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漆黒の風  作者: ST
二章 災厄の予言
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18話 親子の絆と災厄の予言

いよいよ二章もクライマックスに。

スクムト王国第一王子暗殺事件。

スクムト内ではこの事件は国を大きく動かした。

暗殺者は確認されず、手がかりさえも全くつかめない。


……王に続いての王子暗殺。

これにより第二王子であるバベルが王に即位。

今、スクムト王国の歴史が変わる瞬間であった。


それから三日後のことである。

スクムト王国領内の端にある小さな街ロームに一人の少年と二人の少女の姿があった。

少年は黒と黄色のロングコートを纏っていて、少女二人は金色の髪をした少女は緑の、銀の髪をした少女は黄色のパーカーのようなものを羽織っている。

三人はそれぞれ指に青、金、銀の指輪をはめており、コートやパーカーのその下に着ている服は何故かボロボロで、少年の方は生気を失っているように歩いていた。



「ハール様……」


「ここのようです……」


「そう……」



ハールは弱弱しく顔をあげた。

其処には小さな家があった。

どこか寂れているその小さい家の中に、探している人物が居る……。



(父さん……)



ハールがハザンに渡されたものは二つある。

一つは黒い水晶のような石である。

だが、これが何なのかはハールには検討がつかなかった。

そして、もう一つはハザンの手紙であった。

そして其処に書かれている中でこの家の主を訪ねろというのがあったのである。



「ハール様……。入りましょう」


「……そうだね」



ハールは感情の抜けた人形の様な動きで家の扉を開ける。

そして二人もハールを追って家に足を踏み入れた。



「……そろそろ来る頃かと思ったよ」



ハール達が家に入った瞬間、前の方から声がした。

それと同時に此方に歩いてくる気配がした。

コツコツと足音を立てて近づいてくる人物は五十代ほどの女性。

銀色の髪に碧眼という容姿をしている。

見るからに魔道士といったとんがり帽子に紫色のローブという服装。

右手には水晶玉が握られている。



(……この人がミレーヌ…………)



見るからに怪しそうなその女性にハールは何も感じるものが無いのか、ただの父の知り合いという彼女に興味のなさそうな視線を向ける。

それに気付いたミレーヌは冷たい声をあげた。



「……あんたが悲しむ気持ちは分かるが、いつまでクヨクヨするつもりだい?」



ミレーヌは悟ったようにハールに言い放つ。

その表情は呆れ。

ミレーヌは肩を竦めつつ、近くにあった椅子に座った。



「ともかく、あたしはミレーヌ。あなたの父、ハザンと知り合いだよ」



ミレーヌはそのままテーブルに水晶玉を置き台に置く。



「聞いたと思うけどあたしは“預言者”。ハザンにもしもの事があればお前さんを助けるように言われたんだが……」



どうやら第一王子暗殺の話はこのような古びた家まで届いているようである。

いや、それも当然の事なのかも知れない。

何せ王に続いて追うように死んでいったのだから。


ミレーヌはいったん言葉を区切った。

そしてハールを一瞥して溜め息をつく。



「今のあんたの状態じゃ教える訳には行かない事もあるのさ…」


「……………………」



ハールはずっと黙り込む。

父が死んだ……それだけでもハールを絶望に叩き落とすのには十分だったのに、さらに追い討ちをかけられた。


父を殺した“ノア”……そいつが母も殺していた。

さらにスクムトの第二王子でハールの叔父に当たるバベルが暗殺を企てたのだ。

おそらく先代の王であるノーツもバベルにやられたのだろう。


とにかく今のハールの精神状態は崩壊しかけていた。



(……僕はこれからどうすればいいんだろう)



今までは父が行き先を決めていた。

今までは父が目的を定めていた。

故にハールは一人で旅をしたことはない。

常にハザンを頼っていたのだ。



(今になって父さんのありがたみが分かるなんて……)



せめて何か言葉を言いたかった。

あのときのハールは、動揺と衝撃でハザンの名前を呼ぶ事しかできていなかった。



「……まあ今日一日くらいは泊めてやる。それまでにどうするか。自分で考えな」



ミレーヌは階段を登りハールとソール、ルーナに部屋を案内する。

ハールは重い足取りでそれを追っていった。



(どうするか……)


ハールはまだ答えを決めていない……。





     ★★★





(これから…………か)



ミレーヌの家の二階にある一室。

そこでハールは寝ているソール、ルーナの二人と身を寄せ合いながら、毛布に包まっていた。



(父さん……。僕はどうすれば……)



ハールは一人不安の中に立っている。

それはこれからの事、ソールとルーナの事、そして父と母を殺したあの男の事……。



(“ノア”……!! 次にあったら必ず…………!!!)



ハールはあの男の事を考える程に怒りが腹の其処から湧き上がってくるのを感じた。

しかし、それも父が死んだ事実を叩きつけられれば、すぐに消沈していく。

ハールはさらに思考に沈んでいった。



(どうすれば…………)



ハールだけでは決まらない。

ハールだけでは分からない。

ハールだけではどうしようも無かった。



(何も分からない……)



ハールはドンドンと体が衰弱していくように感じる。

そんな時、自己防衛のおかげか眠気が襲ってきた。



(今日は……寝よう……)



ハールそのまま意識が遠のいていった。





     ★★★





――ここは……?



