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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
21/123

20話 お祭り1

お祭りだ!

という訳で休息期間です。

「ヤマト! アレなんだろう? 行ってみましょ!」


「ちょっ、セラ。腕痛い!」



今、街の中は夕方であるというのにうるさいほど賑やかである。

人が群れを成し、光の付与魔法でほのかに照らされている道を歩いている。

さらには屋台やらイベントやらそれはもういろいろな物が出回っている。


そんな中をあっちこっちにセラに連れられて腕を引っ張られまくるヤマトはグッタリとしていて、最早諦めたようにセラに付いて行く。

……哀れなものだ。

そんな哀れなヤマトにあちらこちらから同情の視線が集まる。



「ヤマト君……。大変そうだね……」


「ヤマト……。頑張ってね……!」



ヤマトの後ろの方から見知った仲間も同情の言葉をかけてきた。

その声色は悲痛なものを見ているようだった。

ヤマトは思う。



――何故こうなったんだ……?



ヤマトは自らの記憶を辿っていく。

そうして見つけた記憶の欠片。

それは今日の朝から始まった……。





     ★★★





「「「「「「祭り!?」」」」」」



アルの部屋に集まる七人の内、冷静なサイを除いた六人が声を大にする。

ちなみにアルは部屋には居なく、どこかに行っていた。



「ああ。じーさんから聞いたがそうらしい。何でも昨日の魔物の大繁殖が解決したことで街中で祭りをするとか何とか」


「よし! 今日は美人探し祭りだ「何でよ!」ぐえぇ!」



祭りと聞いて気分ハイのザックにセラが拳を振るう。

それに苦笑いしながらも祭りの参加に顔を輝かせる四人はふと気になることを口にした。



「お金はどうするの?」



いつも保護者のアルとしっかり者のサイにお金を預けているので無一文の六人。

そのことについてソラが訊ねるが心配無用であった。



「昨日の依頼報酬が中々の額になったからな。ほら、これだ」



そうしてサイから渡されたのは銀貨三十枚であった。

ジャラジャラと良い音が鳴ってくる。

それを見て、目を見開く貧乏人共。



「一人銀貨三十枚だ。大切に使え」


「――――多くね?」



ヤマトの言うことは最もであった。

銀貨三十枚は大体民間の働く月収程度。

それが僅か一日で手に入ったのであるのだ。


しかし、これでも少ない方だとサイが言い放つ。

昨日の依頼の報酬はなんと金貨四十枚(銀貨四千枚分)以上というのだ。

……是非とも大陸中の一般収入を貰っている方々に全力で謝っていただきたいものである。



「デーモンを討伐したんだ。当然だろう?」



確かにデーモンを討伐して、さらには換金も行い、他にも魔物は多数倒したのである。

そのくらいが妥当とも思うが、それでも銀貨三十枚は気が引けるものであった。

これが冒険者の収入……下手に稼ぐよりもよっぽど手に入るではないか……。

貧乏人共が気後れするのも無理は無い。

まあ全部使う訳じゃないしなと最早開き直るヤマトは皆に視線を向けた。



「まあせっかくだし遊びまくろうぜ!」



ザックは張り切る。

ここで運命の出会いを果たすために……。



「そうね。楽しまなきゃ損よ!」



セラは意気込む。

ヤマトと祭りを楽しむ為に……。



「祭りかぁ。楽しくなりそうね」


「そうですね」



ソラとフィーネは微笑む。

純粋に祭りを楽しむ為に……。



「そういうわけで俺は寝る」


「どういうわけで!?」



ロイのツッコミに構う事無くサイは部屋を出て行く。

己の睡眠という名の欲求を満たす為に……。



「よし! じゃあ行こうか!」



そして六人は己の願望、好奇心、その他もろもろの為に祭りに向かった。





     ★★★





――そう、ここまでは良かった筈なんだ……。



ヤマトは腕を引き千切られそうなくらいに引っ張られながら続きを再生する。


あの後に祭りに赴いた六人はテンションハイ。

しかし、度が過ぎた。

実際このような大規模な祭りを見るのが初めての六人には仕方の無い事だったのかも知れない。



(ラーシアにも言われたし……。今日の私は頑張る!)



