17話 魔物大討伐2
それぞれが何処で何をしているかが分かります。
戦闘はもう少し次回からです。
「はあ……はあ……」
あの一つ目の鬼からしばらく全力ダッシュで逃げ切り、息を切らすヤマトは周りを見渡す。
しかし、周りには誰も居なくヤマトは一人森の中に立っていた。
「――誰か居ないかーーッ!?」
声をあげ他の者を探すヤマトだが、その時ヤマトの右側からガサガサと茂みが音を立てた。
魔物の襲撃かと身構えたヤマトだが茂みから出てきた人物を見て力を抜き、安堵する。
その人物は赤い長衣を身につけ、息を切らしながらその長いとも短いとも言えない赤い髪を揺らして此方に近づいてきた。
「ヤマト! 無事だったのね!」
セラはヤマトに駆け寄り、嬉しそうな表情を浮かべた。
そんな彼女の衣が風に靡いたときに胸元にぶら下がっている星型のペンダントがキラッと光っている。
「セラ。他の人は?」
「――――私が気づいたときは誰も居なかった」
「そうか~…」
セラはこの状況について不安そうに顔を曇らせて下に向けた。
ヤマトもサイ達や冒険者の人たちも気になって仕方ない。
「とりあえず二人で他の人を探すか?」
「そうね…」
そうして二人は森の中を歩き出す。
そこでふとセラは状況を省みた。
(ん…。ちょっと待って…!)
セラが急に立ち止まった。
ヤマトは何事かと思い、セラに目を止める。
(二人…? 今、私とヤマトの二人だけ…?)
今ここに居るのはこの二人だけである。
現状に思考が追いついた時、セラの顔が急に赤くなった。
そんな彼女にヤマトはますます首を傾げる。
(な、な、何考えてるのよ! 今はそんな状況じゃないんだから!)
「セラ…? どうかした?」
自らの思考に首をブンブンと振る姿にヤマトは訝しげな表情をしてきた。
そんなヤマトにセラは慌てて後ろを向いた。
「な…な…何でもないわよ!」
「???」
顔を真っ赤にしてズンズンと進むセラを慌てて追いながら、ヤマトは首を傾げるばかりであった。
「それで、どうするのよ。これから」
「う~ん…、とりあえず一通り辺りを覗いてみるかな」
しばらく歩けば他の者と合流できると楽観的に考える。
だが、これからの動向に感知魔法を使えない二人はそのまま手探りで探すしかないと判断し、そのまま森を進んでいった。
「「………………」」
そうして訪れた静寂。
(…一体何なんだ)
チラチラと此方を時折覗くセラに疑問を持ちまくるヤマト。
それがヤマトの精神をさらに抉っていく。
(…なんなんだ? この静かさは…。しかも何でこっちをチラチラ見てくる…!?)
ヤマトは無性にこの場から逃げたくなった…。
(な、何か喋らないと…。でも何を話せばいいの…?)
一方のセラも二人きりを意識しすぎ、元々コミュニケーション力も長けてない為、緊張して固くなっている。
二人は更なる静寂に包まれていった。
「なあ…、俺の顔に何かついてる?」
遂にこの空気に耐えられなくなったヤマトはとりあえず思った事を訊ねてみる。
先ほどからセラは此方の顔をチラっと見やるばかりでしかも顔を赤くさせている。
ヤマトの推理では、もしや自分の顔に今まさに鼻〇そでもついているのではないか、セラはそれを自分にどう伝えればいいか分からないのではないか、というものであった。
ああ、そうかとヤマトは納得し、とりあえず勇気を振り絞ってセラに聞いたのだ。
これですべてが解決する…ヤマトはそれを本気で信じていた。
しかし、ヤマトが話しかけると同時に上擦った声をあげたセラがさらに顔を赤くさせて…言った。
「つ、付いてるわよ! その間抜けな顔が!」
――…ひどくね?
