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漆黒の風  作者: ST
二章 災厄の予言
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16話 最悪の男……始動

「さて……そろそろ結論が出ましたかね……」



ここはスクムト王国王都の城内。

その一室では貴族や大臣などが集まり会議を開いていた。

その内容は次期国王について。

現在ハザン派とバベル派に分かれている。

その比率は6対4程であった。



「兄さん。全然決まらないな」


「全くだ」



ハザンと同じ青い髪に青い瞳を持ち、その目の下にクマを作っている男、バベルがハザンに声をかける。

それに頷いた第一王子ハザン。

正直に言うと本人達は蚊帳の外で、争っているのは貴族や大臣達である。

ハザンとしては別に権力が欲しい訳ではないので別段王の座についての話し合いには興味は無いらしい。

ただ、意外であったのはバベルもまたハザンと同じような…人事のような態度で会議を見据えている事であった。


今までの発言などからてっきり王の座を狙っていたと思っていたハザンであったのだが、この様子には多少の驚きがあった。

あまりに軍事力の増強を主張してくるのならば自らが止めようと思っていたハザンだったが、この弟の態度にその必要も無いかと思えてきた。


そのような事からハザンは王位を狙うようなことはしない。

だが、弟が大丈夫ならば安心かというとそれは間違いである。

今度は貴族や大臣達の己の主張や保身をかけて争いだしたのだ。

その様子にこの先の国の未来に多少の不安が過ぎるハザンであった。



(………………ん?)



……そんな時、ハザンは何かを感じた。



(一瞬だけ……ほんの一瞬魔力が感じられたような……)



ハザンは今しがた自分の思った事に疑問を感じる。

しかし、いつまで経っても何も起こらない所を見ると杞憂であったようだ。



(気のせいか……)



ハザンがそう思った……瞬間。


……城のどこかから大きな爆発音が鳴り響いた。



「なんだ!?」



その轟音に会議室に居る全員が慌てふためく。

その状態はパニックのような感じで、王の存在が無いとここまで情けない状態なのかとハザンに改めて感じさせるほどであった。



「とにかく原因を探れ!」



一人の大臣が声を荒げながら命令する。

その場にいた騎士がそれに頷き、扉を出た。

それと同時にハザンも部屋を出る。



「兄さん。どうした!?」


「俺も出る。胸騒ぎがするんでな」



ハザンはそう言い残して会議室を後にしたのだった。





     ★★★





「はあ!」


「ふん!」



ガキンという金属音が地下に鳴り響く。

そのままさらにもう一つ鳴り響き、地下牢に居る二人の人物が距離を取った。



「上が騒がしくなってる……」



ハールは天井から鳴っている爆発音とそれに合わせたような微かな悲鳴に顔を顰める。

それに対してシードはその原因を知っているような感じで口元を吊り上げている。



「とにかくお前を倒さないとね」


「出来るものならな……」



ハールはバスタードソードを両手で構え、シードに駆け出す。

シードもカットラスを握りなおしてハールに走り出した。



「やあ!」



ハールはそのままバスタードソードを横に払うがそれをかわされ、横に跳ぶ。

するとシードのカットラスが先ほどまでハールが立っていた場所を突いていた。

ハールはしゃがんでシードの足を払おうとする。


それをシードは苦も無く避けカットラスを振るった。

ハールは迫り来るカットラスをバスタードソードで弾き、シードに向かい足を出し、蹴りを放つ。

ハールの蹴りは空を切り、その隙にシードはカットラスを縦に振った。



「うわっと!」



それを直前で回避するハール。

そのまま回転をつけてバスタードソードを水平に。

しかし、シードはそれをカットラスで弾く。



「まだまだ!」


「こちらもな!」



そのまま二人は数十合打ち合った。

横に縦に時には斜めに振られる両者の剣。

辺りには何度も何度も金属と金属のぶつかり合う音が木霊する。

そして、今までで一番の音が鳴り響いたと同時に二人は距離を取る。



「はあ……はあ……」


「中々……やるな……」



両者はすでに息を荒くしていた。



(さっきからこれの繰り返し……。正直体力が……)



ハールは既に限界が訪れようとしていた。

シードは微弱な加速魔法程度なら無詠唱で出来るようだが、ハールは光魔法が使用できない。


それは単に使う暇が無いのである。

魔法を使うときハールは詠唱しなければならないからである。

その隙をつかれるのだからハールにとっては中々不利な戦いであった。



(せめてここが広ければ……)



場所が広ければ距離を十分にとって詠唱すればいいのだが、ここは城の地下牢である。

広さもかなり狭く、距離を取ったとしても五メートル程。

これでは一瞬で間合いを詰められるのだ。



「そら来た!」



ハールが思考を働かしているときにシードは動く。

先ほどと同じくカットラスを振るう。

それに咄嗟にバスタードソードで対応しようとする。



「あまい!」



しかし、何時までも単調な攻撃を仕掛けてはくれなかった。

カットラスを振り下ろす手前ですっぽ抜けるように上に投げ、右手を振り下ろす。

何も持っていない右手はそのまま空振り、しかしシードの左手が空中で舞うカットラスを掴んだ。



(しまった……! タイミングをずらされた……)



