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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
31/123

最終話 そして旅立ち

ユスターヌ暦1345年。


バラン地方全域に噂が広まったハドーラ盗賊大襲撃より三年が経った。

そして今、一人の青年が旅立つ事になっていた。


場所はバラン地方の出入り口と称されるネクスゲートのあるニュールという街。

ハドーラよりは小さいが、あちらこちらに石造りの建物が多くありや、店の種類も品揃えしっかりしている。

さらに言えば道も舗装されている。

バラン地方においては立派な街と言えるだろう。


勿論理由もある。

バラン地方の出入り口と称されるこの街のネクスゲートからは毎回いろいろな国から来る人が入るし、また他国に行く人もここを通って行く。

無法地帯なので手続きなども不要である。

故に様々な人がここを訪れ発展していった。

よって、この街は一番バランらしくない街でもあった。



「みんな見送りありがとうな」



そんなネクスゲートで一人の青年が見送りに来ている仲間にしばしの別れを告げていた。

その青年は他には見ない程に珍しい黒髪黒目の持ち主である。

背は170を越えた程で顔の造形は中々整っている。

その青年は黒主体の白のラインの入ったシャツにベージュの長ズボンを履き、その上には紺色のロングコートを着ていた。



「当たり前でしょ! 仲間なんだから!」



そんな青年に赤い髪をポニーテールにした美しい女性が頬を赤らめながら青年の頭をビシっと叩く。

その身に纏うのは赤い長衣であり、その茶色の瞳で青年を見つめていた。


そう、何を隠そうこの集団はハラード盗賊大襲撃より成長した三年後のヤマト達であった。



「しっかし、ヤマトが一番遅く来たのに一番早く一人立ちするなんてなぁ」



赤いバンダナをつけた茶髪の青年、ザックが言葉を漏らす。

その顔付きはたくましいものに育っており、背もヤマトより若干高い。

彼も成長したものだ。



「まあ実際はサイ君も合格貰ってるけどね」



金髪碧眼美男である、ロイは苦笑しながらサイを見た。

ロイは男四人の中では一番身長は低いがその甘い顔には行き行く女性の視線を集めている。



「仕方ないだろう? じーさんが行くなと言うんだから」


「仕方ないじゃろう……。お前さん抜きでは成長したこやつらの面倒は骨が折れるのじゃ……」



アルの言い訳に肩を竦めるサイ。

彼はあれから一層に落ち着いた表情を浮かべている。

アルのセリフからおそらく彼が一番まともなのだろう。



それぞれザックは黒のジャケットの下に青のシャツと茶色のズボン、ロイは赤いマントを身に纏うように覆っている。

サイは黒のロングコートを黒のシャツと黒のズボンの上から来ている、全身真っ黒な服装は変わっていなかった。



「でもすごいよね~!」


「ヤマトさん、おじいちゃんと互角に戦ってましたから……」



水色の髪と瞳を持つソラと緑の髪エメラルドグリーンの瞳のフィーネがそれぞれ感嘆の声をあげる。

二人の服装はソラは白と黄色と青の混じった身軽な服に水色のマフラーを巻いていて、フィーネは緑の魔道士用のローブを羽織っている。


「はぁ……。ヤマトの超感覚能力マストはホントに便利だったのに……」



ソラの呟きには全員が肯定をみせる。

何せ、ヤマトの超感覚能力マストで戦闘以外の大抵の依頼は済むのである。(主に探し物系や採取系、相談系や追跡系の依頼)

