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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
25/123

24話 動き出す影

あらすじがウザいと思われたらすいません…。


ここはバラン地方の中でも有数の大きな街ハドーラ。

其処に住む人々の数もバランの中では一、二を争い、街も無法地帯にしては驚くほど発展している。

さらにここには冒険者も多く訪れ、さらには傭兵なども警備をするよう金で雇われている為、普通は盗賊でもこのハドーラを略奪対象にすることは今までに一度たりとも無かった。


…いままでは。



「なんでハドーラに盗賊が!!?」


「知るか!! ともかく避難しないと…」


「何処にだよ!! 出入り口二つは盗賊が居るんだぞ!!」


「ああ…。どうすれば…」



今現在ハドーラの街は盗賊による大規模な略奪にあっていた。

もしこれが、たかが一つや二つの盗賊団だけで街に攻め込んできたのならば、すぐに警備に取り押さえられていただろう。

しかし、規模が違った。


何十もの盗賊団が結託してハドーラの街に足を踏み入れたのである。

街は破壊され、家や建物は燃やされていて、人々は必死になって盗賊から逃げていた。

今や街は混乱の極みであったのだった…。






     ★★★





ここは街の中央付近。

其処には少年一人と少女二人が一人の賊と戦っていた。

辺りは道が砕けていたり壁が砕けていたりと戦場跡のようになっている。

そんなとき、不意に少年が動き出して男に向かい駆け出した。



「はあ!」



ロイは目の前の大剣を持った男に向かい剣を振るう。

その速度は速いとは言えないが、大剣を扱っている男には防ぎにくい速度であった。



「ガキが!」



しかし、この男の力はロイの予想以上のものであった。

しかも目の前の男は自らの持つ大剣で防ぐのではなく豪快に振るい返してきた。



「うわぁ!」



それを紙一重で避けて後方に下がる。

若干よろけるがすぐに体勢を立て直して二本のショートソードを構えた。

すると後方から大きな声が聞こえてきた。



「ロイ! 伏せて!」



その言葉と共にすぐにしゃがむ。

すると二本の矢がロイの頭上を通って男に飛んでいく。

だが、男は大剣を地面に突き刺して自分の盾とし、その影に隠れる。

ソラの放った矢が盾となった大剣に当たり、そして弾かれた。



「雷の槍よ。雷槍弾サンダーランス



それを利用してかフィーネが男の死角から魔法を放つ。

しかし男は咄嗟に気づき、大剣を踏み台にしてそれを避けた。



「この人強い…!」



ソラは表情を歪ませながら目の前の男を改めて観察した。

身体は大きく身長190センチ程で、髪の色は白。

目の色は緑をしており、頬には傷がある。

服装は白のシャツの上から鉄の胸当てを身につけ、下は茶色いズボンを履いている。

身の丈が大きいにもかかわらず動きは鈍くない…正直にソラ達には相手取るのに中々厳しいものがあった。



「ガキが! さっさと死ね!!」



男が突き刺した剣を抜き、三人に走りこむ。

それを見てソラが弓を構えた。

その蒼い瞳で落ち着いて目の前の敵を見据えて…その矢を放つ。


しかし男は慌てる様子も無く、身を捻ってその矢をかわした。

だが、その瞬間にできた隙をロイは逃さなかった。



(いける…!)



この戦いが始まってから三人はまとめて攻撃するのではなく、一人一人が順番に攻め込み敵の隙を窺うという戦法を取ってきた。

ロイが攻め込みソラの弓を待つ。

ソラの弓でダメならそれまでに魔力を溜めたフィーネの魔法が。

またその逆も然り。

そうして敵の隙を見計らっていた。

そしてその隙が現れた…かのように見えていた。


「あめえよ!!」


男はそれを知ってか知らずか三人にわざと隙を作って見せた。

それに気づいたロイだが、気付くのが遅かった。



「ぐふっ…!」



男の左手から放たれた正拳に成す術なく、ロイは自らの腹に打ち込まれた。

ロイはそのまま二人の下まで吹き飛ばされ、痛みに呻く。



「ロイ君…!」


心配そうにロイに駆け寄るフィーネだが、その行動は甘かった。

男はチャンスとばかりに三人に向かい走り出す。



「くっ…!」



それを見てソラは慌てて弓を構えて矢を放つが、それはあっさりかわされた。

だが、それも当然で弓とは本来自らの気を落ち着かせ、集中してから放つもの。

こんな慌てた状態で放ったそれが当たるはずが無いのであった。



「死ね!」



三人に急接近した男はそのまま大剣を水平に撫でた。

それが死を誘うようにゆっくりと三人の首筋に向かってきている。



「まだだ!」



しかし、これに咄嗟にロイは飛びつき二本のショートソードでそれを受け止める…が。



「おらぁぁぁ!!」



男の力はとてつもなく、ロイが受けきれるものではなかった。

何とか身体を斬られないように両手に力を込めたが、威力は殺せ切れずそのまま後ろに吹き飛ぶ。



「があ…」



吹き飛ばされたロイはそのまま石造りの建物に背中を叩きつけられ呻いた。



「てめえらもだよ!!」


「きゃあ!」


「うっ…!」



さらに軽やかに一回転して男はそのまま二人の少女を蹴りつける。

二人は悲鳴をあげ、そのままフィーネは男の右に、ソラは左に吹き飛ばされた。

男はそれにニタリと不気味に笑ってみせ、ゆっくりと正面で呻くロイに近づいていった。



(このままじゃあ…)



