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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
26/123

25話 闇波動

今回はサイに頑張ってもらいます。

ここはバラン地方の中でも有数の大きな街ハドーラ。

其処に住む人々の数もバランの中では一、二を争い、街も無法地帯にしては驚くほど発展している。

さらにここには冒険者も多く訪れ、さらには傭兵なども警備をするよう金で雇われている為、普通盗賊でもこのハドーラを略奪対象にすることは今までに一度たりとも無かった。


…いままでは。



「なんでハドーラに盗賊が!!?」


「知るか!! ともかく避難しないと・・・。」


「何処にだよ!! 出入り口二つは盗賊が居るんだぞ!!」


「ああ…。どうすれば…」


今現在ハドーラの街は盗賊による大規模な略奪にあっていた。

もしこれが、たかが一つや二つの盗賊団だけで街に攻め込んできたのならば、すぐに警備に取り押さえられていただろう。

しかし、規模が違った。


何十もの盗賊団が結託してハドーラの街に足を踏み入れたのである。

街は破壊され、家や建物は燃やされていて、人々は必死になって盗賊から逃げていた。

今や街は混乱の極みであったのだった…。





     ★★★





――皆さんこんにちは。


俺は無類のモテ男、ザックです。


いや~参った。


俺って何処まで流されるんだってねこれが。


参りに参りまくってるぜ。


かれこれ三十分は人の波に乗ってんじゃね?


だがしか~し!


嬉しいこともある事に気づいちまった。


この人ごみの中、女の胸やら尻やらが当たるんだよな~。


え…? 


そんな事考えている場合じゃないって?


バカヤロウ!!


こんなチャンスに他の仲間の事なんか考えてられっか!


どうせ皆俺のことなんか考えてないだろ~し、助けてくれね~んだろ?


今の俺には友情より性欲だ!


そういうわけで触ってもバレないんじゃね?


俺触っちゃおうかな?


いや待てザック。


女性の許し無しで触るのは…別にいいよね!


こんな状態だし。


良し、意を決して手を伸ばせ! 俺!


ん…?


な、弾かれただと…!?


やっぱ走って逃げてる最中触ることは難しいか…。


さすがにこの人数の人ごみの中じゃ満足に動けねえし…。


いや待て、諦めるなザック!


ここで諦めるのは男じゃねえ!


楽園エデンはすぐ其処なんだ!


良し、もう一度!


………ガシッ!!


よっしゃ!


握ったぞ!


ああこの固い感触がたまらな………固い?


ん…?


良く握ればなんか違うな…。


なんつ~か…握手してる時みたいな感触?


ん、じゃあ俺の握ってるのって手?


これは一体誰の…。











「ザック! やっと捕まえた!」



ヤマトはこの瞬間が来るまでにかなりの奮闘を見せていた。

ヤマトは身体強化魔法をかけ、逃げ惑う人々を無理やり掻き分けて何とかザックの近くまではこれたのだが、手を伸ばしても一向に届かないでいた。

このままでは…そう思ったときザックも自分に気づいたのか、その伸ばした手を掴んでくれたのだあった。



「ザック! 助けに来たぞ~!」


「な、ヤマト!? なんでここに!?」



あれ、気づいたから手を伸ばしたんじゃないのか? と首を傾けるヤマトだがそんな些細な事は今はどうでも良かった。



「ザック! 今から引っ張るから、お前も頑張れ!」


「ヤマトゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」



助けが来た事に涙を流しながらザックはヤマトの引っ張る方向に力を込めて歩き出す。

しかし、流れは強くヤマトは一生懸命にザックを引っ張るが、中々思うように行かない。



「ヤマト…」



そんな時、ザックはおもむろに口を開けヤマトに言った。



「こんな時はあれだ。前にお前が口に出した奴…」


「そうだな…」



ザックの意図を汲み取ったのか、ヤマトとザックは同時に大きく息を吸い込む。

そして辺りの悲鳴をかき消す程の声を張り上げた。



「ファイトォォォォォォォォォォ!!!!!!」


「いっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!!!!!」



――前言撤回! 友情ってすばらしい!!!





