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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
29/123

28話 信頼

盗賊大襲撃編もこれにて終了です。

ここはガラン地方の有数の街であるハラード。

しかし、其処に幾つもの盗賊団が結託してハラードに大規模な略奪を仕掛けた。

だが、元SSランクホルダーの“魔道王”と現SSランクホルダーの“戦乙女”の活躍により、盗賊団のほとんどが壊滅。

これによってバラン地方でも後の歴史に刻まれる程の盗賊大襲撃事件は幕を閉じたのである…。





     ★★★





そんな事件が終わった時に、人々が街の外に非難した所為で全く人気の無い大通りを一人の少女が走る姿があった。

その少女は赤い髪を黒の髪留めで結んでポニーテールにしていて、服装はピンクのラインが入ったシャツに茶色の太もも辺りまでの短パンである。

そんな彼女の美少女とも言える顔は今は歪んでいて、茶色の目には涙が溜まっていた。



(また…)



彼女、セラはひどく怯えていた。

何に怯えているか…それは自分がアルに拾われる前に向けられていた視線を自分の仲間から向けられることである。


今までいつかは見つかってしまうのではないかと怯えていた事が現実となってしまった事、さらにはこれから向けられるであろう怖れの視線。

様々な恐怖がセラの心を蝕む。


それだけにあの場に居るのが耐えられなくなったのである。

あの場から走り続けたセラは息を切らして立ち止まる。

いつしかセラは街の公園のような広い芝生の上に立っていた。



(どうせ私は…“邪神の子”よ…)



“邪神の子”というのは“紋章持ち”の別名である。

“邪神の子”と呼ぶことはすなわち“紋章持ち”であるその者の人としての存在を否定する事を意味している。

セラ自身昔は何度もそう呼ばれては村や街を追い出され、ある時は石を投げられ、ある時は見世物にされる事もあった。


そんな生活をしている時にセラを拾ったのがアルである。

アルはセラを“紋章持ち”と知りながら迎え、優しく接してくれた。

自分が他の悪党に利用されないようにと監視の意味も込めてだが、それでもアルの優しさはセラにとってとても暖かいものであった。


最初は戸惑い拒絶していた仲間との関わりも今では信用できる程になっていた。

しかし、その仲間とも今日でお別れだとセラは悟った。



(みんなに知られた…。もうここには居られない…けど)