ロイは震える足を動かし立ち上がろうとするが、それ以上足が動かなかった。

剣を握りしめながらロイは自分に近づいてくる男を睨みつける。

しかしそんなロイに男は何も気にせず、ただ一歩一歩と近づいていくだけであった。



「ああ…、どうすれば…」



男に蹴りつけられたとき、弓も一緒にどこかに飛んでいってしまい、ただ事を横になって見守るしか出来ないソラ。

何とか立ち上がろうとするが痛みに呻いてしまう。


しかし、フィーネは違った。

ソラがフィーネに目をやると苦しみながらも男に手を突き出し、そこから火の玉を放った緑の髪の少女の姿があった。



(…無詠唱魔法!)



ソラは目を見開く。

フィーネは確か簡単な魔法でも無詠唱は出来なかったはずであった。

しかしフィーネはありったけの魔力を手に込めてそれを放った。


魔力操作はあまりにも乏しく魔力変換もなっていない為、無駄な魔力を使ってしまったが、それでも炎弾ファイアはしっかり手から放たれ、男に一直線に向かった。

無詠唱により反応に遅れた男は回避を試みるが遅く、そのまま直撃。

男が呻く隙に何とか立ち上がり、ロイはソラの下に駆け寄る。

フィーネも足を引きずりながらソラの近くに寄っていった。



「フィーネちゃん。ありがとう」


「はい。それよりも…」


「げほっげほ…! 今の現状ってかなりやばいよね…?」



咳き込みながらソラが呟く。

今のフィーネの魔法は低威力のさらに慣れない無詠唱で唱えたものにより、男の体勢を崩す程度しか効果はなかったようであった。



「このガキ共が…!」



あと一歩のところで獲物を仕留めるのを邪魔された男は怒りで顔を歪ませて三人を睨みつける。

大剣をその場で何度も素振りしてはそれを三人に向け、構えた。



「…みんな立てる?」



ロイが二人に視線を落とし訊ねる。

しかし、二人ともは立ち上がってもよろめいて、とてもじゃないが戦うことは厳しい。

戦えるのは自分しかいない、そう思ったロイは自分の双剣を握り締めた。


その時、自分のショートソードにピシッと嫌な音が鳴った。

ロイは急いで自分のショートソードに目をやる。

すると其処には右手に持っているショートソードにひびが入っていたのである。



(これじゃあ長く戦えない…)



ロイはこの絶望的な状況の打開策を必死に考える。

敵は下級魔法を一発喰らっただけであり、対する此方はソラは弓がどこかに飛ばされ使えなく、自分は片方の剣にひびがある。


唯一まともに戦えるフィーネも接近じゃあ役に立たなく、足を引きずっている為、男が接近するまでに魔法を唱えることは一発が限界。

そしてその一発が避けられれば三人はあっという間に殺されるだろう。

しかし、やるしかないのも事実であった。



「フィーネちゃん…。敵に隙を作る魔法とかない…?」



単純な攻撃魔法なら男に避けられてしまう為、補助的な魔法で敵の隙をついて一発で仕留めるしかない。

そう考えたロイだが、フィーネは顔を俯かせ首を振った。



「ごめんなさい…。攻撃系魔法しか持ってないです…」



フィーネは属性魔法を重視して魔法を修業していた為、系統魔法を持っていなかった。

現状はもはや打つ手なし…絶望に打ちひしがれる三人であった。


…だが、フィーネが「あ!」と何かを思い出したように声をだした。



「あります! 属性魔法ですけど!」



フィーネは急に立ち上がり右手のブレスレットを擦った。



「この中に光魔法の光眩フラッシュが入ってるんです! これなら…」



フィーネは自分が魔法を唱えた瞬間ロイに男に向かい走って欲しいと言う。

それは一見自殺行為にも似た行動ではあった。

だが、どちらにしろこのままでは三人共殺されるのだ。

ロイはこれにすぐに頷いた。



(私…足手まといじゃん…)



それを見ていたソラはただ黙って見ていることしか出来ない自分に唇をかみ締める。

しかし、実際に弓を持っていないソラに戦う術はない。

力なくその場に座り込むソラ。

しかし、その時彼女の視界にはしっかりと映った。



(…! あれは!!)



