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漆黒の風  作者: ST
二章 災厄の予言
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14話 スクムト王国

スクムト王国の王都に向かい、一つの馬車が走っている。

その中には難しい顔で腕を組み、物思いに耽っている男とその周りで沈黙を保っている三人の子どもがいた。



(……一体だれが……)



ハザンは五日前に聞いたスクムト国王暗殺の件をひたすら考えている。

このユスターヌ大陸において三大国と称されるスクムトの国王を暗殺したというのだ。

もし、それが依頼で動いた暗殺者だとしても暗殺者と依頼人はまず助からない。


なぜならスクムトがそれらを全力で探し出してその足取りを追うであろうし、他国にも素性が知れればすぐにスクムトに差し出される。

スクムトと戦争をしようという国はこの大陸にただの一つも無いのだから。



(父上…………)



そしてハザンはそれ以上に父の死に心を痛めた。

現国王は戦争を好まず民の信頼もあり、他国にも顔が通っている。

現在ユスターヌ大陸に大きな戦争が起きていないのは現国王だったノーツの人柄の良さも関与している。

そんなノーツの姿にハザンは尊敬の意を示していたし、自分もあのような国王になりたいと努力していた時期もある。



(父上の仇は俺が討とう……!)



馬車は揺れ、街道を進める中でハザンは静かに心に決める。


一方のハールも現国王ノーツには子どもの頃に優しく接してくれ、まさにおじいちゃんという存在であった。

記憶も幼い頃のことだったので曖昧にしか覚えてはいないが、それでもハールは今の国王が好きであった。



(とにかく行ってみないとね……)



二人がそれぞれ思いに耽るうちに四人を乗せた馬車は大きく揺れながらそのまま王都に向かう。

そして、次の日の朝には王都に着くのであった。





     ★★★





四人はそのまま王都に入る。



「うわぁ~~~」


「すごいです……」



そこで初めて目にするスクムト王国の王都の中にソールとルーナは驚きを隠せないでいた。

四人の目の前にあるのはまさしく王国の王都の姿。

行き行く人の数は今までのものより遥かに凌いでいて、広さはかなりのもの。

見渡す限りに店が並び、宿の数も半端が無い。



「変わらないな……」



ハザンはそんな呟きを浮かべながら城に向かう。

途中の店を覗いて見るハールだが品揃えも良く、人が次々に出入りしている。

石造りの建物も多いが木造もしっかりしているものもあり、木や花なども植えられている。

道も舗装されていて、バランの時の様な歩きにくさはまるで感じない。

道には光魔法の付与魔法を使っているランプもある。


朝から人の多いスクムトの王都。

しかし、そんな王都の中はどこか暗い雰囲気に包まれている。



(おじいちゃんが死んだから……やっぱりこれからが不安なんだろうな)



今まではノーツの行う内政で国民にも苦労などはあまり無く、しっかりと働き、すべき事をしていれば最低限の生活は保障されているようなものであった。


しかし、国王の死により貴族や二人の王子が国内で争う事もありえる。

実際にはそんな事は起こらないといっても良い位に可能性は低いのだが、それでもゼロではない。

国民はこれからの事に、どこか不安を感じていた。



(無理も無い……か)



今の国王であったノーツよりも前の国王はどこか好戦的で、百年前などは良く周りの小国を滅ぼす為に形振り構わず兵を集めたのだ。

さらにその前などでは奴隷制度もあった程である。


四十年前程から国が大分に落ち着いたところで今のノーツが国王になったのである。

それからはスクムトから国を攻める事は無くなり、国は安定していったのだ。



(父上ほどの王は将来出るかどうかも怪しいものだからな……)