その中でも特に興奮気味のセラの脳内には昨日のラーシアの応援が響いていた。

それが原動力となり、壊れた暴走機関車のようにヤマトをあちらこちらに引っ張るのであった。


……そして今に至る。



「ヤマト! これ何だと思う!?」


「――さあ?」



セラの指先にあるのは青色をしたトマトのような果実。

当然セラも知らないのに記憶喪失のヤマトが知るはずも無い。



「お嬢ちゃん。それはカカの実と言って甘く柔らかい果物だよ。この時期じゃないと入荷しない珍しい果物さ」


「へぇ……。一つ頂戴」


「まいど」



銅貨四枚を渡し果物を二つ手に入れるセラは一つをヤマトに手渡す。



「はい」


「ありがと……」



やけに気分の良いセラに戸惑いを感じつつも受け取った果実を口にするヤマト。

なるほど、確かに甘くて柔らかい。

カカの実は中々うまいと表情を綻ばせるヤマト。

セラもどうやら気に入った様子である。



「次、いきましょ」



そうしてカカの実を食べ終わっていないヤマトを引っ張り、祭りの奥に進むセラ。

ヤマトは突然に引っ張られた為にカカの実を落としてしまう。

勿体無い…ヤマトは表情を顰めた。



――何があったんだ……?



普段のセラはもっとツンツンとしている筈である。

それがいまはどうだろう、ヤマトの腕を引っ張りあちらこちらに積極的に連れて行く。



(いつの間にかみんなとハグれてるし…)



ヤマトは周りを見渡すが誰もいない。

別に積極的に成られる分には構わなかったが、腕を引っ張るのだけは止めて欲しかった。

痛いのなんの、最早ヤマトの腕はいつ千切れてもおかしくなかった。



――誰か……助けてください!



ヤマトは誰にも届くはずの無い心の叫びをあげた。





     ★★★





「あれ何だろ!?」



次に来たのはウィーク掬い。


「金魚掬いみたいだな……」


「金魚掬い?」



セラに首を傾けられて、ヤマトもあれ? と頭をかく。

聞いたことも無い単語をまた口走ってしまった。

一体何なのだろうか……。

まあいいや、とヤマトは突然思い浮かんだ単語に戸惑いつつもウィーク掬いの観察を始めた。


ウィークとは危険度Fランク以下(無害)の十センチ程の黄色の鱗を持つコイのような魚のことである。

それを特殊な布の網で取るのだが、この布は水を染み込ませ、時間が経つに連れて溶けていくのである。

それゆえ難易度は高めで何人もの子どもが涙を飲んだのであったのだが……。

それをあざ笑うようにウィーク掬いで無双している少女が居た。



「フィーネ! 獲ったよーーッ!」


「ソラちゃんすごいです!」



見れば其処にはいつの間にこんなに奥に来たのかソラとフィーネがいた。

ソラは右に左にと恐るべき速さで網を持つ手を振るう。

それに合わせてウィークが空を舞った。

その姿はまるで敵を無双している戦乙女のようで…。



――か、輝いてる!?



