5話 不穏
今日は三話ほど更新しようかな~と思っています。
ユスターヌ暦1341年
ヤマトがこの村に来てから半年が経った。
日が経つに吊れて仲間との仲を深め、今ではセラもヤマトのことを仲間と認め始めた程である。
時にはフィーネやソラと薬草を摘んだり、時には美人な女性を探すためにロイと共にザックに付き合わされたり、また最初の実践を境にサイと一緒に訓練をしたりなど仲間のうちでもいろいろあった。
勿論アルとの修業もほぼ毎日行われた。
そして、今日も例外なくその修業が行われていた…。
「……っはあ……。また負けた……」
演習場では無傷のアルを中心に7人の、もはや屍のように倒れた姿があった。
最後にアルの手によって吹き飛ばされたサイを横目にヤマトが呟く。
この半年間でアルに傷を与えられたのは最初の実践の時だけだった。
「まだまだ修業が足りんということじゃ」
「それでも、おじいちゃんは強すぎるよ……」
アルの厳しい意見にソラは愚痴を漏らす。
だが、それは仕方ないかもしれない。
子供であるヤマト達とは明らかに力の格が違うのである。
「ヤマトぉ~。あん時みたいに何とかならないのかぁ~……?」
「無茶いうなよ…。じっちゃんが強すぎる……」
ヤマトは溜め息をついた。
アルに傷を負わせることができたあの時は不思議な衝撃が走って自分の感覚能力が上がったからだ、と 心では思ったがそれを口には出さない。
自分自身何が起きたかはあまり理解してないし、単なる偶然かもしれないと思ったからだ。
実際にこの半年の間に衝撃が走ることはなく、感覚能力が向上する様子も見られない。
本当にあれはなんだったのだろうか……こう考えるのは一度や二度ではなかった。
さらに言えば、半年たっても記憶が一向に戻らない。
自分の両親のことすら思い出せないでいることが思考に割って入り、さらに深い溜め息をついた。
「さて……そろそろ戻るぞい」
ヤマトがふと気づくと皆はそれぞれ帰る準備をしていた。
――考えてもしかたないなぁ~……。
そう区切りをつけたヤマトは自分も同じように帰宅の準備を始めた。
★★★
村の広場に着くと、いつものようにいろいろな人が労いの言葉や頑張ったご褒美にと畑で取れた野菜や果物を分けてくれた。
バラン地方では無法地帯故に、法律がなければ役人も居ない。
そうなってくるとどうしても個人や少人数で何かあったときの解決をすることは極めて困難だ。
そのような場合にならないためにも集団で互いの信頼を得て、何か起こった場合に全員が協力して事を解決するのがこの地方での生きる為での鉄則であった。
そしてそれはこの村も例外ではなく、こうやって事あるごとにヤマトらは村人の世話になっていた。(最もバラン地方にも、たった一人あるいは本当に信頼のできる相手との少人数で動く者もいる。その場合はそれが出来るだけの運と実力が伴うが……)
ちなみにこの半年間でヤマトも冒険者の心得やここで暮らしていく為の知識をある程度教えてもらった為、素直に助けを借りていた。
「……ん……?」
村の通りを進んでいたヤマトがふと気づくと、冒険者だろうか……黒いローブを着た怪しげな人物とすれ違った。
全身黒ずくめでフードを被っており、男か女かはわからない。
そのローブを着た男を凝視していたヤマトに気づいたフィーネが首を傾げて訪ねる。
「……? どうしました? ヤマトさん?」
その言葉にハッとなったヤマトはフィーネに「なんでもない」と手で風を撫でる。
確かにヤマトはあのローブの男から嫌な雰囲気を感じた。
同時に頭の奥底でズキンと痛みが一瞬走ってもいた。
しかし、どこかであったかな、などと考えるが今のヤマトにとってそれはそこまで気になることでもなかった。
「フィーネ……。いつも思うんだけど、なんでフィーネって敬語使うの? 俺には普通で全然かまわないけど……」
ヤマトは普通に接してもらって良かったのだが、フィーネは疑問を投げかけるヤマトにオロオロしながら答えた。
「敬語はその……、癖で……。それにヤマトさんは私にとって尊敬できるひとです! 敬語を使うのは当たり前ですよ。それともいけないことでしたか……?」
涙目で訪ねるフィーネに止めてくれと言える筈もなく、ただただヤマトは承諾するしかなかった。
そんなヤマトの承諾に顔を輝かせるにザックが得意顔を向ける。
「なんなら俺はザック様でいいぜ?」
「――ザックくんは尊敬できないので言いません」
フィーネの冷めた表情で放ったこの言葉はザックの胸を貫いた。
「日頃の行いだよね……」
「自業自得だ」
