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漆黒の風  作者: ST
二章 災厄の予言
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2話 “紋章持ち”の双子

無表情を保つハールは実は……。


「やっと着いた……」



街道を歩くハールは疲れたように足をよろめかせて歩きながら、目の前にあるネクスゲートの姿にホッと一息ついた。

ハールとハザンがここに着くまでにかかった日数は三日。

それまでただひたすら街道を歩いたから疲れた……と言う訳ではなかった。


その街道を歩けば、魔物から襲いかかられ、夜営の準備の最中にも襲われ、朝起きたら既にハザンが魔物と戦っていたなどと安心して過ごせる時間が皆無なのであった。



(どんだけ魔物が居るのさ……)



ハールはここまで歩いてきた草原を思わせるような街道を振り返り、溜め息をついた。

実際、今まで旅した中で最も魔物と出会った頻度が多いのではないかとハールは何かに八つ当たりしたくなる。



(僕らのおかげで魔物はかなり減っただろうね……)



誰かに感謝されても良いんではないか……。

ハールは二度とこの街道は通らないと決死の覚悟を持って誓った。

……勿論、帰りにもこの街道を通らないといけないのだが。



「ハール。そろそろ行くぞ」



一代決心を決めるハールを横目にハザンがネクスゲートに向かい歩き出す。

そんな自らの父の背中をハールは追った。



(それにしても……)



改めてネクスゲートを見渡すハールは密かに感嘆する。

何十年もの年期の入っているような威風堂々とした石造りの門。

所々に傷や壊された壁の一部、修復した跡などが見える。

おそらく長い年月、この無法地帯のバランと他の国を繋いでいるのだと思うと感慨深い感情が生まれる。



「すごいね……」


「ああ。すごいだろう?」



ハールが思わず呟いた言葉はどうやらハザンに聞こえていたようだ。

少し自分に呆れつつも、このようなすばらしい門は初めて見たので仕方ないかと納得した。



「ホントに……これがつい数年前・・・に出来たって言うんだからな……。老朽化が早いものだ」


「――――…………へ?」



しかし、ハールのこのネクスゲートに対する尊敬のような気持ちは一気に取り払われた。

ハールはハザンの言葉が聞き間違いではないかと疑う程にその意味が信じられないものであったのである。



(これでたった数年……!? どんだけバランって危ないの!?)



傍から見れば数百年経っていてもおかしく無いほど傷ついている。

しかし、これが建ったのは数年前だとハザンは言う。

それはつまりバランの治安の悪さを示していた。



「まだまだこれは序の口だ。ここは入り口だけあって安全だからな」


「……父さん、帰ろう!」



魔王の城を前にして従者のハールは怖気出す。

しかし、勇者はそれを許さなかった。



「何を言っているんだ……。ここまで来たんだ。諦めろ」


「――僕はまだ死にたくない!」



本格的に城を拒絶するが勇者の強引な「来い!」を前にして、しぶしぶ門を潜るしかなかった。



「傍から見たらしっかりした古い門なのに……」



ぐちぐち言いながらハザンの後ろを歩くハール。

見渡す限りが石で出来ていて、歩くたびにコツコツと良い音を立てていく。

そうして二人が門をくぐり終えると…其処にはニュールの街が姿を現した。

大勢の人がレンガなどで作られた道を歩いていて店に赴いたり、買い物をしている姿が見える。



「ここら辺は他の街とそんなに変わらないね」


「そうだな。まあここはバランに入ってくる人などが多いから、バランの中でもまともの方だと思われる」


「つまり他はそうじゃないと……?」


「そういうことだ」



ホントに来なければ良かったと内心後悔しまくるハールだが、来てしまったものはしょうがない。

とにかく、さっさと用事を済まして帰らしてくださいと神様にお願いした後、ハザンと共に宿屋を目指す。



(……まともで良かった)



宿屋の姿を見ての第一印象はハザンの言った通り『まとも』であった。

こんな無法地帯の宿屋がどれほどのものか……あれやこれやと思い悩んでいたものが全て無に帰す程普通の宿屋である。



「さて、早く入るぞ」



ハールが「神様ありがとう……」と心の中で土下座しているところにハザンが宿屋に入るように促す。

そうして入った宿屋の中は、所々に花瓶、絵画などが置かれていて、これまた普通の宿屋。

さすがにここまで普通だと、ハールも何か特別な……この際過激なものでもいいので何かを求めてしまう。



(……何かつまらないな)


「……? どうしたハール?」


「――いや、何でも」



さすがにつまらないとは言えず、慌てて「ホントに何もないよ?」とハザンを誤魔化す。

それこそ文句を言おうものならその場でシバキあげられるかもしれない。



(父さんが切れたら恐いんだぞ……!)



