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漆黒の風  作者: ST
二章 災厄の予言
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13話 思い出の場所

「本当にありがとう。中々楽しかった」


「こちらこそ」



ここはスクムト国内付近の街道。

そこでカーラはナンド公国に向かって伸びる街道を進む為、ハールら四人とはここで別れるのだった。



「また会えるといいな」


「そうですね」



ハザンもハールらの面倒を見てくれた事もあり、カーラが抜ける分にはそれなりに感じるところがあった。

そんなハザンにカーラも次の再会が楽しみだと笑う。

そんなカーラに名残惜しそうな表情で微笑むハールは「あ、そうそう」とカーラに一歩踏み出す。



「これを」



そうしてハールはカーラにあるものを手渡す。

それは赤く輝く石が埋め込まれた指輪をであった。



「これは……?」


「四日前に買い物にいったでしょ? そのときに指輪を何個か買って置いたんだ」



ちなみに僕は青だよとその指に付けられている指輪を見せる。

ちなみにソールとルーナはそれぞれ金と銀の指輪である。



「ソールとルーナがどんなに離れていても一緒にだってさ」



ハールは二人の方に笑いかけながら、赤い指輪を付けるように促す。

カーラは僅かに顔を朱に染め「ありがとう……」と塩らしくハールに礼を言う。

ハールはそれに若干照れながら頬を掻いた。



「そろそろだな……」



ハザンが出発の時を告げる。

その言葉に寂しそうに、それでも瞳には強い輝きを宿して四人は頷く。



「それではまた会おう」


「さようなら~!」


「元気でね~!」



カーラが此方に手を振りながら街道を進み、その姿が小さくなっていく。

そして、その後ろ姿が何時しか消えてしまった。



「ハール様……」


「また会えるよね……?」



ソールとルーナがカーラの消えた方角を見つめながら、おもむろに口を開く。

そんな二人にハールは頭を撫でる。



「大丈夫だよ。また会えるさ」



撫でられる二人は目を気持ちよさ気に細め、そしてすぐにハールに抱きついた。



「「私達はハール様と共に!」」



その様子に驚きながらもハールはにこやかに頷く。

その光景に頬を緩めるハザンはそんな兄妹のような姿をただただ見守っていた。





     ★★★





「悪いが少し寄りたい所があるんでな」



カーラを見送り、そのままスクムトまで一直線かと思いきや、ハザンはスクムト王国に繋がる街道の外れにあるらしい、思い出の場所に向かうという。



「一体どんなところなのさ?」



ハールは長年ハザンに付き合っていたが、そんな場所に心辺りが無い。

ハールは思い出の場所というほどなのだから止めるつもりは毛頭無かったのだが、その場所がどんな所なのかが気になった。



「そうだな……。お前の母さんと俺だけの秘密の場所……といったところだ」


「……そんなところが……」



ハザンの言葉に驚くハールはそんな場所に自分が行っていいのかと疑問に思う。

なにせ二人だけの思い出の場所というのだ。

しかし、ハールがそれを伝えるとハザンはかすかに笑っては首を振った。



「俺とサンの子どもであるお前に教える分には何も構う事は無い」



ハザンはあっけらかんとした表情でそのまま街道を逸れて歩き続ける。

それならばソールとルーナは? と不安そうにしている少女達はいいのかと訊ねるハールだったがそれはハザンにしては愚問であった。



「その二人はもはやお前の妹のようなものだろう?」



振り返っては二人に微笑むハザン。

ソールとルーナは照れくさそうにしながらもどうやら嬉しいようであった。

その様子にハールもまた頬を緩ませる。

そんな光景にハザンの表情は一瞬だけ、ハールでさえ気付かないほどにその表情を顰めた。



(……いつか、俺に何かあればこいつらに託すしかない……。それを思うとな……)



やりきれない……それがハザンの答え。

将来自分に何かがあれば自らの計画をハールに託す事になる。

しかし、それは過酷な道であり危険と隣あわせ。

自分で自分の息子を不幸にしてしまうかもしれないのだ。



(それでも……!)



誰かがやらなければならない。

それほどに重要な役割をハザンは担っている。

ハザンの決意は鋼のそれよりも固いものになっていた。



(まあ俺の代で決着を付けれればそれに越した事は無いがな)


