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漆黒の風  作者: ST
二章 災厄の予言
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5話 厄介ごと

そして、朝……ハールは目覚める。



(今日で街に着くんだね)



ハールは伸びをしようと立ち上がろうとして……止まった。



(そういえば二人が居るんだっけ……)



ハールは自分の両隣に目をやる。

其処には可愛い寝顔を露にした少女二人が自分の腕を抱いて静かに寝息を立てていた。



(まいったな~)



自分は早々に起きて、ここを離れる準備をしたいのだが二人の気持ち良さそうな睡眠を妨げるのもどうか……。

よって、この状況を何とかしようとハールは脳内で緊急サミットを開く事にした。



――あ~では! これより第五回僕の為緊急サミットを始めたいと思います。単刀直入に言いますと二人を起こしてでも野営の後片付けをするかどうかですが……。


――何をばかな…こんなか弱い少女の睡眠を妨げると言うのか……。


――鬼畜だ!  


――そうだそうだ!


――静粛に!


――しかし、片付けないとマナー違反だ!


――それに二人に旅の厳しさを教えないとね。


――そうだそうだ!


――それこそが愛なんだ!


――静粛に!!!



「ハール様おはようございます」


「ハール様……? どうしたの?」



第三回ハール脳内緊急サミットが激化している中で、当の議論のネタになっていた二人が眠りより目覚めた。

これにて緊急サミットは終了した。


とりあえず「何でもないよ」と苦笑しながら二人と共に起き出し、出発の準備を始める事にする。

微笑むハールに頬を赤くする二人はハールに眩い笑顔を向けてハールのお手伝いと決め込む。

そんな兄と二人の妹の様な光景を傍から見ているのは父ハザン。



(本当に隅におけないな…)



当の本人ハールは気付いてないが、彼が救った二つの命はハールに対して尊敬や感謝以上の感情がある事が薄々感じさせる。

6~7歳ほどだが二人の少女も最初は痛々しい状態で気付かなかっただけでかなりの美少女になる素質を秘めていた。



(後数年後が楽しみだな…)



