15話 シード再び
翌朝、ハールはだるい体を引き上げてはベットから抜け出そうとするが、体に抱きつく二つの存在にそれを阻められていた。
「二人とも……起きて」
しかし、ハールの声にも応じない二人にハールは半ば諦めたように溜め息をついて、再度ベットに横になる。
(今日は何をしようかな……)
今頃はおそらくハザンは国の重要な会議に出席しているだろう。
それにここでは街にでてギルドで依頼を受けることは出来ない。
故にハールは暇であった。
(城の散策でもして見るかな……)
なにせ何年も前にこの城を出たっきり中を見ていない。
話によると城の中も少しは変わったようである。
どうせ一日暇だしとハールは散策に出る事に決めた。
(まずはこの二人を何とかしないと……)
ハールは二人を起こす事に奮闘する。
しかし、二人は中々起きなかった。
苦戦を強いられるハールが任務達成を拝んだのはそれから一時間経った後であった。
★★★
「二人とも、おとなしくしといてね」
「「は~い」」
元気良く返事を返す二人に多少の溜め息を吐くハール。
ここまで弧戦奮闘を続けたハールの身体の状態は中々にきついものがあった。
「とにかくまずは中庭に出ようか」
ハールは黒と黄色をベースとしたコートを翻し、二人を連れて中庭に出る。
……そして、その光景に圧倒された。
「きれい……」
ルーナが声を漏らし目の前の光景に見とれる。
ソールも同様の様子であった。
この城の中庭はそこかしろに花が植えられ、花畑のようになっていた。
そこで風に揺らせれては多種多様の花が動く。
花びらが風に乗り、踊っているようである。
「どうですか? ハール様」
「……上出来だね。ミールさん。前より綺麗になってるよ」
三人が感嘆しているときにその人物は姿を現した。
侍女服を着て優しい笑顔で此方に向かってくるのはミール。
ハールが子どもの頃に世話を任せられた今のメイド長であった。
「懐かしいですね、ハール様。こんなに立派になられて……」
「ミールさんもお元気そうで」
ハールが微笑みながらミールを見る。
茶色の髪と瞳はあの時と変わっては居なかった。
昔は二十代後半ぐらいだったのだから今は三十代後半ほどであろうか。
「ハール様……上出来とは?」
「ああ……そうだね」
ルーナが気になった事をハールに訊ねる。
それにハールは昔話といったように二人に語りだした。
ハールによると昔、ハールが中庭でいっぱいの花を見たいと言ったらしい。
王子の息子として城の外には滅多に出られないのだから、花の話を聞くと顔を輝かせたそうだ。
それを見たサンとミールは庭に花畑を作る事を計画。
そしてこの中庭ができた。
「ハール様が何時帰ってもいいように毎日手入れを欠かせませんでした」
ハールににっこりと笑う。
その横ではソールとルーナがこの花畑にかなり見入っていた。
「ありがとう」
ハールも久しぶりにミールの顔を見る事が出来て、嬉しそうな表情を浮かべる。
その様子にミールはふふっと微笑んだ。
「ハール様……。笑うようになりましたね」
「え……?」
「サン様がお亡くなりになられてからハール様は何時も暗い顔つきをしていましたから」
「…………そうだね」
ハールはあの頃から表情を顔に出さなくなった。
しかし、今のハールは笑っているのだ。
それがミールには嬉しくもあり、理由も気になった。
「まあ……この二人のおかげかな?」
ハールは傍で話を聞いている二人の頭を撫でる。
「ハール様……」
「くすぐったいよ……」
二人は顔を赤らめながらも気持ち良さそうに目を細める。
そんな二人にハールとミールが笑い合う。
「二人とも。ハール様を宜しくね」
「「はい!」」
「ミールさん……」
ミールは二人とハールの事についていろいろと語りだす。
その中には中々恥ずかしい話もあり、バツが悪そうにハールはそっとその場を離れるのだった。
★★★
「全くミールさんは昔と全然かわらないな~」
不満そうに、でもどこか嬉しげにハールは城の中の廊下を進んでいる。
廊下ではいろいろな人が通ったり、その場で何かを話し込んでいる。
そのいろいろな人がハール通ると同時にハールに向かい頭を下げる。
ハールとしては普通に接して欲しいものであった。
苦笑しながらも挨拶をしていくハールはふと向こう側に目が入った。
……其処には白髪に赤い瞳を持つ男が一瞬だけチラッと見えた。
(あれは……シード!?)
