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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
16/123

15話 いざ盗賊退治

「ふむ。それでは出発するぞい」



 ところどころに包帯を巻いているアルは子ども達七人を連れてギルドに向かう。

 その足取りは遅いように感じるが、ヤマトの気のせいだろうか……。


「セラ……」


「――――何よ?」


「――いや、ちょっとやり過ぎてない?」


「いいのよ。あのくらいで」



 確かに昨日の出来事は彼女にとって許しがたいものであったのだろう、ヤマトもそれは認めている。

 しかし、彼ら三人(無論ザック、アル、そして可愛そうなことにロイ)は死体同然のように部屋の前で転がっていた。

 ロイなどは可愛そうなことに今でも涙ぐんで、時折少女ら三人をチラッと見ては震えている。



――俺は死んでもああはならない。否! なってたまるか!



 ロイを横目に見た後、セラをじっと見つめ決意を固めるヤマト。

 しかし、何を勘違いしたかセラはこちらを見て頬を赤らませる。



「――どうしたんだ?」


「――何でもないわよ!」



(絶対何かあるはずだよな。これ……)



 セラの顔を訝しげに眺めるヤマト。

 その姿を見てソラが呆れたように肩を竦めた。



「――フィーネはどう思う?」


「……難しいですね」


「やっぱり?」



 二人がヤマトとセラについて語り合う。

 ヤマトの鈍感の程具合には呆れるものである。

 その横ではザックがしょんぼりしていた。



「――――俺は馬鹿だった……」


(こいつ、珍しく反省しているな)



 珍しく自責の念に駆られるザックに「ほう……」と感嘆の声をあげるサイ。

 しかし、ザックが自分を責めているのは違った理由であった。



「何で……あの時バレたんだ……! 上手くいけば今頃は……くっ……! 楽園エデンを前にしてこの醜態は悔やんでも悔やみ切れないぜ……!」



(――――少しでも見直した俺が馬鹿だった。――ああそうだよ、お前は確かに立派な馬鹿だよ)



 呻くザックにサイが横から拳骨。

 なぜ殴られたかがわからないザックはサイに食って掛かるがサイはこれを一蹴。

 それを見ていたヤマトは苦笑いするしかなかった。

 そしてそんな八人はいつの間にかギルドの前まで来ていたのであった。



「宿も大きかったけどギルドも大きいね」



 ソラが感嘆したように呟く。

 ソラがそう呟いたのも無理は無いほどに目の前のギルドは今まで見た中でも一番に巨大であった。



(確かに大きいな~……。前のギルドの三倍はある気がする……)



