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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
20/123

19話 魔物大討伐4

遂にアルが来ました!

アルむっちゃ強いです!

数刻前の事である。



「何て化け物だ!」


「あのでかい棍棒をあんなに振り回すなんて……」



ミドル、ダニル、ロイ、ソラ、フィーネの五人はサイクロプスの振り回す棍棒を必死に避けていた。


五人はあれからサイクロプスとの戦闘を続けていた。

だが、危険度Aランクを誇るサイクロプスに中級者に至るかどうかの五人では全く歯が立たないでいた。


現状はもはや相手の振るわれる棍棒を回避するだけで精一杯であった。



「このままじゃ……」



ソラが呟く。

時間にしてみれば今は昼過ぎ。

しかし、森の奥に進んでしまっている為日の光はあまり届かず、辺りは薄暗い。

サイクロプスが周りの自らの移動の妨げになる木を倒している為に倒木が道を塞ぐところもある。

そんな場所で迫り来る棍棒を避け続けるのは厳しいモノがあった。



「くそっ……。このままだったらジリ貧だ……」



ダニルの言うとおりこのままでは全滅が見えている。

誰もが何とか思考を働かせて状況の打開を見つけ出そうとするが、希望の光は全く見えてこなかった。



「きゃあ!」



そして足に限界が来たのか、ソラが転倒した。

ここで倒れるのは非常にまずい。

このチャンスを待ってましたとサイクロプスが棍棒をソラに向かい振り下ろしてきた。



「逃げろ!」


「ソラちゃん!」



ミドルとフィーネが叫んだ。

しかし、ソラは立ち上がろうとするがサイクロプスの棍棒の方が速い。

誰もが次に来る惨劇を待つしかなかった……がその先の惨劇は訪れなかった。



「な…………」



棍棒がソラに迫り来る時、辺りに凄まじい衝撃音が鳴ったと同時に棍棒が弾かれるように後ろに戻される。

そして次に巨大な水の塊がサイクロプスに向かい飛ぶ。

それが激突したサイクロプスはそのまま転倒した。

その光景に呆気に取られる五人に銀髪の少年が近寄って来た。



「三人とも無事か?」


「サイ君! 無事だったんだね!」



サイの姿を見て表情を綻ばせるロイ。

見ると少女二人も再会を喜んでいた。



「それじゃあ、今の魔法はもしかして……」


「ああ。じーさんだ」



そうして現れたのは白髪を携えたアルであった。

その雰囲気はいつものおっとりしたものではない。

……まさに歴戦の将。


アルは今まさにサイクロプスに凄まじいプレッシャーを放っていた。

このプレッシャーは達人の領域にいる実力者だけが持つ事のできる力の波動のようなものである。

そのプレッシャーの強さはそれを放つ者の実力に比例される。


そして今、アルが放っているプレッシャーは完全にサイクロプスの動きを止めていた。

サイクロプスはその野生の勘ゆえに悟っていたのだ。

……動けばすぐに肉塊にされると。


そんな人間離れしたアルは自らの白い髭を擦りながら六人の方に近寄っていった。



「なあ……。アレってもしかして……」


「SSランクホルダー……“魔道王”……!」



二人がアルの姿を見て驚愕する。

SSランクホルダー……それはギルドに危険度SSランクの依頼を受ける事を許された選ばれし者だけの冒険者としての最高の称号である。

その中でも“魔道王”と言えば、何十年も昔に邪神の復活を企む“ある者”を止めた三人の英雄の内の一人であるのだ。



「ふむ……。全員無事のようじゃのう」



アルが良かったと言ういうにうんうんと頷く。

その時後ろの鬼が自らが受けているプレッシャーから開放されようと、アル以外が立ちすくむような怒声をあげた。



「忘れておったのぅ……。こやつが居ることを……のう?」



アルがサイクロプスに向かい手の平を翳す。

魔力を手の平に溜めてニヤリと笑った。


……そして、“鬼の”断末魔の叫び声があがった……。





     ★★★





そして時は現在。

アルの手から放たれた炎とデーモンの手から放たれた炎が激突していた。



(なんて魔力なの…!)



