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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 武道大会編
59/123

5話 ヤマトの思い出話 前編

ヤマトの回想が入ります。

前編といっても立て続けに回想を進めるのではなく、所々に入れたいと思います。

 ここはシラン王国とフィーリア王国を繋ぐ街道の真っ只中。

 そよ風が吹いては辺りの草や花を揺らし、靡いている。

 そこに見えるはヤマト、ローラ、スレイ、リリー、ウルト、ガノンの六人。


 リリーとウルトは退屈そうに欠伸をして、ヤマトはガノンと刀について話し、ローラとスレイは黙って足を動かしている。

 シランを出発した六人はあれから三日間、街道のんびりと進んでいたのだった。



「いやー。全く魔物が出ねえなー。まさか俺に恐れているのか!?」


「そんな訳無いでしょ。ヤマトが魔物を狩り過ぎたのよ」



 シランに入る前にヤマトは魔物の殺戮を行い、個体数を減らしたのがこの場所にも影響しているようで、魔物の姿が全然見られなかった。

 シランを出発してから魔物に会った数は実にゼロである。

 三日間でゼロはさすがに少ないと言えるだろう。



「いや……。自分の身を守るためだから仕方ないだろ?」


「それでも、もう少し自粛してください」



 二人の非難に抗議したヤマトにローラはさりげなく注意をする。

 それっきり前を黙々と歩くローラにヤマトは苦笑するしかなかった。



「まあいいじゃねえか。ヤマトに任せちまったら大抵の魔物は瞬殺なんだからな。やりすぎるのも無理はねえ」



 ガノンはヤマトの背中をポンポンと叩いて気さくに笑う。

 確かに弱肉強食のこの世界で襲ってきた魔物に文句は言えないだろう。

 しかし、ローラが注意した真意は其処では無かった。



「その結果、セリーナ王女に目を付けられたのは誰でしたか?」


「うっ…………」



 ヤマトは胸を貫かれ、そのまま押し黙る。

 確かにあの時のヤマトはやり過ぎだったのかもしれない。

 もう少し上手い方法があったのかもしれない。

 故にヤマトには返す言葉も無かった。



「ごめん……」


「ま、まあ其処まで怒ってませんし……。分かってくれたのなら大丈夫ですよ」



 ローラの言う事も正論なのでヤマトは素直に頭を下げた。

 ローラはそんなヤマトの態度に多少慌てて頭を上げさせた。



「ありがと」



 許してくれた事にヤマトは笑顔でしっかりと礼を述べる。

 それにローラは多少頬を朱に染めてそっぽを向いてしまった。



(――――ふっ。セラのおかげで女性の対策はバッチリだからな)



 実はちゃっかり計算して頭を下げたヤマト。

 心の中でガッツポーズをして、自らを良くやったと褒め称える。

 ヤマトも伊達に三年間を過ごしている訳ではなかった。



「ヤマト。あんたやるわね!」



 しかし、リリーにはお見通しだった様子。

 何と此方に向かってガッツポーズをしてきた。

 これにはヤマトも目を見開く。



(バカな……。何でバレたんだ……)


「ふふっ。ヤマトは顔に出やすいのよ」



 恐るべき読心術に焦るヤマト。

 その時、後ろで殺気を放つ人物がいた。



「ヤマト。あなた……懲りてないのですね?」


「いや……ね……?」


(ヤバイ……。セラもこうなったらヤバかったんだ……!)



 こうなれば……とヤマトは状況打開の為に目を閉じて魔力を溜め始める。

 最終手段の超感覚能力マスト頼みである。

 それに対してローラは諦めたと思ったようでゆっくりヤマトに近づく。

 心の中で間に合え! と念じ続けるヤマトは目をカッと見開いた……!