ハールはその一瞬だけ見えたその男に見覚えがあった。
それは以前に自分の目の前に姿を現した男にそっくりであったのだ。
(似ているだけ? ……嫌な予感がする)
ハールはその男を付けていく。
しかし、この時のハールはあまり頭が回っていなかった。
なぜ城の中にその男が居たのか。
城の中に入るには門番に許可を貰わなくてはならなかった筈である。
故に普通は入れない筈だ。
だが、この城は最早普通の状態ではなかった。
ハールはその事に気付かずにシードに酷似している男を追う。
そしてそのままハールは人ごみの中に消えていった。
★★★
現在白髪赤目で黒ローブを身に纏っている怪しげな人物を尾行中のハール。
尾行していくにつれて人の数が減っていく。
本来ならここらで尾行を中断するしかないのだが、ハールは以前カーラの気配の隠し方、周りの観察の仕方を見よう見まねだが学んでいる。
(このまま尾行する……)
今のハールに中断の二文字は無い。
ただただ尾行を続行していく。
すると男は周りに人が居ないかを確認して地下牢に続く階段を下りていった。
(あの先になにかあるのかな……)
ハールは男に気付かれない様に注意をしながら男の後を追い地下牢に入っていく。
階段で足音を立てないように忍び足をしながら追っていると男は地下牢の奥で誰かと話しこんでいた。
(だれだろう……)
そっと近寄りハールは聞き耳を立てる。
すると会話が鮮明に聞こえ始めた。
「では計画に移せるな」
「うん、そうだね。今日で“あの方”の野望に一歩近づけるよ」
其処に居るのは二人。
一人は黒尽くめのフードを被ったローブの人物。
体格は少し小柄であるがそれ以外は声からして女である事しかわからない。
そしてもう一方は……
(やはりシード……)
地下牢は多少薄暗かったが、その姿は忘れもしない。
目の前の男は確かにシードだった。
(なんでこいつがここにいるんだろう……)
とにかく一刻も早くこの事を城の住民に知らせないといけない。
ハールはその場を立ち去ろうとした。
……その時聞こえた声が発するまでは……。
「ではこれより“第一王子暗殺計画”を実行する!」
その言葉にハールは固まる。
(……父さんを?)
この二人は今“第一王子暗殺計画”といった。
この国の第一王子は二人といない、つまりハールの父ハザンである。
(早く知らせないと……)
しかし、このときハールは息を荒くしてしまった。
今まで消していた気配が露になってしまったのだ。
「誰!?」
フードを被った女が声を荒げる。
それと同時にハールは駆け出した。
早くこの事をハザンに伝えなければ……。
「……っ…………」
しかし、目の前にはいつの間にかシードが立っていた。
「……相変わらずの加速魔法だね。しかも自分にかけるなんて」
「貴様もここまで俺に気付かせずに尾行するとはな」
ハールの背中に冷や汗が伝う。
前方と背後をはさまれたハールはこの場からの脱出を図る。
その時……上の方で爆発音が鳴った。
「開始の合図……」
「ヘッジ。お前は上に行け。こいつは俺が始末する」
言葉と同時にカットラスを抜きハールに襲い掛かるシード。
それをバスタードソードでかろうじて防ぐ。
その隙にヘッジと呼ばれたもう一人の女が階段に向かい走りだした。
「ま、待て!」
ハールは声を大にして叫ぶが男は止まらない。
ヘッジはそのまま階段を駆け上った。
「余所見している暇は無いぞ」
「くっ…………!」
シードが次々にカットラスを振るってくる。
それをバスタードソードで弾いて、そのまま距離を取る。
「何で父さんを狙う……!?」
ハールは怒りを露にシードに問い詰める。
しかし、シードはニヤリと笑っただけだった。
(父さん……待っててよ……っと)
ハールはシードに駆け出し、右手に持ったバスタードソードを振るった。
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