ラーシアは相殺された大炎弾ギガフャイアを見て驚く。

その二つの魔法に込められた魔力は今まで自らが見てきた魔法とは全く次元の違うものであった。



「ふむ…。この程度は止めれるらしいのう」



しかし、それだけの魔力を放ったアルの表情は余裕そのものであった。

対するデーモンは歪んだ化け物面をさらに歪ませてアルに突っ込んでいった。



「速い…!」



誰かがその素早さに息を呑んだ。

それ程に素早い動きでアルに急接近したデーモンは雄叫びをあげながら長い爪をアルに向けた。

しかし、その爪はアルに届くことは無い。



「加速魔法を自分に…!」



ラーシアが呟く。

そう、アルは加速を自らにかけ、一瞬でデーモンの後ろに移動していた。

それに気づいたデーモンが振り返ろうとして…吹き飛んだ。



「妨害魔法を敵に直接かけるなんて…」



もはやラーシアは驚きっぱなしであった。

アルが使っている魔法はどれも高度な技術を要する応用形がほとんどで、その使い方にはかなりの魔力が必要になる筈である。


しかし、アルはそれを平然と容易く使いこなしていく。

まさに同じ魔道士でもラーシアにとっては雲の上の存在であった。



「ヤマト…」


「――じっちゃんすげぇ…!」



セラがヤマトに近寄る。

しかし、二人の視線は目の前の激戦に目が入っていた。

いや、激戦ではあるのだが…。



「あの危険度Sランクのデーモンを圧倒している…」



デーモンが空中に飛んだ。

しかし、アルが手を地面に添えると同時にデーモンが地に落ちてくる。

アルが行ったのは妨害魔法による飛行妨害。


それに落とされたデーモンは奇声をあげ、炎を口から放つ。

しかし、アルは妨害魔法で周りにバリアを張り、それを防ぐ。



「ここまで全部が無詠唱なんて…」



さらに両手を地に添えるアル。

するとデーモンの下から巨大な土の拳が無数に現れ、デーモンを殴りつける。

ギャ、と悲鳴をあげて後ろに仰け反るデーモンにアルがゆっくり歩み寄っていった。

それにすぐさま立ち上がったデーモンはアルに突撃する。


しかし、アルは指をパチンと鳴らし、妨害魔法でデーモンを吹き飛ばす。

そして片手を空に掲げた。

するとデーモンの頭上から落雷が振ってくる。

それを咄嗟にかわしたデーモンはすぐさま魔法をアルに放とうとするが…。



「後ろじゃ」



加速で既にデーモンの背後にまわったアルが腕に強化魔法をかけ、デーモンを思いっきり殴った。

殴られたデーモンは思いっきり吹き飛び、そのまま木に激突。

木がミシミシと音を立て倒れる。

しかし、それでもデーモンは再度奇声をあげながら立ち上がった。



「ふむ…。さすがはSランクじゃ。しぶといのぅ」



アルは感心したような、しかしどこか面倒臭げな表情でデーモンを見つめた。

アルから見てもデーモンはまだ戦える状態である。

さすがにアルも老人、帰って寝たい気持ちがあった。

故にアルはすぐさま詠唱を唱え始めた。


…この戦いにおいて初めての詠唱を。


アルとしてはこのままチクチクとダメージを与えていき、倒しても良かった。

しかし、今回の依頼は魔物の大量討伐。

アルはここに来るまでに既に多くの魔物を倒していたのだが、またここに魔物の大群が来る可能性だってある。


ならば、早期にアルにとっての問題児を片付けたかった。

だからこそ、アルは最高の魔法を放つのである。



「狂気の闇黒よ敵を滅せ。<消滅の闇黒ダークスレイ>」



そうして放たれた闇黒はデーモンを飲み込んでいった。

飲み込まれたデーモンがその命での最後の声をあげる。

そうして滅却する闇黒が過ぎ去った後には肉塊と成り果てて地に横たわるデーモンの姿があった。



「――――じっちゃんの詠唱してるとこなんて初めて見た……」


「それ以上に、なんて魔力なのよ……」


「それよりもデーモンが倒れたことには驚かないのか?」



あまりの凄まじい戦いに(アルの独壇場だが)呆気に取られる全員。

そんな皆に訝しげな表情を向けるアルは手を叩いて呼びかけた。



「ほれ、何をしとるんじゃ。デーモンは倒したぞい」



