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漆黒の風  作者: ST
二章 災厄の予言
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11話 ハール様

バラン地方のウニーを出発してから十数日。

五人はクート国の街のギルドで二手に分かれて依頼を受ける事になったのだが……。



「納得いきません!」


「何でカーラさんとハール様が“二人きり”なの!?」



ソールとルーナは猛烈に反対していた。

ハールとは自分達が一緒に行きたいのだ。

それにカーラのような美少女と一緒に行かせたくも無かった。



「しかし、君たちに戦い方を教えないといけない。ハールはまだ教えられるレベルには達していないからね」



ハザンは何とか納得させようとするが、二人はどうしてもハールに付いていくという。



「ハール様だって私達と行きたいよね!?」


「ハール様?」



そしてハールに同意を求める様に期待に胸を膨らませて振り返る。

しかし、ハールは二人の期待を意図せずに裏切る事になる。


……ハールは大きく首を横にブンブンと振ったのだ……。



「あ……………………」



ルーナが小さなか細い悲鳴を上げる。

ソールの方は信じられないと首を振る。



「そ、そんな……」


「ハール様……」



二人は涙を流し絶望する。

まさか……信じていたのにと二人の頭にいくつもの言葉が過ぎり……。



「もうハール様なんて知りません!」


「ハール様の馬鹿ぁ~~~!」



泣き叫んで走り去った。


後に残ったのは、何が起こったのかわからない困惑したハールとそれに失望しているカーラであった。





     ★★★





ハザンも交えて三人が受けた依頼はランクCのトルネーの討伐。

トルネーとは馬のような体に顔がなんともいえない気味の悪い犬と鹿とサルを混ぜたようなもので全体的には赤色の魔物である。


今三人は街道を少し外れた草原を歩いている。

情報によればこの場所で目撃したとあったのである。



「ハザンさん……」



不意にルーナが口を開く。



「ハール様は私達の事が嫌いなのかな……」



ソールも涙ながらに声を震わせている。

あの時、自分達が一緒に行くのをハールは拒絶した。(二人がそう思っているだけだが)

もしかしたら、自分達はハールにとってお荷物なのではないか……。

そんな不安に二人は苛まれていたのである。



「まあまあ二人とも、そんなに落ち込むな……」



ハザンはこんな状態では依頼に身が入らないので、二人を慰めようとする。

しかし、二人は予想以上にテンションがただ下がりだった。

いや、二人のハールの信頼度を考えれば当然とも言えるだろうが……。



(……はあ。何か引っかかるのは気のせいか……?)



ハザンは自分の息子が他人の信頼を無下にするような男では無いと信じてるし、確信している。

何よりあの後見せた困惑した表情を見れば、二人の行動が予期せぬものであったという事である。

信頼を自らかき消して尚、見せる表情ではなかったのである。



(幸い明日は休暇の予定だな)



ハザンはもうじきここを離れ、スクムト王国に入国しようと考えていた。

故に明日はその準備に取り掛かろうと思っていた。



「それでは二人は明日にハールと街に遊びに行きなさい」


「え………………」


「でも………………」



突然のハザンの提案に困惑する二人。

今しがた拒絶されたばかりなのだ。

ハールを誘って街に遊びに行くなど今までならともかく今の二人にとっては戸惑うものがあった。

しかし、そんな二人にハザンは少しばかり笑いかける。



「ハールだって何か理由があっての事かも知れない。二人はハールの事が好きなんだろう?」


「それは……」


「そうですけど……」


「ならば二人は明日にでもハールと仲直りすればいいだろう?」



ハザンの言葉に一瞬戸惑う二人だがすぐに決意したか、顔を上げて強く頷く。



「それでは決まりだ」



これによりソールとルーナの士気をあげる事に成功。

ハザンも二人に頬を緩ませた。

だが、その胸には別のことを考えていたが……。



(三人は街に出る……。これで俺の“準備”が整うな……)



そうしてハザンはアルから貰った魔石貨の入った皮袋を少しばかり握る。



(まだ誰にも知られる訳にはいかんからな……)



ハザンは心に強い決意を秘めつつ、それを胸に納めては、今さっきまでとは打って変わった二人を見守ることに意識を向けた。



「それではここらで魔法の基礎を教えようか」



ハザンは役職は剣士だが、光魔法だけとはいえ魔法を使える。

ハールに教えた要領でハザンは二人に魔法の説明、操作について説いていく。



……そしてその話が終わり、夕焼け空が姿を露にした丁度その時ほどで、やっとトルネーが姿を現したのであった……。





     ★★★





結果だけ述べるとトルネーは無残にも苛められた。

いや、あれは拷問とも言えるかもしれない。


理由を話すと、二人が呪文を唱え、魔法の練習をトルネーを的にして行っていた。

そんな二人に当然突撃するトルネー。


しかし、そこでハザンに良いように遊ばれてしまった。

足を引っ掛けられ転倒したり、妨害魔法をソールが唱えた瞬間にトルネーを其処にぶん投げたり、さらには瀕死のトルネーにルーナが治癒魔法をかけ、回復したトルネーをさらに練習用の的にしたりとそれはもう魔物にとって屈辱以外の何者でも無いやられようだった。