ありえないことではあった。

しかし、水や魚が飛び交う中、その中心にいる彼女はその容姿も起因して、まるで女神のようであった。

そんな彼女の勇姿に見入ったヤマトをチラッと覗くはセラ。

ムッと頬を膨らましてはそのままズカズカと歩き、その場で唖然と見ている店長に一言。



「網、頂戴!」



そうして網を受け取ったセラはソラの横に移動。

それに気付いたソラは微笑みながらセラに声をかけた。



「あっ。セラ! ここに居たの?」


「一応ね……。ソラ! 勝負よ!」



ソラに網を向けて宣戦布告するセラ。

それを見てソラの目が親友を見るものからライバルを見るものに変わった。

何とまあ切り返しの早い事だろうか。



「望むところ!」



二人は目の前の水槽の中に視線を落とし、網を構え、深呼吸をする。

その瞬間……二人が強烈なプレッシャーを纏った。



――マジっすか……。



この場面で!? とヤマトは目を仰天させる。

それと同時に二人の目がカッと見開いた。



「「はあ!」」



其処からの激戦はアルVSデーモンよりもある意味で凄まじいものがあった。



「すごいですね……!」


「何と言うか……ね……」



フィーネは驚きで目を見開き、ヤマトは顔を引きつらせる。

二人の目の前には二人の巫女が舞っていた。

一人は飛び散る水の色よりも透き通るような水色の髪を携え、その澄んだ同じ色の瞳は舞っている水に溶け込みそうであった……。

一人は夕焼け空よりも赤い髪を携え、その綺麗な茶色の瞳は力強くウィークを見据えていた…。



「「最後!」」



そして水槽の中にいた全てのウィークが空中で舞った。

そのままウィークを空中で仕留める(捕まえる)二人の巫女による激闘は終わりを告げた。


そうして静かに数を数えていく二人。

そして結果が明らかになった。



「互角……」


「さすがね……」


「セラもね」



何と二人共が全く同じ数のウィークを釣っていたのだった。

そして其処から生まれたのは周りの客による拍手喝采とセラ、ソラの強まった友情、…そして商売あがったりな店長の涙であった。





     ★★★





「すげ~な……。二人とも」



ウィーク掬いの激闘を終えたセラとソラ、それとフィーネを連れて祭りの中を進んでいくヤマト。

先ほどの激闘を女神のようだったとヤマトが褒めている(顔を引きつらせながら)とソラは照れて頭を掻き、セラは顔を真っ赤にする。



「やっぱり楽しまないとって事で気合入っちゃった」


「べ、別にあのくらい普通よ! 普通!」


「アレは普通じゃないと思うけど……? ――……あれ何だろう?」



そうして道を進んでいくヤマト達の前には大きな人だかりが生まれていた。

かなり大き目の会場のようになっており、観客席の前にはステージがある。

そのステージの上には看板があり、其処にはこれの内容を理解するには十分な題名が掻いてあった。



「美人コンテスト!?」



美人コンテスト…それは自分の魅力を最大限にアピールして競い会うものである。

勿論コスプレも可能である。


その看板を見ている四人はしかし、別段興味をそそられる事は無かった。

そして、四人が其処を立ち去ろうとした…その瞬間に大きな声が向こうの方で聞こえてきた。



「ロイ……。今から男の夢が目の前に……! もっと楽しもうぜ!!」


「放してぇぇぇ! 僕興味ないよ!」


「ええい! サイもヤマトもいないのだ! 後はお前しかおらん!」


「誰か助けてぇぇぇ!!」



――めっちゃ聞き覚えのある声なんですけど…。



「今の声って……」


「間違いないでしょ……」


「相変わらずですね……」



ここに居る全員がその声に表情を引きつらせていた。

そんな聞き覚えのある声を聞いて四人は目を見合わせる。

正直に関わりたくは無い。



(――――あれはスルーの方向で!)



それはアイコンタクトだけで伝わった…四人の以心伝心が成立した瞬間であった。

そうして踵を返してその場を立ち去ろうとする四人。

しかし、助けを求める金髪碧眼の少年の今の観察眼はヤマトの想像を絶するほどにすごかった。



「あっ。ザック君! あそこ! ヤマト君達だ!」


「何!? あ、ホントだ!」


(ロォォォォイィィィィ!!!)