デーモン討伐の証拠品であり換金品でもある黒い翼と腹の鱗と爪を取り出しながらアルは視線を向けてくる。

そのいつもと変わらない様子に皆は呆気に取られるのも仕方が無い。



「いや……さすがだな~と」


「そうだぜ……。強すぎだろ……」



全員が驚きながらも足を動かし始める。

そうしてこの場を離れ、草原に一度帰る一行。

すでにアルがあらかた魔物を討伐していた後であり、もはや他の冒険者達に任せてもいいような状況であったのだった。





     ★★★






「“魔道王”アルフォード様。今回は助けて頂きありがとうございます。」



デーモン討伐を終えたアル達は街に戻り、ギルドで依頼の話と換金を済ませてラーシア達三人と別れを済ましているところであった。



「気にするでないのう。おぬしらも子ども達と一緒に居てくれたらしいしお互い様じゃ」


「しかし、あの“魔道王”の魔法が見れるとは…」


「そんな二つ名など昔のことじゃ。それよりも、そろそろ宿に戻るんでのう。今日はここらで引き下がるとするかのう」


「そうですか…。今日は本当にありがとうございます!」



何度も頭をアルに深々と下げる三人。

そうしてアル達がギルドを出ようとするとき、一人の女性、ラーシアがセラに近づいて一言呟いた。



「ヤマトのこと、頑張ってね!」


「ちょっと!」



顔を赤くさせて文句を言おうとするが舌が上手く回らないセラ。

そんな様子にラーシアが微笑みながら別れを告げた。

三人に手を振りつつ、ギルドを後にする八人はそのまま宿に戻っていったのだった。






     ★★★





ヤマト達八人が戻った後、それぞれは自由行動を取ることになっていた。

そんな中で、アルはというとギルドを訪れていた。

その隣には何故かヤマトがいる。


実はアルはギルドに今回の魔物の大繁殖について、依頼を受けた当事者としてギルドにその報告をするように望まれた。

アルが抜擢された理由は一番の功績者だからである。

だが、偶然アルの部屋に向かおうとするヤマトに見つかってしまい、俺も行く! とせがまれこのような状況になっているのだ。

アルもこれは不覚だったと溜め息をついている。


ともかくも、こうして二人はギルドの奥の一室へとギルド員に案内されながら向かう。

そうして案内された一つの応接室のような部屋に二人は入っていった。


中には紫の絨毯と机、座り心地の良さそうな布が敷いてある長椅子が置いてあり、その一つにスーツを着た男が座っていた。

どうやらこの男がこのギルドのギルドマスターであるらしい。

アルとヤマトは招かれるままに部屋に入り、席に着いた。



「初めまして、“魔道王”様。私はこのギルドのマスターであるヤックと言います」


「ふむ…。わしのことはアルと呼んでくれると嬉しいのう。わしは隠居した身じゃからのう。それとこっちの子供はヤマトじゃ」


「よろしく」



ヤマトは挨拶と同時に頭を少し下げる。

ヤックはというと子供連れである事に多少驚いたのか、目を一瞬だけ開くが、すぐに元に戻した。



「それでは、今回の緊急依頼について訊ねたいのですが…」


「ふむ。かまわんぞい」



アルは顎鬚を擦りながらヤックの瞳を覗き込む。

それに多少のプレッシャーを感じるが、ギルドマスターは言葉を告げた。



「今回の魔物の数は例年よりも多いものであったらしいですね。その原因はわかりますか?」


「そうじゃのう…。多分――」


「人為的な“何か”じゃないかな?」



ここでヤマトは口を開いた。

それにアルとヤックが驚いたように振り向く。



「人為的な“何か”…。ヤマト、それが何かはわかるかのう?」


「いや、そこまでは…」


「ならばどうしてじゃ?」



アルにちょいちょいと手招きして耳元でヤックに聞こえないようにアルに理由を話した。

ヤマトは宿に戻って、先ほどヤックが言った言葉と同じ疑問を持っていた。

冒険者や街の人も言っていたが、今回の魔物の数は本当に多かったらしい。

それが何故か気になったヤマトは…超感覚能力マストを使用した。