セラは端の方にあった一つの大木に身を預け、顔を両腕で隠すように覆って座り込む。

頭では一緒に居られないと分かっていてもどうしても心はそれを拒絶してしまう。

セラは涙を流しながら天に祈った。



「――みんなと離れたくないよぅ…」


「…別に離れたくないなら離れなければ良くね?」


「え………?」



セラは涙で濡れるその顔を上げた。

其処には漆黒の髪と瞳を携えた、紺のロングコートを靡かせる少年が立っていた。



「別に離れる必要なんて無いと思うけど?」



ヤマトはもう一度、さっきよりも口調を和らげて言葉を吐き、セラに手を差し伸べた。

セラはそんなヤマトに何が起こったかわからないと云った表情をして困惑する。



「なんで…」



セラにはヤマトのここに居てもいいと言ったことが理解できなかった。

“紋章持ち”は邪神を復活させることが出来る唯一の存在。

勿論複数の人数はいるが、結託して邪神を復活させることも、また利用されて復活させることも可能性としてはゼロではない。


故に“紋章持ち”は世間一般的に必要の無い、むしろ居てはならない存在であった。

そしてそれはセラも嫌々ながらも同じ意見である。

世界を滅ぼす可能性がある子どもが居れば、誰でも恐れる事は当たり前であるのだから。



「私は“邪神の子”よ! そんな私が居て良い訳ないじゃない!!」



セラはやり場の無い感情をヤマトに向ける。

セラ本人も八つ当たりに過ぎないと分かっているが、それでもヤマトの手を叩いて胸倉を掴み、涙を流すその瞳でヤマトを睨む。

しかし、ヤマトはそんなセラにも平然としていた。



「じゃあセラは邪神でも復活でもさせる気か?」


「…………………!」



いきり立つセラに平然とヤマトは言い放つ。

セラはその表情に、その言葉に我慢が出来なかった。

セラはヤマトの胸を思いっきり殴った。

辺りに鈍い音が響き、ヤマトは少しばかり呻く。



「なによ! 私が邪神を復活させるとでも思ったわけ!? そんなにそれが恐いなら私から離れればいいじゃない! 何で追ってきたの!? 私は一人になりたかったのに!!」



セラはもの凄い剣幕でヤマトを睨んだ。

そんなセラをヤマトは見つめ返す。



「でもセラはさっきみんなと離れたく無いって言った」


「そ、それは………」



セラはそこで口篭る。

セラ自身は勿論ヤマト達とは離れたく無い。

しかし“紋章持ち”と知って、果たして今まで通りに接する事が出来るであろうか。

セラはそれを否と取った。



「だって…。戻ったって! みんな私の事を避けるに決まってるじゃない!!」



セラは一番恐れている事を吐き出した。

みんなに避けられるのが恐い。

それならいっそどこかに行ってしまいたい。

それがセラの本音だった。


ヤマトは下を向いて地面に涙を零すセラに一歩近づく。

そしてヤマトは…セラの頬をはたいた。



「っ………」



セラはそのまま後ろによろめき、はたかれた左の頬を擦る。

一瞬状況が理解できなかったがすぐに何が起きたかを理解した。



「何すんの「ふざけんな!!!」え……?」



セラは勢い良くヤマトに掴みかかろうとするが、ヤマトの怒号に阻止された。



「俺達がそんなに信用ならないか!? 言っとくけど俺はセラが“紋章持ち”だって事ずっと前から知ってるんだよ!!!」


「え………」



セラはヤマトの言葉に驚愕した。

なぜなら今まで自分が隠してきた事がバレていたというのだから。

そして、その後に態度に表さなかったヤマトにも…



「じ、じゃあなんで…」



意味がわからなかった。

自分が“紋章持ち”と知っていても尚、自分に近づいてくるヤマトに。

理不尽な言葉をぶつける自分に近づいてくるヤマトに。



「セラはセラだから!」



その答えはまさにその一言であった。

セラは戸惑い困惑したようにヤマトを見るが、ヤマトはセラに言葉を繋げた。



「セラは“紋章持ち”でも邪神を復活させることはしない!」


「なんでそんなことが言えるのよ…!」



セラは呆れながら、理解できないといった表情で首を振った。

しかし、ヤマトは一切躊躇わずにセラに言った。



「セラを“信頼”しているからな」



その言葉と共にセラの体が固まった。



「俺はセラを“信頼”しているから。だからセラが恐いなんてある訳ないだろ?」



ヤマトはセラがそんなことをしないと迷い無く断言する。

その瞳にはセラから見ても疑っていない事が容易に分かるほどに強く輝いている。

セラはその時、自分の中での時間が止まった。


セラは今までヤマト達の事を“信用”はしていた。

しかし、それは“紋章持ち”だと知られていない事が前提であった。

故に“信用”はしていたが“信頼”はできない。

それがセラの本音であった。


しかし、ヤマトはセラの秘密を知ってなおかつセラを“信頼”していると言った。

セラはそんな思考に我に返り、ヤマトの漆黒の瞳を見つめる。

何度見てもその言葉に嘘がないと思わせられた。



「ホントに…ホントにヤマトは私が居てもいいの…?」



セラは自分が決して望めないと思っていた願いを口にする。

今までそれはアルとカーラにしか言えなかった。

