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漆黒の風  作者: ST
二章 災厄の予言
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8話 同行者

青髪を風に靡かせ、薄く赤い瞳を携えた少年ハールは苦悩する。



――なぜこうなるの……?



「英雄様! ありがとうございます!」


「この村を救って頂いてありがとうございます!」


「英雄様!」


「英雄ハール様!」


「そうよ! ハール様は偉いの!」


「皆でハール様に跪きましょう!」


「はは~~~~!」


「ソール、ルーナ……。ドサクサに紛れて何してるの……」



ハールは今すぐ逃げ出したくなった。

何せ自分が盗賊を退治し、街を救った救世主に祭り上げられているのだから……。



――確かに盗賊退治したの僕だけど!



しかし、それは己の休息時間の早期確保の為である。

勢いに任せてかっこつけた台詞を吐いた自分がとても恥ずかしくなった。

そして追い討ちがこれ。



「ハール様! ハール様!」


「はは~~~~!」


――頼むから土下座やめて……!



最早自らが土下座したくなってきた。

とにかくハールは逃げるように少女二人を連れて先を進むカーラについて行く。

勿論人々はハールを見る度に頭を下げたり声をかけたり近づいたりとあってついて行くだけでもかなり大変であった。


さらに途中で全く先に進めずキレたカーラが、「私が道を切り開いてくれる!」と言って、レイピアを抜いてホントに切り開こうとする彼女を死ぬ気で止めたりとかなりのタイムロスもあり、宿屋に着いたのは夜になった時であった。



「やっと……」


ハールは涙目でここまでこれた事に安堵する。

彼の青い髪はくしゃくしゃになっており、黒と黄色主体のロングコートもボロボロである。


途中拾った木の枝を杖代わりによろよろと死期の近い老人のように宿屋に入るハール。



「大丈夫ですか……? ハール様……」


「何かあったらすぐに言ってね……? ハール様の為なら何でもするよ?」



いや原因の半分以上君達だからね? と本気で思ったのだが其処はハール。

グッとその言葉を飲み込み、代わりの言葉を外に吐き出した。



「そうだね……。二人ともありがとう」



我ながらナイスだ……ハールは心底そう思った。



――見るのだ諸君! 


彼女らの顔は今や喜び輝いている! 


それもこれも僕の要領の良さの賜物であるのだよ! 


あれ…多少顔が赤い気がするが…まあ気のせいだろう! 



今やハールの脳内は二度目の暴走寸前まで崩壊していた……ストレスが溜まるのが早いものである。

しかしあまりの疲れで暴走すらも出ない。

さあ寝ようかな……と思って宿屋に入った先にはハザンが立っていた……。



「……どこに行ってたんだ」



顔を見れば一目瞭然。

ハザンは今やお怒りの様子。

ハールは背中を伝う冷たい冷や汗を感じつつ、必死に弁論を試みる。



「いや……父さん。「まず理由を聞こう」……あ、うん、ありがたい。実は「男の癖に言い訳するな!」……僕にどうしろと!!?」



休むまもなく満身創痍のハールは廊下で有無を言わせず正座。


……その日の宿屋に止まる客人は夜にすすり泣く声がしたと大変恐怖したようであった……。





     ★★★





翌朝、ハールは正座の体勢で目が覚める。

周りは宿屋の廊下のようで床には青い絨毯が轢かれていていた。

どうやらあの後正座の体勢で眠ったらしく、足が痺れて動けなかった。



「ハール様。おはようございます」


「ハール様、おはよう……」


「うん……。おはよう」



向かい側の扉から双子の姉妹が出てくる。

二人は心配そうな顔をしながら朝の挨拶をいつものようにし、ハールもそれを返す。

とりあえず立とうと、頑張って自分の足を動かすことを試みるハールだが一向に動く様子が無い。

溜め息をついて今度はゆっくりと足をほぐしていく事にした。



「ハール。起きたか?」



今度は隣の部屋からハザンが出てくる。



「なんだ。正座しながら寝てたのか……」



いやいや父さんのせいでしょ……。

猛烈に文句を言いたくなるがここは何とか黙り込む。



「それより今からアルフォードさんに挨拶に行く。お前も一緒に来なさい」


「そのアルフォードさんが父さんの探していた人物?」


「そうだ」



全ての元凶であるアルフォード。

こんな無法地帯に連れて来られ、盗賊の相手をする羽目になり、挙句の果て英雄として祭り上げられる事になった原因。

そして推測だがかなりヤバイ奴。

ハールにとって、アルフォードという人物は憎むべき相手だった。

故に……。



「行く」



即答。

ハールはその自分のストレスの元を拝む為にハザンに従いついていく。

その後ろを不思議そうな表情でついて行くソールとルーナ。

……なんでそんな不思議そうな顔で僕を覗くのかな?



