23話 それぞれの行方
今回は離れ離れになった皆がどうしているかが主です。
「てめえら!! 在るもん片っ端からぶん取れ!! それらは全部俺らの物になるらしいからな!」
「わかりやした!!!」
ここはバラン地方の中でも有数の街ハドーラ。
街の警備も他とは違って行われており、訪れる冒険者も多い。
しかし、そんなあるとき事件が起きた。
次々と襲いかかってくる物凄い数の盗賊。
それから逃げる街の人の群れ。
人は四方に逃げ回るが街の人口密度がその入り口に集中しているため四方に逃げても人ごみができていた。
その中で街の警護に当たるもの、また冒険者と思われるものは武器を取り出し盗賊と応戦している。
そんな中でもヤマトは…
「――どこまで行くんだよ~!」
…人ごみに流されるままであった。
★★★
「全く…。もう少し冷静に動けないのか?」
あの中でも最も冷静に状況を見渡すサイはいち早く人の群れから抜け出していた。
そして今はなるべく大通りを避けて街の裏道を通っている最中である。
(大通りはあんな混乱だしな。裏道を通る方がはやいだろ)
実際サイの思惑通り街の裏側には人が少なかった。
いや…一人も居なかった。
(盗賊も逃げる街の人もこぞって表通りか…。動きやすいもんだ)
僅かに呆れを含んだ笑みを浮かべてサイはそのまま一つ目の東側の入り口に向かう。
何故にサイが東側の入り口に向かうかにはしっかりとした理由が二つほどある。
一つはおそらくそこで冒険者または街の警備が盗賊と応戦していると踏んだからである。
その入り口を確保すれば、一旦外に街の人を避難することが出来るからである。
そして二つ目は…
(じーさんなら俺と同じ考えだろ。さっさと合流するに限る)
アルと合流できれば盗賊如きどうとでもなる。
故にサイはアルとの合流を望んでいた。
そんな考えの元で、サイは入り口に向かい走っていたのである。
「…ん?」
しかし、そんなサイの目の前に一人の人物が立ちふさがっていた。
その人物は黒いローブで身を包み、背中には斧を背負ってフードを被った全身真っ黒の人物である。
「こんなところにガキがいるとはな」
声色から判断して男であろうか。
その男がサイの姿を目に捉えては、背中に背負った斧を取り出した。
その男の動作に足を止めたサイも腰から使いなれたロングソードを握った。
「そこを通してもらってもいいか?」
「だめだ…、といったら?」
「――だったら力ずくしか無いだろ?」
男との会話からどうやら盗賊の仲間のようだと推測し、サイは武器を構える。
その動作に男も無言で斧を構えた。
(さっさと倒して進むしかないな)
「いくぞ」
そうしてサイは男に向かい駆け出した。
その行動を見て、男も斧を振りかぶる。
…そして両者は激突した。
★★★
「ちょっと、邪魔だって! どきなさぁぁぁぁぁい!!」
サイが黒ローブの男と激突している一方で、人ごみに流されていたセラは怒号と共に気合で人の波を掻き分け進み、何とか逃れたところであった。
「はあ…はあ…。鬱陶しいったらないわよ…!」
未だにパニックになっている民衆に向かって悪態をつくセラ。
その表情には呆れと怒りを含んでいる。
「とにかくヤマト、あんたの超感覚能力で…って誰もいない!?」
振り返っては超感覚能力の力で指示を仰ごうとヤマトを呼ぶがそこには黒髪の少年の姿は無い。
しかも、ヤマトだけでなく他の六人も見当たらなかった。
これも全部あの忌々しい人ごみのせいだと地団駄を踏むセラ。
しかし、その後ろから盗賊が走って来た。
「お、女か? ちっとばかり幼いがまあいいだろう。くっくっく」
どうやらセラを獲物と見定めたらしい。
下品な笑いを浮かべセラに襲いかかろうとする賊の男に気づき、セラは短剣、グラディウスを抜いた。
「全く。盗賊なんて下種ばっかね」
