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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
23/123

22話 不吉な始まり

遂に一章もクライマックス。

この事件は大体6、7話続きます。

――ここはどこだ…?



気づいたときにはヤマトは見知らぬようで、しかしどこか懐かしい感じのする村に立っていた。

其処には何と自分と同じような黒髪黒目の人々が村の中で生活していた。

木造で出来ている家がいくつも建ち、所々には畑がある。

緑が豊富であり、村の隅に見える井戸には人が屯っては楽しそうに話している。


そんな中、七、八歳くらいの一人の黒髪の少年がその母と思われるとても綺麗な優しい表情の女性と楽しそうに話していた。



「母さんすごい!」



見れば少年の母親が手から魔法を放っていた。

その手から放たれているのは手の平サイズの炎、水、雷、風、光、闇の六属性全て。

それが手から放たれ、宙に浮いていた。


その光景に少年はとても驚いたように、それでいて楽しそうな顔をする。

そして、ヤマトもまたその光景に目を大きく見開いた。

確かに、目の前の女性が六属性を、しかも同時にそのままずっと放出し続けて宙に魔法を留まらせているという膨大な魔力と魔力操作を必要とする芸当をしている。

さらには六属性全てを扱える者は世界中探しても一人いるかどうかという程珍しい。


しかし、ヤマトが驚いたことはそれとはまた別の理由であった。



――この光景どこかで…。



魔法が飛び出る景色。

その女性の笑顔。

さらに言えばその周りの光景。

ヤマトはその全てに見覚えがあった。



「どう? お母さんはすごいでしょ?」



その女性が少年に微笑みながら自らの魔法を見せびらかす。



「うん! 僕もいつか魔法使えるかな?」


「ええ。 きっと使えるわよ。なんたってお母さんの子どもだからね」


「ああ~。早く使いたいな~」



女性の言葉に無邪気な笑顔を向ける少年。

ヤマトには何故か少年が自分に似ているように感じた。

いや、似ているなんてものでは無い。

雰囲気といい、容姿といい、まるでヤマトをそのまま小さくしたような感じである。



――そういえば、俺も魔法を覚える時もこんな風にワクワクしてたっけな~。



確かにヤマトもまた魔法という言葉を最初に聞いた時にはこの少年と同じように興奮したものだ。

自分が何故にあれほどまでに魔法という単語に心が躍ったのかは自身にも分からないでいたが、この光景を見れば改めて魔法ってすごいなと思えてくる。


もしかすると自分が記憶を失う前にもこの母親が使うような綺麗な魔法に魅了されたのかもしれない。



「――こんなところに居たのか」



ヤマトがそんな母子のやり取りを見ながらそう思っていると今度は勇ましい姿の男性が現れた。

ヤマトはその瞬間に胸がドクンと脈を打った気がした。



「父さん!」



どうやら少年の父親らしい男に少年が飛びついた。

そんな少年の姿に母親が微笑んでいる。


「ふふっ。平和ね~」


「そうだな~」



そんな何気ない呟きを口にし、三人は笑いあった。

そんな光景にヤマトは自然に微笑んだ。


…しかし、ヤマトの視界が突然暗転した。

そして次の瞬間、辺りの景色が変わった。


周りには自分と同じ黒髪を携えた者の死体でいっぱいであった。

あるものは斬られ、あるものは魔法にやられ、あるものは燃やされている。

その光景は吐き気を及ぼし、ヤマトの目には何故か涙が溜まっていた。



――次は何だ…?



見渡せば、黒いローブの人物が多数村に雪崩れ込んでは、人を殺し、家を壊し、燃やし、地獄絵図を描いていく。

上を見上げれば、煙に覆われた灰色の空が見える。



――…………………。



そんな光景に言葉を失うヤマト。

そんな彼はその先の向こうに立っている一人の男に目が入った。

その男は長い白髪を携え、黒いローブを着ている。


しかし、周りの人物のようにフードを被っていないのでその顔を拝むことが出来る。

年は三十前半位で目鼻立ちはしっかりしている。

そして彼の持つ禍々しい赤い瞳で恐怖に顔を歪ませる黒髪の人々を眺めていた。



「“鍵”を探せ!! …ここにあるはずだ!!! 邪魔者は切り捨てろ!!!」



男が声を張り上げた。

その声と共に白髪の男に黒ずくめの部下と思われる男が近づき、二言ほど何かを告げた瞬間男がその場を離れる。

すると同時に黒ずくめのローブ男達の動きが人々を積極的に襲うものとなった。

ヤマトはその光景にひどく怒りを覚えた。



――もうやめろよ!