     ★★★





「ちっ…。中々やるな」


「それは此方の台詞だ」



ヤマトとザックが感動の再会を果たしている頃、入り組んでいる街の裏道では、サイは黒ローブにフードを被った全身黒ずくめの男との戦闘を行っていた。



「ならこれはどうだ?」



サイはロングソードを構えて駆け出す。

それに反応して男も斧を振り上げ、サイに向かって放った。

しかしサイはそれを避けて、身体を回転。

そのまま遠心力を剣に乗せ振るった。



「ほう…」



しかしローブの男はそれを斧で防ぐ。

だが、防いだ後の一瞬の隙をついたサイの蹴りには防ぎきれずそれを腹で受け止めた。

しかし、男の身体は鍛えられているようであり、サイの蹴りに怯まず斧を振るってきた。



「面倒だな…」



サイはそれを屈んで避けては再度剣を振るった。

それを斧で受け止め後方に男が下がる。

その追撃として男の懐まで走りこみ剣を何度も振るう。


しかし、男も剣を振るわれるごとに斧で防ぎ、隙を突いてはサイに仕掛ける。

それを避けるサイはさらに剣で切りつける。

金属音が両者が何度もぶつかる度に辺りに鳴り響く。

そうしてしばらくそれが続いた後、両者は後ろに下がった。



(――この男、中々できる。気を抜けばやられるな…)


(――こんな小僧がここまでやるとはな…)



互いが互いを睨みつけ、武器を構えてその場に立ち尽くす。

それから両者はにらみ合うだけで一歩も動かないでいた。



「………!」



しかし、その均衡も長くは続かずにサイが動いた。



「はあ!!」



サイは思いっきり跳躍し、男に剣を叩き付けた。

その瞬間、大きな金属音と共に男の体勢が揺らいだ。



(今…!)



そして隙を見せた男にサイがそのまま長剣を振るおうとして…



(………!?)



後方に思いっきり飛んだ。



「…おいおいこんな時に」



サイは自分の持っているロングソードに目をやった。

すると、その愛用のロングソードはひびが広がって根元から上がぽっきりと折れて落ちた。



(…折れやがった)


「…お前も剣が無ければ何もできまい。おとなしく殺されろ」



男はその光景を見て、少し驚いて見せるがこれは好機だとすぐに斧を構える。

一方のサイは顔を顰めてその折れたロングソードを見つめている。

そして、はあと溜め息をついては使い慣れたその剣を道に放り投げた。



「…仕方ない。まだ使った事は無いが試してみるか」



そうして腰から取り出したのは先日に銅貨一枚で貰い受けた剣心が薄い紫をしているロングソード、ガノン№24.。



「もう一本持っていたのか」


「そういうことだ。さて…、行くか」



ロングソードの黒色をした柄を握ってはそれを構えて、サイは男に斬りこんだ。

対する男もそれを待ち構え、サイと男は何合も打ち合う。

しかし、まだそのロングソードの扱いに慣れてないせいか、徐々にサイが押され始めた。



(このままじゃまずいな…)



男の振るった斧を避け、そのまま後方に下がる。



(…アレを試してみるか)



そしてそのまま距離をさらに取った。

するとサイはロングソードを両手で持って意識を集中する為に目を閉じていった。



「何の真似だ?」


「ふん。知りたいのなら見せてやる」



サイは集中をさらに研ぎ澄ませ…目をゆっくり開いた。



「――――どういうことだ…?」



首を傾け、疑問を持ったのはサイである。

先日あの武器屋の店主の言った通りに魔法を行使した筈であったサイだが、何故か魔法が発動しなかったのである。



「まさか…」



サイは何かを思いつき急いで柄にある蓋をとり、スロットの中身を確認した。

すると…



「――――魔石が……無い……だと…!?」



サイは驚きで目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。

自らの目で空のスロットの中を確認したサイは盛大に舌打ちした。

だが、すぐに落ち着きを取り戻し現状の確認を試みた。



(――つまり魔石は別売り。ちっ…、聞いてないぞ。しかも今のままでは此方に不利ときたか。仕方ない)