ハールは未来のわが子らの姿に胸を躍らせつつ、彼もまた起き出した。





     ★★★





野営を行った草原を出発してから早数刻。

四人は街道を歩きながら、出没する魔物を返り討ちにしていた。



「はあ!」



ハールが襲ってくるジャイアントバットに向かいバスタードソードを振り下ろす。

ジャイアントバットはその一撃で片翼を切られ地面に倒れる。



「とどめ!」



其処で容赦なくハールはバスタードソードを差し込んだ。

グサッと深く魔物に突き刺さるハールのバスタードソード。

ジャイアントバットはプルプル震えて…遂に動かなくなった。


ハールはそこでソールとルーナの方に目を向ける。



「妨害せよ。防壁シールド



リトルデーモンの放ってきた火の玉をソールの発動させた魔法による防壁で討ち消す。



「水よ。水弾ウォータ



ルーナの唱える呪文がリトルデーモンに直撃する。

しかし、威力が足らなかったのかよろめいただけですぐに二人に迫り来る。



「光を刀に纏え。光付与ライトエンチャント



そこで、ハールは詠唱と共にバスタードソードに光を纏わせた。

ハールが今唱えたのは属性付与。

武器に“属性魔法”を纏わせ威力、切れ味などを挙げるものである。



「やあ!」



ハールは光を帯びたバスタードソードをリトルデーモンに振り下ろす。

バスタードソソードはそのまま振りぬかれ、リトルデーモンを真っ二つに斬り裂いた。



「大丈夫?」



ハールは二人に安否を確かめる為、声をかける。



「はい大丈夫です」


「ハール様。ありがとう」



どうやら二人に怪我はなさそうで心いい返事をハールに返してきた。

さてそれでは続きを、と振り返ったその先では足元に何匹もの魔物を切り捨てたハザンが立っていた。



「……終わったようだね」



ハールは相変わらず凄いなと若干なれた様子で首を小さく振る。

ソールとルーナも初めは目を丸くするほどハザンの戦いに驚いていたが、今では「さすがです……」と呟く範囲で収まっていた。



「はあ~……。バックが重くなってきた……」



ハールが倒れている魔物から換金できる部分を剥ぎ取りながら愚痴る。

ニュールの街には何故かギルドが出来ていなく、ここまでの道で倒してきた魔物の換金部位が溜まってきたのだ。



「これ換金したら金貨貰えそうなんだけど…」



ハールは嬉しいんだか悲しいんだか分からなくなる。

これだけ換金部位があるという事はそれだけ魔物と頻繁に出会っている事をさす。

我ながら運悪いな~などと気の抜けたようにヘタレ込むハールにハザンが肩に手を添えた。



「後少しで街に着く。それまでは辛抱しろ」



ハールを激励(?)しつつも街を目指すハザン。

勘弁してと内心泣き言を言いながらもその背中を追っていく。

そうしてしばらく歩くハザン一行。

すると目の前にはニュールよりも小さいが確かに街が存在した。



「やっと…」



ハールが内心狂喜しながら街の方によろよろ歩いていく。

ソールとルーナも嬉しそうにハールの後ろについていく。

こうして四人はニュールの街より北にあるウニーの街足を踏み入れた……。





     ★★★





街の中はニュールと違い石造りよりも木造の方が多いような気がする。

この街はどこか少し寂れていて、他の街より暗い雰囲気があった。



「……バランではこれが当たり前なんです」



意外そうな様子のハールにルーナが付け加える。



「バランは基本無法地帯です。故に街には盗賊が何度も入るので……」


「……なるほどね」



全くえらいところだな~とハールは心の中で苦笑い。

さっさとこんな危ないところは離れようと胸に秘めた決意をさらに固くする。

四人が真っ先に向かったのはこの街のギルド。

重くなったそれぞれの荷物を軽くする為に。


ギルドを目指す途中で街を見渡していたが、人々はどこか疲れたような印象を抱かせる。

植えられている花も荒れていたり、花瓶には日々が入っていたりと荒れている雰囲気も多く見られた。



(……この街の人も苦労しているんだね……)



同情の念を抱きながら歩き、目的地であるギルドにたどり着いた四人は立ち止まる。

そして目の前のギルドを見据えては、そのまま入り口に入っていった。



「すまないが換金をしたい」


「かしこまりました」



ギルドに入るや早速受付まで行き、ハザンは換金部位を全て預ける。

その量に多少戸惑いながらも受付の女性はカウンターの奥に向かった。

しばらく経つとギルドの受付用の白と黒をベースとした服にしわを作った受付嬢が戻ってきた。



「お待たせしました。換金部位は全部で金貨二枚と銀貨三枚です」



汗を多少掻きながら金を渡す受付にハールは申し訳なく思う。



(アレだけの量の部位をこんな短時間で捌くんだから苦労したんだろうね……)



相手したのは主にランクC以下。

それが金貨二枚と言うのだからそれだけ部位の量も凄まじいといえる。

今度からはもう少し気をつけようと思うが、何に気をつければいいのか分からない為、もういいやと丸投げた。



「それとここらに…………はいないだろうか?」


「ええ…!? …………ですか……?」



ハザンが声を小さくして受付と話している。

声の量はハールでの良く聞こえないと分からないものであったところを見るとどうやら他の人にはあまり聞かせたく無い話なのだろう。



「――はい。しばらく前からこの街に滞在していらっしゃいます」



受付が先ほど以上に真剣に答える。

緊張感からかピリピリしてるようにも見えた。



(……父さんの探している人ってかなりやばいんじゃ……)



場所が場所だけにかなり不安になる。

それを抑えるように二人に癒されようと目を向けるが、ソールとルーナは掲示板の方にで情報を集めているようだ。

しっかりしてるな~と我が事のように鼻が高いと思ったが、急に虚しくなってきた。



(僕……まさかの役立たず?)



寂しいな~と態度に出してみるが三人は気付くことは無かった。



「さて行こうか」


しばらく時間が経ち、ハザンが掲示板で情報を集めていた二人を呼ぶ。

それと共に二人もハザンに近づきハールに寄る。



「……? どうしたハール?」


「別に……」



自らを仲間はずれのように放って置かれ、ハールは多少拗ねてしまう。

しかし、ここでそんな態度を取れば後ろを歩く少女達以下になってしまう。

赤ん坊の仲間入りはごめんだとすぐに表情を元に戻した。



「……でわかったの?」


「ああ。この先の宿屋に部屋を借りてるらしい」


「そう……」



やっと終わる……さっさとこの危険地帯から逃れたいハールは何かの事が起こる前に用事が済む事を願う。


……しかし大抵こんなことを願うと昔の英雄が言っていたフラグというものが成立しまうのである……。


ギルドを出たとたんに周りが騒がしくなり、一人の若者が走ってきた。



「大変だぁ!! 盗賊が来たぞ~~~~~~!」










――マジですか……?





読了ありがとうございました。

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