「父さん。どこまでいくのさ」



自らで試行錯誤していたハザンに不意にハールが話しかける。

今ハール達が歩いているのは街道外れの小さな林の中。

いつまでも変わらない周りの光景に多少の不安を抱いたのである。



「すぐ着く。ほら、あれだ」



ハザンは林の中を進みながら前方を指差す。

その先には林の出口から見える大き目の小屋があった。



「あれが父さんと母さんの思い出の場所……」



その小屋は屋根や壁などのあらゆる所から木のツタや草が巻きついている。

小屋自体もあちらこちらが痛んでいるようで、見た限りかなり年代が経っているみたいに見える。

周りは木々に覆われてポツンと一つだけ小屋が建っている姿はどこか不思議な雰囲気を漂わせる。



「どこか神秘的ですね……」



ルーナが感嘆したような声を上げる。

確かにその出で立ちは神秘的である。



「とりあえず中に入るぞ」



ハザンは小屋の扉を開けて中に入る。

それを追うように三人も扉を開けた。



「本当に古いね……」



ハールが苦笑しながら答える。

小屋の中は五つ程の部屋がある。

どこも外側同様痛んでいて、とても住み込めるようなものでは無かった。



「ここは昔、俺とサンだけの隠れ家だったんだ」



ハザンが三人に背中を向けて歩きながら不意に語りだす。



「丁度ハール、お前くらいの年にな……俺は城を抜けてスクムトを出た事がある。そのときに俺と同じくらいの年頃の少女が山賊に襲われているところと対峙した」



ハザンはその昔、トーネという剣の師がいた。

トーネがスクムトに滞在している時に偶然出会い、剣を教えてもらう事になったというらしい。

それからトーネがスクムトに寄るたびに剣を教えてもらい、着々と腕を上げていくのを実感した。

そんな時、ハザンは自分の腕を試したく、城の住人の目を盗んで、少しだけ国を出たという。



「俺は何とか山賊を返り討ちにしたんだが、怪我を負ってな……。山賊に襲われていた少女がここまで運んでくれてんだ」



どうやらこの小屋はその少女の秘密基地のようで、怪我を負ったハザンにそこで怪我の治療を行ったようである。

その少女の名前はサンであった。

それが二人の出会いであったらしい。



「どうやらサンもスクムトから薬草を摘みに着たようでな。その後も何度も二人でここに寄ったもんだ」



ハザンは淡々と語るがその背中が、懐かしさやら寂しさなどの感情を語っている。

ハールは二人の思い出話しを聞けて、少しだけ頬が緩む。

そんな時ハザンが一番奥の部屋の扉までたどり着き、それを開けた。



「悪いが少し用がある。この部屋には入らないでくれ。他の部屋は使ってもいい」



そういい残してハザンは中に入り部屋の扉を閉める。



「……僕らは掃除でもしようか」



正直することの無いハールは二人の思い出の場所を清掃しようと提案する。



「それはいいですね」


「三人でがんばろ~」



二人も賛成のようで今日は一日中掃除をする事を試みた。



「それではやろうかな」



三人は清掃の装備を何処からか装着。

そのまま小屋の掃除を始めるのであった。





     ★★★




掃除を始めて早三時間。

小屋の外、中はある程度元の形に戻りつつあった。



「燃えよ。炎弾ファイア


「水よ。水弾ウォータ



ソールとルーナが魔法を行使する。

ソールの炎魔法でツタや木の根、草を焼き、ルーナの水で洗う。

ハールは箒を装備しそれを力いっぱい振るう。

それを繰り返していると何時の間にかどんどんと小屋が本来の姿を取り戻していく。



「魔法の練習も出来て一石二兆だね」



ハールも箒をバスタードソードのように振るっている。

用途は全然違うが、その一振りで埃がなぎ払われていっている。



「ほう。掃除をしていたのか」



するとどうやら用を終えたらしく、ハザンが出発の仕度をしながら三人に姿を見せる。



「そろそろ行くぞ」



その言葉に掃除をやめて三人はそれぞれスクムトに入国する準備を始める。



「大分綺麗になってきたところなのにな~」


「また来たときにすればいいさ」



四人はその場で笑い合う。

そんな家族の様子は空の向こうに居るであろう愛しの女性に届いているだろうか。

ハザンは小屋を出るとすぐに空を仰いだ。





     ★★★





「どうだ……準備は整ったか?」


「我らに何の問題もない。後は……」


「あいつが来るだけ……か」



ここはスクムト国内のある一室。

部屋は華やかに装飾されていて、その真ん中には二人の人物が立っている。



「ククク……。これで“例のモノ”が我が手中に……」



その内の一人、灰色の髪に金の瞳を携えた人物が不気味に口を吊り上げる。


……これより“組織”が動き出す……。





     ★★★





「やっとここまで来た……」



ハールは前方のスクムト王国の入り口を感慨深く眺める。

ソールとルーナは今まで見た国とは一線を画している圧倒的な目の前の関所に戸惑いを見せている。



「さて……入るか」



ハザンは戸惑う事無く歩を進める。

その時、向こうに居る関所の兵が此方を向いては目を大きく見開いた。



「ハザン王子!!!」



その言葉にハールはクスッと笑う。

そういえば国内ではそう呼ばれていたな…と今までの父の姿からは全く似合っていないものだったのだ。



「ハザン王子……! 探しましたぞ! あなた様のお耳に入れたい事が……」



しかし、兵の慌てた様な状態にハールは訝しげに、ハザンは顔を真にして兵の話を聞く。



「何を話しているんでしょう?」


「ハール様は分かる?」


「さあ……」



三人は首を傾けハザンを待つ。



「何だと!!?」



そんな時、ハザンが声を荒げた。

ハザンの様子からして深刻な事態なのだろうか。

ハザンが三人に近寄ってくる。

その表情はどこか悲しげなものであった。



「今すぐ王都に向かう」


「どうしたのさ?」



ハールはそんな様子の父に首を傾げる。

後ろの二人も状況をあまり理解していなく訳のわからない様な表情を向ける。

そんな三人にハザンは静かに告げた。






「スクムト現国王……父上が何者かに暗殺された……」










……ここより事態は動き出す事になる……。





カーラの所持する赤い指輪はハールから送られたものでした。

読了ありがとうございます。

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