9話 敵か味方か
遅くなりました。
フィーリア王国とシラン国を繋ぐ街道で魔物が急増したという事から連合国側から緊急依頼として魔物の一斉駆除が依頼された。
それによりギルド側はシラン側のギルドとフィーリア側のギルドから緊急依頼として冒険者を募ったのだが、もう一つ対策を立てた。
それはSSランクホルダーの参加。
この依頼は確かにSSランクホルダーを出しても良いほどのものである。
それに調べによれば、これは人為的なものである可能性があるとの事。
そういった理由からSSランクホルダーへの依頼も考えた。
しかし、現在SSランクホルダー四人は任務中である。
フィーリア王国内に居る“黒風”ならばとも思ったがどちらも今はフィーリア王都周辺で発見された危険度SSランクの神獣ガルムの討伐に向かっている。
そんな彼らの依頼を中断させて頼むのも中々に決断に困るものだった。
そんな時、ギルド最高責任者であるトーネが一人の冒険者を推薦した。
何でも昔に自らの下で剣の修業を行っていた人物のようで、実力はSSランクホルダーと何の遜色もないと言い切った。
ギルド最高責任者である彼女の言葉もあり、今回はその人物に頼む事にした。
……その人物こそがハールと二人の従者であるソールとルーナである。
他の冒険者や彼らの活躍もあり、この緊急依頼は成功した。
そうして、冒険者の皆はそれぞれのギルドに戻っていき、依頼完了の証である賞金を貰っていった。
それはセラ達やローラ達も同様である。
サイの言葉どおりにセラ達はそのままフィーリア王国に入国した。
そして、シランからの街道から関所を通って最初に訪れる街であるメドラに辿り着く。
其処がどうやらフィーリア側の緊急依頼を出したところらしく、今回の報酬を貰った。
ハール達三人は此方に用があるらしく、セラ達と一緒である。
ローラ達もヤマトの話が聞きたいセラ達の誘いを受けてしばらく一緒に過ごす事となった。
そうした結果で、この緊急依頼は幕を閉じた。
★★★
「どういうことよ!」
「そう言われてもねぇ」
今、ハール達を入れた十三人の大一行は店で一緒に食事を取っている。
そこで互いにいろいろな話をして親睦を深めよう的なことをソラが言い出し、それぞれが話をすることになる。
そんなときである、セラが大きな声を上げたのは。
「ヤマトがSSランクホルダー!? しかもフィーリア王国の将軍の地位!?」
「ヤマトさん……」
「どうなってんのよ~~~!」
サイはこの仲間の興奮ぶりにつくづく「あの時に話さなくて正解だったな」と思っていた。
ちなみにソールとルーナはハールにスプーンで食べ物を口元に持っていき、いわゆる『あ~ん』をしている。
それに対してハールは引きつった笑みで大丈夫だよと二人を諌めていた。
「大変な事になったね……」
見るとロイはあのカオスな状況から抜けている。
苦笑いを浮かべながらその光景を見るロイにサイは多少の親近感を覚える。
「武道大会には奇妙な青年が優勝したって聞いたけど、ヤマトの事だったんだね……」
ソラがローラ達から武道大会での活躍を聞いて驚き目を見開いている。
何でも決勝での戦いは人間の域を超えていたとかなんとか。
「盗賊や魔物に襲われているところを助けられたね~」
セラの方はそんなローラ達の境遇に嫉妬の感情を抱えている。
自分もそんな風に助けられたいな~とか思いながら、ハッとして自分は助ける方になるんだとすぐさま首を振る。
「ラーシアさんたちに会ったんですね」
フィーネの方はラーシア達が今現在で王都に居るという話に表情を緩める。
四年前に出来事もあり、心配していたのだが、どうやら今は元気にやっているようである。
「それはそうと! そこのお二人! 俺にも『あ~ん』をしてくれ!」
ザックが店の中でも一際大きな声で魂の叫びを発する。
その矛先はハールといちゃいちゃ(傍からはそう見える)しているソールとルーナであった。
「お断りします。ハール様の隣からは離れません」
「私はハール様だけにするんだもんね」