 ヤマトもこれには同感の様子。

 ここの街は何から何まですごいな~というのが七人の感想だった。



「すまんが鑑金品を持ってきたのじゃが」


「はい。こちらはワイルドウルフの牙ですね。少々お待ちを…」



 八人はとりあえずギルドに入り、受付のところまで歩いていく。

 そうしてアルは換金部位を受付の女性に渡した。


 それを受け取った女性は受付カウンターの奥に歩いていった。

 それを見送り、次にヤマトは改めて周りを見渡した。


 左の奥には木の板の掲示板があり、其処に情報や依頼などが書かれた紙が張ってある。

 右にはいくつかのテーブルがあり、そこで食事をしているもの、チームの仲間を募集しているものなど様々な冒険者がいる。


 この辺は普通のギルドと変わらないようである。

 観察し終わり、ヤマトが中身は広いが別段珍しいものはないと結論づけた丁度その時に受付嬢が帰ってきた。



「確認と報酬の用意が終了しました。これら全てで合わせて銀貨五十三枚になります」


「ふむ、結構な額になったのう。それではもらおうかのう」


「ありがとうございます。ちなみに依頼の受注はどうします?」


「ふむ、そうじゃのう。確かCランクの盗賊討伐があったはずじゃ。それを頼む」



 依頼の受注と同時に自らの持つギルドカードを渡すアル。

 いつもはアルのギルドカードを見せれば受付は心底驚き叫ぶ程なのだがこの受付嬢は目を丸くさせるだけで目立つような行為はしなかった。

 なぜアルのギルドカードを見せれば心底驚かれるかと言うと、単にアルの腕が良すぎるのと、ヤマト達は良くしらないがアル曰く、昔は大層有名な冒険者だったらしい。



「かしこまりました。期間は今から五日間以内となりますがよろしいですか?」


「かまわんよ」


「それではいってらっしゃいませ」



 慣れたように受付を済ますアル。

 依頼について詳しく話を聞き終わったようで、ヤマトらの元に戻ってきた。



「さて、今から盗賊退治にいくぞい」


「ここらでお小遣いを稼がないとね」


「最近金欠だしなー」


「それでは行きましょう」


 皆の合意の元、八人はこうして盗賊の住処と噂されるこの街より北の森に向かうのだった…。





     ★★★





 アル達八人は盗賊討伐の任を果たすべく、ハドーラより北部にある森に足を踏み入れた。

 外見は普通の森であり辺り一面木々で覆われている。

 しかし、このあたりは魔物の気配が少なく、さらには人もあまり寄り付かない。

 また森自体がかなり大きい。



「まさに絶好の隠れ場所じゃな」



 なにせこのあたりには魔物の餌となるものも、人が欲する薬草などもない。

 辺り一面が木々で覆われているのである。

 盗賊としてはこれ以上無いくらいの隠れ場所であった。



「最も、わしらの前では無力じゃがな」



 ズンズンと足を踏み入れ進んでいく八人、しかし、辺りの景色は一向に変わらない。



「じーさん。感知魔法は使えないのか?」


「無理じゃのう。やってみたが、森が広すぎる。わしも感知は得意ではないしのう…。森のどこら辺にいるかの特定はわしにはできん」



 サイの意見に無理だときっぱり言い切った。

 確かにアルの言うとおりこの森は広い。

 アルの感知魔法がアルを中心に半径三百メートルの範囲を感知できるが、この森はバランの中でも有数の広さを誇っており、とてもアルの感知魔法が届く訳がなかった。



「それじゃあどうするんだよ?」



 打つ手なしと言われたように感じたザックが文句を付きつける。

 しかし、アルは焦ることも無く落ち着いてにやりと笑った。



「確かに、普通なら感知魔法の範囲に入るまで探し続けたじゃろう。それこそ気の遠くなるような時間と魔力を使ってのう。しかし、先ほども言った通りにわしらには無力じゃ。のうヤマト?」


「――俺の出番って訳ね」



 アルの言葉と共にヤマトは一歩前に出る。

 ……次にはおもむろに目を閉じて身体に魔力を溜め始めた。

 魔力を溜め始めて一分以上が経った時、ヤマトの目がカッと開く。

 瞬間、ヤマトの頭に衝撃が走った。

 そして、直感がヤマトに進むべき道を示した。



「多分、ここから北東の方向に真っ直ぐ進めばいると思う」


「ふむ、北東か」


「――全く、マストだっけ? 相変わらずすごいわね」


「直感で全てお見通しって反則でしょ……」


「規格外だな」


「確かにそうですね……」



 現時点確認されている中で大陸中でもヤマトだけが持つ特殊能力、超感覚能力マスト

 二年前に、アルに発動方法が魔力の高まりにあるのではないかと懸念されてから、魔法と平行して修業して得たものである。


 この能力は感覚能力全般が向上される効果があるが、それよりも重要なものが衝撃と同時に起こる直感にあった。

 神の示唆のようなこの直感は今まで百発百中、これによって予想したことが外れた事は無い。


 しかし、この能力にも欠点がある。

 それは二分近い魔力の溜めによる供給と一瞬しか発動できないところである。

 ゆえに戦闘では、まず使えない。


 さらに凄まじく膨大な魔力を供給によって消費するので、いくら無限に近い魔力を持ったヤマトでも、そう何度も多様はできない。(超感覚能力マストの発動自体には魔力は必要なく、自身の魔力を高めるために大量の魔力を消費する。故に感情の高ぶりによって魔力が高まり発動する場合は魔力を消費しない)