「痛っつ~~~~!」



 ヤマトは頭を抑えてしゃがみこんだ。


 ……超感覚能力マストは間に合わなかった。





     ★★★





「へー。そのセラって子がヤマトを精神的に鍛えたのね」


「あーうん……大変でした」



 さらに拳骨を貰ったヤマトは頭を擦り、涙目になりながら感傷に浸る。



「なあ、そのセラってまさかヤマトの女か?」


「!?」


「!!?」



 ウルトは興味本位かニヤニヤしながらセラについて尋ねるが、これに何故かリリーとローラが反応を示す。


「ヤマト――それは本当ですか?」


「ヤマト! あんた中々やるわね!」



 二人はヤマトに迫り、矢継ぎ早に質問を繰り出してくる。

 ヤマトは何度も「違う! 仲間! それだけ!」と否定するのだが二人は止まる様子も無い。



(みんな、俺は早くもホームシックになりました)



 この大陸では使用されない言葉を使いながらヤマトは溜め息を吐いた。

 ヤマトは早くも帰りたくなり、同胞達を思い浮かべる。

 その中で、ヤマトの脳裏に焼きつくセラ達が不気味に微笑んでいるような気がした。



(いや、どっちにしろ今と状況大して変わってないか……)



 ヤマトは静かに目を閉じた。


 ……其処には平和な一日を過ごす日々が思い出される。





     ★★★





「ヤマトォ! 今日は私と一緒に訓練する約束でしょ!?」


「……そういえばそうだっけ?」



 今日の天気は上々、青空が広がっていた。

 朝早くから人気の無い街の外れにある木々が生えている広場でヤマトは目を閉じ座っていたのだが、大きな声があたりの静寂を打ち消す。

 その声の持ち主であるセラは此方に向かい走り寄り、頬を膨らまして首を傾げるヤマトに怒鳴りつけた。



「そうよ、昨日約束したでしょ!?」



 今はユスターヌ暦1344年、つまりヤマトが旅立つ二年前。

 バラン地方にあるウニーの街に四日前からヤマト達は滞在していた。

 街に着くなりすぐに資金調達の為にギルドで依頼を受ける一行であったが、今日は休日を貰っていて各 自自由行動をしている。


 しかし、ヤマトはこことは別の場所に居るサイ同様に自らの修業を行っていた。

 現在行おうとしていたのは超感覚能力マストを使った系統魔法の魔力操作の慣れ。

 実は既に、強化魔法、感知魔法、治癒魔法まで覚えており、次は干渉魔法に手を出すところであった。


 そんな時である、セラがヤマトに訓練を申し出たのは。



 ――私も誰かを守れるくらいに強くなりたい!



 迫力のある顔で迫られてはヤマトにノーとは言えなかった。

 そんな事件(?)が起こったのは昨日の事。

 なぜかニヤニヤするソラとザックに疑問を感じつつ、ヤマトは渋々了承したのだ。



(そういえば約束したな……)


