4話 不思議な力
初めての戦闘です。
ぶっちゃけ難しいです。
「……さて、冒険者修業がどんなものかわかったかのう?」
なんとか絶望(?)の淵から立ち直ったアルはヤマトに向かい確認を取る。
そんなアルの瞳には未だに涙が溜まっているように見えるのだが。
(……おじいちゃん。絶対まだ気にしてるわね……)
(気にしてるな……)
(気にしてますね……)
(じーちゃんの泣き顔よりもよりも美人なお姉さんでも拝みたいぜ……)
上からセラ、ヤマト、フィーネ、ザックがアルの様子に思わず呟いた。(一人は確実に脱線しているが……)
「うん……。まあ大体はわかったよ」
アルの問いに答えるヤマト。
それを聞いて満足したのかアルはそのまま帰宅の準備を始めだす。
しかし、それにサイは溜息をついて肩を竦めた。
「じーさん、実践を忘れてないか……?」
「…………。もちろん覚えとるぞい……」
(……絶対嘘だね)
(……絶対嘘だな)
(……絶対嘘です)
ロイ、サイ、フィーネの心の中でのツッコミが届いたのか、アルが肩をビクリと震わす。
そんなアルに、良い子のソラはお年寄りにしっかりフォローしておいた。
「まあまあ……。おじいちゃんも歳だしね。たまに頭が呆けるのも仕方ないよ……」
「ソラ……。全くフォローになってないぞい……」
信じていた女神の救いがアルへの追撃に変わってしまった。
これにより再度撃沈したアルを「めんどくさい」とばかりに無視し、サイはヤマトに「そういえば……」と視線を向ける。
「お前が修業に参加するとして、どんな武器を使うか決めたか?」
サイの言葉にヤマトは考えた。
確かに自分にはこれと言った武器がないし、どの武器があってるかもわからない。
「サイはどうしてロングソードなんだ?」
故にヤマトは先輩であるサイに武器の選び方を教えてもらおうと試みた。
サイはそれに少し考える素振りを見せた後、おもむろに口を開いた。
「……俺の場合はある人に進められたからだな。まあ、実際に使ってみたら使いやすかったというのもある」
用はしっくり来るのを選べと云うことであった。
だが、そんな事を言われてもヤマトには自分に合う武器のイメージがまるで掴めない。
ザックのように素手で戦うのもどうか……。
ヤマトがそんなことを考えているうちに早期に撃沈から立ち直ったアルが告げた。
「ふむ……。実はヤマトの使う武器は決まっておるんでのう。これじゃ」
そういってヤマトに渡したのは黒く細長い、刀身が反っている剣。
12歳のヤマトが持つには長過ぎる気がするが、この剣に不思議と見覚えがあった。
どこで見たのか、そう考えているヤマトにアルは告げた。
「記憶がないからのう……。覚えてないかもしれんが、これは刀といって、斬ることに関して高い能力がある剣じゃ。お前さんが倒れていた時、大事そうに持っておったぞ」
ヤマトはその刀を手に取ると、不思議な感覚に包まれた。
何か、とても暖かいものに包まれているような……そんな錯覚を覚える。
ヤマトは刀の柄を抜いた。
黒刀と言うのであろう……その刀は綺麗な黒の光沢で見る者の目を奪った。
そのあまりの美しさにヤマト自身が呆気にとられていた程だ。
……その瞬間、ヤマトの頭に衝撃が走った。
(なんだ……?)
衝撃が走ったその時、ヤマトの感覚が研ぎ澄まされていった。
風を感じる身体はより鮮明に感じさせ、聞こえる音はより遠く、細かい音をも聞こえるようになる。
そして刀から暖かいものが体に流れてくる。
そして……声が聞こえた。
――……………………!!
