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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 武道大会編
57/123

3話 王女と騎士

アル「今日は敬老の日じゃ! わしが主役じゃ!」

サイ「じーさん。無駄に興奮するな」

セラ「正直うるさいわよ!」

ロイ「別にユスターヌ大陸にそんな日はないからね?」

フィ「それはヤマトさんと関係のあるこことは別世界の事ですよ?」

ザッ「別世界ってなんだ?」

アル「そんな……。敬老の日なるものはこの大陸にはないのかのぅ?」

全員「無い」

アル「出番も少ないし、扱いが酷すぎるのじゃ……」

ガノンから大陸の現状のあれこれを聞いて二日後。

ウルトとリリーが欠伸をしながら街道を進む。

スレイは無表情のまま、ガノンは後ろの光景に笑い、ローラは溜め息をつく。



―――――ギャオオオオオ!



黒い牛の様な魔物が真っ二つに切り裂かれる。



―――――ピギャアアアア!



大きな怪鳥が苦しそうに羽をバタつかせながら地面に落ちる。



―――――グアアアアアア!



熊とライオンを足したような魔物が首から血を噴出し倒れた。



「ガッハッハ! 全くヤマトは敵無しだな!」


「――もう私は気にしません」


「何はともあれ楽できるからいいわよ」


「全くだな~」


「……………………」



五人の後ろに広がっている光景はまさに殺戮現場。

何体もの魔物が血を流し、切り裂かれ、横たわっている。


その中で一つだけ、動いている者が居た。

その者は漆黒の髪と瞳を持ち、紺色のロングコートを身につけている。



「大量大量! しばらくは金には困らないな~」



殺戮現場の中央で上機嫌で魔物から換金部位を剥ぎ取るのはヤマト。

その姿に五人はそれぞれの反応を示していた。



「ヤマトって本当に何者なんでしょう……」



ローラが再度深い溜め息をついた……。





     ★★★





三日前、つまりヤマトが一向に加わって次の日に六人はココルの街を離れた。

理由としては別に留まる理由も無かったし、一応今はガノンの護衛の依頼を受けている最中。

ゆっくりしたい気持ちもあったがそうは言っていられない。


そういう訳で街道を進んでいった六人。

次の街までは普通に歩けば三日ほどで着く。

……そう、普通に歩けば。


しかし、何とこの時期にちょっとした魔物の繁殖が起こっていたようで何匹もの魔物が六人に襲い掛かってきた。

それに応戦する六人はそれぞれ武器を手に(ガノンは除く)立ち上がった。


……だが、それらの魔物は六人の相手ではなかった。


ここまで楽に魔物の相手を出来た事は無かった。

それが戦闘終了後に五人が一致した感想である。

それは途中で旅に加わった青年が大きく関わっていた。


青年は最初に訪れたワイルドウルフ二十匹くらいの群れを瞬殺。

次に現れるD~Cランクの魔物達を無情にも殲滅。

襲い掛かる魔物を次々と返り討ちにしていったのだ。



「……もしかしたらヤマトを入れた今の俺達なら危険度Aランクの魔物も狩れんじゃね?」


「右に同じく」



ウルトとリリーが眠そうな顔を振り向かせ、部位を剥ぎ取る青年を見ながら思いを吐く。

ガノンは相変わらず笑っており、スレイは眉一つ動かさずにヤマトを見つめたままである。



「ごめんごめん。遅くなった」



一通り剥ぎ取りが終わったのかヤマトが謝りながら五人に駆け寄る。

両手にいっぱいの部位が金に成り変わると思うとウルトとリリーがじゅるっと舌なめずりした。



「お! 街が見えてきた」



ヤマトが前方を見ながら嬉しそうな表情を作る。

五人もそれと同様な表情をする。

目の前にはシランの端、でありフィーリアに最も近い街シルクの姿が見えていた。





     ★★★





ヤマトらがシルクの街に入ると、其処はかなり賑やかな様子であった。

人々は表の通りに出ては集まり何かを話している。

店の人もどこか緊張しながら商売をしているようだ。


最初、ローラ達にはこれが普通なのかと思っていたが、ガノンからいつもはこんなでは無い、と聞いて困惑する。

しかし、ヤマトは聞き耳を立てながら道を進んでいた為に状況が理解できた。



