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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
13/123

12話 守る者

 アルが村を離れることを伝えてから二日目になった。

 ヤマトは昨日にセラと村の人に挨拶に行き、そこで滅多に見られないセラの表情を思い出しては笑みを浮かべた。



(少しは信頼され始めてるって事かな?)



 そんなことを考えながら食卓に顔を出すヤマト。

 しかし、顔を出した瞬間にヤマトの目に飛び込んできたのはロープでぐるぐるに縛られてさらには口を布で縛られ横たわっているバンダナを巻いた少年だった。



「ひゅふへへふははひ!」


「――――これは女性を呼ぶ新しい方法っすか……?」



 ヤマトが引きつった顔を浮かべながら滑稽な姿のザックを見下ろす。

 そんなヤマトの言葉にロイが飲んでいたお茶を噴出し……横たわっているザックにかかった。

 そんな光景に「哀れだな」と呟くサイの言葉にヤマトは確かにと思い、ザックの状況をしげしげと確認する。


 口元を布で巻かれ、上手く喋れないのであろう……さっきから何を言ってるのかがわからない。

 涙目でこちらに何かを訴えかけている。

 その意図がなんとなくわかったヤマトは心の中でザックに謝罪する。



(ごめん……ザック。サイがいる以上下手なことは出来ない……)



 この状況、どう考えてもサイの方が絶対強者なのであろう、その彼がザックをこの状態にしたのは明白であった。

 悪いがどうせ自業自得からなった事だろ、とヤマトはザックを見捨てることにした。



「――――!! ひゃまほぉ~……。ほれひゃひはひんひゅうひゃろ!?(――――!! ヤマトぉ~……。俺達は親友だろ!?)」



 なんとなくザックの言いたいことを僅かながらに理解できたヤマトは耳を塞ぎ、ザックの声は聞こえないとばかりに無視した。

 そんな光景を見ながらソラがヤマトに状況を説明する。



「――昨日ザックが形振り構わず女性に飛びついちゃって……。苦情がいくつか来たんだ……。それでサイが……」


「うん、もうわかった……。それ以上言わなくていい」


 ソラがしどろもどろに説明するが、サイが余程恐ろしかったのだろう、ソラの言葉にフィーネが食べながら泣きそうな表情をしているのが目に入った。

 まああんだけ昨日騒げばな、と昨日聞こえてきたザックとロイの会話を思い出し、ヤマトは苦笑した。


 しかし、昨日の件で被害にあったのはザックだけではない。

 ヤマトは理由を深くは知らないがフィーネとソラも被害にあっている。

 昨日セラに殴られた二人の頭にはデッカイたんこぶが未だに腫れていた……。



「そういえば、セラは?」


「――セラなら薬草を摘みに行ってる。これから旅に出るから出来る準備はしておくんだって」



 頭の腫れている箇所を押さえながら答えるソラ。

 隣を見ればフィーネも頭を擦りながらブルブルと震えている。



(一体昨日に何があったんだ……?)



 そう思わずにはいられないヤマトは二人に何があったのか訊ねようとして……止めた。

 ヤマトから見ても二人の様子はあまりにかわいそうだったのだ。

 ここで下手に昨日のことを聞き、トラウマをぶり返すのも尺だと思ったヤマトは話の方向を変えた。



「ソラとフィーネは今日はどうするんだ?」


「そうですね……。今日も少し挨拶をした後、セラちゃんのように旅立ちの準備をしようと思ってます」



 ヤマトの意図を悟ったのかフィーネは身体の震えを抑えて顔を笑顔にする。

 多少引きつってはいるがヤマトの目を誤魔化すまでには到った。



「う~ん……。俺も準備しといた方がいいかな?」


「そうですね。おじーちゃんが準備はしっかりしときなさいと言ってましたし」


「そうだな~……。俺も準備しとくか!」



 そうして今日の予定を立てるヤマトは席に着き、食事をとる。

 それに合わせて皆も止まっていた手を動かす。

 勿論ザックは床をゴロゴロする事しか出来ないでいた。

 そんな時、朝食を食べているヤマトはふと何かを感じた。



(なんだ……? この嫌な感じは……?)



