エピローグ
三章開始。
ここから物語が動きだします。
――ユスターヌ暦1346年
無法地帯バランとフィーリア王国を繋ぐ街道に一人の男性と四人の護衛と思われる冒険者の姿があった。
「なあ……。魔物の数多くね?」
「こればかりは仕方ないわね……。ここはバランを繋ぐ街道よ?」
「それに魔物の数が十年ほど前から増えているのだから、これくらいは当たり前です。つべこべ言わずにさっさと進みましょう」
「……………………」
四人の冒険者は文句を言いながらもその道を進んでいく。
この四人は現在フィーリア王国のトローレの街まで依頼者であるガノンという男を護衛していた。
そのうちの一人、セミロングの栗毛の髪に茶色の瞳を持つローラという女性が先頭を進んでいる。
年は18~20辺りで水色と白の混じったワンピースを着ている。
「ウルト。へばってないで早くしてください」
「いや……。今しがた戦闘したばっかだよな……?」
ウルトと呼ばれるツンツンと逆立てた白髪に青目の青年が汗を流しながら、大剣のクレイモアを杖代わりに後ろから何とかついて行く。
半袖の灰色のコートに青のジーンズという格好のこの青年は満身創痍の御様子。
その様子に気にも止めずにローラは先を急ぐ。
そんな時、後ろの茶色の髪と瞳の男性が青年を庇うように口出しした。
「ここまで休み無しで着たんだ。クレイモアなんて大剣も持ち込んでるんだし、休憩をしても良いだろう」
この男こそ四人が護衛の依頼を受けている魔道具職人のガノンである。
ガノンは今まで魔法具作成のヒントを得る為にニュールの街を訪れていてそれが終わったのか帰路に着くところであったのだ。
しかし、バランのネクスゲートに通じる街道は何かと魔物の襲撃が多い。
故にギルドで冒険者にフィーリア王国までの護衛を依頼したのだ。
それに応じたのがこの四人という事である
「おじさんはいいのかしら?」
休憩の一言に嬉しそうな表情をしながら確認するのは長い金髪に碧眼の若い女性。
この女性の名はリリー。
身軽な冒険者用のピンクと黄色の混じった服を着ている。
お姉さんの雰囲気を全開で醸し出すリリーは頷くガノンに「どうも」と遠慮なく近くの岩に座り込む。
「さすがにこの距離は疲れるのよね~」
休憩できた事に満足と言ったように表情を和らげる。
そんなリリーに続いてウルトも急ぎ座り込む。
「もうダメ~~……。死ぬぅ……」
だらしなく伸びるウルトに呆れ顔のローラ。
水色と白の混じったドレスを翻し、後ろで無言を貫く青年を振り返った。
「スレイからも何か言ってください!」
ローラが振り返ったその先ではボサボサの灰色の髪に緑の目を携えた青年が立っている。
服装は黒のコートに青いズボンを履いている。
だが、明らかに不機嫌そうな顔をしながら振り向くローラにスレイは無言のままであった。
そんな三人に呆れて首を振りつつローラも休む事に決めたのであった。
★★★
「でも、まさかあの有名なガノンさんの護衛を受ける事になるなんてね~」
リリーが遠くを見るような目でそんな事を呟く。
それにはローラとウルトも同意のようで頷いた。
魔道具職人ガノン。
その腕は大陸の中でも一、二を争うもので、今まで様々な魔道具を作り上げてきた。
最近普及し始めている魔石のセット型魔道具を最初に作ったのも彼である。
その最初のセット型魔道具であるガノン№24。
その後にどんどんと普及していったそれを筆頭にガノンは元から高かった名声をさらに高めたのである。
「でも…。ガノンさんは有名なんでしたら狙われやすいのでは? 正直ランクが釣り合わないような……」
ローラが不安げにガノンに訊ねる。
この依頼はランクCであった。
しかし、ガノン程の魔道具職人は何かといろいろな者から狙われやすい筈である。
そんな危険の多そうな依頼がその程度のランクである事に疑問を持ったのである。
それに「ああ」と頷くガノンが説明しだす。
「今回は秘密裏に来たからな。裏では情報は回っているかも知れないが、何せ行き先がバランだ。手を出す連中は少ないだろうさ」
まるで他人事のように笑うガノン。
それに呆れてものが言えない三人と元から無言を貫く一人。
確かに無法地帯のバランに好き好んで入るような人物はほとんどいない。
ネクスゲートを潜る者は何かと理由があるものである。
しかし、ガノンは優秀な魔道具職人。
狙うものからすれば、ネクスゲートまで追うのにしっかりとした理由になるのではないかと疑問に思うのだが、四人は考えるのを放棄した。
「あ~止め止め。要はこのおじさんをトローレの街まで連れて行けばいいんだから。細かい事考えても仕方ないわ」
「全く……リリーの言うとおり! 要はお気楽旅を続ければいいんだぜ!」
リリーとウルトは護衛の任務すらも忘れてその場に寝転がる。
ローラはそれを見て、注意しようと動こうとした。
……瞬間、ローラに向かい魔法が飛んできた……。
「なっ…………!」