両腕を組んでうんうんと頷くロイとサイは涙目で跪くザックを見下ろす。
ソラはその光景に苦笑していた。
「セラ、ザックっていつもああだよな」
ソラ同様、苦笑いを浮かべるヤマトはセラに話しかける。
セラはヤマトのことを認めてはいるのだが、相変わらず冷たい。
その事を何とかしたいと思っているヤマトは積極的にセラに話しかけていた。
しかし、今回もいつも通り……。
「別に、どうでもいいでしょ」
そう吐き捨ててセラはぷいっと横を向く。
「まいったな~…」と頭をかくヤマトにフィーネが話しかける。
「ふふっ。フィーネったらヤマトに懐いてるわね」
「――――何でも自分の魔法を認めてくれたらしいわよ……」
ヤマトと嬉しそうに話すフィーネを見て、楽しそうに笑うソラに、セラはそっぽを向く。
「セラ~? もしかして嫉妬?」
「な、なんでそうなるのよ!!?」
「あれぇ~? なんでそんなに慌てるのかな?」
からかうソラに慌てふためくセラが疲れたように溜め息を吐いた。
「別にヤマトのことなんてどうも思ってないわよ」
「……じゃあヤマトのことは嫌い?」
ソラはセラに問う。
ソラもセラと初めて会ったときはかなり冷たくされた。
理由はわからないがアルによれば昔、とある理由で孤独になり、それ以来人を寄せ付けなくなったとのことだ。
アルの元にやって来たのはこの中ではセラが一番早く、なにがあったかはセラ本人は勿論、アルもソラには教えていない。
ソラが話を聞こうとしても受け流されてしまうのだ。
そこまでの理由があるのだと幼いながら理解したソラは当時、何とかセラと仲良くなろうと努力して、今ではセラにとってソラは最も仲のいい友と言えるだろう。
そのようなことがあってか、当時の自分のようにセラと仲良くなろうと努めるヤマトをセラがどう思っているのか気になっていた。
「別に……。ただ苦手なだけよ……」
セラの表情が強張った。
その様子にはただ苦手というわけでは無く、何か訳がある事を悟ったソラは頭を書いて溜め息をついた。
――どうしようかな~……。
そんなことを思っているうちに八人は家についていた。
★★★
アルと少女三人(セラ、ソラ、フィーネ)が食事の用意をしていた頃、ヤマト、サイ、ザック、ロイは部屋で談笑していた。
「セラって俺に対して冷たくない?」
ヤマトはどこか寂しそうに訪ねる。
セラとは出会ってからいつも冷たい視線を向けられる。
ヤマトはそれが何故か理由が分からなかった。
そんな事を呟かれて、ロイは苦笑いを浮かべる。
「まあまあ、セラちゃんもヤマト君のことは認めてると思うし、時間が経てばいつの間にか慣れてるとおもうよ」
「そうだぜ。俺ら三人もその苦難を乗り越えてここまできたんだぜ!?」
「ザック……。気づいてたか? お前は今でもどこか信用されてないぞ?」
親指を立ててにやりと笑うザックにサイが精神的に来る一撃を放つ。
サイの一撃は見事にザックの心臓を貫いた。
「まああれだけ『お姉さ~~~~~ん!!!』とか言ってるとそうなっちゃうよね」
ロイの追撃にザックは地に伏した。
そんな光景に引きつった顔で眺めるヤマトは話を変えようと「そういえば……」と三人に話しかける。
「なあ、この辺りはあんまり冒険者って来ないよな?」
ヤマトが真面目な表情で確認する。
ヤマトの雰囲気を察した三人もつられて深い顔付きになる。
「確かにこの村は冒険者は滅多に来ない。だがそれがどうしたんだ?」
サイの答えにヤマトは帰る途中にすれ違った黒いローブの怪しい人物について語った。
サイも言った通りこの村は冒険者が滅多に来ない。
それどころかこんな街外れの小さな森にある村の存在自体あまり知られていない。
そのおかげでこの村が盗賊の略奪対象になることは滅多になかった。
あったとしてもせいぜい、はぐれの少数程度。
このような小さな村が今日まで平和で居られているのはこのような理由があってなのだが、そのような村に、まるで素性の分からないような者の存在が居る事がヤマトには不安に感じられた。
このバランでは法が無い故に暗殺者に終われる身の者も少なくない。
よって、ヤマトの話を聞いておそらく暗殺者から逃れる為に身を隠している者だろうというのが他の三人の見解だった。
「でもそれならそれで危なくないかな……。だってそれって暗殺者がこの村に来るかもしれないんだよね……?」
「確かにな……。用心はしとくべきだろうな」
「こんなところで暗殺なんてあったら村の人が巻き込まれるかもしれないぜ!?」
「まあ、じーさんが居るんだ。もしもの時は何とかするだろ」
(本当に大丈夫なのかな……?)