セラとしてはいきなり声をかけられ、その性格ゆえに慌てて口走ってしまった言葉である。
しかし、本気にしてしまったヤマトは頭をがくっと項垂れ落ち込んでしまう。
慌てて訂正しようとするが言葉が見つからないセラは黙りこむしかなかった。
そうして再度訪れる静寂。
「…ヤ、ヤマト!」
「――何?」
「その、あの…。――な、何でもないわよ!」
――じゃあ何で話しかけたの?
セラはおもむろにこの状況を打開するため動いたが、彼女の性格ゆえにあえなく失敗。
其処からの気まずさはかなりのものであった。
――誰か来ないかな…。
ヤマトには願うしかなかった。
このままでは精神が崩壊してしまう。
その前に一刻も早く…! この精神的ダメージを受けるこの場から手を差し伸べられる事を…。
…そして、その願いが通じた。
「うおらぁぁぁぁ!!」
突如二人の右の方から声がしてきたのだ。
それに慌てた様子で反応する二人。
「セラ!」
「わかってるわよ!」
事態が一変したことに心の隅で多大な感謝をするヤマトは声のした方に突き進む。
セラは最初こそムッとしたが今はそんな時ではないと悟ったか、ヤマトに黙ってついてくる。
そうした先には灰色の髪と瞳をした黄色のローブを羽織った魔道士の女性とザックが二人で魔物と戦っていた。
「ザック、援護する! 風の刃よ刀より放て。風刃」
ヤマトが放つ風の刃がそのままビックマウスに直撃し、ビックマウスが倒れる。
セラも長衣の下から短刀を取り出し、敵を切りつける。
「おお! ヤマト、セラ! 無事だったか!」
「援護助かります」
ヤマトら二人の援護の元、ザックと女魔道士も防衛から敵の殲滅に移る。
「水の斬撃を! 水圧斬撃」
詠唱を唱えた女魔道士の手刀が魔物に向かい横になぎ払われる。
その瞬間、手刀から高圧水流が現れ、敵を切り裂いた。
「うおぉぉぉ!」
ザックも負けじと現れた魔物から順に拳を振るい撃退していく。
次々に脳天を昇天させていき、倒れ伏していく魔物たち。
「ふ~。こんなもんかな」
そうして最後の一匹を倒した四人はとりあえず戦闘の終わりに安堵の息を漏らした。
二人の方にも目立った傷はないようである。
それを見てヤマトはセラを連れて二人の方に駆け寄った。
「ザックは一応無事みたいだな」
「当たり前だぜ。つーか俺が殺られるとでも?」
ザックが親指を突き立て此方ににやりと笑う。
たった今ザックの歯がキランと光った。
「ああ、そうだ! 紹介しとくぜ! こっちのお姉さんはラーシアさん。俺とそこで運命的な出会いを果たしたんだ。」
「――偶々居ただけですけどね…」
苦笑いしながら自己紹介を済ませるラーシアという魔道士もヤマトらと同じく他の者と離れ離れになってしまったようだ。
ここまでの経緯はとりあえず二人で辺りを探そうとしたところ、魔物の群れが襲いかかってきたということらしい。
「まあ四人もいれば一通りは安心できるだろ」
「そうだな。とりあえずここら辺を散策してみる?」
「そうですね…。私も仲間が心配なので」
話がまとまり辺りの散策に動きだす三人。
しかし、セラは頬を膨らませて面白くないようにその光景を見ていた。
(私と二人の時はそんなに話しかけようとしなかったくせに…)
実際はヤマトも状況を打開しようと会話を試みたが、セラの一言に撃沈したことはセラの頭には入っていない。
そういう訳でセラは拗ねていた。
…そんな彼女を見ていたラーシアはクスリと笑った。
★★★
辺りを散策するため、四人は森の中を歩き続けていた。
「ヤマトさんにお聞きしたい事があるんですが…」
そうして森を進んでいくと、不意にラーシアがヤマトに声をかけた。
