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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
28/123

27話 終局へ

ここはバラン地方の中でも有数の大きな街ハドーラ。

其処に住む人々の数もバランの中では一、二を争い、街も無法地帯にしては驚くほど発展している。

さらにここには冒険者も多く訪れ、さらには傭兵なども警備をするよう金で雇われている為、普通盗賊でもこのハドーラを略奪対象にすることは今までに一度たりとも無かった。


…いままでは。



「なんでハドーラに盗賊が!!?」


「知るか!! ともかく避難しないと…」


「何処にだよ!! 出入り口二つは盗賊が居るんだぞ!!」


「ああ…。どうすれば…」



今現在ハドーラの街は盗賊による大規模な略奪にあっていた。

もしこれが、たかが一つや二つの盗賊団だけが街に攻め込んできたのならば、すぐに警備に取り押さえられているだろう。

しかし、規模が違った。


何十もの盗賊団が結託してハドーラの街に足を踏み入れたのである。

街は破壊され、家や建物は燃やされていて、人々は必死になって盗賊から逃げていた。

今や街は混乱の極みであった…。





     ★★★





――嘘だ…。



セラは目の前の光景を信じられないと首を振る。



――嘘だ嘘だ…!



セラは自分の頭を抱えて蹲る。

この悪夢が一刻も早く覚めることを願って…。



「ヤマトォォォォォォォォォォ!!!!!」



ザックの叫び声が聞こえるがセラにはどうでも良かった。

なぜならセラにとってこれは夢以外の何者でもない。

いずれこの悪夢は覚めるのだから悲しむ必要なんてないのだ。

夢から覚めたらまたヤマトと他愛も無い話をするのだ。

故にセラは目の前の光景が目に入らないように蹲る。

…しかし、これは夢ではなかった。



「ヤマト! しっかりしろ!!」



ザックはヤマトを思いっきり揺らす。

ヤマトの今の状態は肩から横腹にかけての深い傷から大量の血が流れていて、その瞼は重く閉じられている。

ザックは何度もヤマトを呼ぶがどうやってもヤマトの目が開く事は無かった。



「嘘…だろ…」



次第にヤマトの体が冷たくなっていくのが分かる。

それはヤマトの死を暗に告げていた。



「ヤマ…ト………?」



いつまで経っても夢が覚めず遂にセラが現実に目を向ける。

だが、その現実は彼女にはあまりに辛かったのかも知れない。

目は虚ろで生気は無く、まるでこの世の絶望を見ているようであった。



「ヤマト………」



セラはゆっくりと横たわったヤマトに近寄り、その身体に触れる。

そして何度も身体を揺らすがヤマトに反応は無かった。



「これで邪魔は消えた。後はお前らには取引の為の人質となってもらうだけだ」



その光景を白髪の男は不気味に口を吊り上げて見下ろしていた。

それでも今のセラには男の言葉など耳には入ってなかった。



「何で…こんな…」



ラーシアは次々と見知ったものが倒れていく光景に力無く座りこんでいた。

ザックも何度もヤマトの名を呼ぶが、やがてそれを放棄していく。



――いやだ…。



セラは虚ろな目に涙を溜める。

何度揺らしても、何度呼びかけても前のように笑いかけてはくれない彼の姿を見つめてる。



――いやだ…!



