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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 武道大会編
55/123

1話 黒き青年

更新が少し遅れました……。

「本当にありがとうございました!」



ローラは深々と目の前の青年に頭を下げた。

そんなローラに黒髪を少しはねさせた青年はひらひらと手を振って「気にしなくて良いよ」と苦笑する。



「俺も偶々ここを通っただけだしな」



今現在ローラが居る場所はバランからフィーリア王国に入る為に最初に訪れる国であるシランの領内であるココルの街。(ちなみにシランはフィーリア王国に隣国で国の大きさとしては小規模であるが、治安などはしっかりとしている国である)


あの後、青年が<ブローダ>をたった一人で壊滅させてから「道が一緒だから」と五人と同行していたのだが、それからはまさに五人は青年に驚いてばかりであった。


バランに通じる街道は魔物が多いのは周知の事である。

しかし、青年は次々に襲い掛かる魔物を千切って投げ千切って投げ…結局五人が三日で進んだ分の距離を一日で進んでしまった。


「あの……。お名前を窺っても?」



ローラは青年のような黒髪黒目の人物を見た事が無い。

それだけ珍しい容姿に、加えて<ブローダ>をたった一人で、しかも無傷で翻弄したのだ。

五人はこの青年が有名な冒険者ではないかと推測した。



「あ~……。俺はヤマト。まあ気軽に呼び捨てでOK」


「はあ……」



しかし、青年の名乗る名前には聞き覚えがまるで無い。(ついでにOKという言葉も)

ここまでの実力を有しているのだから名前くらい知っているかもと思ったローラは少し気落ちする。



「まあ何はともあれ助かりました」



しかしこの青年、ヤマトが何者で在ろうと助けてくれた事には変わりない。

勿論五人の下した決断はヤマトへの感謝であった。

それに快く「気にするな」と言うヤマトはおそらく害ある者ではないと思えた。



「さてっと。俺はこのままギルドで換金部位を出してくるけどあんたらはどうするんだ?」



ヤマトは首を傾けローラ達の動向を聞く。

そんなヤマトに自分らもギルドまでついて行くと言った。



「ガノンさんの依頼を受けながら私達も魔物を倒したしね。換金しないと」



これにより六人の行き先がギルドに決まった。

六人はそれぞれ自己紹介を果たしながらギルドへ赴く。

勿論ヤマトへの質問は後を絶たずに投げかけられたのだが。





     ★★★






「しかし……。バランとは偉い違いだな~」



ヤマトは街を見渡してそんな事を吐いた。

それにはローラらも同意できる。


何せ無法地帯からここまで来たのだ。

無論バランにもここと同じくらい安定して明るい街はあるのだが、それは数える程でしかない。

それが小国のしかも一番最初に辿りついた街でこれなのだ。



「バランは大変だったな~……」



ヤマトは自分の回想に浸り始める。

その様子に一向は興味を抱いた。



「ヤマトは何をしていたんですか?」



ローラがヤマトの過去について詮索してくる。

それに「いろいろかな……」とヤマトは少しだけ語りだす。



「仲間とギルドでいろいろ依頼をこなしながら修業してた」



これにはなるほどとローラ達は頷く。

確かにバラン育ちなら、これほどの実力を持っていても表に出る事は少ないだろう。

無法地帯であるバランに居る冒険者の情報は集めるのが難しいために、他の地域に名は広まりにくく、有名になりにくいのである。



「でも、あの実力じゃあすぐに有名になりそうだがな」



ガノンの言葉にローラ達は頷くばかりである。

そうしていると、どうやらギルドに突いたようだ。



「さ~て、行ってみますかっと」



そうして賑やかな街の中、堂々とギルドに入っていく漆黒の若者。



「あ……待ちなさい!」



そしてそれを追いかけるように五人も中に入っていくのであった。





     ★★★






真っ先にギルドに入ったヤマトは周りからジロジロと見られている事に気付いた。



(俺何かしたっけ?)