冷たい視線で盗賊を見据え、駆け出す。
セラの行動に驚いた盗賊は一瞬、動きが鈍った。
「遅いわ!」
そのまま男に接近してはグラディウスを振るう。
そして見事に首を切り裂き、大量の血を撒き散らしながら男が倒れていった。
しかし、今は至るところに盗賊が居るのだ。
そういう訳で、光景を遠くから見ていた三人の盗賊がセラに駆け寄ってきた。
「あの女を殺せ!!」
さすがに三対一では分が悪いと、逃走を試みるセラ。
しかし、セラの前に現れる人物の姿を捉えた時にその必要性は無くなった。
「集う水よ! 中水弾」
三人の盗賊の横から人を飲み込むほどの水の大玉が盗賊に向かい、放たれた。
「な…!」
その魔法に巻き込まれ二人が後ろに吹き飛ぶ。
それを唖然と見入る男に二つの影が接近し、同時に斬りつける。
その二人は薄い黄色のマントを纏い、一人は深緑の色をした髪を、もう一人は藍色の髪をした男性であった。
セラは魔法を放った灰色の髪の魔道士に頬を和らげる。
「ラーシア!!」
それはセラにとって共に死線を潜り抜けた魔道士とその仲間であった…。
★★★
その頃、街の中央付近では何人かの冒険者や警備の兵が盗賊と応戦していて、その中にはロイ、ソラ、フィーネも混じっていた。
三人は今互いの背中を庇いあうように連携して盗賊を撃退していっている。
「集う炎よ。中炎弾」
フィーネの放った大き目の炎の弾丸が一人の賊に激突し、その男が倒れる。
しかし、その隙にフィーネに接近し、賊が剣を振り上げた。
「隙だらけだよ」
その言葉と共にソラの弓から矢が放たれ、男の左胸に刺さった。
それにより胸から大量の血を流し男が地に伏した。
「はあ!」
近くではロイもダガーを使う賊の一人と斬りあっていて、危なげなく撃退できたようだ。
三人は周りを見渡す。
どこも道には赤い液体がこぼれており、何人もの死体が転がっている。
まだ盗賊は大勢いるらしく、何処からも魔法による爆発音や金属音などが鳴り響いていた。
「とりあえず、皆と合流しないと…」
三人は頷きその場を離れようと大通りに振り返り…武器を構えた。
理由は至って簡単、其処には一人の男が立ちふさがっていたのである。
「ガキ共が! 俺の部下をやりやがって! ぶっ殺してやる!!!」
怒りを顔に出すその男は大剣を取り出し地面に叩きつける。
するとその石で舗装されている道が石が砕けながら凹んだ。
「この人、結構やばいかも…」
ソラが冷や汗を流しながら男から一歩後退する。
言葉から察するに一盗賊の幹部か頭であることは間違いない。
正直この三人で相手するのは心もとないものがあった。
「それでもやるしかないよ」
しかし、ロイは両手の双剣を強く握り締め決意を固める。
今は頼りになるサイもヤマトも居ない。
そんな状態である今は、男である自分が少女二人の盾にならないと、と責任感を持っていた。
「…そうですね」
ロイの言葉に覚悟を決めたフィーネも、先日ヤマトに貰った右手につけている金のブレスレットを左手で握りつつ頷く。
「…そうだね」
ソラも恐怖を押し殺して弓を構え、一歩下がる。
その瞳には覚悟が宿っていた。
そうして構える三人。
その様子に苛立ちを露にする男が遂に痺れを切らした。
「叩っ切ってやる!!」
男が大剣を握り三人に走りこむ。
「来るよ!」
それと同時にロイも駆け出す。
ソラは弓を引いて、フィーネは詠唱の準備をする。
その時男が大剣を振り下ろし、地面が砕ける音がした…。
★★★
――皆さんこんにちは。
俺は無類のモテ男、ザックだ。
ちなみに名前はザックだけで家名は無いぜ。
いやだって俺、孤児だしな。
つーかバラン地方じゃあ全然珍しくないけどな。
そうそう一応報告しとく。
今現在俺は大変な事になってます。
いや~参った。
何せ、かなりの人数の盗賊がなんとこのハドーラにやってきてるんだぜ?
