物じみた理由がわかったわ」
リリーはもう呆れて物が言えないと首を振るう。
「…………ローラ、起きろ」
スレイは優しい事にローラを揺さぶって起こそうとしていた。
「カーラさん……何この状況?」
「私に聞くな。私にも分からないんだ」
「――だよなぁ~」
辺りの収集がつかなくなってきたので、いっそ無視してカウンターの受付嬢にここまで来るまでに狩った魔物の換金部位を見せる。
ぽかんとしていた受付嬢は慌てて換金部位を奥に持っていく。
そして数分後に受付嬢が戻ってきて、金をヤマトに渡した。
「とりあえずここでお別れかな」
うるさく騒ぐ周囲を放っておく事にして、ヤマトは四人に声をかけた。
「……そうですね」
ローラは少し俯いてただその一言だけ。
後ろの三人もそれぞれ寂しそうな表情をしている。
なんだかんだでヤマトと居た時間は楽しかったのだ。
「……ヤマト」
そんな時、ローラが顔を上げ、決心したようにヤマトを見つめる。
そして……おもむろにその口を開いた。
「私達の……チームに入りませんか?」
ヤマトが何か重いものを抱えているのは見ているだけで分かる。
それはおそらく自分達が割って入っていいものでは無いということも予想できる。
しかし、それでもローラはヤマトをチームに誘った。
それはヤマトが強いからでも便利だからでも無い。
単純にヤマトを仲間と認識したからである。
ヤマトもそれが分かっているからそのまま考え込んだ。
しかし、自分には目的がある。
それを達成するまでは一人で旅をすると決めたのだ。
……誰も巻き込まない為に……。
故に答えは決まっていた。
「ごめん。その誘いは本当に嬉しいけど、俺には目的があるんだ」
「そう……ですか……」
ローラはまた俯く。
しかし、ヤマトにもやはり事情があるのである。
其処まで考えて、ローラは顔を上げ、無理に笑う。
「また会いましょう」
その一言で誘いを断った罪悪感に苛まれそうなヤマトは救われるように感じた。
「ああ。まあ、俺の勘だけどすぐに会えると思うよ。ていうかしばらくこの街に滞在するし……」
「「「え……?」」」
「…………そういうことは先に言え」
「へ……?」
ヤマトは首を傾げる。
ここで三人はヤマトはすぐにこの街を離れるものだと思っていた。
だが、ヤマトはこの街を今すぐに出るわけではなかった。
つまり、ヤマトがこの街に滞在するのならばいつでも会えるのだ。
三人が拍子抜けるのも無理は無い。
「もういいです……。ヤマトの馬鹿!」
ローラはヤマトに怒鳴り散らしてズカズカとギルドを出てしまった。
――俺が何かした……?
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