ヤマトは首を捻りながら受付まで歩いていく。


しかし、注目を浴びるのは必然。

今までバランに居たからさほど気にする程に注目を浴びなかったが、ヤマトの漆黒の容姿はかなり珍しい。

むしろ全員が初めて見るものであった。


だが、そんな事には気づかないヤマト。

そのままズカズカと受付まで入っては「すいませ~ん」とギルドの者を呼んだ。



「はい。本日はどのようなご用件で?」



受付嬢は爽やかな営業スマイルをヤマトに放ちながらそのまま用件を確認。

ヤマトはそれに微笑みながら答えた。



(――面白い奴だな……)



ガノンはギルドの受付の者と話すヤマトの姿に感心する。

その佇まいは一流の冒険者である事を予測させたからである。

ガノンはその仕事上、何人もの冒険者を見てきたのだが、その中でもヤマトはかなり上位に位置するように見えたのだ。



「これを換金したいんだけど」


「はい、え~と……。これは!」



受付がそれを見て、息を呑んだ。

それに後ろの五人もひょこっと顔を出しては、驚く。

周りは何事だとカウンターに目を向けた。



「これはキラーウルフの牙、こっちはブラッドイーターの角……。この二つはBランクですよ!?」



その受付嬢の叫びに周囲がざわめく。

危険度Bランクの魔物とは冒険者の中でも上級者が狩る魔物である。

それをこんな青年が二匹も狩ってきたのだ。



「あ、早々。これも」


「これって<ブローダ>の討伐確認書ぉ!!」



ヤマトは<ブローダ>の討伐後、それをそのまま国の役人に差し出した。

元々<ブローダ>の討伐はギルドの討伐依頼として貼られていたので役人から討伐確認書を貰ったのだ。



「一応討伐したからな。依頼にも出てたらしかったから貰っておいた」



はっはっはと頭を掻いて笑うヤマトに周囲がどよめく。

今のやり取りからこのヤマトという青年はBランクの討伐を三回行ったという事である。

しかもどうやらこの青年は一人で行ったというのだ。

もし、これが集団やチームなら其処まで驚かれないであろう。

しかし、一人で討伐したとなればそれは大きく意味が異なってくる。



「おい! 俺のチームに入ってくれ!」


「いや! ぜひ僕のところに!!」


「い~や! あたしが先さ!」



今のやり取りを聞いて、次々とヤマトを引き込む声がする。

これにはヤマトも驚き戸惑う姿をみせた。



「とりあえず金貰っとく。換金ありがとう。それではさらば!」



これは不味いと流石に察した。

ヤマトは賞金を握ると同時に恐るべき速さで自らに駆け寄ってくる集団をかわしてギルドの外に出た。



「なんて速さ……」



周囲がさらに驚く。

そのスピードは俊敏さで売りのキラーウルフを凌駕するものであった。

これにより周囲が彼の実力が本物である事を確信する。



「ヤマトって本当何者なの……?」



ローラは今だ唖然としながらヤマトが走り去った方向から手元に視線を落とした。

そこには手紙が握られていたのだった。











<五人に>


とりあえず状況が不味くなったんでここから離れる。


街の外れにある宿の一室を借りるつもりだから何かあれば来ても構わない。


まあ厄介ごとはごめんだけどな。


そういう訳で、じゃあな~。










いつの間にやらそんな事が書かれた手紙を渡されていたのだ。



「あの一瞬で書いたのか……!?」



ウルトが驚愕しながら手紙を見直す。

その走り書きから咄嗟に書いたんだろう事が予測された。



「――ちょっと街の外れに寄って見ましょう」



ローラはとりあえずヤマトが居るであろう宿に向かう事に決めたのだった。






     ★★★





「ここのようですね……」



ローラ達はヤマトの示した街外れの宿の目の前まで移動し、その宿屋を見上げる。

そこには平凡ともいえる宿があるのだった。



「というより平凡すぎるだろ……」



どの街にも必ずありそうな一般的な木造の宿。

とりあえずそのままローラ達は宿に入り、受付まで向かう。

五人が受付まで歩いてきたのを察したのか受付の男が急ぎ寄ってきた。