「ハール様……」


「ん? どうしたんだい?」


「顔が恐いよう……」



――いかんいかん……この二人には僕の無表情の中身が読み取れるんだった……。



とりあえず「そうかな?」と笑って誤魔化し、感情を押し殺す。



(今は待つんだ僕……。今暴れたら15歳の男としてどうだろう)



何とか自らの心をなだめ目的地の扉の前に到着。



「アルフォードさん、入ります」


「ふむ……開いとるぞい」



ハザンはノックしてそのまま扉を開く。



……さあ! そのつら拝ませてもらいましょうか!!





     ★★★





ハールは開かれた扉をくぐり中に入る。

其処には四人の人物が立っていた。

部屋の椅子に腰かけているのが昨日に自分を助けてくれたちょっと(というより大分)危険な美少女カーラ。


後ろの方ではソール、ルーナと同じくらいの年で、窓を見ながらこちらには無関心に黄昏れている、ルーナよりも少し濃い銀髪銀目の中々に良い顔立ちの少年がいる。


さらに隅のベットの方にはまたも二人と同じくらいの赤髪茶色目の可愛いらしい顔の少女が座っていた。

しかし、此方をチラッと見ては警戒を露にして、不機嫌な顔をしている。

まるで「私に関わるな」と拒絶を示しているような態度。

そんな態度をハールにしたので後ろの二人は黙ってなかった。



「ハール様にそんな顔をしないで!」


「……何よ。別に私の勝手でしょ?」


「何ですって……!」



昨日の導火線よりも強い、さながら雷を飛ばしあってる三人にまたかとハールは正直呆れる。



「ふむ……。――あの状況に全く動じない……か。ハザン。おぬしの息子は中々のものじゃのう」


「いえいえ……。恐縮です」



実を言うとハールは内心ではヒヤヒヤものであったが、やはりいつもの無表情かつ冷静な顔付きから褒められる。



(しかし、父さんが頭を下げる程……。この人は一体?)



ハールは探るようにアルを眺める。

アルは部屋の真ん中で腰を下ろしていた。

紺色のローブを纏い白髪に青い瞳を携え、顎の髭を擦っている。

一見するとただの老人だが、その立ち振る舞いは隙がまるで無くまさに賢者という言葉が相応しい。

そんなハールの様子に気付いたアルはハールに微笑む。


「ふむ……。こんな場所でも警戒をまるで解かない。初対面の相手が果たして本当に信用できるか疑う姿勢。この子はお前さんより出来とるんじゃないかのう? ハザン」


「ええ。サンに似ていて……私には出来た子ですよ……」


(ホントにそう思ってますかね……)



この言葉はさすがに嘘臭かったが、自分が母親にである事は自覚していた。

とりあえずアルには良い印象を受けてもらったようで何かと褒められる。



「それで……。父さん。ここに来た理由は?」


「ああ。用事を済ましたから、離れるから別れの挨拶にな」



――いやったーーーーー! もうこんな危ない地獄のような所とはおさらばなんだね……!



良かった良かったと内心でうんうんと頷く。

とりあえず自分の父がお世話になっていたようなのでお辞儀しておく事にした。

……最早今のハールにとってアルに対する敵意などどうでも良かった。



「ふむ……。決して増長せず、下手にも出ずにお辞儀をこなす……。お前さんがこの街の英雄と言われる理由がなんとなく分かったような気がするのう」



英雄という単語に耳が痛くなるハールは多少苦い顔をしてしまう。

しかし、それには誰も気付かなかった。

いつもはそんな表情をすると真っ先に飛びつく二人はたった今現在進行形で赤髪の少女と言い争っていた。



「何よ! 大体あんた達には関係ないでしょ!」


「あるもん! ハール様の敵は私達の敵です!」


「あなたがハール様に謝るまで私達は許しません!」



野太い電光をぶつけ合う三人。

辺りに電撃が迸っていて、近づく事は困難であった。



(しかし……。あの子すごいな)



