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漆黒の風  作者: ST
二章 災厄の予言
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4話 感謝

ソールとルーナが旅に加わって五日ほど。

四人は今、バラン地方の街道を少しそれた草原の中をゆっくりとした歩調で歩いている。

辺りは夕焼け空の真っ赤な光に照らされ、草原の草や花は風に揺らされ、四人の髪も靡く。



「そろそろ休むか」


「そうだね…」


「ハール様! ならあそこが空いてるよ!」


「私は食事の用意をしますね」


「……そんなにしてくれなくてもいいのに」



五日前、あれから宿屋に戻って何とかハザンを説得することに成功した。

二人はニュールの街で正体を晒したので次の日には早々に街を離れ、四日ほど歩いて現在に至るのである。



「ハール様! 早く食べようよ」



ソールが砕けた口調でハールに微笑む。

髪の毛はボサボサから脱して、綺麗な肩ほどまでの髪になっている。

五日程行動を共にするにつれて二人ともハールとハザンに慣れてきたようで、ソールの場合はどうやら少女らしい口調になってきた。



「……ソール。ハール様にそんな砕けた感じでは……」


「大丈夫だよルーナ。ルーナもソールみたいに接してくれて大丈夫だから」


「ですがハール様……」



ルーナは尚も食い下がる。

どうやらルーナは元々がこんな性格のようで、ハールもそれは既に理解しているつもりだ。

元々ソールとルーナはどこかの国の貴族のお嬢様であったらしいのだが、“紋章持ち”である証拠の紋章が身体に現れ、知るや否や僅かな金を二人に握らせてバランに送りこんだようだ。



(僅かながら金を持たせているところを見ると……。もしかしたら親も捨てる事に躊躇していたのかな?)



ハールはある程度時が経って、自分の事が済んだら二人の親を探して見ようかと二人に説いた。

しかし二人はハールから離れたくないと涙ながらに訴えてきて、今の所はそのつもりは無かった。



(それでもいつかは二人は巣立つのかな……)