他にも道に迷った時、寝る場所の確保、などなど。



「仕方ないだろう。ヤマトは記憶を取り戻さないとならないんだからな」



そのことは皆重々承知である。

しかし、どうしても別れとなるとやはり悲しくなるのだ。

特にセラは表情には出さないようにしているが、内心では引っ張ってでも止めたかった。



「ヤマト……。ホントに行くの?」



セラが上目遣いで最終確認。

それにヤマトは一切の迷い無く答えた。



「まあね。もう決めたことだし」



ヤマトも皆と別れるのは辛かったが、それでも躊躇はなかった。



「そう……」



セラはそんなヤマトを見て諦めたのか、深い溜め息をついた。

そして、ヤマトに近づいてある物を手渡した。



「これは……?」



それはセラと同じ赤い星型の首飾りであった。



「セラ~。まさかおそろい選んだ?」


「な……ち、違うわよ!」



顔を真っ赤にさせてソラに何故か怒鳴る。

しかし、ソラはニシシと笑ってからかっていた、彼女の度量も中々のものになったようである。

セラは言葉が見つからず、頬を膨らませてそっぽを向いた。

ヤマトはそんな光景を見ながら貰った首飾りをかけて、セラに微笑んだ。



「ありがとな。大事にするよ」



素直にそう言われて、セラの顔はさらに赤くなった。

耳まで赤くなるセラは身体を変な踊りを踊っているような感じで慌てふためき、最後には下を向いた。



「また会えるよね……?」



セラは少し涙目になりつつヤマトに訊ねる。

それにヤマトは笑って返した。



「当たり前だろ? それにセラ達もじっちゃんから合格もらえれば一緒に旅も出来るだろ?」


「――そうね。そうよね!」



その言葉と共にセラは調子を取り戻したようである。



「じゃあ行ってくるよ。みんなまたな!」



そうしてヤマトは踵を返しネクスゲートを通ろうとする。



「――――待って!」



すると突然セラは駆け出し……ヤマトに抱きついた。

後ろから抱きつかれたヤマトは転びそうな状態になるが、何とか踏ん張った。



「いきなりどうしたんだ!?」



ヤマトは驚いたような表情で顔をセラに向ける。

そんなヤマトにセラは一言。



「行ってらっしゃい」



ヤマトは目をパチクリさせる。

セラにそんな事を抱きつかれながら言われるとは思わなかったからである。

だが、意味を把握するとセラに再度笑いかけた。



「ああ、行ってくる」



セラの頭を撫でながらそう言った。

そしてセラは寂しそうに離れながら「それでよろしい!」と一言。

そしてアル達の場所まで戻っていった。



「さて、いくか!」


……そうしてヤマトはネクスゲートを通っていった。






     ★★★





「まずは今年、武道大会があるらしくて有名なフィーリアに行って見るかな」



街道を歩くヤマトの次の目的地は三大国の一つフィーリア王国。

そこには三年に一度武道大会が開かれ、様々な人が集まってくる。

そこならば良い情報が手に入るかもしれないとヤマトは胸に期待を抱いた。


ヤマトは初めて歩くバランの外に感動しながら漆黒の髪を靡かせて街道を進んでいった。



……しかし、その後ろからは白い毛皮の獰猛な狼、危険度Bのキラーウルフが獲物と見定めて後をつけていたのだ。

キラーウルフはそのままヤマトに気づかれないようにゆっくりと近づいていく。

そして、射程範囲内に入った獲物……ヤマトに今まさに飛び掛った。





     ★★★





「行っちゃったねぇ……」


「そうね……」



ヤマトが出て行った後もネクスゲートで立ち尽くすセラ達。

やはりヤマトが旅立った事に寂しさを覚えていて、全員がそんな表情になっていた。

そんな時、ザックがこの空気を変えるべく、話を振った。



「そういえばセラ! さっきヤマトに抱きついてたよな!?」



ニヤリと笑いながら言ったザックを初め、セラに皆が含み笑いの表情を向けた。



「確かに……」


「大胆でした」


「やったねセラ!」



そんな感じで口々に話を盛り上げていく。

ちなみにセラは「そ、そんなんじゃない!」とか「べ、別に他意はないわよ!」とか「勘違いしないで!!」など、講義しているが皆の耳には届いていない。


そんな状況に最早諦めて溜め息をつくセラ。

そんな事よりも今しがた旅立ったヤマトの事が気になる……。



(なぜか女性との縁がありそうなのは気のせいよね……?)



セラはなぜか心底不安になった。

あの鈍感男が女性の影を持つ事が無いと思えるが、あれでかなりお人よしである。

この六年でそれが十分理解できたセラだからこそ、一層不安に駆られた。


さらに言えば面倒ごとに良く関わる体質なようで、危険なことは避けられないだろう事もまた容易に想像できた。



(こうしちゃいられない!)



危険なことに自ら首を突っ込もうとしているヤマトを放っては置けない。

セラは昔に誓った決意をもう一度、胸に秘めるのだった。



(私はヤマトの力になる。だから待ってなさいよ! すぐに追いついてやるんだから!)



セラは早速今日の修業の時間を倍にしようと考えた。


……すべては自分を救ってくれた自らの英雄にまた会う為に……。






     ★★★





「へっくし! ――誰か俺のこと話してる気がする……」



盛大なくしゃみと共にそんな予感がしてくる。

それが的中しているところを見ると、案外、超感覚能力マスト無しでも十分な勘を備えているように思えるが。



「ともかく! 今からがホントの始まりだな!」



ヤマトは高らかにそう言っては街道を歩き始める。

彼が目指すはフィーリア王国。

そこで“奴ら”の情報を集める為に。


そうして紺色のロングコートを風で揺らしながらフィーリア王国までの道を進んでいった。





……そんなヤマトの背後には、今まさに一撃で真っ二つに切り裂かれたキラーウルフの無残な姿があったのであった……。










     一章 旅立ち     ===完===





第一章もこれにて終了です。

三十話以上と少し長くなりました。

最後のキラーウルフの件なんですが、これはそれだけヤマトが実力を付けたという事です。

とにもかくにも遂にヤマトが旅立ちました。

セラ達があっさりとヤマトを見送っていますが、実はその前にはヤマトが一人で旅立った理由となる事や、引き止めようとした事などもあったのですが、それは三章に回想として出したいと思います。

……ここまで言えば察しの良い方は分かると思いますが、次回の二章は『災厄の予言』、ヤマトとは別の主人公が出てきます。

勿論ヤマトがこの作品のメイン主人公ですが、この二章に伏線を張ってありますゆえに。


予告としてはヤマトの旅立ちから十一年前です。

この十一年前に未来に来る大陸戦争に関わる重大な事件が発生します。

その中心を歩くのは一組の親子です。

一章で登場した者も数人出てきます。


というわけで長々語りました。

二章更新は今から一週間ほど空けます。

あと一つ、人物紹介も入れときますので。

それでは一章をお読みして頂きありがとうございました。

感想、評価をくれると嬉しいです。


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