ヤマトが気づいた時には刀を鞘から抜き、今まさに村人の…それもまだ年端も行かない少女を切り捨てようと剣を持つ腕を振り上げた男に向かい駆け出していた。

そして、男に向かい刀を横に払う…がその刀は空を斬った。

何事かと振り返ったヤマトは目を見開く。


…そして目の前で少女が斬られた。


少女は体から地を流し、力無く倒れていく。

ヤマトは唖然とそれを見る。


――そんな…、あの男を斬った筈…。


しかし、ローブの男は何事も無いようにその場で立っている。

そして、此方を向いた。

ヤマトは刀を構える。

そうしてその男は武器を下げて此方に走ってきて…すり抜けた。



――!!?



ヤマトは驚愕の表情を浮かべ振り返る。

見るとその男が別の村人を襲っていた。

ヤマトは再度駆け出しては男を斬りつける。

しかし、またもや振られた刀は空を斬った。



――どうなってるんだ…?



何度斬りつけても手ごたえがまるで無い。

何度も何度もすり抜けるヤマトは全く訳がわからないという表情を浮かべる。

その間でもどんどん人が斬られ、魔法を受け、死んでいく。



――もうやめろって!!!



ヤマトは力いっぱい叫んだ…筈だった。

しかし、自分から発せられる筈の声が耳には聞こえない。

ヤマトには今起きている現象に訳がわからなかった。


そんな時、ヤマトの視界はまた暗転した。


そして次に目の前に現れたのは、周りには青い色をしたタイルで覆われている神秘的な大きい部屋であった。

その先ではどこか見覚えのある魔方陣がしかれており、そこには何故か視界がぼやけて見えないが、三人居た。

そこで何かを話している三人。

ヤマトはその光景に何故か涙する。


……なんで泣いてるんだろう…。


そんなヤマトの後ろではいくつもの足跡が聞こえてくる。

その時三人はすでに話を終えており、三人の中で一番小さい人物を魔方陣の中央につれて押さえつける。

そして、魔方陣が起動した。


その時、魔方陣の中にいる人物が何かを一生懸命叫んだような素振りを見せる。

後ろの足音がどんどん大きくなっていく。

そこでヤマトの耳には聞き覚えのある声が響いた。



「ヤマト…あいしてるわ…」



その瞬間二人の姿が煙のように消えていく。

そしてその煙が周りの青い神秘的な壁に溶け込んでいった。

そしてその瞬間に神秘的な青白い光を放った。


その光景に、今まさに到着した黒ローブの者達が何かを叫んでいる。

その表情は焦りと動揺。


そんな時にさらにヤマトの頭に声が響いた。



「こ…で……ているから…」



その声は優しくヤマトに纏わりつく。

ヤマトはこの声を知っているような気がしてならなかった。

そして最後に聞こえてきた言葉…。



「…………………………」



その声は小さく聞き取れなかった。

だが、その瞬間に叫んでいた少年の声が小さくなっていく。

見れば意識を失っていた。

そうして少年は魔方陣の中に姿を消していく。



…その光景と共にヤマトの意識が戻っていった。





     ★★★





「――…夢?」



ヤマトは今、宿の一室のベットで大量の汗を掻きながら息遣いを荒くしてベットから飛び起きたばかりであった。



「…なんだったんだろ」



ヤマトが見た光景は全て、何故か自分に見覚えのあるものだった。

あの少年に微笑みながら魔法を放つ女性もそれに近づいては話かけてきた男性もその周りの景色も。

唯一、あの少年だけは“自分の”見覚えのある光景には入ってなかったような気がするが…。



「ヤマト、どうしたんだ?」



飛び起きたと同時に脂汗を掻いているヤマトに訝しげな表情を向けるサイ。

時間帯では結構早くに起きたのだが、いつもサイは早起きで一番最初に起きる。

最も睡眠時間が一番多いのもサイであるのだが。

ちなみにザックとロイは爆睡中であった。

とりあえず顔を洗おうとヤマトはゆっくりとベットから起きだした。