そんなことを考えている時、どうやら食事の用意が出来たらしく少女二人がハールの手を握って席に着かせる。



「ハールも中々やるじゃないか」


「……父さん」



ハザンが僅かにニヤニヤしながらハールを茶化す。

ハールは多少息をつきながら、目の前の食事にありつく。

目の前に在るのは先ほど狩ったバッファロウの肉。


このバッファロウもそうだが、やはりニュールの街を出てから街道を歩くにつれ、ネクスゲートを目指している時程ではないが、何匹もの魔物に襲われたものである。

しかしそのたびにハール達は殲滅していったのだが。



「でもさ……まさか二人が魔法を使えたなんて……」



ハールが少女ら二人を眺めながら、意外を完全に表情に出す。



「昔、多少教わりまして……」


「その後二人で頑張って練習したんだよ!」



ここ間で来るのにソールが使用したのは“系統魔法”の妨害魔法と“属性魔法”の炎。

ルーナが使用したのは治癒魔法と水の“属性魔法”であった。

三年間の間に多少教えられた程度らしいのだが、この二人は既に戦闘に使えるほどになっている。



「こんなに幼いのに……か。おそらくこの子らはかなりの魔道の才があるのだろうな」



ハザンも珍しいものを見たような顔をする。

しかし、この二人が魔法を使って戦闘できるのにも理由はある。

それは至って簡単なことである。

何故ならここは無法地帯なのだから。


二人がここで暮らすにはこの魔法の力が必要不可欠であった。

バランでは盗みや暴力は頻繁に行われる。

ソールとルーナには働く術が無いのだから当然盗みをするしか無い訳である。

だから、盗んだ後に逃げおおせる為や自衛の為にも二人は魔法を使っていったわけである。


二人のそんな苦労話を話を聞いていると、いつしか食事が終わり、四人は夜営の準備に取り掛かることにする。

辺りは既に夜になりかけていた為、この草原で夜を過ごす事に決めたのだ。



「ハール。木の枝を集めてくれ。ここで火を起こそう」



何時もは辺りを照らすのには光魔法を定期的にかける必要があったのだが、今はソールの炎魔法がある。

便利なもんだとハールは感心しつつ、木枝を集める為に腰を上げた。



「ハール様。私も手伝います」


「私も行く!」



ソールとルーナもハール同様立ち上がり、ハールについていく。



「ハールも隅におけないな……」



ハザンは二人に慕われるハールの背中を見送ってハザンはそんなことを呟いた。





     ★★★





焚き火が周りを照らしている頃には既に辺りは夜の静寂に包まれていた。

ハザン曰く、明日に着く小さな街に探している人が滞在しているらしく、それが真ならば、用が終わればこのバランを出る事になっている。



「……まだバランでも生きてるね。僕」


「ハール様? どうしたのですか?」


「いや、なんでもないさ」



誰にも聞こえない呟きの範囲で声を出した筈。

耳がいいなと思いながらもルーナに無表情である顔を向ける。



「ハール様……」



するとソールがハールの瞳を見つめて真剣な表情を作る。

このとき、何事! と心の中でふざけて見たが何だか虚しい気持ちになった事は将来誰にも話さないだろう。



「どうしたのかな?」



ハールは笑顔(無理に作ったせいで歪な事になっているが)を作りながら両隣に座る二人の頭を撫でる。

ハザンは既に寝ているので、焚き火を正面に受け座っているのは三人だけであった。



「……ハール様は“紋章持ち”の私達に優しく接してくださいます」


「それが何でかな、と思って」



さすが双子……息ぴったりだとか心の中でほざいてみるハール。

しかし二人の表情は真剣そのもの。

これは真面目に答えて方がいいなと現状を再確認して答えを言葉にするように頭で文を構成する。



「そうだね~。上手くいえないけど……僕も小さい頃に母さんが死んじゃったから……。何か二人の事が他人に思えなくなってね」



とどのつまり二人は自分の妹のようなものだと、ハールは二人に語った。

そんなハールに嬉しそうにしながら、時折少し物足りないような表情をする二人。

その後も他愛の無い会話を続ける三人だが、時間も大分過ぎてしまった。



「さて二人ともそろそろ寝ようか」



ハールは近くにあった大きな岩に寄りかかっては座り、バックから取り出した薄い毛布を羽織る。



「ハール様……」



そんなハールに近づいては顔を少し赤くしながらもじもじするルーナ。

そんなじれったいルーナに多少呆れて、それでも頬が何故か薄っすら赤いソールがハールに近寄り…



「ハール様……。一緒に寝ちゃダメ……?」



ぐっは! ハールは撃沈しかけた。

二人の上目使いはハールを屈服させるのには十分な威力を秘めていた。

僕の馬鹿…ハールは心の中で自分を殴って(勿論痛みは無い)ハールは二人に微笑む。



「そうだね。固まった方が暖かいしね」



そう固まった方が暖かい。

べ、別に二人の妹の照れた姿があまりにも可愛いからって訳じゃないからね!

ハールは冷静を装ってはいたが心の中はハリケーンが暴れていた。


しかしそんなハールの心情など知りもしないソールとルーナはソールがハールの右にルーナが左に寄り添い、三人で一つの毛布に包まる。

そんな二人にまるで小動物を見るような目で「可愛いな~」と心に浸透させる。

そうしていると不意に二人はハールの腕に抱きつき身をさらに寄せるではないか……。



(本当に妹が居たらこんな感じなのかな……?)



ハールはそんな事を思いながら二人を眺める。

すると二人がおもむろに口を開いた。



「私達はハール様に拾われる前は生きろ事だけに必死でした……」


「毎日辛い生活を送って、食べ物とか寝る場所とかを探してた……」



そうだろうね…二人に最初に会ったときを考えればそんな事は容易に想像できる。

二人はその時の事を思い出したのか僅かに身体を震わしていた。



「でも……」



そんな時ソールが顔を上げる。

その顔には薄っすら涙が目に溜まっているように見えた。



「ハール様と会ってから、私達は生きている事が楽しいと思えるようになりました」


「私達はハール様と出会えてホントに良かったと思えるよ」



二人は強くハールの腕にしがみつく。

そんな二人に真剣な顔付きで聞き入っていたハールは次の二人の言葉に目を丸くした。



「私達を連れて行ってくれて……」


「ありがとうございました!」



伝えたい事は伝えたと二人は安心からかハールの腕に顔をうずめてはすぐに寝息を立て始めた。



(誰かに感謝された事……しばらく無かったかな~)



今まではハザンの命に従って動いてきた事が多い。

故に自分に感謝が向けられてもそれは自らの父に言われたように感じる事が多かった。

そんなハールに幼い少女からたった今、純粋に感謝されたのだ。



(……嬉しいのかな?)



ハールは自分が今ある感情が喜びをさすのか分からなかったが、胸が温かく感じるのは決して錯覚ではないと思う。

ハールは二人の寝顔を眺めながら微笑み、自らの脳を休ませる状態を心良く迎えるのであった。






読了ありがとうございました。

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