気付けばハールは真っ白な空間に一人立っていた。

前も後ろも右も左も白。

そんな空間の中、何故かハールは心が安らいでいくのを感じた。



――気持ちがいいな……。



ハールの気持ちは次第に落ち着いていく。

それこそさっきまでの苦悩が嘘のようであった。

それでも……。



――父さんが死んだのは夢じゃないんだ……。



ハールは其処は自覚していた。

ハールは既に現実を受け止めようと努力しているつもりである。

故にハールは目の前の“夢”と向き合える事ができた。



「母さん……」



其処には昔の、ハールの記憶のままのサンの姿があった。



「ハール」



サンは優しげな表情で、それでいてどこか悲しげな表情をしていた。

ハールはこれが夢だと自覚している。

それでもやはり目の前の母に抱きつきたかった。



「ハール」



その時サンの横にもう一人の人物が現れる。

その人物はつい最近までは当たり前のようにハールの隣に居た人物であった。



「父さん……」



ハザンはサンと共にハールを見つめている。

ハールは既に自分を抑制する事が出来ず、二人に駆け寄る。

そうしてハールは二人の下にたどり着く寸前で……身体が弾かれた。



「うわっ!!」



見えない障壁のようなものに弾かれたハールは仰向けに倒れる。

その瞳にはハールは自覚していないが涙が流れていた。



「ハール。あなたはまだここには来れないわ」



サンはそんなハールを悲しそうな顔で覗いている。

ハールは起き上がり、二人の方を再度向いた。



「来れないってどういう事……?」



ハールは涙を流しながら顔を歪ませる。

ハールは今すぐ二人の下に行きたい。

三人で昔の様に笑って過ごせる日々に手を伸ばしたかった。

しかし、ハールの両親はそれを拒絶した。



「ハール。お前にはやるべきことがある」


「やるべき事……?」



ハールはその言葉に惚けた様な表情を見せる。



「手紙は渡した筈だぞ?」



ハザンはそれに確認を取るようにハールの目を見た。

しかし、ハールは下に顔を向ける。

その様子にハザンは溜め息をついた。



「最後の最後でお前が俺の言葉を聞かなかった事は、親離れ出来たとそれなりに嬉しかったんだぞ? 俺はあのときのお前なら正直しっかりやっていけると思ったんだがな……」



ハザンはがっかりしたような表情を見せた。

ハールはそれにいささか心苦しくなる。

そんな父と子の会話に、サンは二人の会話を聞いてハールに微笑んだ。



「ハール。あなたなら出来るわ。なにせ私の子どもなんですから」


「おいおい。俺は無視か……」



サンの言葉にハザンが少しいじける。

サンはよしよしとハザンの背中を撫でながらハールの方に顔を向けた。



「とにかくハール。やれるだけやってみなさい。私達がいつでも見守っているから」


「母さん……!」



ハールは二人に懇願した。

それは戻ってきて欲しい思いの一心で。

しかし、それは叶う事の出来ないものであった。



「「ハール」」



二人は手を取り合って、同時にハールに語りかける。



「あなたは何時か成すべき事を成さねばならない時が来る」


「そしてそれはお前が一番適任なんだ」


「だから今度はあなたに子どもへの“お願い”をするわ」


「どうか俺達の意志を継いで欲しい」


「私達に強制は出来ない。でもあなたになら任せられる」


「だから頼む。お前にしか任せられない事なんだ」



ハザンは強く、サンは優しい表情をしている。

ハールは懐かしく、嬉しく、悲しく、そして安心した様な言葉で言い尽くさない感情が芽生えた。



「「大丈夫! あなた(お前)は一人じゃない!!」」



そして全てを語り終えた二人はそのままハールをずっと見つめる。

ハールはそれに驚き目を見開く。

今までこの二人に何かを頼み込まれる事など無かった。


二人は強制じゃないとは言っていたが、ハール以外に適任な者が居ないと断言する。

そしてハールは一人では無いとも言った。

様々な思いに駆られる中、ハールは目を閉じた。



(父さん……。母さん……)