こんな大規模な略奪なんて聞いたこと無いぜ…。
全く…俺は美人な姉ちゃん探してる最中だったのによ…。
え、これ誰に言ってるかって?
そんなん知らん。
俺だってわからないんだ。
ただ…もし、誰かこの心の声が聞こえているのならさ…。
俺を助けてくれよ。
いや、助けてください。
え、盗賊においかけられてるのかって?
まだ早いぜそれは。
その前段階だ。
そうだな…言いたいことはアレだ…。
「――何処まで流されんだぁぁぁぁぁぁ!!!」
今現在ここは街の隅の方の道。
大通りに盗賊が多数出現したことにより、街の大通りから逃れようと隅っこの小さな道に人が集まっていた。
勿論裏道を通ろうとする者もいたが、“何者か”に惨殺された死体がいくつも転がっており、そんな道に入ろうとする勇気ある者はほとんどいなかった。
そんなこんなで不運にも人ごみの波に飲まれたまま抜け出せないでいるザック。
なんとか自力で脱出しようと試みるが、いかんせん人口密度が高すぎた。
実際この道は民衆の大半が逃げようとして、一番大きな人の波になっていたので無理は無い。
「誰か俺を助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
……ザックの悲痛の叫びは誰にも届く事はなかった…。
…というわけでもなかった。
「誰か俺を助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「はぁ…はぁ…! 今のはザック…?」
ザックと同じくして街の隅に追いやられたヤマトはザックの悲痛に満ちた声を確かに耳にした。
ヤマトは声のした方向をじっくりと凝視する
「ザックもここに!?」
そしてヤマトは声の方向に走り出した。
ヤマトは幸いザックのような最悪の末路を辿る前に身体強化魔法で無理やり人ごみから抜け出すことに成功。
そして抜け出したヤマトは人ごみの外れで息を切らしていたのだが、その時にザックの叫び声が聞こえたのである。
「とりあえず、合流しとかないとな…」
人ごみを見てだるそうな顔をするヤマトだが、盗賊による大規模な襲撃を受けている今は、さすがにザックを見捨てる気にはなれなかった。
…つまり事が小さければ見捨てていたのかも知れないが。
「ザック~~~!! 居るか~~~~!!」
重い足取りで人ごみのそばまで寄ったヤマトは、ザックに届くことを願って声は大にして叫ぶ。
しかし、人々の悲鳴にかき消されて届かない。
もしかしたら届いたかもしれないが、ヤマトには返事が聞こえるはずも無い。
仕方無しに人ごみから一定の距離をとって追いかけることにした。
(この調子で大丈夫かね~…)
ヤマトは猛烈に不安になるのだった…。
★★★
「ふむ…。これはすごい数じゃのう」
盗賊は門から次々と雪崩れ込んでいて、その勢いは未だ止まない。
アルはその賊の多さに呆れるよりもむしろ感心していた。
「これだけの数を統率するんじゃ。首謀者は金で釣ったにしてもこの数を抑えられる程のかなりの実力者じゃろうのぅ」
アルは事の分析をしながら、後ろから迫る二人の賊に振り返らず手だけ突き出す。
するとその手から二つの雷が走った。
その二つの閃光はそのまま盗賊の二人に直撃し、二人が倒れた。
「まだまだおるのう」
アルが居るのはサイの予想通り、街の東側入り口。
そこで盗賊を少しずつ倒していった。
本当なら、アル一人ならば広範囲の強力な魔法を放てるのだが、今の現状は敵味方が入り乱れた乱戦。
盗賊を撃退することは出来るが、それと同時に味方の損害も大きいものになってしまう恐れがあった。
「敵もここまで考えていたのならばかなり手ごわくなるのう」
珍しく険しい顔付きで入り口を見つめるアルは盗賊に向かって駆け出した…。
読了ありがとうございました。
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