「悪いが引かせてもらう」



サイは現状を確認した後、踵を返し魔石を探す為に逃走。

今現在盗賊に街が襲われているのなら、魔石を売ってるところまで行って一つ拝借する事ができるだろう。

故に一時戦線離脱を図ったのだが…。



「逃がすと思うか?」



当然、男はサイを追いかけだした。

逃げるサイに追いかける黒ローブの男。

サイは自分の不甲斐無さに笑いたくなってきた。



「ふっ………」



サイはその口元を不気味に吊り上げた。

さらにサイの瞳はどこか狂気じみたものになり始める。


サイとしてはこんな間抜けな理由で敵から逃走を図り、だが逃げ切れずに追いかけられるというこの失態は許しがたいものであった。

それもこれも全部はあいつのせいだ…。


この瞬間、サイの中の何かが切れた…。





「あんのクソ店主ぅ! ぶち殺してやらぁぁぁぁぁぁ!!!」





     ★★★





「あんのクソ店主ぅ! ぶち殺してやらぁぁぁぁぁぁ!!!」





「――――ねえ。今の何かな…?」



盗賊の一人と一戦交えたソラ達三人は仲間との合流を果たす為に、なるべく盗賊に見つからないように街の大通りを避けて裏道を通っていた。

途中、使えそうな飛び道具やら、フィーネは魔力切れになった時でもブレスレットは使えるようにと魔石をいくつか拾って街の門まで行こうと試みていたのだが、不意に恐怖で立ち竦んでしまいそうな、それでいて張り裂けんばかりの怒号が聞こえてきたのである。