「それでも、この能力ってチートだよな……」


「チート?」


「んん? あれ、何か口をついて出てきたな」


「また?」



 ヤマトはこの二年間、何故か謎の言葉を呟く事が多い。

 彼自身もあまり知らないらしいのだが、口をついて出るとの事。

 ヤマトはもしかしたら失った記憶に関係あるのかな? とも思うが考えても分からない為に今は保留にしている。



「ふむ、まあ場所もわかったことだし、進むとしようかのう」



 ヤマトの超感覚能力マストにより、標的の場所を特定したアルが感知魔法を広げて歩き出し、七人もそれについていく。

 そうしてしばらく歩いた時、アルが立ち止まった。



「ふむ、敵が近くにおるのう」



 感知魔法で敵の居場所を把握したアルが全員に戦闘準備をするように促す。

 それによって全員がそれぞれ武器を取り出し戦闘準備に入っていく。



「準備万端。いつでもいけるよ」



 最後に準備を済ましたソラの言葉に全員が気を張り出す。

 そしてそれに頷くアルは右手を手招きするように向こう側に向けた。



「それではいくぞい」



 そして八人が標的に向かい駆け出した。





     ★★★





 ここはハドーラより北部のとある森の中にある洞窟。

 洞窟の中はいくつもの灯台が用意されており、中は比較的明るい方であった。

 其処にいくつものテントがある。


 洞窟の中にテントがあるのは変ではあるが、洞窟の中で何日も過ごしている以上仕方の無いことであった。

 最も、こんな洞窟で寝泊りしていること自体普通ではないが、ここはある盗賊団の一時的な隠れ家であった。



「お頭。何時までここで待機なんっすか?」



 灰色の髪を垂れ流した三十代くらいの男性が、四十代くらいの藍色の髭をぼうぼうと生やしたお頭と呼ばれる男性に待機命令のことについて訊ねる。

 盗賊団の頭と思われる男はふむと考え込んだ。



「例の“依頼人”によればもう何日かで仕事を要求するそうだ」


「……あの依頼人、信用できるんっすかね?」


「信用できるかなどどうでもいい! 報酬がなんたって金貨十枚だからな」


「早く済まして女でも買いましょうや」


「はっはっは! まったくだ!」



 今後のことについて、報酬をもらった後に何をするかを嫌らしい笑みを浮かべ、語り合う二人。

 しかし、この二人のそんな思惑はもうすぐ無となることを、彼らは知る由もなかった。



「そういえば街に情報収集に出てった奴。遅いっすね」


「そういえばそうだな。まさか街で騒ぎ起こした訳じゃあるめぇな…」



 盗賊達も狙う獲物を探すため、ハラードの街で情報を入手するべく少人数を街に派遣する。

 しかし、その情報収集に行かした者達がいつまで経っても帰ってこなかった。

 さすがに何かあったのかと疑問に思う盗賊団。

 そんな時一人の男が血相を変えてこちらに向かって来た。



「お、お頭!!!」


「なんだ? どうしたんだ!?」



 その慌て振りを見て異常な雰囲気を読み取った盗賊の頭は男の言葉を待った。

 そして男から伝えられた言葉に周り全員が驚愕した。


「て、て、敵襲が!!!」


「何だと!? こんな森の辺境に誰がやってくるんだよ!!?」


「ぼ、冒険者らしき八人がここの外で交戦中で殺りあってます!!」


「ちっ! 野郎共! その冒険者共をぶっ殺せ!!!」



 男の叫びにより洞窟内の者達が一斉に武器を取り、洞窟の出口に向かう。

 そうして何人もの武装した輩が外に飛び出した。

 しかし、其処には戦闘がもはや済んでいた。

 外で応戦していた十人弱の盗賊はすでに地に伏しており、その中心には一人の老人と15~16程の少年達が武器を構え立っていた。





     ★★★





「さて、本命が中から出てきたな。数は十人弱…。こいつらもろくに経験を積んでない様な奴らか?」



 洞窟の中から何人もの盗賊が出てくるに視線を向け、サイが鼻で笑った。



「数が多くたって一人一人が弱いのよ」



 セラもサイに便乗して盗賊を見下す。



「とりあえず、早く終わらせようよ」



 二人の意見を聞き、頷くロイはさっさと片付けることを推奨する。