「――どうやらフィーリア王国の王女様が来ているらしいな」



シラン国はフィーリア王国の隣にあり、友好関係を築いている。

故にどうやらフィーリア王国の第一王女がシランの貴族や王族を訪れていたらしく、その帰りという訳だ。



「へ~……ってどうしてそんなこと知ってるんですか!?」


「えっ? 聞き耳立ててたから分かるだろ?」


「聞き耳なんか立てたところで聞こえるか!?」



ウルトが驚いたようにヤマトに問う。

実際はただ聞き耳を立てたわけではない。


強化魔法、これによって聴覚を強化しているのである。

ヤマトの膨大な魔力なら一日中かけていても平気であろう。


……と魔法を使用した事を伝えると皆は呆れたようにヤマトを見た。



「系統魔法を無詠唱ですか……。いやもう驚きませんよ?」


「無詠唱って結構難しいって聞いたぜ……?」


「ていうか常時それで大丈夫ってどういう事よ……」


「ガハハ! やはりヤマトは面白いな」


「……………………」



どうやらそれぞれの反応をされてしまったヤマト。

ははは……と顔を引きつらせながら笑い、とりあえずヤマトはギルドを目指す。

五人もジト目をしながらもヤマトの後ろについていった。


そうしてしばらく歩き、この街のギルドに辿り着く。

換金部位をさっさと換金してしまおうとヤマトはまたしても一番に堂々とギルドに入っていった。

それを追ってギルドに足を踏み込む五人。


六人がギルドに入って最初の印象は騒がしいであった。

ギルドの中は大体は騒がしい。

しかし、今回ばかりは違ったのである。



「あれって……。――なんでフィーリア王女がここにいるんだよ……」



ウルトが顔を引きつらせた。

他のものも戸惑い驚いている。

しかし、それも無理は無い。

……なぜなら目の前に居るのはフィーリア第一王女、セリーナその人であったのだから。


髪の色は美しい金色で、赤色の瞳が輝いて見える。

赤と白が綺麗に彩られているドレスを身に付け一人の騎士と話して込んでいた。



「ですから姫様。ここはこの国の兵たちにお任せした方が……」


「ですが、このままでは我が国にも関係があるかもしれないでしょう? それに原因も気になりますし」


「しかし、姫様……。誰の仕業か分からない、そんな危ないところにお行きになったと王に知れれば……」



どうやら何かを揉めている様子。

ヤマトはこれを横目に受付に近寄る。



「換金しに来たんだけど……あれは?」



王女と一人の騎士が言い合っている光景をボーとして見ている受付の女性に話しかける。

ヤマトの声にハッと反応した受付は営業スマイルを作り出す。

プロだ……ヤマトは素直にそう思った。



「はい……。最近になって魔物の繁殖が大きくなっていたんです。それで討伐チームを作ろうとした矢先に…魔物の数が急に激減したんです……。まるで自然災害か誰かに狩られたように……」



――それは間違いなくこいつの仕業でーーーーす!!!



五人が一斉にヤマトに視線を向け、当の本人はビクッと肩を震わせる。

しかし、そんな事には気付かず受付嬢はそのまま説明を続ける。



「それで魔物の数が減った原因を調査しようとセリーナ王女様が申し出てくれて……。それで……」


「騎士と揉めあっている訳か……」


(というよりここってフィーリア王国ですら無いからな。騎士が動きたく無いのも分かる気がする……)



いくらフィーリア王国とシラン王国が同盟だからと言って、一国の姫が出るのはおかしいだろう。

勿論、同盟国からの要請があれば兵を送れるだろうが、現時点それが無い以上余計なお世話である。

ただの調査も出来ない三大国に頼る国……そんなレッテルが貼られる恐れすらあるのだ。


そんな事を考えながらヤマトは唸る。

それは自分がやった事である……などと言えば間違いなくヤマトは事情を説明しなければいけないだろう。

ヤマトとしてはそんな面倒な事はしたくない。


だが、それでは無責任のような気もしてくる。

どうするべきか……そこでヤマトはうんと頷き、ヤマトは目を瞑った。

そして、そのまま“自身の能力”の練習も兼ねて魔力を溜め始める。



「な……なんだ!? この魔力は!!?」



しかし、騎士がそれに気付いてしまった。



(魔力を感じ取られた……か。あの騎士、出来る……)