事が済めばまた八人で旅をする筈であった。

また昨日の花火のようなすばらしいものを一緒に見る筈であったのだ。

それが出来ないことにセラは力いっぱいの拒絶を示した。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」



セラは絶叫した。

目に溜めた涙を滝のように流し、ヤマトの名を何度も口にする。

それでもヤマトが起き上がる事は無い。

そのままどんどんと身体が冷えていき、最早手の施しようが無かった。


…そんな時、セラの周りを強い風が纏った。

セラの赤い長衣が風で飛び、ピンクのラインの入った白いシャツの胸に、赤く光る星型のペンダントが姿を現す。


……そしてその瞬間、露になったセラの左腕の紋章が輝いた…。





     ★★★





「なんだ!!?」



ザックが目の前の光景に目を見開く。

セラの左腕の“何か”が光ると同時に大量の魔力がヤマトに送り込まれている。

そして、ヤマトの傷が少しずつ消えていく。

そのまま何秒か経った後には深い傷は完全に消えていた。



「――――うん…。俺は……?」



傷が完治すると同時にヤマトが目を覚ます。

それを見てセラは顔を輝かせた。



「ヤマト…!」



涙を流しながらセラは首に手を回しヤマトに抱きつく。

死んだと思わせられた現実が一変した。

セラはその奇跡に心から感謝する。


…セラは声をあげて泣き出した。



「えっと~…」



ヤマトは普段の彼女からは想像できないような行動に移され、戸惑う。

とりあえず、頭で状況確認をしながらセラの頭を撫でることにした。



「まさかな…」



そんな時、白髪の男が驚いたような表情をしながらセラに赤い眼光を向けていた。



「“紋章持ち”…」



ラーシアは口をポカンと開けながら一言そう呟く。



「セラが…マジかよ…」



ザックも驚いていたようで信じられないと首を振っていた。



「セラ…左腕が…」


「……………………」



ヤマトはセラが紋章持ちであると知っているので、「早く隠さないと」と言おうとしたのだが、そのことを知らないセラは怯えた目つきでヤマトを見て、その身を放す。

ヤマトはその時にセラの瞳から周りからの拒絶の視線という恐怖に怯えていることを悟った。



「紋章持ちか。面白い」



そんなセラに白髪の男は剣先をセラに向けた。

男は完全にセラに狙いを定めたようでその表情はまたもや不気味に笑みを浮かべたものになっている。



「人質にはそのバンダナのガキ一人で十分。二人揃って死ね」



その言葉と共に男は加速魔法で目にも止まらぬ速さで二人に向かう。

突然の事に反応が遅れたヤマトは急いで刀を構えるが遅く、すでに男が目の前でカットラスを振り下ろしているところであった。


ヤマトは心の中でまたもや死を覚悟した。

だが、男の剣がヤマトに届く事は無かった。



「これは…?」



男のカットラスは突然ヤマトとセラを包んだ半透明の防御壁に遮られたのである。

男はヤマトと距離を取る為に大きく後ろに跳ぶ。

何が起きたか分からない二人は困惑するが、後ろにいつの間にか立っている人物の姿を見て心から安堵することになった。



「わしの子ども達を傷つけたのじゃ。それだけの覚悟は出来ておるんじゃろうのう?」



…其処に経っているのは白髪でローブを纏う老人。

髭を擦りながら殺気を込めた視線を青い瞳から男に送り、膨大な魔力がその周りに漏れ出ている。


……“魔道王”アルフォード=セウシス、その男は三十六年前の英雄であった…。





     ★★★





一方街では東側から入って来ていた盗賊は駆逐されていて、そこから住民は避難している最中である。

反対に街の西側では未だに盗賊が雪崩れ込んでいた。



「頭ぁ! 東の奴らはやられたらしいですぜ!」


「ちっ。なら俺らで街を落とすだけだ!!」



大柄のいかにも盗賊らしい格好をした男は街の西側の門から街に入ろうとする。

それが適わない事にも気付かずに…。



「話を聞いてみればこんな事になっていたとは…」



その言葉と共に電撃が迸る。

男の後ろの方では叫び声がして何人かが倒れこむ音が聞こえた。



「何者だ!!」



盗賊達は一斉に後ろに目をやった。

すると其処には金髪でエメラルドグリーンの瞳を所有する美しい女性の姿があった。

その女性は赤いコートを身につけ、その下には銀の簡単な鎧を纏い、長い青いズボンを履いていている。左手には赤い指輪がはめられ、右手にはレイピアが握られていた。



「こ…こいつは!!?」



何人かがその姿に目を見開く。

女性は確かに美しい顔立ちをしているが、盗賊達が驚いているのは其処ではなかった。



「なんで“戦乙女”がここに!!?」


……彼女の名はカーラ=フィーリ、SSランクホルダーの一人である…。





     ★★★





「まさかこんなに早く対峙するとはな…」



白髪の男は表情を崩さずにアルを見据える。

アルは強烈なプレッシャーを放ちながら男を観察するように見ていた。

その周りに纏っている魔力はとても衰退した老人とは思えないものである。



(まずいな…)



男は無表情を貫いていたが、その心境は決して穏やかではなかった。



(ここで殺り合うのはまずい)



男とアルが戦えば十中八九に男の負けが見えている。

合い討ち出来れば良い方であった。

そのことから男は撤退を決めた。



「悪いが俺はここで引かしてもらおう」



男はローブを翻して踵を返す。

その足取りは軽く、まるで引き際はここだと確信しているようである。



「待てよ!!」



ヤマトが男を呼び止めようと叫ぶ。

ヤマトは当然、男を逃がそうとは思っていなかった。

この男には聞かねばならない事があるからである。



「お前、俺のことを知っているのか?」



ヤマトが聞きたいことはまさにそこであった。

この男は何故かどこかで見たことがあるような気がしてならなかった。

さらに男は先ほど気になる発言をしたのである。



「“黒の民”ってなんだよ!?」


「…お前、自らの事を知らないのか?」



ヤマトの発言に目を丸くした男はヤマトに目をやる。

だが、男の視線の隅の方ではアルが臨時体勢を取っている。

一刻もアルの下から離れたい彼は去り際に名乗っただけであった。



「俺の名はシード。次に会った時は死を覚悟しておけ」



そして男はその場から消えた…。



(加速魔法を…。“奴”もいい部下を持ったのう)