なんと言ったかはヤマトにはわからない。
この声の主もわからない。
ただ、声色からして嬉しそうだった。
まるで長年捜し求めた人にようやく会えたような……。
「ヤマト!? だいじょうぶか!!?」
不意にザックの声が聞こえた。
その声色はヤマトを心配しているようだ。
「ん…………? ああ……。一応、大丈夫……」
「いや……大丈夫って……。刀を抜いてからずっとぼうっとしてましたよ?」
どうやら刀を抜いた瞬間からヤマトは固まっていたらしい。
ロイの言葉で状況を察したヤマトは苦笑し、なんでもない、と手をひらひら振った。
「ちょっと、この刀に魅了されただけだよ」
「確かに綺麗だよね……。武器にするのがもったいないくら~い」
さすがに使わないと勿体無いだろうが、本当に美しいと感じたのだろう、ソラ達はヤマトの言葉に疑うことなく納得した。
――たった一人、左腕を押さえているセラを除いて……。
★★★
「そろそろ実践を始めるかのう」
アルのその一言で空気が変わった。
「ヤマトも居ることだし、改めてルールを説明をするかのう。七人全員でわしを相手して、かすり傷一つでも負わせられたら合格じゃ」
アルはさっきとは討って変わり、歴戦の戦士のような雰囲気を纏っている。
ヤマトは身震いした。
さっき刀を手にしたばかりの自分の手に負える相手ではないと、全く経験のないヤマトが思った程だ。
そんなヤマトを見てセラが冷たく言った。
「震えて戦えないなら、外に出て。足手纏いだから」
その一言に唖然となったヤマト。
自分が震えていたのは事実だが、そこまで言われるとは思わなかったのだ。
「こら、そんな言い方をするのはいかんぞ!」
セラに一喝するアルだが、セラはぷいっとそっぽを向いた。
そんなセラに溜め息を吐いて、申し訳なさそうにヤマトの方を向いた。
「すまんのぅ……。セラは昔いろいろあってか、人を避けるようになってしまったんじゃ……。おぬしに対してまだ警戒しとるんじゃろう」
確かに、最初にアルに一緒に居る事を誘われた時は拒絶されたし、今まで自分を見る目もどこか信用されて無いような冷たいものであった。
だが、ここで挫けるヤマトではなかった。
「大丈夫だよ。そのうち仲良くなれると思うし」
他の連中とは打ち解けてきたし、時間がたてば警戒も薄れるだろう。
そう思ったヤマトはあまり気にしなかった。
「フィーネの時もそうだったし……」とちらっとヤマトがフィーネを見ると「ひぁい!?」と顔を赤くして驚かれたので軽くへこんだ。
「そう言ってくれると助かるのう」
そうしているうちに全員準備が整ったようだ。
ヤマトは抜いた刀を振ってみる。
中々重いが何故かさっきほどに重量が感じられない。
ヤマトも準備が終わり、皆と同じところに立つ。
「準備はいいな? ――一つ言うぞい。わしを殺す気で来るんじゃ」
アルの忠告により7人は一層に気を引き締める。
全員の髪が風により靡く。
周りの空気がピリピリする。
「それでは、始めい!!」
緊張が極限まで高まった瞬間、試合開始の合図がなった。
★★★
最初に飛び出したのはザック。
拳を構え右腕を突き出す。
「うおらぁぁぁぁぁ!!」
しかし、アルに片腕で止められ、胸倉を捕まれてそのまま空中に放り投げられた。
そのままザックは地面に落下し呻く結果に終わった。
そこを付くのはロイとサイ。
右と左から同時に突撃する。
これはイケる、とヤマトが思うが……甘かった。
アルは指を鳴らした。
咄嗟に何かを悟ったサイは後ろに跳ぶ。
しかし、ロイには反応できなかった。
右手に持ったショートソードを上に上げ、振りおろす……が、剣の動きが止まった。
「妨害魔法!?」
妨害魔法、何かの動きを妨害したり、魔力による障壁などを作り出す魔法である。
驚くロイの腹にアルは手のひらを乗せた。
刹那、ロイが吹き飛んだ。
――おいおい、なんだよこれ……。
あまりの出来事に呆気に取られるヤマト。
そんなヤマトに冷たい目で一瞥をくれて斬り込むのはセラであった。
「フィーネ、ソラ、援護お願い」
セラの言葉に頷く二人。ソラは弓を構え、フィーネは魔法を唱える。
「水よ。水弾!」
フィーネの呪文と同時にソラも弓を放つ。
二つの飛び道具がアルを襲った……が、弾かれたように消えていった。
指の構えから先ほどの妨害魔法だろう。
二つの飛び道具が消えた直後セラが距離を詰め、グラディウスを突き出す。
だがアルに手首を捕まれ、グラディウスの動きが止まった。
しかし、それと同時になんとアルの後ろからサイが駆け寄っていた。
そのまま持っているロングソードを振り下ろす。
それを見たアルはセラを横に投げ飛ばし……消えた。
「な…………!?」
サイが気づいたときには、既にアルはサイの後ろにいた。
(……加速魔法を自分にかけやがった!)