それはこんな時間まで現れなかったトルネーに三人が苛立ちを覚え、ストレス解消に使っただけなのかも知れない。

ともかく、三人がトルネー討伐(拷問)を終わる頃には既に辺りは夜に迫ろうとしていた。



「そろそろ帰るとするか?」



ハザンが討伐の証拠部位である爪と牙を片手に二人に振り向く。

二人はどこか疲れているようで、「早く戻りましょう」とルーナが苦笑しながら答えた。



ガサ!



そんな時、草原に一匹の魔物が此方に近づいてくる。

その動きは地面を滑っているように滑らかに張っていて、シューシューと音を立てながら三人の前に立ちふさがった。



「何ですか……!?」


「こいつは……」



三人の前に居るのは大きな大蛇。

全長は7メートル程で、鱗は緑色。

黄色い蛇の目は三匹の獲物を真っ直ぐ捕らえていた。



「ラミアスローターか……」



その大蛇は危険度ランクAのラミアスローター。

この魔物に見つかれば、どんな冒険者も瞬く間に丸呑みにされてしまうと言われている程である。

ソールとルーナはそんな魔物の放つ威圧感に身体を震わせていた。



「どうしよう……」



ソールは足が震えて動けない。

まるで蛇竦みにあったようであった。

そんな獲物に、シャー! と高らかに音を立てるラミアスローター。



(――私たちは足手まといじゃない!)



しかし、この二人は今、ハールの足手まといになりたくない気持ちでいっぱいであった。

その覚悟とも言える気持ちが二人の身体を動かす事になる。



「行きます!」



そうして二人は詠唱する。

放つのは火の球と水の球。

それが真っ直ぐとラミアスローターに向かっていった。


……だが、ラミアスローターの前には無力であった。

その固い鱗に弾かれたのだ。


その事実に顔を歪ませる双子。

それに喜ぶように大蛇は奇声を上げた。

……しかし、魔物は狩る側ではなかった。



「久々に少しは楽しめそうだな」



ハザンは獲物を見つめる魔物に笑う。

この魔物が獲物と思っていたものに獲物と見られた瞬間であった。



「久々に全力で剣を振るうんだ。あまり落胆させないで欲しいものだな」



ハザンは小さく呟き背中に背負う銀色のどこか不思議な光沢を持つ、ハールのものより少しだけ大き目のバスタードソードを手に取る。

そして、何度か軽く振ってみてはそれを構えた。



「さて、此方の準備は……」



出来た…そう言おうとしてハザンはすぐにその場を跳躍。

するとその場にラミアスローターが突撃し、地面が凹む。



「さて、何分もってくれるかな?」



ハザンがバスタードソードで空を斬る。

するとハールのそれとは威力が全く違う光の斬撃が大蛇を襲った。

大蛇はそれを慌てて回避するが、何度も飛んでくる光の斬撃に何時しか、一発直撃していた。


ラミアスローターが大きな音を立てよろめいた。

そんな時、ハザンは音の発生源に向かいバスタードソードの剣先を向ける。

すると、其処から光の光線が放たれた。

それがラミアスローターを飲み込み、その鱗を破壊する。



「終わりだ」



ハザンはその声と共に素早い動きでボロボロの大蛇の前まで移動し、そのまま一閃。

これによってラミアスローターは真っ二つとなり、絶命した。



「「……………………」」



二人は目の前で起きた攻防に絶句。

今までハザンが強い事は知っていたが、まさかランクAのラミアスローター相手にここまでの快勝をするとは思っていなかったのだ。



「さて……最後の最後に邪魔が入ったがこれで心おきなく帰れるな」



ラミアスローターの換金部位である毒牙を袋に詰めつつハザンが不敵に笑う。

その姿が悪魔のような狩人の姿で逢った事にソールとルーナは顔を引きつらせていた。



「……明日のハール様とのデートについて考えなくては」


「そうよね……」



二人は見てない見てないと踵を返してなるべく後ろを振り返らないようにその場を去ろうとする。

これにて本日の依頼は終了したのであった。





二人が怒ったのはそういう理由でした。

読了ありがとうございました。

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