空気を読まずにうっかり感心するアル。

それだけシードという男の加速魔法の質が高いといえた。

そんな事を思ったアルだが、ふと視線を周りに向けて…溜め息をついた。

今は当初の問題が山積みであったのである。



「まずは街に入った盗賊を追い払わねばのう」


「おじいちゃん!」



アルがそう言った直後、ソラ、フィーネ、ロイ、サイがアル達に駆け寄る。

四人とも所々に傷や痣があったが無事なようであった。

そのまま走ってくる四人…その動きがピタッと止まった。

そして、ロイが震えたように口を開いた。



「セラちゃん…その左腕って…」



ロイがセラの紋章を指差した。

他の三人もそれを見て口を押さえた。



「ふむ…。その話は後じゃ。まずは盗賊を…」


「それは既に済んでいます」



アルが今度こそと口を開けた瞬間に誰かが近づいて来た。

金髪のロングヘアでエメラルドグリーンのやや吊り上った瞳。

赤いコートの下に銀の鎧を身に付け、青の長いズボンを履いている。

その女性がアルに近づき頭を下げた。



「お久しぶりです。師匠」


「カーラ、遅かったのう」



そんなカーラに優しい笑みを浮かべてアルは出迎える。

カーラは再度会釈してサイの方にも向いた。



「久しいな、サイ」


「――まあな」



凝視しないと分からない程ではあったがサイも若干頬が緩んでいた。



「え? え?」



その様子にソラとロイとフィーネが目を泳がす。



「どうしたんだ?」



ヤマトは目の前の人物が誰であるかということより三人の様子の方が気になったのである。

すると驚愕を隠せない様子の三人はカーラという女性に指を指した。



「だって……ええ!?」


「この人を知ってるのか?」



ヤマトはこの女性を見たことが無い。

だからこそ、知っているようなこの三人に訊ねたのだ。

その言葉を聴いてソラがヤマトに物凄い勢いで詰め寄った。



「ヤマト知らないの!!? “戦乙女”カーラ=フィーリ、現在のSSランクホルダーにおいて三人の中の一人よ!!?」


「へ、へ~~~…。すごいんだな~~~…」



ソラの勢いに若干うろたえつつもカーラに目をやる。

その容姿は凛々しく美しいものであった。

雰囲気も覇気があり、隙が全く無い。

確かに強いとヤマトは思った。

その時、なにかが物凄い速さでヤマトの隣を駆け抜けた。



「なんつ~美女ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



そう、言わずもがなザックである。

そのまま素早くカーラに近づき胸にダイブ!


しかし、考えて欲しい。

カーラのコートの下は銀の鎧である。

そんなものに頭から飛び込めばどうなるか…。



ゴッチーーーーーン!



当然頭を強くぶつけた。



「…この馬鹿は」



頭で星を回転させるザックを引きずってはサイはそれを奥に投げ捨てた。



「ふふ。私が抜けてからの間に大分増えたな」



そうやって辺りを見回すカーラ。

そこでふと蹲っているセラを発見する。



「セラ、久しいな」



しかし、セラは返事を返そうとしない。

相変わらずか、と苦笑するカーラに“あるもの”が目に入った。



「セラ、左腕が…」



カーラもセラが紋章持ちであることは知っている。

しかし、ここに居るもののほとんどはそれを知らない筈であった。

だからこそ、セラの瞳はこれから向けられるであろう視線に恐怖を隠しきれなかった。



「まさか、セラちゃんが…」



そんな時、亡きミドルとダニルの遺体を横に並べておいたラーシアがセラに目をやる。

セラはラーシアの目をチラッと見た。

そのときのラーシアの目にあったものはやはり怖れであった。



(また…)



セラは他の仲間にも目をやる。

みんなそれぞれ驚愕の表情を浮かべている。

しかし、ヤマトの目は見ていない。

いや、見ることが恐かったのだ。



「っ………!」



セラはその場に居る事が耐えれなくなり、駆け出した。



「セラ………!」



背後でヤマトの声がしたが、セラは立ち止まらない。



(誰もいないところに…)



セラはそうして街の大通りを駆け抜けた。





読了ありがとうございました。

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