サイが驚くのも無理はないと言える。
本来、加速魔法は投擲用の武器にかけ、命中率と威力を上げるものである。
だが、人体にかけることはほとんどない。
なぜなら人体にかければ、加速魔法に体がついていけずに息切れ、または人体損傷に陥る。
例えるならば、全力疾走よりもさらに速い速度で無理やり走らされる、という状態である。
身体をよほど鍛えていないと5秒も持たないだろう。
しかし今回、アルは自分の体に“一瞬だけ”加速をかけた。
これによりサイは一瞬だけアルが消えたように感じたのだ。
一瞬しか加速してないが、それでも“息切れ一つしていない”アルの実力ははかりしれないだろう。
「ふむ……。わしに加速をかけさせるまでいったか……。誇ってよいぞ」
「……あんたは本当は何歳だよ」
サイは後ろを向きロングソードを払おうとするが、時すでに遅し、妨害魔法により吹き飛ばされた。
そしてアルは続いて人差し指と中指を突き出し、ソラとフィーネのいる方向を指す。
そのとたん、二人の頭上から直径五メートルほどの水の隕石が現れ…落ちてきた。
――あれって……さっきフィーネの火を消した魔法だ……。
「きゃあ!!!」
「あうぅぅぅ!!!」
二人の建つ場所が、小さな洪水に襲われたような状態になった。
それを避けられずにまともに魔法が当たった二人は気絶していた。
「このっ!!」
それに悔しそうに呻くセラは、起き上がってはアルの右から斬り込む。
しかし、それにアルは「あまいのう」と溜め息をついた。
……そしてヤマトが気づいた時には、指をならしたアルに吹き飛ばされたセラの姿があった……。
ロイ、サイは戦闘不能。
フィーネとソラは気絶。
ザックとセラは体を抑え呻いているところを見ると立ち上がるのにはもう少しかかるだろう。
つまり今戦うことができるのは……
――俺だけ……かな……。
「さて、ヤマトには初めての戦いだろうが、がんばってみるんじゃな」
明るい口調でそう言われるヤマト。
その様子からはありありと余裕が見てとれた。
――なめられてんのな……。
ヤマトの胸の鼓動が激しくなる。
それに深呼吸した。
そして気持ちが高ぶる。
ヤマトは初めて刀を振るうことに不安を感じた。
が、他の6人も戦ったのだ! 逃げ出すわけにはいかないと、覚悟を決めた。
「いくぞ!!!」
ヤマトはそう叫んでアルに向かって駆け出した。
★★★
アルに駆け出し距離を詰める瞬間、ヤマトの頭にさっきの衝撃が走った。
衝撃と言っても痛みを感じるものでなく、何かに気づいたような、直感に呼びかけられるような、そんなものだった。
突然、自分の直感が下がれと言った。
それに従うようにヤマトは後ろに下がる。
「……ほう」
ヤマトの目の前に強い風が吹く。
どうやら妨害魔法の障壁を目の前に発動されたようで、それを咄嗟にかわしたヤマトは直感に従い足に力を入れて踏み込み、さらに距離を詰める。
それにアルが右腕を突き出し妨害魔法を再度かけようとする。
が、直感によりいち早く察したヤマトは横に飛んでそれをかわした。
(――動きは素人。しかし反応が凄まじいほどに速いのう……)
これにはアルも驚いたようで目を見開いた。
二発目の魔法をかわしたヤマトは、そのまま刀を横に払う。
それをアルはしゃがんでかわし、アルは手のひらをヤマトにかざした。
その瞬間ヤマトは吹き飛んだ。
「くう…………!」
痛みで顔を歪めたヤマトは更なる直感の警告に従い行動する。
……ヤマトは吹き飛ばされながらアルに向かい、刀を力いっぱいに投げた……。