「変な夢を見た…かな?」


「変な夢?」



自分が見た夢のことをヤマトはサイに話す。

サイはヤマトの話に頷きながら、聞き終えた後しばらく考え込んだ。



「――もしかしたらお前の記憶に関係があるんじゃないか?」


「それは俺も薄々考えてた…」



そう、確かにヤマトはそう考えていた…というよりそれが一番可能性があると思っている。

もしかしたら記憶が戻りつつあるのかもしれない、そんな期待を抱く部分も勿論あった。


しかし、もしあれが本当の出来事ならと思うと胸が張り裂けそうな気もする。

目の前で何人もの人が死んでいった。

そのことをヤマトは思い出すのに戸惑いを隠しきれない。



「…まあそう急ぐこともないだろう」



サイはそんなヤマトの心境を察してかこの話を切り止めた。



「今日はギルドで依頼の受注だ。早く起きたのなら準備の確認でもすればいい」



その言葉と共にサイは部屋を出る。

ヤマトは「あいかわらずだな~」と苦笑いしながらその背中を見送った。





     ★★★





サイはそのまま宿の温泉に向かう。

向かいながら…ヤマトの夢について考えていた。

サイはヤマトを多少心配していたのだ。

他人を心配する…彼にしては珍しい事ではある。

だが、サイはヤマトに同属意識を持っている為に仕方の無いことかもしれない。

そう、“自分と同じ物”を抱えた同属…。


そのまま壁に掛かった絵画などには一切目を向けずそのままズカズカと歩き、脱衣室の入り口まで来て…そこに居た赤髪の少女に目が入った。



「あれ? サイも風呂?」



向こうもサイの姿に気づいたようで声をかけてきた。



「まさかお前がこんな時間に起きているとはな」


「どういう意味よ!」



サイのいかにも馬鹿にした言葉ににムッときたセラは頬を膨らました。

本来セラは早起きをする性質では無く、どちらかと言えばフィーネやソラの方が早い。



「今日は何と無く目が覚めただけよ!」


「悪いが興味ないな。そういえばヤマトも早くから起きていたぞ」


「え? ってなんでヤマトが出てくるのよ!」


「さて、何でだろうな」



セラの文句を難なくかわすサイはさすがと言えるだろう。

事実サイはセラの次にアルの下に、つまり七人の中では二番目に来ている。

よってセラと一緒に行動したのはサイが最も長い。

故に対処法も大体知っていた。

そんなサイにヤマトの名を持ち出されて顔を赤くするセラは怒りから焦りの表情に変わりつつあった。



「だいだいお前はわかりやすいんだ。気づいてないのはヤマトぐらいだぞ?」


「な、な、なに言ってんのよ!」


「そのままの意味だ」



なおも追撃するサイにセラは慌てふためき首を大きく揺らす。

そんな時、不意にサイがヤマトの事について思い出したように呟く。



「そういえば、ヤマトの記憶について少しわかったかもしれん」


「――――え?」



今日のヤマトの様子やヤマトから聞いた夢の話をセラに話すサイ。

それを聞いていたセラは難しい顔をして考え込む。


「ヤマトがそんなことを…」


「そういうわけだ。俺よりお前の方がヤマトに取っ付きやすいからな。気にかけてやればいい」


「――わかった。それにしてもあんたが他人の事を気にかけるなんて…」


「ただの気まぐれだ」


「ふ~ん」



このときばかりはサイに感謝した。

セラとしてはヤマトは自分の命を救ってくれた恩人。

その恩は今もなお、セラの中に残っている。

いつか恩返しをしようと、ヤマトの力になろうと思っていたセラにとってはヤマトに影で苦しんで欲しくはなかった。



「さて。俺は風呂に入らせてもらう」



そうして脱衣室に入っていくサイ。

セラはそれを無言で見送り、自らも脱衣室に。

そのまま風呂に入っては、湯船に浸かりながらヤマトの記憶について考えた。



(最初は森の中だったっけ…)