その瞬間セラとザックの耳がピクッと動いたのは気のせいだろうか…。
「いや、ラーシアさんの方が年上じゃないかなぁ? 敬語はどうかと思うけど…」
「それは私が老けて見えると?」
「い、いや…別にそういうわけじゃあ…」
二十代ぐらいだからと付け足し、一瞬の殺気に立ちすくんだヤマトはとりあえず名前は呼び捨てで言うように頼む。
それに頷いたラーシアは質問の続きをぶつけた。
「なぜ、ヤマトは身体強化魔法を使えるのでしょう!? アレは古代魔法のはずですが…?」
「ん~…。偶然かな…? 俺の魔力が多いってのも関与してるらしいけど」
「す、すごいですね…」
「お、俺も会話に入れてくれぇぇぇ!」
慌てて割り込んでくるザックも入り会話はヒートアップ。
すっかり蚊帳の外のセラはそっぽを向く。
「セラ? どうかした?」
そんなセラにヤマトが会話に入れるように話を振る。
しかし、セラは顔を真っ赤にして「知らない!」と怒鳴ったのであった。
「う~ん…。俺何かしたかな?」
ザックに答えを求めるがさあ? と首を振るばかり…顔はニヤついていたが。
どうやらラーシアも気づいているのか「ちょっと話してきます」とセラに向かっていった。
「えっと、セラちゃんでしたっけ?」
「――何よ」
ぶっきらぼうに返事を返すセラにクスクスと微笑みながらラーシアが言葉を続けた。
「セラちゃんは嫉妬してるのですか?」
「! な、違っ!」
慌てて誤魔化すセラだが、ラーシアは分かっていますよと目で語ってくる。
しばらくすると観念したのか、セラはおとなしくなっていった。
「――だって全然気にしてくれないんだもん…」
普段の彼女ならば決して見せない弱気な声。
下を向いて聞こえるかどうかの小さいその声で呟くようにそう言った。
ラーシアはその言葉に尚も微笑みながらセラの頭に手を乗せた。
「そうだったら、セラちゃんがアピールするしかないですよ。大丈夫です。ヤマトはセラちゃんのことを嫌ってはない筈ですよ」
その言葉にセラはヤマトの方をチラチラと眺め、溜め息を吐く。
「――頑張ってみる…」
「ふふっ。その意気です」
この時、セラの瞳には決意が宿った。
一方のヤマトは最初こそセラがぶっきらぼうに振舞ってたが、今では時折笑みが出ている光景に疑問を持った。
「ヤ、ヤマト…! あの他人嫌いのセラがラーシアさんとの話で笑ってやがる…!」
「い、一体何の話をしてるんだろ…?」
「さ、さあ…? ラーシアさん恐るべしだぜ…!」
見知らぬ他人にはあまりにも冷たいセラが、たった今会った女性と親しくなったのだ。
二年半前と比べると丸くなったな~とヤマトは感慨深そうに頷く。(ちなみに身体を恐怖で震えさせながら)
そうして雰囲気の良くなった四人は他の者を探す為に森を進んでいく。
…しかし、四人は気づかなかった。
背後から忍び寄ってくる獣が獲物に目を光らせ、近寄ってくることに…。
そうした命の危険に他の者が晒されていることに…。
★★★
森の北西側では五人の冒険者が魔物の一団と戦っていた。
「水の隕石よ。水弾落下」
緑の長い髪を靡かせた少女が詠唱する。
その魔法に魔物の何匹かが飲み込まれた。
「まだまだいくよ!」
もう一人の少女がその水色の目に見定めた魔物を一匹ずつ正確に矢を放って射抜いていく。
それが体のあちこちに刺さった魔物の機動力は目に見えて遅くなっていく。
「三人で畳み掛けるぞ!」
「おう!」
「はい!」
深緑の髪と藍色の髪の男性二人に金髪碧眼の少年一人が魔物に突っ込み武器を振るう。
何匹もの魔物がそれをかわす事が出来ずに倒れていく。
そうして魔物との戦いが終わった。
「ミドルさん、ダニルさん。手伝ってくれてありがとうございます」