慌てて回避しようとするが、間に合わない。
そう思ったときスレイが咄嗟にローラを突き飛ばす。
それにより間一髪でローラは飛んできた炎の魔法をかわした。
「ありがとう……。スレイ」
「――――来る!」
スレイが今しがた魔法が放たれた方向……森の方に目を凝らす。
すると何人もの山賊が姿を現してきた。
「てめえら! 旅のものだな? 命が欲しかったら金目の物を全て置いていけ」
テンプレのお決まり台詞。
未だにそんな事を吐き捨てる馬鹿がいるのかと目を丸くする一行であるのだが……。
「ちょっと待って……。あいつらってこの辺りじゃ有名な山賊<ブローダ>じゃない!?」
リリーがその山賊団の姿を見るや取り乱した。
<ブローダ>……この辺りを拠点に略奪を行っている山賊である。
一人一人の実力もあり、ギルドの討伐依頼に加えられている程。
その討伐ランクはBであった。
対するローラ達はせいぜいCランクまでの依頼しか受けた事が無い。
それにこの数の差。
正直切り抜けるのは難しいだろう。
(これはまずいですね……)
ローラは冷や汗を頬に伝わせ、魔法の詠唱の準備をする。
「集う炎よ。中炎弾」
しかし、先に山賊の一人がローラに向かい魔法を唱えた。
「くっ…………。水の槍よ。水槍!」
対するローラも慌てて詠唱。
二つの魔法がぶつかり、それらが弾けた。
「きゃあ…………!」
ローラは起こった爆風に吹き飛ばされる。
それをスレイが受け止めるが、その瞬間ヒュンと何かが風を切る音がした。
「…………!!」
なんとスレイに向かい矢が飛んできたのだ。
スレイは身を捻ってかわすが、ローラを抱いていた為スレイは満足に動けず肩に直撃した。
「スレイ!」
リリーが叫びながらショートスピアを取り出す。
ウルトも既にクレイモアを握って山賊に向かい構える。
「この数を相手して勝てるとでも?」
山賊の首領らしき人物がクックと笑う。
それに吊られ他の者もニヤリと笑った。
「首領。あの二人は貰ってもいいかい?」
「中々の美人だからなぁ……」
「好きにしろ」
その一言で嫌らしい笑いを含んだ山賊達が五人に向かい一斉に襲い掛かった。
リリーとウルトはそれに必死で応戦するが、すぐに取り押さえられ、ガノンは既に拘束されていた。
「みんな!」
ローラはスレイの傷の手当てをしていたが、すぐに盗賊が迫る。
元々魔道士の彼女に接近戦は出来ず、すぐに取り押さえられた。
「男は殺して構わん! 女は……ヒッヒッヒ!」
嫌らしい目つきでローラとリリーを見る山賊。
それにローラは身震いする。
(このままじゃ……)
今まさに近寄って来ようとする集団に、殺されかけてもがいている三人の姿に、ローラは恐怖した。
「いやぁぁ!!!」
ローラは叫んだ。
誰でもいい、自分達を助けて欲しい。
その一身で声を張り上げたのだ。
しかし、その叫びは響いただけで何も起こらない。
山賊達が声を上げて行動に移す。
……その瞬間、荒れ狂う風が吹いた……。
「ぐわあ~~~!!」
「なぁぁぁぁ!!!」
「くううう!!」
その突風はローラに歩み寄ってくる山賊の何人かを吹き飛ばした。
吹き飛んだ山賊達はそのまま数メートル吹き飛び、気絶した。
「な、何が起こった!?」
「分かりま……ぎゃあああ!」
首領が状況を把握しようと近くにいる男に話しかける。
しかし、その男に今度は風の刃が飛んできた。
風の刃に切り裂かれる部下を見て、首領は何が起こったか分からずパニックに陥った。
「何が起こっているの?」
目の前で起きている光景は何処からとも無く襲ってくる風の魔法に翻弄される<ブローダ>の哀れな姿。
すでにウルトとガノンの拘束も解けて、スレイも肩を抑えながらリリーとローラに近づいている。
「地面に干渉せよ。地面干渉」
そんな時、何処からとも無く詠唱が聞こえてきた。
それは使える者の少ない筈の干渉魔法である。
地面から打ち出されるいくつもの土の柱に山賊のほとんどが伸びてしまった。
「お前ら! 何寝てやがる!!」
パニックになっている首領は次々と倒れていく仲間に声を張り上げる。
しかし、その仲間がそれに応じる事は無かった。
「畜生! 何処のどいつだ! 姿を……」
現せ……そう催促しようとした首領はいつの間にか、背中から切りつけられ、血を流し倒れる。
ローラ達は目の前で起こった出来事に唖然と見入っていた。
その時、倒れる首領の後ろで何者かが立っていた。
その人物は黒主体の白のラインの入ったシャツにベージュのズボンを履いて、紺色のロングコートを身に付けている。
その胸元には赤く光る星型の首飾りがキラッと光った。
「大丈夫だった?」
その人物は心配するような素振りを見せて此方に訊ねてきた。
五人はその人物に思わず見入ってしまう。
……漆黒の髪と瞳をしたその青年に……。
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