口々に主張する三人を横目にヤマトはまだ納得出来ていなかった。
今宵は満月であったが、窓から見えるその満月は不気味な光を放っているようでヤマトの不安を一層募らせた。
瞬間、頭に衝撃が走った。
それはとても久しい感覚。
半年前のあの感覚。
自分の感覚という感覚全てが研ぎ澄まされる。
そしてヤマトの直感が告げる。
「……来る!」
……刹那、外から爆音が鳴った……。
爆音が鳴る少し前、食卓ではアル、セラ、ソラ、フィーネは食事の用意をしながら他愛もない話をしていた。
「セラちゃんはヤマトさんに対して少し冷たくないですか?」
帰宅途中もソラにヤマトのことを聞かれ、フィーネにも聞かれたセラはそんなに自分は冷たくしてるかな、とまるで自覚が無いようにそんな事を思った。
――私としてはそんなつもりはないんだけど……。
「別に普通よ、普通」
「そうですか?」
「そうよ。ただちょっと苦手なだけ。これでも少しは認めてるわ」
「ふ~ん……」
フィーネの言葉を訂正するセラにソラが訝しげな表情をする。
「セラ」
ソラが真面目な顔になる。
「ヤマトはセラと友達になろうと努力してるよ? それなのに苦手意識だけでヤマトに冷たくするのはどうかと思うよ。セラが過去に何があったのか知らないけどヤマトも頑張ってるんだからセラも頑張ってみたら?」
少し悲しそうなソラの言葉にセラは溜め息をついた。
普段の態度からは分からないがセラ自身もヤマトのことは決して嫌いではない。
むしろこんな自分に見切りを付けずに話しかけてくれる姿は好感が持てる。
さらに言えば、セラ自身ヤマトのことが苦手だと言っているが“ヤマト自身”のことに苦手意識を持っていない。
セラがヤマトのことを苦手というのはもっと別のことだった。
しかし、自分の一方的な苦手意識で冷たく当たってしまうのにも自覚があるので…。
「わかった……。頑張ってみるわよ……」
「うんうん」
「頑張ってください。応援しています」
セラは二人に乗せられたかな、と思った。
そのうちにふとなにか違和感があることに気づく。
……おじーちゃんがいない……。
アルなら今の会話に入ってきてもなんらおかしくない筈である。
むしろ入ってこないと言うのが珍しい。
そのことに二人も気づく。
「本当だ。どこにいったのかな?」
「ここじゃ」
そう言ったアルは部屋の扉の外で険しい顔付きで立っている。
いつものお気楽なアルの雰囲気はいつの間にか歴戦の猛将のそれに変わっていた。
それに悟ったセラ達は武器を取り、身構える。
「もしかして……。敵……?」
「……………………」
確認するソラの言葉に腕を組み、下を向いて返答をしないアル。
何か深く考えているようだ。
その瞬間ハッとした表情で顔を上げた。
「セラ! サイ達に武器を持つように伝えるんじゃ!」
そう言って家から勢い良く……凄まじい速さで走っていくアルの後ろで、急いで階段を駆け上がるセラ達。
そして次の瞬間、爆音が鳴り響いた。
★★★
「みんな!!!」
セラが勢い良く部屋の扉を開けた。
「わかってる!」
サイはそう言って素早く自分のロングソードを持ち出す。
それにロイとヤマトも続いた。
「あんたってこういう急ぎの時は便利ね……」
そう言われガッツポーズを決めるのはザックだった。
何せ彼の武器は己の素手。
常時携帯している武器なので、わざわざ持ち出す必要ががなく、準備においては最速だ。
……最も、そうこうしている間に全員の準備が整ったのだが…。
「いくぞ!」
サイの号令に従う六人。
しかし、ヤマトはこれに応じず立ち止まった。
……例の直感がここに残れと告げた……。
ヤマトは自分の直感に従い、立ち止まる自分に気づかない六人の背中をを見送った。
★★★
アルは凄まじい速さで駆けた。
自分の感じた魔力の方向に。
(ふむ……。今まさに詠唱しているのか……)
そう思ったアルはすぐに妨害魔法をかける。
妨害魔法と言ってもヤマトら訓練の時に使うようなものではなく、村全体を覆うような結界型のものだ。
薄い半透明の結界が村に注がれるいくつかの魔法を弾いた。
弾いた瞬間、衝撃で爆音が鳴る。
その音で村の人が事の原因を調べようと次々に家の外に出ようとしていた。
そして結界が切れたと同時に何人もの人が村に押し入る。
「……これは!!?」
村の人たちは息を呑んだ。
なぜなら盗賊が流れ込んできたのだ。
……それも、今まで来た少人数の盗賊とは違い、大人数での大規模な略奪であった。
中々自分で良いと思えるものが書けない……。