「よし。んじゃ行きますか! 我が身の身体を向上せよ。身体強化チャージング



 詠唱を唱え突っ込むヤマトに合わせ全員が地を蹴った。

 この様子を見ていた盗賊の輩も武器を構え、怒声をあげて突っ込む。

 そうして双方が牙を剥いた。



「ふん!」



 武器を大きく振りかぶる男にサイが素早くロングソードをなぎ払う。

 男の腹が斬られ、呻くところに長剣の平らな面で男の頭に打ちつけた。

 男が一人沈む。

 その後ろから二人の剣を構えた男が走ってくる。



「サイ君、任せて!」



 しかし、双剣を持ったロイが二人の懐に入り同時に斬りつけた。

 さらに二本のショートソードで連続で斬りつけるロイの前に二人が倒れた。

 それを見たサイが一瞬だけ周りの状況確認をする。


 ザックとセラとソラの三人が協力して数人を相手どっている。

 しかし、敵はそんなに技量が無いらしくおそらくもう少しで片がつくだろう。

 ヤマトはアルと一緒に敵をなぎ倒している。

 そんな中でフィーネは呪文の詠唱をしているが、背後から藍色の髪をした男が近づくのに気づいていなかった。



「ヤマト!!」



 サイはそれを見て、一番近くにいるヤマトの名を叫んでフィーネの方に指差す。

 それに気づいたヤマトは指差された方向に走り出した。



「あばよ! 譲ちゃん!!」


「えっ……?」


「フィーネ!!」



 突然後ろからの声に振り向くフィーネに鉄の刃が襲いかかる。

 しかし、間一髪のところでヤマトが割って入り、その刃を受け止める。



「フィーネ! 大丈夫か!?」


「は、はい……」


 ヤマトに助けられた緑の長髪を靡かせる少女が不甲斐無さそうに頷く。

 男を退かして距離をとったヤマトはそんな彼女の頭を撫でてやった。

 あわあわと慌てふためくフィーネの顔は羞恥のせいか顔が見る見る赤くなる。


 ……その瞬間、ヤマトの背中がぞくっと寒気がした。

 ギギギっと背後にゆっくり振り返るヤマトの目の前には、これまた真っ赤な顔をして頬を膨らますセラの姿が……。



「ヤマト! 後で覚えときなさいよ!」



――俺何かしたぁぁぁぁああ!!?



 自分に覚えることは何もありませんとヤマトは全力で言いたかった。

 しかし、既に般若化したセラにその言葉が通じるとは思えない。

 ヤマトはあきらめたように溜め息をついた。



(――――街に着いたら逃げよう。全力で!)



 開き直ったヤマトは視線を前に向けた。

 すると相手の男は自分など眼中に無いという先ほどまでのヤマトの態度に腹を立てていた。



「このガキ! 余裕こきやがって!」



 盗賊団の頭と思われる男が怒気を含み声をあげる。

 しかし、それに臆することなくヤマトは武器を構えた。



「ぶっ殺してやる!」


「出来たらな!」



 両者が一斉に飛び掛る。

 男の振り下ろす剣に身を捻ってかわし、ヤマトは刀を突き出す。

 しかし、この男は下っ端よりは戦えるらしく、それを咄嗟にかわす。

 だがヤマトは男にさらに畳み掛ける。

 黒い剣閃がいくつも男を襲った。

 男もそれを防いでいくが、所々にかすり傷がつけられていった。



「このガキ!」



 悪態をついてヤマトに斬りかかるが、身体強化魔法で動きの素早くなったヤマトにはあたらずに剣は空を斬る。

 ヤマトはそのままスムーズに刀を構え…魔力を刀に集まるように操作する。



「刀より放つ風で吹き飛ばせ。突風ガスト



 詠唱と共に風を刀に纏わしたヤマトはそれを振るう。

 其処から突風が吹き、男を吹き飛ばした。



「くっそがぁぁぁぁ!!」



 男はそのまま吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

 よろめきながら立ち上がり怒鳴る盗賊のお頭。

 しかし、ヤマトは気にすることなく懐に入った。



「はあ!」



 そして、刀を一閃。

 男の右肩から左腰にかけて深い傷が出来、斬られた男は崩れ落ちる。

 周りもどうやら戦いが終わったらしく、盗賊全員が地面に倒れていた。

 こうして、盗賊討伐の依頼が幕を閉じたのであった。





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