そのセリフにうぬぬ……とハールを睨む。
そんな彼の手に掌を添えるのはウルトであった。
「ザック……。男には時々自重する心が必要なんだ。あの二人にそれをみっちり教えられたからな~俺は」
あの二人とはおそらくローラとリリーを言っているのだろう。
ウルトはここで自らの意見をザックに進呈する。
……が、それで止まるほどにザックは賢くなかった。
「バカヤロウ! 男が自重してどうするんだ!」
「え……」
いきなりの発言にウルトが目を見開く。
ここでセラは危険を感じた。
「ねえ……ローラ」
「……なんでしょう」
「ウルトってどんな奴?」
「お調子者の馬鹿です」
「「「まずい……っ!」」」
ローラの言ったウルトの人物像にセラとソラとフィーネが焦る。
類は友を呼ぶ……そんな言葉が昔から伝わってきているが今がまさにそうであった。
「いいか? 男ってのは自分の信じた道を進むもんだ」
「………………」
「それを自重するってのは自分に嘘を付いている事になる」
「………………ああ」
ここでザックはウルトの両肩を掴む。
その表情は必死の説得でも行うようでウルトはその表情がひどく男らしく見えた。
「ウルト、お前も男なら自分に嘘を付くな! やって後悔するよりも自重して後悔する方が何倍も辛いんだぞ!?」
「――――そう……だよな……」
ウルトの目は今は真剣なザックの瞳を捕らえている。
ザックはそれを見て、ここぞとばかりにウルトの両肩を掴む手の力を強くした。
「ウルト……っ、自重することはやめろ! 自分に嘘は付くな! お前が真の男ならば! 男ならば自分の芯をしっかり持つんだ!!」
「おお…………!」
ウルトは今涙を流している。
ザックの言葉が一つ一つ胸に響いていくように感じる。
ウルトは涙を拭きながらもザックに向けて言葉を言った。
「俺……俺……。昔からローラやリリーから調子に乗る度にボコられて……。それで自重するようにしたけど……お前を見ていると今の自分がひどく情けねえ……っ!」
「大丈夫だウルト。今からお前の道は俺が正してやるよ」
「ザックゥ~~~!」
二人は手を取り合って男泣きした。
……ウルトは最悪の道を選んでしまったわけである。
「そういうわけだウルト。まずは何をするかを言ってみろ。……くれぐれも男の欲求を裏切るな」
「――そうだよな……。今までローラやリリーにボコられるからと行動に出さなかったが、ようやく決心した! 俺は――」
ウルトが呼吸を整えるようにして言葉を止める。
そして次にその続きを放った。
「今からナンパするぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ここで一人が堕ちた。
「あのアホ共……」
最早周りの人物は呆れ果てている。
ハールなんかは関わりたくないようで無視を続けている。
「そういうわけだぜ、みんな」
「俺とザックはちょっくら外に行って来る」
そうして馬鹿二人は一瞬で外に向かっていった。
「ごめんなさいね。うちの馬鹿が……」
「――いえ……。後でウルトは殺っておくので」
「奇遇ね。私も後でザックを殺るわ」
ローラとセラが二人して冷たい笑みを今は居ない馬鹿二人に向ける。
それにソラとフィーネは本気で恐怖した。
「――ようやくうるさいのが消えたな」
そんな時、サイが心底呆れたような表情で口を開いた。
そうして……サイは水を飲みながら無表情でハールに視線を向ける。
それに対してハールも気付いたようで視線を返す。
「なあ、あんたは用があると言ったが……一体何の用だ?」
サイはハールが自分達に付いてきた時に言っていた用について問う。
サイとしては用があるのならばなおさら自分達に付いてくる理由が分からない。
「――――ヤマト……。彼のことを聞こうとね」
「ヤマトの話……?」
セラが首を傾けながらハールに問う。
それを聞いた時、ハールはふと思いついたかのように彼女をマジマジと見つめた。
「――君って確か……。昔はもっとツンケンしてなかった?」