そんな事を考えている親子はいつの間にか城の門にたどり着いていた。



「ハザン様……!」



門番の兵がハザンの姿を見てこちらに近づく。

ハザンも兵に確認を取り、自分達四人を城に入れる様に指示する。



「その子どもは……」



すると門番の兵の首がソールとルーナの方に回される。

それに恐縮しているソールとルーナの代わりにハザンが答える。



「旅の道中で世話を見る事になった。この二人も通してくれ」


「はっ!」



そしてせかせかと動く門番の兵が門を開ける。

門はゆっくりとギギギっと音を立て次第に開いていく。



「いくぞ」



ハザンは三人を引き連れ門の中に入る。

ハール達もそれを追って門の中に消えていった。

そして四人が門の中に消えた事を悟ったようにギギギと再び閉じられていくのであった。





     ★★★





「ハザン王子! ハールお坊ちゃまに敬礼!!」



城の門をくぐったと同時に四人の前には騎士が腰を追って膝まずいている姿が目に入った。

その数はおそらく百はくだらないのではないか。

目の前の圧倒的光景にハザンは困ったように、ハールは顔を引きつらせ、ソールとルーナはビビリまくった。



「……ハール様はやっぱり偉いんだね」


「……当然でしょう。ハール様なんだから」



もはや開き直る二人はハールを褒め称える。

当のハールは溜め息をついた。



「僕じゃなく父さんが偉いのさ」



ハールはそう言ってハザンの方を顎で指す。

ハザンは騎士や貴族などから次々に声をかけられているところであった。



「ハール様。お久しぶりでございます」



そんなハールに一人の少女が近づいてくる。

その姿は黒のドレスに身を包み、その金色の髪をクルクルとドリルのように捩らせ、後ろに二つたらしている。

その瞳は碧眼で、まさにお嬢様…その言葉がぴったりであった。



「えっと……。確かメリーナさんだったかな」


「覚えてくれて何よりです」



メリーナと呼ばれた少女がハールに腰を折る。

この少女はスクムト内の有力貴族の一つであるワーンドル家の令嬢である。

メリーナに話しかけられたハールはとりあえず適当に話すが、そうしていると次々にハールに若い女性達がハールに向かってくる。



「ハール様! 私を覚えてらっしゃいますか?」


「ハール様! お帰りなさいませ」


「ハール様! どうぞ旅の話をお聞かせ下さい」



矢継ぎ早に次々と質問を受けるハールは正直困っている。

何せ子どもの頃に旅立ったハールはあまり彼女達を覚えていなかったのである。


それに彼女らは王子の一人息子である自分に取り繕うとしているのが丸っきり窺える。

実際はハールの顔の造形が整っている事も関係しているのだが、そんな彼女達にハールは苦手意識を感じていた。



(どうしよう……。…………は!)



そこでハールは突然に後ろから放たれる強力な殺気を感じ取った。

それを発しているものは他でもないソールとルーナである。



「「ハール様…………!」」



――これはヤバイ……!



その瞳からかなりの危険を悟るハールはとにかく近寄ってくるお嬢様方をなるべく癇に障らないように追い返す。

それを繰り返しているとハザンが此方に近寄ってきた。



「今からバベルと会う。お前達は部屋で休んでいなさい」



バベルとはこの国の第二王子、つまりハザンの弟である。

おそらく父ノーツの死とそれらに関する事、さらにはこれからの国の事について話し合うのだろう。

ハザンに頷くハールに城のメイドが部屋に案内しようと声をかける。

ハールはソールとルーナを連れて部屋に向かった。





     ★★★





「では此方で御寛ぎ下さい」



メイドは自らの仕事を終えると部屋を出る。

ハールの案内された部屋は国の重要な客に用意されるとても豪華な部屋であった。

上にはシャンデリラが吊るされ、周りにも高そうな絵画や置物。

部屋の広さは普通の宿屋の五倍はあるだろう。



「すごいね。ハール様」



ソールは先ほどの事をまだ怒っているのか、嫌味を言いつつ頬を膨らませている。



「ソール。そんな顔をしてはいけませんよ。ウフフフフ……」



一方のルーナも多少引きつった笑いを浮かべている。

その表情は黒い……暗いのではなく黒かった。



――ルーナこわっ!