 別に自分の身体に異変がある訳でも、また周りの皆に違和感がある訳でもない。

 しかし、ヤマトには妙な胸騒ぎがした。

 そして……例の衝撃がヤマトの頭をよぎった。

 その瞬間、ハッと何かを悟ったヤマトは外に出ようと走り出した。



「――――!? ヤマト!? どうしたの?」



 ソラが驚いたように叫ぶが、ヤマトは止まらなかった。

 刀を持って玄関の扉を開け、村の外れの森に一直線に向かい駆ける。



(――――セラが危ない!!)





    ★★★





(――――一体何なんだろう……?)



 ここは村の外れにある森。

 地面には雑草が生い茂り、周りには幾重にも木が立っていた。

 風に揺らされた木々の葉が重なり合い音を鳴らせている。

 そこで一人の少女が薬草を摘んでいた。



(……別に“あいつ”のことが嫌いな訳じゃない)



 その少女は赤い髪を風で揺らし、その茶色の瞳は下を向いてはいるが、その光景を脳に映してはなかった。



(一番最初に“あいつ”と演習場に来たとき……左腕の“これ”が痛んだ)



 無意識に左腕の手首より下を右腕で掴む。

 その手は摘んでいた薬草を手放していた。



(……私は“これ”が嫌い。これのせいで皆から怖がられる……)



 下を向いていた茶色の瞳には薄っすらと雫が溜まっていた。

 そう、“これ”があるからこそ、少女は自らの面倒を見てくれる白髪の老人に会うまでは蔑まれ、一人で生きていたのだ。



(だから……。あの時から“あいつ”のことは苦手。なのに……)



 少女の頬が僅かに朱色に染まる。

 少女はある一人の少年が苦手だった。

 もともと人を寄せ付けるような性格ではないが、それにまして少年のことが苦手だった。


 しかし、昨日に一緒に過ごしたせいか…苦手以上の何かの感情が芽生えた。

 それはどこか暖かく切ない感情。

 苦手なのに隣にいても苦にならない。

 そんな矛盾が生じて、少女は戸惑っていた。



(――一体何なんだろう……?)



 そして少女はハッと我に返る。



(そういえば私、薬草摘んでたんだっけ……)



 その少女……セラは無意識のうちに手放していた薬草を拾い、再度作業を開始する。



「ホント、何を考えてるのよ……」



 かなり長く一人で考え事をしていたセラは、早く終わらそうと作業の手を早める。

 ……その時、森の奥のほうで悲鳴のような声が聞こえた。



「――!? ……何!?」



 驚いて振り返ってみるとまた悲鳴のような声が聞こえた。

 それを聞いてセラはあわてて声の発信源に向かう。

 そこで彼女は目を覆いたくなるような光景を見てしまった。


 そこには一人の男が倒れていた……大量の血を流して。

 冒険者と思われる男のそばには、緑色の肌に白目の小人のゴブリン(危険度Fランク)と、白と灰色の毛皮にとがった耳を持ち目玉が毛皮に隠れて見えない全長一メートルくらいのネズミのビッグマウス(危険度Eランク)が数匹ずつ斬られて死んでいた。


 だが、そんな中で一匹だけが動いている。

 それは体長一メートル二十センチくらいだろうか。

 身体の色が気味の悪いような青色をしていて、腹の辺りだけ黄色く、とがった耳と長い爪を持ち、その眼光はオレンジ色を放っている。


 その姿にセラは息を呑んだ。



「――リトルデーモン……!」



 セラの目の前にいるのは危険度Dランクでも上位に逸しているリトルデーモン。

 リトルデーモンは倒れている男の腹わたを食らっていた。

 男の右腕は千切られていて、骨が露になっている。



「どうしよう……!」



 セラはただ薬草を摘みに来ただけで自分の武器を持っていない。

 この辺りには魔物は出ないだろうと完全に油断していたのだ。

 もしもこのまま見つかれば……セラは男のように殺されるだろう。

 セラは後すざりした。

 しかし、不幸なことにその気配を感じ取ったのかその小さな悪魔はセラのほうを向く。

 その小さい悪魔とセラは少しの間ににらみ合い、そして悪魔の子は……向かってきた。



「――!!」



 セラは踵を返して、ガクガクと震える足を何とか動かして慌てて駆け出した。

 武器を持っていないセラに残された手段は逃走のみ。

 それを悟って駆け出したのだが……なんと後ろの方からから火の玉が飛んできた。



(魔法……!?)