「仕方ない。じゃあ始めるか」


「ええ」



 約束してしまったのだから仕方が無い。

 そうしてセラはグラディウスを、ヤマトは自慢の黒い刀取り出した。



「いくわよ」


「ああ!」



 二人は互いに駆け出し、それぞれ武器をぶつけた。


 一年前……セラが“紋章持ち”だと皆が知った時にセラはヤマトが皆の目を覚ませ、自分を説得し孤独から救ってくれた事に多大な感謝と好意を抱いた。

 好意については以前からもあったのだが、一年前の事件を通してヤマトに心酔レベルまでに達したのである。


 それゆえにセラはヤマトにもっと自分を頼って欲しかった。

 ヤマトもまた孤独という“闇”を背負っているのだから……。



「もらった!」


「きゃあ!」



 何十合と打ち合った二人に決着が訪れた。

 セラのグラディウスが宙を舞い、地面に突き刺さる。

 これによってヤマトの勝利が決まった。



「また……」


「いや、セラも強くなったよ」



 はあ、と溜め息を吐き座り込むセラにヤマトは手を差し伸べる。

 それに朱を染めながら横に目を逸らしてセラも手を握り返した。

 ヤマトはそのままセラを立たせて近くの幹に、手を引きながら座った。



「あぅ…………」



 全くセラらしからぬ声を漏らした気がするが気にしない。

 ヤマトは無意識に手を引いていたので自らの状況が理解出来ていなかった。


 今の彼らは手を握って近くの木の幹に寄り添って座っている。

 その光景はさながら付き合っている男女のようであった。

 勿論ヤマトは無意識であるし、気にしていない。

 それは二人の関係がそうさせている。


 一年前の出来事からセラとヤマトの仲は相棒とまで言える関係になっていた。


 今から半年前、八人で依頼に行くのは多いとアルが手分けして依頼を受ける事にしたのだ。

 そこでセラはヤマトに恩返しもしたい為とヤマトを積極的に依頼に誘った。

 ヤマトも断る理由が無かったのでこれに応じていると、いつの間にかヤマトとセラはいつも一緒にギルドに向かう事になっていたのである。


 というよりもヤマトが一人で向かう事にセラが怒りを示すのだから中々一人で依頼に行く事が出来ないだけであるのだが……。


 セラが言うには私の許可無く勝手に依頼を受けられたら困る、だそうだ。

 一体何が困るのか……ヤマトに理解は出来なかったが。


 しかし、そんな二人なのだが色恋沙汰が起こったことは一度も無かった。

 如何せんヤマトが鈍すぎるというのもある。

 セラも最初こそはヤマトの隣に立つだけで顔が綻んだのだが、今は呆れさえも感じていた。


 だが、それ以上に二人は相棒と言えるまでの関係になっている。

 もしくは兄妹、家族とも言えるだろう。

 あまりにも近くにいたせいか異性として意識する機会がヤマトにはあまりなかったのだ。



(はぁ……。いつになったら気付いてくれるんだろう)



 勿論、自分の突き放すような言い方にも問題があるのだが、セラは其処には気付かない。

 ともかくも、そんな事を思いながら空を見上げる。

 それに訝しげな表情をしたヤマトだが、セラ同様に空を見上げた。



「なあ、セラ」



 不意にヤマトがセラを呼んだ。

 突然の不意打ちに驚くセラだったが、すぐに「何よ」とヤマトに返す。

 それに苦笑しながらヤマト言葉を続ける。



「自分が何者か分からない。そんな不安に駆られた事ってある?」


「……………………」



 セラは黙り込む。

 ヤマトは記憶を失い、以前の自分が思い出せない。

 故に自分が何者なのか分からないで居た。

 そしてその気持ちをさらに高める事となったシードの言葉……。



(“黒の民”……。俺は一体……)