そのときのヤマトは12歳。

白装束を着ていて黒髪黒目なんて見たことも無いような容姿を初めて拝んだ時であった。

手には今も使っている漆黒の刀が握られており、自分の名前以外の全ての記憶を失っていた。



(そういえば、あの刀…)



ヤマトを初めて演習場に連れて行った時、刀を握ったヤマトから何かを感じ取ったセラは左腕の“紋章”に痛みが走った。

そして、その頃からヤマトに苦手意識を持っていた。



(――まあヤマトが何者でも関係ないわ)



しかし、半年後にリトルデーモンの脅威から自分を救ってくれたヤマトに、今では感謝している。

思えばセラがヤマトのことを気になりだしたのはあの頃からであっただろうか。



「…はあ」



セラは溜め息をついた。

そんなヤマトに何か恩返しをしたい。

しかし、何も出来ない自分の無力さを呪う事しかできないでいる。

セラは遣る瀬無い思いで、自分以外に誰もいない湯船の中を息を大きく吸い込み、そして潜るのだった。





     ★★★





そんな朝の出来事から数時間。

今アルを含めた八人はギルドに向かい大通りを歩いている。

周りでは昨日の祭りの後片付けをしている光景がちらほら見えていた。



「ヤマト」



そんな光景を見ていたヤマトに不意にセラが寄ってくる。

今のセラはいつもの赤い長衣を身に纏っているが、その赤い髪を黒の髪留めでポニーテールにしている。

その髪留めは昨日にヤマトに貰ったものである。



「? どうしたんだ?」



そんなセラに首を傾け頭に疑問符を打つヤマト。

セラはどこか顔を赤らめていて、躊躇っているように見えたがおもむろに口を開けた。



「――何かあったら私に言って。力になるから…」



突然のらしくない言葉に唖然。

へ? と頭の中に疑問符を打ちまくるヤマトはサイがふっと口を吊り上げたのが目に入る。



(ああ…。今日の朝の事かぁ…)


「そうだな~。ありがとな」



おそらくサイが夢の話をセラにしたんだろうと踏んだヤマトはセラに笑顔を向ける。

セラは「別に深い意味は無いから!」と赤くなった顔をヤマトに見せないように顔を逸らす。

そんな様子にソラもフィーネも微笑んでいる。

一方のザックは道端の女性に声をかけようとするのをロイに止められているところだった。


……そうこのときまで確かに街は平和だった…。



「た、た、大変だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



突然、街の入り口の方から声が聞こえる。

ヤマト達も何事かと駆けつけようとする。

しかし、向こうの方からどうやら見回りで雇われているらしい男が走ってきた。



「盗賊が、盗賊がものすごい数で雪崩れ込んで来た!!!」



そしてその後に起こる爆発音。

雪崩れ込むだけならまだ良かったのかも知れない。

ここはバランという無法地帯。

故に皆は知らないが、すでに盗賊は街に潜伏していたのだ。


あちらこちらから聞こえる悲鳴。

ハドーラはとても大勢の人数が街の中にいるのだ。

その人ごみが盗賊から逃げるため、人の波となりそのまま街のもう一つの入り口を目指した。


「な………!」



その人ごみに紛れて散り散りになる八人。



(流れに逆らえない…)



ヤマトもそのまま人ごみに流される。

そして、流された先には街の二つ目の出入り口が…。



「こ、ここにも盗賊がいるぞ!!!」



そう、二つ目の出口にも恐るべき人数の賊がいたのだ…。


……ここにバラン地方において、盗賊達が結託して起こした大規模な略奪作戦が始まった…。





読了ありがとうございます。

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