誰にとは言わず心の中で、昔のわがままを言っていた時を思い出しながら顔を引きつらせていく。

彼は15歳なのだが、未だにトラウマになっている出来事であった。



「父さん。ちょっと街の中を覗いてくるよ」



しかし、やはりこの宿屋の中で退屈に時間を過ごすような無駄な消費は避けたい。

ここは最もらしい理由で抜け出すのがベストだとハールは策を打って出た。



「そうだな。では行って来ていいぞ」



その言葉と共に無表情に…内心では「ひゃっほう!」とか叫びながら頷く。

……ハールは顔こそ無表情を保っているが、内心では中々のお調子者であったのだ…。



「じゃあ言ってくるよ」



ハールは受付で部屋を取ることを自らの父に丸投げ、荷物を部屋に運ぶのも丸投げ、街の人ごみに紛れていく。



「さて。旅の準備でもし直しますか」



あちらこちらに使えるものが在るかどうかを探しつつ、ハールは道を歩く。

辺りを見れば武器屋や防具屋、装飾品店や飲食店などそれなりに種類は豊富である。



(……ここより先は地獄。ならばここでしっかりしとかないとね)



僕は今まさに崖っぷちに建っているのだ。(勿論、ハールの中で)

下手をしたら盗賊に襲われる、身包みを剥がされる、焼かれて食われる。(焼かれて食われる事はまず無い)

準備を怠れば僕の先にあるのは破滅の二文字なんだ。(無論、被害妄想)


そういう訳で、ハールは今まで以上に慎重に品物を選ぶ。

周りからは、「子どもなのにしっかりしてるな」と堂々とした姿に感心する声が上げられているが、内心ではかなりビクビクと怯えていた。

……ハールは顔こそ無表情を保っているが、内心ではかなり心配症であった…。


そうして街の中の店を見て周りつつ、道を進んでいく。

そんな時、ハールの目の前に人だかリが出来ていた。



「――――なんでこんなところに……」


「こっちに来るな!」


「二匹も……。なんて不吉な……!」



口々に街の人が悪態をつくような声をあげる。

新手のパフォーマンスかな、と能天気にも程がある考えを抱きつつも人だかりの中に入っていく。

……そして前の方に行くと、何と其処には二人の幼い少女が立っていた。


一人は金髪金目の、まるで太陽を連想させる姿をしていて、もう一人は銀髪銀目のまるで月のようなイメージを持たせた容姿をしている。

だが、二人の姿は肩ほどまでのボサボサの髪をしていて、服装は汚れた布を羽織っているだけであり、周りからはまるで恐怖の対象のように見られていた。

ハールは状況がまるで理解できなかったのだが、人が口々に言っている事でなんとなく理解する。



「――――“紋章持ち”」



……二人の左腕にはそれぞれ紋章が描かれていたのだ。


あちらこちらから二人を街から追い出すように「“邪神の子”!」と野次が飛ばされる。

それを受けている二人には瞳に光を失っているかのような様子でずっと其処に立っていた。

そんな様子を見て、ハールは段々と苛立ってきた。。



(二人ともあんなに幼いじゃないか……)



それなのにそんな子どもに本気で恐怖して、死ねとまで言う大人達に情けなく、また怒りを覚えていく。

……そして遂に限界が来た。


ハールは無表情のままで、どんどんと前に行き、遂に人だかりの先頭に来た。

良く見れば二人とも足からは血が出ており、体は痩せ細って肌の色は驚く程白かった。

あんな様子では放って置けばおそらく後何日かで死んでしまうだろう。

そんな少女を見捨てられる程、ハールは薄情ではなかった。



「さっさと出て行け!」



一人の男がそう言い放ち、少女に向かい大き目の石を投げた。

少女達は腕で顔を覆い、そのダメージに体を備えた。


……しかしそのダメージは何時まで経っても来ることが無かった。

少女二人は恐る恐る顔を上げる。

すると其処には、一人の少年が石を手で捕まえ、自分らを庇うように立っていた…。


「おい! どういうことだ!?」



そんなハールの姿に緑のベストを着た一人の茶髪の男が怒鳴る。

しかし、そんな事などハールは気にせず二人に駆け寄る。



「大丈夫?」



ハールとしては当たり前の言葉である。

目の前にこんな死にかけの状態の少女が居るのだ。

故に安否を確かめる為に当然のように訊ねる。

しかし、“紋章持ち”である二人からしてみれば、自分の心配などされたことが無いので、その言葉は現実味の無いものであった。



「――――……大丈夫です……」



銀髪の方の少女が力なく答えた。

ハールはとにかく宿屋まで連れて行った方がいいかと考え、とりあえず二人に簡単な応急手当を施す。

そんな様子に周りから……。



「……なんで“邪神の子”を!?」


「あの少年は人間の敵か!?」


「……邪神の使い……」



などとのたまっている。

そんな様子を横目に見ながらハールは二人の手当てを一通り済ますした。



「今から僕についてきて」



ハールは少女二人にこれからの動向を手短に伝える。

そんな青髪の謎の少年に戸惑いながらもこの状況を打開する為二人も小さく頷いた。

さてそろそろ行こうかな、とハールは伸びをして右手を空に掲げた。



「眩い光を。光眩フラッシュ



その詠唱と共に彼の右手が輝きだした。

辺りが眩しい光に包まれる。

そうして数秒たった後でその光が消えた。

その場で目を覆う人々は目を三人に向けて、丸くする。



「…………いない……」



……其処には既に三人の姿は無かったのであった…。





ハールの内面はこんなんでした。

読了ありがとうございました。

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