ソラが視界に捉えたのは街の花壇の上に落ちている自分の愛弓であった…。






     ★★★





「いきます!」



フィーネはそのままブレスレットの手の甲側についている魔法陣に左手を添える。



「これで締めだ!!」



その瞬間男も三人に向かい走り出した。

男が大剣を振りかぶって此方に近づいてくるのを見据え、フィーネは右手を男の方に向ける。

そして、そのブレスレットに刻まれた魔方陣に魔力を流して、詠唱した。



「眩い光を! 光眩フラッシュ!」



ブレスレットに刻まれた魔方陣が淡い紫の光を帯びる。

そうして詠唱と共に放たれた魔法は光の小さな玉であった。

それとほぼ同時にロイも全力で駆け出す。

そしてその光の玉がフィーネの四メートル程前で弾けた。



「な…なんだ!?」



光の玉が弾けた瞬間、そこから眩い光が当たり一面に広がる。

それを目前で受けた男は溜まらず大剣を握っていない左手で目を覆った。



「今だ!!」



そしてそれが大きな隙となる。

その隙が生まれた瞬間にロイは背中に光を受けながら、男の首に狙いを定めた。

これで決まり…フィーネもロイも確かにそれを確信した。


…だが現実は甘くなかった。

背にあったはずの光はすぐに消えて、ロイは男が咄嗟に出した蹴りを喰らってしまったのだ。



(そんな…)



最後の攻撃が失敗したロイは今から来る惨劇が頭に浮かび、目を閉じる。

フィーネもその光景を目にして必死にロイに向かい叫ぶ。

男はニヤリと笑い、そのまま振りかぶった大剣をそのまま振り下ろそうとして…止まった。



「間一髪だったね…!」



ロイは目をあけると、其処には頭を矢で射抜かれた男がそのまま仰向けに倒れているところであった。

そう、ロイに迫る大剣を止めたのはソラであったのだ。


ソラはフィーネが呪文を唱えようとした瞬間、先ほど見つけた自分の弓に向かい全力で駆けた。

それを拾った瞬間に眩い光が辺りに広がり、そのときに弓を構えて光が納まるのを待つ。

そして光が納まったその時、男に狙いをつけ矢を放ったのだ。

男は目の前の光と迫るロイに注意がいき、ソラの矢には気づかなかったというわけである。


目の前の男を見据えて、死んだことを確認し三人はその場に安堵して座り込む。



「なんとかなったぁ~~…」



ロイは腑抜けた声をあげそのまま寝転ぶ。

フィーネは涙目になっていて、ソラはそんなフィーネに寄っては宥めている。



「はぁ~。この場にサイ君かヤマト君がいればここまで焦らなくても良かったのに…」



ロイは無いことねだりだと分かりつつも、ついついそう口走ってしまった。

ヤマトとサイは七人の中でも一、二の強さで、今までもアルとの実践でアルにかすり傷をつけられたのはこの二人だけである。

もし、ここにいてくれれば…そんな考えを抱きつつ、三人はその場からゆっくりと立ち上がった。



「…とりあえず移動しよう」



そして三人は賊に見つからないようにゆっくりと移動し始めるのであった。





     ★★★





「首尾はどうだ?」



黒ローブを着た白髪の男がフードを被った全身黒ずくめの部下に現状の報告を要求する。

するとその答えはすぐに返ってきた。



「今現在街のあちらこちらで賊共が暴れております。しかし、例の“モノ”が何処にあるかは今だわかりません」


「そうか」



街の薄暗い裏道を通りつつ、男は考え込む。

すると辺りを少し確認するように見た。



「もう一人はどうした?」



そして歩きながら赤い瞳を部下に向けた。

その鋭い視線に少し戸惑いを見せるが、言われた黒ローブの人物はすぐに持ち直した。



「現在何者かと戦闘中であるようです」


「なるほど。まあ腕も大したことは無いような奴だったからな。仕方ないだろう」


「それはあなた様が強すぎるのでは…」


「大して腕の無いような奴は“組織”にはいらん」



そのまま黙り込む部下を連れて、どんどんと裏道を歩いていく白髪の男。

すると、いつの間にか大通りに出ていた。



「…なぜここに?」



部下はフードの下から驚きの表情を隠しきれずに白髪の男を見つめる。

しかし、白髪の男は不気味に顔を歪ませ口元を吊り上げた。



「例の“モノ”のある場所が分からない以上仕方あるまい?」



部下はその表情に息を呑んだ。

男はそんな部下を気にも止めず一歩前に出る。



「今度は俺も出よう」



…その男は禍々しい赤い瞳を輝かせ、街の表舞台に降り立った。






読了ありがとうございました。

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