ハールとしてはあからさまに不機嫌を露にするソールよりルーナの方が恐かった。

ともかく二人の機嫌を取ろうとハールは二人に話しかける事にした。

話の内容は今までの旅のことやカーラの事、自分の過去の事や二人の事などまちまちである。


話をしているとどうやら二人の機嫌が直っていったようである。

ハールはその事に冷や汗を流しながら良かった良かったと心の中で頷いた。

そんな時、部屋の扉が開いた。



「ハール。入るぞ」



入ってきたのは自分と同じ青髪をたらし、赤いマントにを纏って豪華な白い服装に着替えたハザンであった。



「どうしたのさ?」



終わるのが早すぎると察したハールはハザンに話の内容を訊ねる。

ハザンはそれに多少唸るように答えた。



「父上の暗殺の事なんだが、未だに犯人は割れていない」


「そう……」



ここまではハールとしては予想していた事である。

もし犯人が分かっているのなら手配書でも国中に回っているだろうが、それが無いところを見ると分かっていないだろうことはわかっていた。



「そして……次期王のことなんだが……」



ハールは真剣な顔付きになる。

それは自分の父ハザンが国王になるかも知れないという内容だったのだから。

ハールとしてはハザンに国王をやって欲しくは無いが、バベルにまかせっきりも気が引ける。

バベルはノーツの先代達と同様にもっと軍事をするべきだと主張してくるのだから。

最もスクムト王国では全く珍しく無い意見であるが。


ノーツの内政は国民に好かれ、人望の厚さは騎士にも好かれていたが、不満を口にするものもいなかった訳ではない。

意見としては、これだけの軍事力をもっているのに何故それを最大限に活用しないのか、というもの。


確かにスクムトの軍事力はかなりのもの。

おそらく小国五つを同時に相手してもスクムトの地を踏む事は無いだろう。

それほどにスクムト王国の軍事力は圧倒していた。

故にそんな意見が出ても不思議ではない


だが、ハールはノーツの意志を継いでいるハザンが王になればこの国もまた安定していくだろうと考える。



「明日の会議で決めるそうだ」



明日……。

明日にこれからの自分の動向が決まるのである。

もしハザンが王になれば自分は王子としてこの国に留まらなければならない。

しかし、バベルが王になれば自分達は国を離れる事も出来るかもしれない。

そこでふとハールは考える。



――なんで父さんは今の今まで旅をしてこれたんだろう……。



王子である筈のハザンが国を出る事が許可される事はまずない筈である。

しかし、現にハザンはスクムトの外に旅立ったのだ。

故にハールは気になった。



「とにかく今日は明日に備え寝るとする」



しかし、ハールが声をかけようとした時にはハザンは扉を開き、部屋を出た後だった。



「ハール様。確かにハザンさんの言うとおりです」


「今日はもう寝よう?」


「……そうだね」



まだ腑に落ちないハールだったがとりあえず寝る事にした。

付与魔法のランプの光を消し、ベットに着く三人。

しかし、三人はベットが三つありながら一つのベットに集約する。



「二人とも……暑いんだけど……」


「いやですか……?」


「だめ……?」



涙目と上目使い。

ハールは即沈没した。

そうして一緒に寝る事になったのだがハールは寝付けない。

それは二人が自分に抱きついて寝ている事は関係していなかった。



(何かが引っかかるんだよね……)



なぜここに来ての暗殺なのか。

ノーツは今や他国にも顔が利く程になっている。

その反面それを疎ましく思うものもいるのは分かる。


しかし、ノーツは最早六十過ぎ。

少し経てば王が変わるであろう。

それなのに王を暗殺したという事は……。



(今すぐに事を起こす可能性が高い……)



ハールは其処まで考えて、思考をやめる。

自分にも遂に睡魔が襲ってきたのだから。



(何だか胸騒ぎがするんだよね……)



ハールは自分の胸騒ぎが杞憂であって欲しい事を祈りながらそのまま眠気に身を任せた……。






     ★★★





「……遂に一つ目が我が物になるのだな」



夜中に一つの影が城の屋上で髪を風で揺らしている。

その存在感は凄まじく、周りの空気がピリピリと痛んでいる。



「全く手間をかけさせてくれたものだ……」



暗闇のなかで男が呟く。

闇の中にいるその男はその場でただ立っている。


しかし、その姿を誰かが見ようものなら泡を吹いて気絶するだろう。

それほどの殺気が…プレッシャーが静かにあたりに散会していた。


……暗闇の中でその男の金色の瞳不気味に光っている……。


まるで獲物を見定めたかのように…………。





読了ありがとうございました。

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