今日この日程ヤマトがロイを呪ったことは無いだろう。

勿論こんなところで捕まる訳にはいかないので、見つかった四人は全力ダッシュを試みる「待ってぇぇぇ!」――が、恐るべき瞬発力でロイはヤマトを捕らえた。



「今見捨てようとしたでしょ!? 見捨てないでよ!!!」


「いや、違うんだ。その……向こうに上手そうな食べ物があったな~と」


「ヤマト。そっち街外れよ?」



何とか誤魔化そうとしどろもどろに答えるが逢えなく撃沈。

もうダメだ……。

そのまま四人はザックの下に連行されていった。



「いやぁ。こんなところで会うとはな」


「全くよ……」



はっはっは、と愉快に笑うザックにセラはぶっきらぼうに答える。



「はっはっは。そういえば三人は参加しないのか?」



そうして笑うザックが三人の参加の有無に首を傾ける。



「するわけ無いでしょ、あんなのに!」



しかし、セラに怒鳴られてしまった。

だが、そんなセラに目を向けてはザックはふむ、と何かを考え始める。

そうして思考が纏まったのか、セラに寄って誰にも聞こえないように耳に口を近づけて囁いた。



「――――ヤマトの気を引きたくない?」


「――――!?」



ザックの突然の言葉に顔を真っ赤にさせ慌てふためくセラ。

そんな彼女にザックが追撃した。



「あんだけわかりやすかったら大抵気づくぜ! それよりこれに出て優勝すればヤマトにも振り向いてもらえるかもよ?」



ニタリと笑ってガッツポーズを決め込むザック。

セラは顔を朱に染めて俯く。

今このときにセラの脳内では数々の議論が挙げられ、その様子は混沌と化している。

だが、遂にセラは決心した。



「わかったわよ。――言っとくけどヤマトの為じゃないからね!」


「何か呼んだ?」



セラとしてはザックに向けたものなのだが、如何せん声が大きかった。

だが、ヤマトはセラの方を向けどもセラはその事に気付いていない様子であった。



「セラ……参加するの……?」


「……が、頑張ってください」



少女二人は目の前の光景が信じられないと言ったような顔をしている。

本来のセラならばこんなモノには絶対に関わろうとしない。

そしてそれは正しい。


しかし、今のセラは壊れた暴走機関車であった。

昨日のラーシアの言葉もあり、今のセラはただヤマトの気を引くことだけを考えていた。

そんな理由で決意を固めるセラに当のヤマトが激励する。



「まあセラは美人だし。優勝するんじゃないかな?」



しかし、激励の仕方がいけなかった。

勿論ヤマトとしては全く他意はない。

世間一般でもセラを含めた少女三人のルックスはかなり高いレベルに位置している。


よって本心から述べたもので、ソラやフィーネにも同じ事を言ったであろう。

いつものセラならそのことにも気づけたかもしれない。



「そ、そ、そうね! まあ、楽勝よね!」



しかし、そんなことを考える頭があればコンテスト参加はしていない。

ヤマトの激励で壊れた暴走機関車がさらに壊れてしまった。

これ以上何処に壊れようがあるのだろうか。


そのまま気分上々のセラに連れられ、六人はそのままコンテスト受付に。

ザックも作戦成功と誰にも無くブイサイン。

そうして六人はそれぞれの思惑の下に受付までやってきたのだが……。



「――――なんでよ」


「まじかよ!?」


「年齢制限17歳以上……」


「ドンマイです……」



……現実は甘くなかった……。



「ザック」



後ろから放たれる殺気に立ちすくみ、ギギギと首を回し後ろを振り向くザックの目の前には笑顔で殺気を振りまくセラの姿が……。



――怖ぇぇぇぇぇぇ!!!



今のセラはザックが自らの死を覚悟する程である死神の笑みを浮かべていた。

勿論ヤマト達四人は撤退済みである。

セラの後ろの方で木影に隠れてはザックに哀れみの目を向けている。



「ザック。何か最後に言うことはないかしら?」


「最後!? いや……ちょ……ね?」


「問答無用!!!」


「今、言うことは? て聞いたよな!!?」



――ぎゃああああああああああああああ!!!!!



この悲痛の叫びは夜空に響いた。



……後にこの事が『ドジな男の悲しい絶叫』として街に語り継がれていったとさ。





読了ありがとうございました。

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