そのままシードは左手を振り下ろした。

すっかり右手の振り下ろしに対応したハールは突然の奇襲に目を瞑る。

……ハールは完全に己の敗北を実感した。



「水よ! 水弾ウォータ



……その時、突然シードを襲う水の玉が現れた。

それに咄嗟に反応したシードはそれを避ける。



「燃えよ! 炎弾ファイア



しかし、第二撃はかわせずカットラスで受ける。

大きく仰け反るシードに我に返ったハールは蹴りをお見舞いした。



「ぐ…………」



小さく呻いたシードはその赤い瞳に怒りを見せながら後ろに下がる。

ハールは突然の魔法に多少驚いたが、それが誰かは姿を見なくても分かった。



「ハール様!」


「ご無事でしたか!?」



駆け寄ってくるはハールが自らの妹のように愛でるソールとルーナであった。

その二人はハールに駆け寄ってはハールの容態を心配しだす。

ハールはそれに「大丈夫だよ」と手をひらひらさせながら答えてはシードを見据える。



「形勢逆転だね」


「たかだかガキ二人でか?」


「二人を舐めない方がいいと思うな……」



ハールは立ち上がりバスタードソードを構える。

ソールとルーナは三歩ほど下がっては詠唱の準備をし出す。



「悪いけど僕ら三人が集まったら」


「「負けませんよ?」」



その言葉を吐き出した時、ハールは駆け出した。

それに反応したシードはカットラスを構えるが、次の行動に若干戸惑った様子をみせた。

ハールは突っ込んだと同時にしゃがんだのだ。



「燃えよ。炎弾ファイア



詠唱と共にソールから放たれる炎の玉がシードを襲う。

シードはそれに戸惑いながらも避けるが、ハールが姿勢を低くした状態で斬りかかって来た。



「ちぃ……」



シードはそれに顔を顰めながらカットラスで防御。

しかし、それはあまり得策では無かった。



「ルーナ! 今だ!!」


「水よ! 水弾ウォータ!」



シードはハールのバスターどソードを受ける為に力を加えて踏ん張っていたので、咄嗟に回避が出来なかった。

故にシードに魔法がモロに直撃する。


しかし、ルーナの唱えたのはウォータ。

威力はあまり高くないのでシードに致命傷を与えた訳ではなかった。

だが……、喰らったそのときに隙が出来た。



「光よ剣に纏え。光付与ライトエンチャンター



ハールは詠唱しながらバスタードソードを振るう。

シードに当たる瞬間に光魔法が剣に帯びる。

シードは詠唱している間に何とかカットラス割り込ますが、光付与のついたバスタードソードは予想以上に強力であった。



「くそ…………」



そのまま衝撃でシードは吹き飛ばされる。



「言ったよね? 形勢逆転だってさ」



ハールはバスタードソードの剣先をシードに向ける。

シードはそのままゆっくりと、しかし体を引きずりながら立ち上がった。



「ククク……。面白い……! はああ!」



シードはその弱った体に鞭打って駆け出した。

それにハールはバスタードソードを構える。

後ろの二人もどうやら詠唱している様子。

これで決める! そう思ったとき……別の人物からシードに鉄槌が下された。



「な…………!」



シードは息を呑んで驚愕の表彰を浮かべ、吹き飛んだ。

その光景に三人も唖然とする。

今しがたシードに襲い掛かったのは光の斬撃であった。

しかし、それを発したのはハールではない。


三人はゆっくりと後ろを振り返る。

……そして、其処には父であるハザンが立っていた。



「大丈夫か?」



現れたのは青い髪を携えた屈強な男であったのだ。

ハールは安心、ソールとルーナは歓喜の表情を作る。

三人がその人物を見間違える訳が無かった。



「父さん!」



ハールはそのまま自らの父に近づく。

何度か戦闘を行った形跡があるがどうやら無傷のようであった。



「父さん。何が起きてるのさ」


「分からん。ただ黒いローブ姿の集団が城を襲撃したらしい」



ハールは目を見開く。

まさか城が直接襲われるなど思っても見なかったのだ。



「ハザンさん。大丈夫なんですか?」


「スクムトの王宮騎士団は強い。すぐに全員が捕縛されるだろう」



事の次第に不安の三人はハザンの言葉にすぐに安堵する。



「さて、其処の男をどうするか……」



ハザンは気絶している白髪の男に目をやる。

このままほっとく訳にもいかないので、とりあえず捕縛しようと一歩ハザンが近づいた。

その瞬間、周りの空気が凍りついた。



「探したぞ……? ハザン……」



…なぜなら一人の人物が四人の目の前に突然現れたのだから。


その姿は灰色の髪をしていて、その瞳は金色。

闇に溶け込み、金の瞳だけが光っているその姿はまさに不気味であった。


しかし、それだけでは無い。

男から放たれる殺気、存在感、プレッシャー、それらは今まで逢って来たそれよりも程遠く、また危険なものであった。



「さあ……。ハザン……。お・わ・ら・せ・よ・う・か」



……その暗黒の中で金の瞳がいっそう輝いた……。





読了ありがとうこざいました。

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