「ねえ、あれって…」


「サイ君の声のような…」


「いや…、そんなまさか…」



三人は困惑していた。

なぜなら今聞こえた声がサイの声にとても酷似していたからである。

しかし、あの冷静なサイがこんな怒号をあげることがあろうか、いやあるまい。

ブンブンと首を振り、聞こえてきた声の主の存在を否定しようとする三人。



「とにかく急ごう」



三人は気を取り直して足を動かそうとする。

すると何処からか足音が此方に近づいてくるのが聞こえた。



「…誰か来る」



足音がだんだん大きくなっていく。

三人はそばにあった大きなタルの後ろに身を隠し、足音の人物を確認する。

そして、現れたのは…


「「「出たぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


「誰が出た、だ」



その者は短い銀の髪にそれと同じ色の瞳を持っていた。

そう、足音の主はサイであった。



「あ、いや、ちょっとあって…」



先ほどの怒号の事もあり、サイに対してビクビクする三人。

そんな彼らにサイは哀れな目で見つめるばかりである。



「そ、そういえば! どうしたの? そんなに慌てて」



先ほどの疑問を払うべく、違う話題を出してソラはサイの様子に首を傾ける。

普段のサイならこんなに足音を立てる事無く走っているだろう。

しかし、そうしないというのはよっぽど慌てているのだろうと三人は考えた。



「ああ、少しあってな」



サイの意味ありげな言葉に三人はさらに首を傾げる。

そんな時、また誰かの足音が聞こえてきた。



「ちっ…。俺は今敵に追われてるんだが、誰か魔石を持ってないか?」



サイの言葉に真面目な顔付きに変わる三人。

何故ならサイの発言は戦闘が近づいている証拠であったのだから。



「あります!」



フィーネはここに来るまでにいくつか拾った魔石の一つを取り出し、それをサイに渡した。



「すまない」



それを受け取り礼を述べるサイはそのままスロットの蓋を外し、中に魔石をセットする。



「ふっ。これで奴に目にモノみせてやれる」



口元を吊り上げ不気味に笑うサイ。

そんな彼に三人は戦慄を覚えた。

そんなことには気にも止めず、サイは目を閉じ、意識を集中させる。

その時だんだん足音が大きくなり、遂にローブの男が姿を現した。



「もう逃がさんぞ」



男は息も乱さずにそのまま斧を構える。

サイの後ろにいる三人は構えるが、サイが手を上げてそれを静止する。



「ふん。くたばれ」



そして目を開けたサイはロングソードに魔力を集めた。



「魔道具による魔法か…!?」



男が少しばかり驚くように一歩後ろに下がった。

しかし、それでもすぐに落ち着きサイに向かって駆け出した…が



「遅い!」



サイの魔力の準備が先に整った。

サイはそのままロングソードを振り上げ、詠唱…魔法を唱えた。



「闇の波動よ剣より放て。闇波動ダークバースト



そしてサイにより振り下ろされたロングソードから放たれたのは斬撃のような闇の波動。

その威力は凄まじくそのまま男に向かい直撃した。



「があ…!」



そのまま闇が男を巻き込みながら地面にぶつかり、小爆発を起こしては辺りが砂煙に覆われる。

その破壊力はサイの想像を凌駕するものであったのだ。



「「「…………………」」」


「…おい。なんだこの威力は?」



三人はかなりの威力であった闇の斬撃に口をあんぐり開けてる。

サイも三人ほどではないにしろ、目の前で起きた光景に目を見開いていた。



「さ、サイ君! 加減しましたか!?」



珍しくフィーネがサイに突き掛かる。

それに首を傾けるサイ。

スロットから魔石を取り出すようにとフィーネの指示に従いスロットの蓋を開けると…中から粉々になった魔石が砂のようにボロボロこぼれてきた。



「魔石の限界量を超える程の魔力を魔方陣に染み込ますなんて…」



フィーネが驚きに満ちたように呟いた。

本来魔法陣に溶け込ませることが出来る魔力は魔石分に限られている。

そして今使ったのは市販でも売っている魔石であった。

要するにただの魔石でこれだけの威力を誇るということは、魔石の限界量を超える魔力を魔方陣にサイは溶け込ませたということである。



「つまりサイ君は魔法操作と魔力変換にかなりの適正があるとおもいます…」



そう締めくくるフィーネにサイにふむ、と考えふける。

そして、少しばかり微笑んで見せた。



「つまり俺もまだ強くなれると言うことか。事が済めばじーさんに魔法を教えてもらうか」



そう呟くサイに、三人は冷や汗を流す。

今ですら七人の中ではヤマトぐらいしか太刀打ちできないのに、これ以上強くなられればそれこそ他の五人の立つ瀬が無い。


だが、サイはそんな三人の胸中など知らずに颯爽と裏道を進んでいく。

三人も顔を引きつらせながらそれを追いかけた。

そうして四人は裏道を再び進みだしたのであった。





     ★★★





ここは街の西側の街道。

そこを歩くのは、一人の金髪の女性であった。

その格好は赤いコートを身につけ、その下には上半身を覆う銀の鎧を纏っている。

長くきっちりした青いズボンを履き、腰にはレイピアがかけられていた。



「ちょっと待ちな!」



そんな女性に不意に五人程の盗賊が寄って来た。

そのどれもが大きな剣や槍、斧などを持っている。



「この先はもうすでに俺らの者になりつつある。通行料を頂こうか。…体でな」


「久々に上物ですねぇ」



盗賊の五人が下品に笑う。

確かにこの女性は絶世の美女であった。

目は大きくやや吊り上っていて、鼻筋はしっかりとしている。

しかし、この五人は襲う相手を間違えてしまった。



「この先は貴様らのもの…か。事情を詳しく話してもらおうか?」



その女性のエメラルドグリーンの目が五人を捕らえ、左手に付けられている指輪が赤く光る。

そして彼女はレイピアを取り出して…消えた。


……後に残ったのは盗賊五人の横たわった姿だけであった。






某コマーシャルの台詞ですけど使って良かったかどうか、かなり不安です。

もしかしたら修正する必要があるかも知れないのであしからず。


読了ありがとうございました。

感想、評価をくれるととても嬉しいです。

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