「何っ……!!?」
突然の奇襲にアルは驚く。
それは戦闘を初めて行うヤマトにそんな行動に移されるとは思っていなかった為の油断から来るものであった。
アルは驚きながら咄嗟に身を捻った。
投げた刀はアルに避けられ地面に突き刺さる。
一方のヤマトは妨害魔法によって吹き飛ばされ、地面に叩き付けられていた。
痛みで呻きながらも状況を確認しようとアルを見る。
すると前方に居るアルはにやりと笑いこちらを見てきた。
……アルの耳には小さなかすり傷が付いていた……。
「ほっほっほ。初めての実践でわしに傷を付けるか……! これは先が楽しみじゃわい!」
傷を付ける事に成功したヤマトは愉快そうに笑うアルにガッツポーズ。
一方でその攻防を見ていたセラとザックは驚きのあまり絶句していた。
――レベルが違う……。
そう、その攻防は初心者とは思えないほど計算された作戦だった。
最初に突撃と見せかけて妨害魔法を瞬時にかわす。
再度突撃をした後魔法を横に回避して、攻撃を受けると同時にカウンターで刀を投げたのだ。
真っ向から、連携はしながらもただ攻撃を仕掛けていた自分達とはまるで違う。
セラ達の目にはヤマトが計算して動いているように見えた。
何故ならヤマトはアルが半透明の見えにくい妨害魔法の障壁を発動する前にすでに動いていたのだから。
これはこの展開までヤマトが作戦を立てていたとしかセラ達には思えなかった。
「まさか初心者に先を越されるとはな……」
いつの間にか目を覚ましていたサイがヤマトを労う。
サイはこの時、ヤマトを認めた。
ヤマトに目を付けたアルは間違いではなかったと。
そんなサイにヤマトは照れるように頭を掻いた。
「さてと……。そろそろ帰るかのう」
ロイ、ソラ、フィーネが目覚めたのを横目で確認してからアルが告げた。
「あれ…………? 試合はどうなったの?」
起き上がった三人にアルは先ほどの出来事を伝える。
三人ともその内容に目を見開き驚愕する。
「じゃあ……ヤマトさんはたった一人で……?」
フィーネにさん付けされたことにむず痒い思いをしたヤマトだが、三人から尊敬の眼差しで見られることに悪い思いはしなかった。
今まで6人での実践訓練は何度も行われてきたが、アルに傷を与えることは一度もなかったらしい。
それをたった一人でやってのけたヤマトは6人からして見れば偉業の中の偉業を成し遂げたようなものだろう。
ヤマトに不信感を覚えるセラでさえ感心したものだった。
実際はヤマトだけの力ではないが……。
――あのときの感覚は何だったんだろ……。
全くの初心者であるヤマトがアルに致命傷に程遠いとはいえ、かすり傷を負わせることが出来たのは奇跡を通り越して神の所業に近い。
それを可能にしたのは間違いなく突然によぎった衝撃によるものだろう。
衝撃が起こった瞬間に自分の感覚が恐ろしく研ぎ澄まされたという不思議な出来事について考えるヤマトだが、それが何かは一向にわからない。
おそらく記憶が戻っていけばおのずと解ってくるだろうと踏んで、そこで思考を一旦停止させた。
「さて……。そろそろ帰って晩飯の準備でもするかのう」
そう指摘するアルに皆が頷く。これだけ動いたのだ。
どんな者でも空腹にならない訳がない。
アル達は今回の修業においての反省を話しながら自らの空腹を癒すため、帰路に着く事にした。
戦闘の描写が一つ一つゆっくりと書かれているのは、ヤマト達がまだ未熟で動きが遅い事を表現しようとしてみたからです。
無論、全然ですが……。
もっと研究が必要だと思うこの頃……。