 セラは咄嗟に横に跳んだ。

 セラにかわされた魔法はそのまま地面に当たり、地面に生えていた草が燃える。

 威力自体は小規模の為すぐに火は消えたが、まともに当たればただではすまないだろう。



「魔物が魔法を使うなんて……」



 セラは驚き目を見開く。

 リトルデーモンは危険度Sのデーモンという魔物の子どもでその遺伝を持っている。

 ある時期に一日で急激に成長するリトルデーモンはその時までは遺伝によって魔法を感覚的に使うだけ だが、注意をしないといけない攻撃が増えるのは今のセラにはキツイ事だった。


 短剣を持っていたとしてもおそらく勝てない相手に逃げるしかなく、セラはさらに逃走を図った。

 しかし、足場の悪い森であったからか次第に追いつかれ、セラは背後から衝撃を喰らった。



「きゃあっ!」



 そのまま地面に倒れたセラは痛みで呻く。

 そして自分を体当たりした悪魔を呻きながらも見据えた。

 すると前方の青い悪魔はさっきの男のものであろう血を口から滴らせて奇声をあげる。


 その甲高い雄叫びにセラは恐怖した。

 セラの頭にさっきの冒険者の無残な死体の姿が頭を過ぎる。

 そんなセラに悪魔はゆっくりと近づいていく。



「い、いや……ぁ…………」



 なんとか身体を起こすが体当たりをまともに食らったセラは足を引きずりながら後すざりしかできないでいた。

 そんなセラの目の前に悪魔が歩み寄ってくる。

 セラも今まで何回か魔物と戦ったことはあった…がそのときは皆が一緒だった。

 しかし今回はたった一人の自分に自らより格上の魔物が自分を食らうべく近づいてくるのだ。



(誰か……助けて……!)



 口に出そうにも恐怖で声が出ない。

 セラはうずくまり、すすり泣いた。

 身体が動かず、すすり泣くことしか出来ないでいたのだ。

 しかし、リトルデーモンがそれに戸惑う筈も無くセラの目の前まで来た。



「セラ!!」



 その時セラの右側の茂みから人が現れた。

 白の装束を身に纏い、真夜中の空よりも黒い髪に、黒真珠のような瞳を此方に向けている。

 右腕にはそれにも負けないくらい黒い色をした細長く曲がった剣。

 身長は百五十センチとセラと同じくらいだろうか。


 その少年は茂みから現れたと同時にリトルデーモンに斬りかかった。

 リトルデーモンは後ろに跳躍しその剣閃を避ける。

 そして少年はセラに近づき安否を確かめる。



「大丈夫か!? セラ!?」


「うん……」


 その声に何処も以上はなさそうだと安堵した少年は庇うようにセラの前に立つ。

 その姿は凛々しく、今は亡き少年の父親と同じように、どこか輝いているように眩しかった。



「……ヤマト」



 そして少年は刀を構えた。





     ★★★





「こいつは……?」


「リトルデーモン、危険度Dランクの魔物よ……」



 ヤマトの目の前には見るからに禍々しい悪魔が佇んでいる。

 今まで魔物を見たことの無いヤマトはその姿に戦慄を覚えた。


 しかし、二日前の事件で命の危機を一度知ったヤマトは、セラのように身体が動けないほど余裕の無い訳では無かった。

 少なくともこの状況を打開しようと思考を働かせる程には…。



(くそ、Dランクか……。じっちゃんにはせいぜいEランクまでとか言われた気がするのに……)