さらに言えばこの二人はセラを他の邪神復活をもくろむ者などに利用されないように監視するという役割の下でセラを傍に置いているとも言える存在である。

よって純粋に“信頼”しているという理由だけで自分の存在を認めてくれるのは初めてであった。



「当たり前だろ? だからセラも皆を“信頼”してみろって!」



そうしてヤマトは振り返りその先を見るようにセラに促す。

セラは首を傾けつつ先を見据える。

すると其処には見知ったメンバーが走ってきていたのである。



「セラ~~~~~~~~~!!!」


「セラちゃ~~~~~~ん!!!」


「ちょっ…!」



走ってきたメンバーの中でソラとフィーネは特に全力ダッシュで駆けつけ、セラに飛びついた。



「セラ!!! なんで言ってくれなかったの!?」


「そうですよ! そんなに私達が頼りになりませんか!?」


「え………?」



セラはまたしても困惑する。

この二人は自分を恐れるどころか涙を流して自分に抱きついてきたのだ。



「二人は…私の事恐くないの…?」


「確かに最初は戸惑いましたよ! でもセラちゃんはセラちゃんです!!」



二人に飛びつかれ、地面に尻餅をついているセラは二人の言葉に呆気をとられる。

そんなセラにロイとザックも近寄ってきた。



「はっはっは! いや~最初見たときはマジでビビったぜ!」


「最初に言ってくれれば良かったのにね」



この二人もセラを拒絶することは無くいつも通りに接してくる。



「全く。世話が焼ける」



済ました顔でやれやれと首を振るのはサイ。

サイもなんだかんだで追いかけてくれたようである。



「セラちゃん」


「…ラーシア」



最後に追いかけてきたのはラーシア。

仲間を失ったばかりの筈の彼女も、自分に怯えた表情を向けた彼女も走ってセラに寄って来たのだ。



「セラちゃん…。正直に言うと私は“紋章持ち”が恐い…」


「…………………」



ラーシアはセラに寄っては自分の本音を打ち明ける。

それにセラは寂しげな表情を浮かばせる。



「でもね…」



するとラーシアはセラに微笑みかけセラの頭を撫でてきた。



「セラちゃんはセラちゃん。“紋章持ち”かどうかなんて関係ない事を知ったわ。だからセラちゃんさえ良ければ友達になりましょう」



ラーシアの言葉に驚きながらもすぐに涙を目に溜めながら頷く。



「ええ!」



二人はお互いを見合わせ微笑んだ。


するとすっとラーシアはセラの傍に行き、口をセラの耳元に当てる。

なんだろうと驚くセラにラーシアはこそこそと話しだした。



「実はね、私達は最初突然の事にひどく戸惑っていました。でもね、そんな私達にヤマトが言ったの…」



――セラはセラだろ! “紋章持ち”とか関係ない! それに俺はセラを信頼している!!!



「…てね。」


「ヤマトが…」



セラにヤマトのことを伝えウインクする。

それを聞いてセラは頬を朱に染めながらもヤマトに視線を向ける。

当の本人はセラの気持ちは伝わってないらしく、片手を振ってセラに笑いかけるだけである。

しかし、いつもならセラは不貞腐れたようにそっぽを向くのだが、今は感謝の気持ちが大きすぎてニコっと笑顔を向けた。



「後でお礼を言わないとね」



セラは一人呟く。

この時に彼女の闇は完全に払われたのだ。

そんな彼女らを後ろから微笑ましく見つめるアルとカーラ。



「どうやら無事解決したようじゃのう」


「ええ。まさかセラがあんな笑顔をするとは…。昔では考えもできなかったでしょうね」


「成長の証じゃろうて」


「そうですね」



二人は子ども達の成長を感慨深く思いながら子ども達を見守る。


……これにてハドーラの大襲撃の舞台裏も完全に幕を閉じたのであった…。





     ★★★





「今日はいろいろあったな~~~~」



今は夜中、場所は宿の寝室である。

あれからミドルとダニルの死体を埋めたりザックがカーラに何度も突撃したりといろいろあった。

中でも一番印象に残ったのはあの後のセラの言葉である。



――ヤマト。ありがとう。私ヤマトに会えて本当に良かったと思ってる。



そう言いながらヤマトですら眩しくて直接見るのがとても難しいくらいの笑顔を向けてきた。

その時のヤマトが思わず慌てながら赤面し目線を逸らせて、それを見たソラがニシシっと笑っていたのが鮮明に思い出せる。



(あのときのセラ…。なんて言うか、綺麗だったな…)



そんな事をふと思うヤマト。

しかし、自分で思っていて恥ずかしくなり頭を掻く。

その時、部屋の外で誰かの足音が聞こえた。



(誰だろう…)



ヤマトは部屋の扉に近づき、ゆっくり音を立てないように扉を開く。

するとアルとカーラの二人が階段を下りるところが見えた。



(何処に行くんだろうな…)



気になったヤマトは忍び足で二人を付けてみる。

そうしてヤマトを含めた三人は夜の闇に消えていった…。





ついに一章も残すところ後二話程になりました。

次回は「強くなる為に…」それぞれが今回の戦いを省みて、強くなる事を決意します。

読了ありがとうございました。

感想、評価をくれるとうれしいです。

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