「すいません。お尋ねしたい事が」


「はい。何でしょう?」


「ここに黒髪の男の人が訪れませんでしたか?」


「あ、はい。先ほど此方の宿を取られましたが」


「会いたいので部屋の場所を伺いたいんです」


「かしこまりました。その御仁からもそう言われているので……こちらです」



男は客の名簿表のようなものを取り出しヤマトの泊まったであろう部屋の番号を伝える。



「ありがとうございます」



それにローラはにこやかに微笑み、栗毛の髪を翻して部屋に向かう。



「さて、早速頼んで・・・みるか」



そんなローラの後ろでガノンが愉快そうに笑った。





     ★★★





「それで、来るのが早いな」


「いろいろとお礼もしたかったので」



教えられた部屋までたどり着き、五人はそのままヤマトに招かれるままに部屋に入った。

ヤマトは苦笑しながら五人を見すえる。



「あんたら四人はそうかも知れないが……おっちゃんの方は違うようだな」



ヤマトは悟ったようにガノンに視線を向ける。

それにガノンはニヤニヤしながら頷いた。



「話が早くて助かる。実は頼みがあってな」



ガノンは面白い物でも見たとヤマトに笑いながら言い放った。



「お前、俺の護衛に加わらないか?」


「「「「ええ~~~~!」」」」



ガノンの放った言葉に四人が一斉に大声を上げる。

その様子に「やっぱりな」と溜め息をつくヤマト。



「いや~。正直お前が護衛に付けば楽だな、とな」


「それは私達が役不足だからでしょうか?」



ローラがジト目でガノンを覗く。

確かに山賊から守れなかった事はローラ達も責任を感じている。

しかし、一度引き受けた以上ここで終わりたくないのもある。


そんなローラにヤマトがいやいや、と首を振る。



「どうせ俺の武器の方に興味があるんだろう? この刀、相当珍しいだろうし」



ガノンが言おうとした事をヤマトが先に言った。

そんなヤマトに「参ったな……」と頭を掻く魔道具職人。



「まあ……な。刀を持っているだけでも珍しいが、その中でもそんな黒刀は見た事がねえ。しかも職人の勘が何かを告げているんだ。血が騒ぐのさ」


「つまり自分の職場でじっくり見てみたい……と?」


「そういうことだな」



動機の説明を終えたガノンはそのままヤマトを誘う。

一方のヤマトはこれに頭を捻った。



(連れて行くメリット、デメリットをしっかり考慮しないとな)



ガノン達を連れて行くメリットとしては、バランの外に慣れていないヤマトにいろいろな情報を提供してくれそうである事。

また、ガノンは優秀な魔道具職人。

恩を売っても悪い事は無いだろう。

対するデメリットは足でまといが増える事。


ヤマトはここまで考えはぁ~と息を吐いた。



「三十秒。三十秒だけ待ってくれ」



は? と頭を傾ける五人を気にもせず、ヤマトはそのまま目を閉じる。

そして膨大な魔力を内に溜めだした。

それを薄々感じ取った冒険者の四人は咄嗟に身構える。

そして三十秒後、ヤマトは目を開けた。



「オッケー。俺も護衛に加わろう。ただし、俺についての詮索はあまりしない事と……刀盗むなよ?」


「ガハハハハ! 俺もプライドってものがある。さすがに盗みはしねえさ」



豪快に笑うガノンを見ながらヤマトも少しばかり微笑んでいる。

ヤマトがガノンの頼みを引き受ける理由が分からない四人はヤマトに訊ねた。



「何故……。私達についていくのですか?」


「君ら確かフィーリアに行くんだろ? 丁度目的が一緒だしついでにいいかなっと」



勿論メリットがあるから行くのだが、印象を良くした方がいいのでとりあえずそう伝える。

それに目的が一緒なのは嘘ではない。

とりあえず渋々と云ったようだがローラは納得したようだ。



「そういう訳でよろしく頼むよ」



こうしてローラ達一行にヤマトが加わった。





読了ありがとうございました。

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