赤髪の少女、ハールがアルに聞けばセラと言うらしいが、そのセラはソールとルーナの両方を相手取っていて、尚且つ全く引いてない。



「すまんのう……。セラはある事から他人と距離を置くようになってしまってのぅ……」


「……“紋章持ち”……ですよね?」


「……なんと……」



ハールとしてはソールとルーナの二人にさらに昨日会ったスレイという“紋章持ち”を見ている。

ハールはあの赤い髪の少女、セラからも前者三人と同じ様な雰囲気を感じたのである。

しかし、そんな事を知らないアルとハザンはかなり驚いている様子である。



「ハザン……。この子は本当にお前さんの子か……? 昔のお前さんとは似ても似つかんぞい……」


「……昔は無鉄砲でしたので……」



どうやら昔のハザンは無鉄砲だったらしい。

今の姿を見ているとまるで想像できないような……。

いや、人の話を聞かないところとか、分かる気がする……。

そんな事を考えているハールは尚も激化の一途を辿る戦場に目をやる。

すると部屋の後ろで黄昏ていたサイと言うらしい少年が立ち上がる。



「……この部屋はうるさい。俺は少し外に出る」



鬱陶しいとばかりに顔をしかませ部屋を後にするサイ。



「あの子もまた少し気難しくてのう……」


「別に大丈夫ですよ」



苦笑しながらアルに遠慮は入らないという表情で返すハール。

どうやらこの老人、アルは良い人そうだと判断したハールは少しばかりいろいろな話を聞かせてもらう。

特に興味深かったのは、ハザンは昔にアルと同期のトーネという冒険者の下で剣の修業をしていたらしい事である。

そのときのハザンの恥ずかしい話をハールは聞かせてもらった。



――面白い話を聞かせてもらえたな~。



「……アルフォードさん。そろそろ私達はこれで」



顔を少し恥ずかしめてハザンが切り出す。

確かに最初はそういう意図でここに来たんだったなとハールも今更ながら思い出す。



「……ハザン。実は頼みたい事があるんじゃが」


「何でしょう?」



アルが真剣な顔付きになる。

それと同時にハザンもアルと同じような表情をつくる。



「すまんが途中までカーラを連れて行ってくれんかのう?」


「……というと?」



アルのいきなりの言葉にハザンは思考を一瞬停止。

当の本人であるカーラも多少驚いていた。



「カーラはわしの出す試験に合格してのう。これから一人旅をするんじゃが……。やはり少し心配でのう……。途中まで一緒に連れて行ってくれんかのう?」



つまりハザンらが国に帰る間までカーラを連れて欲しいとの事。

これにはハザンは断る理由が無かった。



「アルフォードさんの試験に受かったのならかなりの腕でしょう。別に私はかまいません」


「すまんのう……」


「いえいえ」



どうやらカーラが来る事は確定したようである。


――僕はホントに呪われているのかもしれない……。



昨日のカーラを見ると不安でいっぱいである。

隣では今だ争っている少女二人の姿も……。



「何よ!」


「何ですか!」


「何なの!」



ハールは心のそこから疲れたような脱力感に苛まれた。

そんな様子にアルは含み笑いをしながら眺める。

そしてカーラの方を向いた。



「さて……出発の準備をしようかのう」





     ★★★





「それでは行ってまいります」



そうして出発の時は訪れた。

カーラは昨日と同じ青のロングコートの下に鎧を着て黒の長ズボンを履いて、別れの挨拶を済ませる。



「……じゃあな」


「またね。カーラ」



セラはカーラには普通に接するようで、ハールに見せた棘棘しさはあまり無い。

……心から信頼していると言う訳でも無いようであったが。

サイの方は無愛想に一言だけである。



「ふふっ。お前達らしいな」



カーラは感慨深そうな表情を浮かべて笑う。

カーラにとって三人とはしばしの別れであり、旅立ちの時である。

いろいろ伝えたい事もあったろうがカーラがアルに向かい言った言葉は一言だけ。



「師匠! 今まで本当にありがとうございました!!」


その一言には一体どれだけのありがとうが積み込まれているのだろうか。

カーラはその一言だけを残して、凛とした姿で踵を返し街を出ていった。



「おぬし達も元気でのう」



アルは街を出ようとする四人に笑いかけた。



「……あんた達。……無事にいなさいよ」


おそらくソールとルーナに向けられた言葉であろうか。

その言葉に少し驚いた様に口を開ける二人はすぐに微笑み手を振った。



「それでは」



そのハザンの一言と共にカーラを連れた四人は街を出た。

そうして五人は次の目的地に赴く。


「さて……。久々に帰るとするか。我が故郷スクムトに……」





アルやセラ、サイはこの時点でアルと共にいました。

そしてセラの他人に対する警戒度もまた大きいです。

読了ありがとうございました。

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