フィーネが二人の男性冒険者に深々と頭を下げる。
その二人は共に薄黄色のマントを身体を覆うように身に付けている冒険者である。
「何の何の」
「困ったときはお互い様だ」
この二人はロイとソラとフィーネが固まって走っているとき、逃げる方向を示してくれた人物であった。
そうして走った先にはこの五人しか居らず、今では一緒に他の者を探している最中である。
「セラ…。大丈夫かな~…」
ソラはふと親友の名前を口にする。
他の者も心配ではあったが、一番無茶をしやすいセラが彼女の中では最も心配であった。
「大丈夫だよ。セラちゃんは強いしね」
そんなソラにロイが励ますように声をかける。
気休めではあったが、その言葉を信じるしかないソラはまた捜索の為歩き出す。
(ヤマトさん…。どうか無事で居てください)
フィーネも、自分が尊敬していて、また自分にとって兄のようなヤマトの身を心配していた。
フィーネにとってはセラ以上にヤマトが無理をするのではないかと思っているのである。
(ラーシア…。無事でいてくれよ)
ミドルとダニルの二人も同じチームであるラーシアのことが心配でならなかった。
そうしたそれぞれの思いに駆られ、五人は森を進む。
その時、地面が揺れるような衝撃が五人の下に訪れた。
「ま、まさか…」
その地震の正体が五人に姿を拝ませる。
その五人の前に現れたのは…サイクロプスだった。
「――――ここまで追ってくるとは…」
サイクロプス唸る。
それに合わせて全員が身構えた。
「どうしましょう…?」
「ここまで来るんだ…。また逃げたとしても逃げ切れる保障がないぞ?」
「それに今はこいつ一匹。上手くいけば…」
「決まりですね…」
五人はロイの言葉を最後に一斉に武器を取り出した。
サイクロプスが右手に持った棍棒を振りかぶる。
それに合わせてソラとフィーネは攻撃の準備、ロイとミドルとダニルは武器を手に突撃した。
サイクロプスが棍棒を振り下ろす。
そして数分が経ち、凄まじい衝撃音がその場に鳴り響いては…断末魔の叫び声が上がった…。
★★★
同時刻、サイは見知らぬ七人の冒険者と一緒に森を探索していた。
しかし、その表情は決していいものではない。
「――ダメだな」
サイが呆れながら誰にも聞こえないほどの音量で呟いた。
その隣では先ほど戦った魔物の群れの証拠品のことでサイ以外の全員が言い争っていた。
「これは俺が殺った奴だ!」
「いいや! 俺だね」
「ふん! 俺のおかげだろうが」
「何も出来ない奴がよく言うぜ」
「ケッ。てめえが言える立場か」
「何だと!」
サイは最初こそ流していたのだが、ここにいる者は今の現状の確認をしようとしない。
本当に目先の利益にしか興味がないようであった。
そして口々に言い争う冒険者達に遂にサイが限界を超えた。
「いい加減にしろ! そんなもの後でやればいい! 今は黙って他の者と合流するべきだろうが!」
怒鳴ったサイに訝しげな表情を見せた冒険者達。
だが、そんなもの知ったこっちゃないとさらに言い争いを始めた。
サイは既に呆れ果てていた。
「――――勝手にしろ!」
サイはそれ以上何も言わず一人森の奥に進む。
それに一瞥もくれないで言い争う七人。
…その前方に不意に魔物が降り立った。
全員が突如現れた魔物の姿に驚愕する。
その魔物を一言で言うなら悪魔。
黒い皮膚にオレンジの瞳。
背中から生える翼は禍々しく、腹には赤い鱗が…。
「な、な、何でこんなところにこいつが居るんだよ!!?」
誰かが驚愕と恐怖の声をあげた
その悪魔が長い爪を擦りながら近づいてきた。
そして七人の命は途切れた…。
魔物大討伐も半分が過ぎました。
次回と次々回は戦闘入ります。