「セラ、動けるか……?」


「ご、ごめん……。無理みたい……」



 セラは何度も立とうとする素振りをするがどうやら腰が引けているようだ。

 どうやら自分に逃走の道が無いことを悟るヤマトは刀を強く握った。



「――ヤマト。あいつ強いよ……? 私はいいから……」



セラのいつになく弱気な姿を見て、ヤマトは……優しい表情で微笑んだ。



「なぁ~に、心配すんなって。俺が守るからさ」



 そう言って手をひらひらと振るヤマト。

 その姿にセラは心配そうに何かを言おうとした。

 その時、悪魔が奇声をあげた。



「……! 来るか!」



 ヤマトが奇声の上がった方を見る。

 すると、ヤマトの前方に居るその悪魔はまっすぐヤマトの方にゆっくりと歩みよって……跳んだ。



「――!!」



 ヤマトは急いで刀を横に払い、振った刀はリトルデーモンの長い爪とぶつかり弾いた。

 後ろに下がるリトルデーモンにヤマトは近寄っては刀を振りかぶって縦に斬りつけた。

 だが、それを爪で弾いたリトルデーモンはその爪でヤマトに向かい連続で引っかいた。



「くっ……」



 何とか刀でガードするがところどころにかすり傷ができる。

 ヤマトは何とか大きく振りかぶった引っかき攻撃の隙を突いて横に跳んでかわし、リトルデーモンの腹を突いた。



「硬っ……!」



 デーモンの腹の部分はヤマトが予想した以上に硬度があり、貫くことが出来なかった。

 刀が腹で弾かれヤマトは後ろに下がる。

 するとリトルデーモンの方に魔力が集まる。

 そして、口を膨らましたかと思うと……火の玉を吐いた。



「はいぃぃぃぃ!?」



 ヤマトは咄嗟に横っ飛びでそれを回避した。

 ヤマトを素通りした火の玉はそのまま木に激突し、燃えて消えた。



――魔法て……。


「これはまず……っ!」



 ヤマトはその様子を見た後リトルデーモンの方を向こうとして……爪で引っかかれた。

 咄嗟に身を捻ってはいたが、かわしきれずに右肩から腹にかけて浅く抉られる。

 一瞬怯んだヤマトは追撃として放たれた体当たりを避けれず、そのまま吹き飛ばされて後ろの木に背中から激突した。



「ヤマト!!」



 その光景を見てセラが叫ぶ。

 セラから見てもこのダメージは決して軽くない。

 現に背中を強く打ちつけたヤマトは痛みに呻いた。



(これはまずい、これはまずい……! どうする!?)



 ヤマトはこの状況で目の前の悪魔に勝つ可能性を一心に模索する。



(今の俺じゃあ勝てない……。――セラは!? ……動けないんだったなぁ。みんなもまだ来る気配が無いし……。――魔法は!? ……まだ魔力の操作すら出来てないしな。あの衝撃も来ないし……あれ? 万策尽きてない……?)



 しかし、様々な模索の結果、勝てないと悟ってしまう。



(――――“また”失うのかな……?)



 ヤマトは意識してないが心の奥で“また”と呟いてしまう。

 この時点でヤマトは意識が朦朧としていた。



(――そんなの……“もう”嫌だ!!)



 しかし、心の奥底で失う辛さを知っているヤマトはそのことに自覚が無いまま…“また”失わない為に立ち上がる。



(ここで死んだらセラに矛先が行く。なら……やるしかない!)



 イメージは出来る。

 詠唱も知っている。

 後は自らの魔法操作だけだった。


 ……深く深呼吸する。


 悪魔はもうすぐ其処まで迫っていた。


 ……身体を覆う膜をイメージする。


 悪魔がヤマトの目の前に立つ。


 ……魔力をイメージ通りに動かす。


 悪魔は腕を振りかぶった。


 ……そして、ヤマトは叫んだ。



「我が身の身体を向上せよ! 身体強化チャージング!!」



 ……悪魔が腕を振り下ろしたその先には、長い爪をしっかり刀で受け止めるヤマトの姿があった。





     ★★★





(――できた……)



 ヤマトは自分の切る札である魔法が成功したことに安堵した。



(これならいける!)