ハールに様々な事が頭に過ぎる。

それはもの心ついた時から今に至るまでの時間。

そのどれもがハールにとって貴重なものだった。



……そしてハールは決心した……。



「僕……やるよ!」



ハールは次第に瞳に光を取り戻していく。

なぜなら二人に勇気を貰ったから。



「父さんと母さんの意志を継ぐ!!」



ハールは力強く頷く。

なぜなら二人に今までの恩返しをしたいから。



「そして二人が天国で笑ってられるようにするから!!!」



ハールは今までに無いくらいの明るい表情を表に出した。

自分は一人ではない。

いつも見守られている。

そう考えるだけで、ハールにとってはこの上ない安心感を抱かせた。



「「ありがとう。ハール」」



二人は今の息子の姿に心からの感謝と歓喜を含んだ顔になった。

今の息子になら全てを任せられる。

二人の心境は同じであった。



「それではハール」


「ここでお別れだ」



二人は安心しきったように真っ白な空間の中で次第に消えていく。

ハールは涙を流しながら、手を伸ばそうとする体を押さえつけ、一言だけ二人に言えなかった言葉を最後の言葉とした。



「父さん。母さん。僕は二人の子供で良かった!」



ハールは涙を流しながら、それでも言いたい事を言い切ったとさわやかな表情で二人を見送った。

二人はそんな息子に向かい顔をゆがめた。

その顔の頬には二人とも涙が伝っている。

そして、しだいに二人の表情は笑顔を取り戻していった。

二人はある言葉を残し、そのまま真っ白の空間に溶けていった。


そのときにその白い空間が輝きだした。

それはおそらく夢から覚める兆候。

ハールは薄れ行く意識の中で、二人の最後の言葉に微笑んだ。


……ありがとう……その言葉が今のハールを支えていた。





     ★★★





白い空間から開放されたハールはすぐさま目を覚ました。

身体は既に完全回復を果たし、自らの気も今までに無いくらい清々しい。

ハールはその場で微笑んだ。



「ハール様……?」


「どうしたの……?」



そう言って自分に訝しげな表情を向けてくるのはソールとルーナ。

二人はどうやら昨日の夜からずっとハールの心配をしてくれたらしい。



(一人じゃない……か)


夢の中だけれども、それでもサンとハザンに言われた言葉は頭に……そして胸に鮮明に残っている。

ハールは二人の頭をくしゃくしゃと撫で回した。



「ハール様!?」


「二人とも心配かけたね。僕はもう大丈夫だよ」


「本当ですか!?」


「よかったぁ~~!」



二人はハールに勢い良く飛びついてきた。

二人はハールに顔をこすり付けて声を出しながら涙を流している。



(どうやらかなり心配させたみたいだね……)



二人に申し訳なく思いながら、それでも自分の心配をしてくれた事に感謝する。

そして、自分の両親がそうした様に、自分もそれを声にあらわして伝えた。



「二人とも。本当にありがとう」





     ★★★





「それで……覚悟は決めたのかい?」


「はい」



三人はあの後すぐにミレーヌに自らの決断を聞かせた。

昨日までとはまるで違うハールに若干の驚きを示すが、すぐに顔を真剣にさせる。



「あんた達は今、世間では死んだ事になっている。故に素性を隠しながら厳しい生活を送らないといけなくなるかもしれない。それでもいいのかい?」


「はい」



ミレーヌとしては脅しの最終確認。

しかし、それにハールは迷い無く頷いてみせた。



「……どうやら覚悟は本物のようだね」



ミレーヌは少しだけ笑いながらハールを見た。

その顔は希望に満ちた表情。

おそらく今後どのような障害が現れても乗り越えていけるだろう。



「それならあたしの“予言”の力であんたが成すべき事のヒントを見せよう」


「“予言”なんて出来るんですか?」


「さっきも言ったが“予言”といってもヒントを見せるだけ。完全なものでは無いのさ」


「ちなみに外した事は……?」


「今の所はゼロだねぇ」



内心びっくりのハール。

つまり今から見る出来事はほぼ確実に現実に起きる事。

もしこれが最悪の運命を辿るのであれば…。

三人は息を呑んだ。



「それでは始めるよ」



ミレーヌは椅子に座り、手に持った水晶玉を支えに置いた。

そしてミレーヌは魔力を注入する。



「ふむ……。見えてきた……。これは――」



ミレーヌはそのまま水晶玉に顔を覗かせた。

瞬間、椅子から勢い良く立ち上がり、顔を蒼白させた……。



「だ、大丈夫ですか!!?」



ハールは突然の事に驚きながら、倒れた椅子を立たせてミレーヌを座らす。

さっきまでの態度とは一変したミレーヌは小刻みに肩を震わせていた。



「ハール……」



ミレーヌは蒼白の顔をおもむろに上げながらハールの瞳を覗く。



「今からあたしが見た事を伝える。決して誰にも言うんじゃないよ。混乱になっちまう」



ミレーヌは声を震わせながら念をおす。

それに頷く三人を見てミレーヌは語りだした。



「あたしが見たのはおそらく十年以上未来の事。だから時間はまだある。いいかい? 良くお聞き!」



ミレーヌは深呼吸をして自らを落ち着かせる。

その様子にただ事ではないと真面目な表情でミレーヌを見つめる。

そして次の瞬間放たれた言葉に三人は表情をそろって蒼白させた。

その内容は……。






























……漆黒の髪と瞳をした一人の青年が、何百年も昔に破壊の限りを尽くした邪神を復活させると云うものだった……。





遂にここまで来ました。

予言の出来事は本当に起こるのか。

そして両親の願いを聞いたハールはどうする。

次回、最終話「約束を果たす為に」


読了ありがとうございました。

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