この超感覚能力マストも決して万能ではない。

漠然としたこの答えを探る事は勿論出来なかったのだ。


ならば次にヤマトがしたことは、この魔物の大繁殖が自然発生なのかどうかを考える事。

これならばヤマトの超感覚能力マストによる直感で正解かが分かるのだ。

そしてこの場合で試した結果直感で悟ったのは…。



「自然発生とは違う、ということじゃな」



つまり自然発生ではないということなのだ。

故にヤマトは人為的なものだと答えたのだ。


このヤマトの答えにはヤックも驚きを隠せなかった。



「――こんな子供が我々と同じ結論に辿りつくとは…」



そう、ヤマトは未だ15歳の少年。

確かに考えることは出来るだろうが、それでも浅はかな少年である。

そんな子供のヤマトがこのギルドの総意と同じ結論に至ったのだ。



「本当にお前さんとサイは賢いのう」


「俺はそうでもないけど…」



ヤマトは自分の能力を使って至った結論なので謙遜するが、超感覚能力マストを知らないヤックは賢い少年だという印象を受けた。

これは将来有望な子供だ、と“魔道王”の弟子という事もあり、期待が膨らむ。



「しかし、原因は分からずじまいしゃのう」


「はい…」



だが、人為的なものと分かっても原因そのものはわからない。



「そもそも、7,8年前から魔物の数が増えたのにのう」



これ以上増えるのは勘弁だとアルは溜め息をつく。

確かに数年前から魔物の数が以上に増えた。

そして、今回で魔物の大繁殖。

どんどんと増えていく魔物の数にギルド側も頭を悩ませているのだとヤックは言う。



「分からないのならば仕方ありません。何か分かればギルドにお伝えください」


「分かっておる。…それとわしがこの街に居る事を他に漏らさんでほしいのう」


「分かりました。…此方としてはSSランクホルダーに戻って欲しいんですが」


「無茶いわんでくれ。わしももう老いたんでのう」



ヤマトはあれだけデーモンを圧倒しておいて良く言うよと心底思ったが、それを口に出す事はしない。

ともかくもこれでどうやら報告とやらは終わったようだ。

よっこいしょ、とアルは腰を上げる。

それに従うようにヤマトも席を立った。



「それではのう」


「本日はお疲れ様でした」



ヤックは元SSランクホルダーに敬意を示しつつ、その後ろ姿を見送った。

そうして二人はギルドを後にしていった。

その後で、ヤックはふとアルが連れた黒髪の少年の事が頭に過ぎる。

あの少年は見たことも無いような黒髪黒目の容姿であり、冒険者としても中級者以上の実力を持っていそうであった。

あれはこれからが楽しみだと密かに笑うヤック。



……こうして、大繁殖した魔物は冒険者達によって駆逐され、この街の脅威は過ぎ去ったかに見えた…。





     ★★★





「準備はどうだ…?」


「はっ。現在金で集めた盗賊の準備が整いつつあります。後二、三日には行動できるかと」


「そうか」



ここはハドーラにある小さな小屋の一室。

明かりはついていなく、窓から漏れ出る日光だけが部屋の光で普通より薄暗い状態であった。

小屋の中には特に目立ったものは無く、其処にいるのは二、三人の黒いローブを着ている者とその中で一番立場が上だと思われる白髪の男だけである。


その白髪の男も黒いローブを身に纏っているが、他の者のようにフードを被っては居ない。

年は大体三十前半くらいだろう。



「二年前は失敗に終わったが次はどうかな……。“魔道王”アルフォード……!」



そして椅子から立ち上がる白髪の男。

そしてその瞬間にその男の持つ赤い瞳がギラっと輝いた。

その眼光が見据える先には何が映っているのか……。


……次なる脅威はすぐ其処まで迫っていた……。





読了ありがとうございました。

次回からはヤマト達はちょっとした休息期間に入ります。

ちなみにアルの唱えた<消滅の闇黒>の<>は魔法の中でも最高位の物を意味しています。

詳しくは後に出てきます。

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