魔力を感じ取られた事に驚き、騎士に感嘆する。

だが、それと同時に焦りも感じた。

まさか気付かれるとは思わなかったのだ。

そうしている間に騎士が此方に近づいてきた。



「……今のは君が?」


「何の事かな?」



即効で誤魔化すヤマト。

その誤魔化しように後ろの五人からなんともいえない視線を感じた。

そんなヤマトをその騎士はジーと睨む。


その騎士は銀の鎧を身につけ、腰には家紋入りの剣を掛けている。

髪の色は薄い青で、瞳は黄緑色である。



「ザクロ。疑わしいという理由だけで疑うのはいけません」



そんな騎士、ザクロに注意しながら此方に来るのはフィーリア王女セリーナ。

セリーナはヤマトに頭を下げ謝罪を告げる。



「ごめんなさい。不快な思いをさせましたね」


「いや、別に気にしてないよ」



ヤマトの言葉にニコリと微笑む。

それにザクロが横槍をさしてきた。



「しかし、姫様。私の勘違い出なければこの男、かなりの魔力を扱ってました。一応何をするつもりだったか聞かなければ……」



ヤマトはこの騎士の言い分に最もだと思った。

ここはギルドであり、街中である。

そんなところで超感覚能力マストに必要な魔力を溜めているのが分かれば、とりあえず警戒はするだろう。



「え~と……。今は俺の事より原因不明の魔物が減った事を調査した方がいいんじゃ?」


「そうです。原因不明のままでは何かと都合が悪いでしょう?」


「しかし……はあ……分かりました」



どうやら纏まったようだな。

そして原因は俺だ。

ヤマトはそんな事を思いつつ多少の罪悪感を抱いて、その場をこっそり抜け出そうと試みる。

二人はその後、話し合いに夢中になっていたようでヤマトは楽々抜け出す事が出来た。



「とりあえず宿を取ろう」



騎士の尋問を上手く切り抜けヤマトはすぐさま五人を連れてギルドを出た。

無論、皆は溜め息をついていたが……。



(しかし、参ったな……。あの二人・・、俺の魔力に気付くなんて……)



とりあえずヤマトは一刻も早くその場を離れようと宿を探しに向かった。





     ★★★





「……姫様、良かったのですか?」



シルクの街の最高級の宿にセリーナ王女とその護衛達が泊まっていた。

今はセリーナの部屋にはザクロも居る。

フィーリア王国一の騎士と名高いザクロ。

その腕前はSランクの魔物にも劣らない程の強さである。



「何がでしょう?」



セリーナは首を傾げて誤魔化そうとする。

しかし、ザクロは真っ直ぐセリーナを見つめたまま。

その真剣な顔にセリーナは誤魔化しきれないと溜め息をついた。



「――――あの魔力……。敵にするにはあまりにも危険すぎるわ。彼をあまり刺激したく無かったの……」



セリーナは実を言うとザクロが気付く以前にヤマトの魔力に気付いていた。

それはセリーナが異常に魔力に敏感な体質を持っているからである。

故に一早くヤマトの魔力を感じ取ったセリーナはしばらく様子を見たかったのだと告げた。

それにザクロも黙ってしまう。


先ほどあの青年から感じた魔力……それは上級の魔道士が十人程集まって、やっと足りるかどうかの量であった。

あれほどの魔力をあの僅かな時間で己の内に溜めたのである。

それがどれほどのことかは魔法に精通していない二人にも容易に分かる。



「それに彼の立ち振る舞い。相当の実力者でしょうな……」



ザクロは青年の姿を思い浮かべながら漏らす。

此方に全く隙を見せないその振る舞いは正直ザクロでも出来ないレベルのものであった。

おそらく、あの謎の青年が並のものではないという事は簡単に分かった。



「彼には注意が必要ね……。おそらくこの街を訪れるという事は彼はフィーリアに向かうでしょう。お父様に報告しなければなりませんね」


「出来れば彼程に強い冒険者には我が国に仕えて欲しいものですな。勿論出来ればですが……」


「ええそうね。あれほどの人材、今のスクムトになんて渡ったら大変な事になるでしょうし」


「――一応注意はしときましょうか」



そうして踵を返して部屋を立ち去るザクロ。

その後ろ姿を見つめながらセリーナは溜め息をついた。



「漆黒の髪と瞳の青年。年は私と同じくらいかしら……。彼は一体……」



今から彼が巻き起こす風はどのようなものなのか……。

少なくとも何かを起こすだろう。

そんな予感がしてやまないセリーナは魔物の殲滅の犯人であろうと予測される少年の事を考えながら倒れるように横になった……。





読了ありがとうございました。

この回は自分でも少し気になる部分があったので、もしかしたら書き直す事があるかも……。

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