 ヤマトは一刻も早くシードを見つけ出し、自らの事を聞きたかった。

 以前から自らの意識の底から感じる強大な“何か”。

 それを感じるヤマトは自分にどこか恐怖していた。

 ヤマトはそれを思いながら身体を少しだけ震わす。


 その時、セラはヤマトに頬に手を添えた。



「ヤマトが誰であろうと私はヤマトを見る目は変わらない。あんたが信頼する事を教えてくれたから」



 セラはどこか泣きそうな、無理のある笑顔でヤマトに微笑んで見せる。

 ヤマトはそんなセラにきょとんとして見つめ返した。

 そしてセラの顔を見て、ヤマトは微笑んだ。



「ありがと。セラ」



 セラの言葉でヤマトの決心がついた。

 ヤマトは今よりもっと強くなりシードを探す事を完全に心に決めたのだ。



「別にいいわよ」



 ヤマトの清々しい姿に顔を真っ赤に染めてセラはうつ伏せる。

 そして少しした後、何かを決心したように顔を上げた。



「ヤマト。私もヤマトの記憶が戻るのを手伝うから」



 ヤマトはその言葉に一瞬驚き、ふっと微笑んだ後セラに言った。



「そうだな。セラが強くなったらみんなで旅をしようか」


「みんななのね……」


「――へ……?」


「何でもない」



 セラはどこか呆れたような素振りを見せてそっぽを向いた。

 原因の分からないヤマトは少し混乱した様子でセラを見つめる。


 セラはその様子に頬を膨らませた後にその顔との距離が近い事に気付いた。

 その瞬間、顔が真っ赤に染まった。

 ますます意味の分からないヤマトは「大丈夫?」とその顔に手を添えた。



「あ…………」



 セラの顔にますます赤みが増す。

 その事にヤマトは本当に大丈夫かと心配になる程であった……が。



「ヤマト……」



 我慢できなくなったのか、セラが真っ赤な顔をヤマトに近づけていった。

 徐々に近づくその距離は既に鼻と鼻があたりそうな程になっている。

 ヤマトはこれにはさすがに戸惑ったような表情を見せる。

 しかし、セラが止まる様子は無かった。


 その瞬間……茂みが揺れた。



「ちょっ……。ザック押さないで!」


「いや、バランス崩して……おおお!」


「ちょっとザック君。今出るのは不味いって!」


「そうですよ! ――ってひゃああ!」



 ドン!!

 衝撃と共に何者かが姿を現した。



「「……………………」」



 草むらから現れた四人はソラ、ザック、ロイ、フィーネであった。

 そのまま辺りに沈黙が訪れる。



「何か、面白い事してるじゃない?」



 セラが飛びっきりの笑顔で四人を見据えた。



(セラ、目が笑ってない……)



 ヤマトは染み付いた恐怖で身を震わしている。

 それは四人も同様であった。



「い、いやぁ。偶々通りかかってなぁ」


「め、珍しい事もあるもんだね」


「そ、そうだね」


「うう、恐いよう……」


「黙りなさい」



 挙動不審な四人の言葉を一蹴。

 最早蛇に睨まれた蛙共である。



「みんな。死ぬなよ」


「ちょっとヤマトォォォォォ! 見捨てるのか!!?」


「ごめん、俺もまだ死にたく無いんだ……」


「ヤマトさぁ~ん! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 ヤマトは四人に同情しながら目をそむけた。

 それに対し四人の顔は絶望の色に染まる。

 そして遂に般若が動き出した。



「覚悟はいいでしょうね……?」


「「「「ごめんなさい!!!」」」」」



 四人が高速で土下座した。

 もしその場にアルが居たならば、教え子達のその動きの速さに目を見開いた事だろう。

 しかし、その程度で般若が止まることはなかった。



「そのまま成仏でもしときなさい!」



 ヤマトは目の前の地獄から背をむけた。

 後ろの方から救いの手を求める声が聞こえるがヤマトは気にしない。

 振り向けば地獄行き御一行に加わってしまうから……。



(みんな。俺はその勇姿を忘れないからな……!)



 ……この瞬間、辺りには凄まじい絶叫が鳴り響いた……。





=====一方その頃=====



「じーさん。向こうで叫び声が聞こえないか?」


「ふむ、気のせいじゃろう」


「そうか、それでこの闇魔法の事なんだが――」


 サイとアルは青空の下でいつも通りに訓練の日々を過ごしていた。





     ★★★





「恐ぇぇ! なんて女だ!」



 ヤマトの話を一部始終聞いたウルトは恐怖のあまりに身を震えさす。

 その様子にヤマトはうんうんと頷いてみせる。



「ヤマトも大変だったんだな……」


「――――ああ」



 ウルトが同情するようにヤマトの肩に手を添える。

 どうやらヤマトとウルトの友好度が上がったようだ。

 それに呆れを示すローラに無言のスレイ、ニヤニヤするリリーに笑うガノン。



(まあ、この人達も結構個性的だよな)



 皆と重なって見えた五人を見ながらヤマトは街道を進んでいく。

 皆の事を思い出すことによって、記憶を取り戻すという決心がまた確固たるものとなったのであった。



「さてっと。あれが――」



 そうして六人は前方の関所を確認して立ち止まる。

 ある者は安堵し、ある者は期待に顔を輝かせ、ある者は表情を真剣にさせる。



「よし! いこうか!」



 ……そうして六人はフィーリア王国に入っていったのである……。





読了ありがとうございました。

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