 そしてヤマトは爪を弾き、目の前の悪魔の顔面に蹴りを入れた。

 しかし、小さく呻いて後ろに倒れた後、悪魔はすぐに立ち上がる。



「――反撃、開始!」



 しかし、それに臆する事無くヤマトは斬りかかる。

 リトルデーモンもこれに反応して応戦してきた。

 ヤマトは刀で、リトルデーモンは自らの爪でそれぞれ斬り合う。

 刀と爪がぶつかり、鈍い音を立てる。


 その時、青き悪魔が振り下ろす爪を身を捻ってかわしたヤマトは、そのまま黄色い腹を斬りつける。

 さっきは弾くだけだったが今度はしっかりと斬れた。

 致命傷ではなかったが、それでもダメージは与えられたようで腹から青い血を流しているリトルデーモンが低く唸る。


「――! すごい……」


 セラはヤマトの戦いぶりを見て感嘆する。

 あのリトルデーモンを刀を握って半年しか経っていないヤマトが圧倒してるのだ。

 これなら、と呟くセラだが青い悪魔はこのままでは終わらなかった。



「……っく……」



 腹に傷を与える事ができて油断しているヤマトにリトルデーモンが叫びながら連続で引っかいてきたのだ。

 その猛攻を防ぐヤマトだが次第に後ろに後退し、身体のあちこちに傷が出来ていた。

 身体強化魔法で身体の耐久力も上げているとはいえ、このままではヤマトがジリ貧になることは目に見える。


 このままでは、とヤマトが思った瞬間……遂に頭にあの衝撃が来た。


 自分の感覚全てが洗練されていくのをヤマトは感じた。

 そして、直感すらも精度を上げたヤマトはこの青い悪魔を倒す方法をその直感で感じ取る。


 ゆえにヤマトは攻撃を避け、何とか横に跳び距離をとった。



(――さあ……。“あれ”を打って来い……)



 リトルデーモンの一回の跳躍ではギリギリヤマトに達しないくらいの距離を感覚で悟り、そしてとり続けてヤマトはリトルデーモンのある行動を待った。

 そうして、ヤマトの待った瞬間はやってくる。

 リトルデーモンが魔法を放つため魔力を溜め始めたのだ。



「来た……!」



 そしてヤマトは直感に従い走り出す。

 リトルデーモンは口を膨らませ、火の玉を放つが身体強化魔法も合わさって感覚機能が大幅に向上しているヤマトにそれをあっさりかわされる。



「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



 そしてヤマトは無防備になったリトルデーモンの開いた口に刀を突き出し……頭を貫いた。


 ……頭を貫かれた悪魔は青い血を噴出し、身体を何度か震わせ……そして倒れていった。



「――やったの……?」



 セラは目の前の光景に目を疑った。

 しかし、ヤマトの手によって倒れた魔物のオレンジの目には光が無い。



「――――たお……せた……」



 倒れた魔物を見つめ、ヤマトは力なく座り込む。

 自分よりも格上の存在と戦い、奇跡的に勝てたヤマトは、戦いの終わりに安堵した。

 そんなヤマトにセラが駆け寄ってくる。



「ヤマト! 大丈夫?」


「一応大丈夫かな……」


「――よかったぁ~」



 ところどころに傷ができているが大事のなさそうなヤマトの姿に安心したのか、セラはその場で泣き出した。

 これにはヤマトも驚き、というよりまったく予想できなかった事態にあたふたする。

 何とかヤマトが宥め、泣き止んだセラはヤマトの頭に……一発拳をぶち込む。



「痛っ~! なんで!?」



 セラに殴られ頭を抑えるヤマトは涙目で講義する。



「心配かけたあんたが悪い!」



 しかし、そんな講義もセラには虚しく、一蹴されてしまった。

 はあ、とため息をついてとりあえず家に帰ろうとして足に力を入れたヤマトだが、足は疲労していて動かなかった。

 そんな姿を見て呆れた表情を見せるセラはヤマトの左腕を自分の肩にまわしてヤマトを支える。



「まあ、一応私を助けてくれたしね……」



 そう言って頬を赤くさせるセラはヤマトを支えながら家に向かい歩きだす。

 そのとき、セラの左腕にある刺青のような物に目がいった。



(――? これは……?)



 それは黒い紋章のようなものだった。

 何故かヤマトはそれを見て懐かしいように感じる。

 だからヤマトはそれについて聞こうとして…やめた。

 理由の半分は、セラに今質問するほど体力に余裕がなかった事ともう半分は…聞けば殴られるかもしれないからだ。



(こんなところで殴られたら……それこそ身体がもたないしな。俺はザックのようにはならない……!)



 随分と情けない理由でその黒い紋章について訊ねるのを止めたヤマトはセラに支えられながらまっすぐ森を抜けていく。

 そんなとき、歩きながらセラは何かをボソッと呟いた。

 セラは顔を真っ赤にしてヤマトと目を合わさないように反対側を向く。

 その呟きはとても小さく聞こえづらい物だったが、ヤマトにはそれの言葉がはっきりと認識できた。



 ――ありがとう。





次回は「紋章」です。

セラの左腕に紋章のような痣やヤマトのあの頭を過ぎる衝撃など…気になる事を回収していきたいです。

そして次回の「紋章」で第一章の前半が終わります。

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