「いつの話よ!」
どうやらソールとルーナも驚いているようだ。
まあ確かに出会ったときがあれである為にあまり文句は言えないが。
「まあともかく! ヤマトの話ならしても良いけど、なんでそんな事を?」
「少し彼と話がしたいんだけど、その前にどんな人物かを聞いておきたくてね」
ハールは以前にヤマトと武道大会の時にローラ達四人がヤマトと知り合いなのを知っている。
ハールが言うには最初はローラ達から聞こうと思っていたらしい。
セラやサイがヤマトを知っているのは予想外であったと言うのだ。
だが、あの場に居た十人全員がヤマトの事を知っていると言うのならば、付いてくれば何か良い情報がもらえるかも知れないと思ったという訳である。
「どんな人物ね~。まあいいけど」
そういう訳でセラ達はヤマトの事を話す。
そのときのセラの表情が明るい事には全員が気付いていた。
★★★
あれから時間も経って、今は既に夜となっていた。
全員がそれぞれ何組かに部屋に分かれていて、ハール達三人は一つの部屋に泊まっている。
その三人は今はベットに腰掛けて、これからの事について話し合っていた。
「ハール様。これからどうしますか?」
「そうだね」
ハールは悩む。
今まではミレーヌの予言のことから、容姿が一致するヤマトを見張っていたのだが、彼は別段危ない雰囲気を纏っている訳ではない。
むしろどこか悲しげで、それでも前に進もうとしている……まるで自分に似ていた。
そして、今日にヤマトを知るものから話を聞いた。
するとどうだ、危険だと思っていた自分が馬鹿みたいになる程に出来た青年ではないか。
(特に“紋章持ち”に対しての差別心が無いところがね……)
ハールは話を聞く内に心のどこかでヤマトを認め始めた。
もしかしたら、予言に出てきたのは別の人物かもしれない…そう思いだしたのだ。
だが、予言の重要度からそう易々と危険ではないとは言い切れない。
「とにかく、もう少し彼らの様子を見てみようと思う」
「はい」
ソールがハールに肯定するように頷く。
ソールとルーナはおそらくヤマトに対して、本当に自らにとって悪なのかが分からないでいる。
その理由はおそらくセラの様子だろう。
彼女はヤマトの話をする時は、本人は否定しているがとても嬉しそうな表情をしている。
最初に会った時の赤い髪の少女は周りにいる者に対して心を開いてなかったのにだ。
だが、今のセラはヤマトに対して完全に心を開いている。
ソールとルーナのように素直ではないが、おそらく彼女二人がハールに向ける感謝の念と同じように黒髪の青年を慕っているのだろう。
このことが三人を大きく戸惑わせていた。
「彼らの様子を見てから、もう少しだけ情報を集めてみよう。そして彼に会う。決めるのはそれからだね」
「そうですね」
ハールの言葉にルーナは頷く。
だが、正直不安であるのだろう。
彼がもし予言の人物とは違い、味方になってくれるのならば……それはこの上なく頼もしい。
だが、もし予言どおりに邪神を復活させようとする敵ならば……。
一年前までは良かった。
武道大会の時にヤマトの力を知り、敵ならばすぐに始末する予定であった。
確かに当時も強かったが、本気を出せばハールならばいつでも拘束することは可能であった。
だが、今は……厳しい。
彼の地位は将軍、もしも捕らえたとしてもフィーリア王国に目を付けられるだろう。
それに自らの剣の師であるトーネにもミレーヌの予言は言っていない。
トーネとミレーヌは知り合いなので、もしかしたらミレーヌから伝えられているかもしれないが、彼女の態度が変わらないということは自分と同じで様子見をしているかもしれない。
故に今彼を始末すればギルド側も敵に回してしまう事になりかねない。
それに地位が無くても……ハールは顔を顰める。
ヤマトはこの一年間でさらに強くなってしまった……それも自分が手を焼くほどに。
状況次第では逆に返り討ちもありえる程だ。
今や彼の相手を出来るのはSSランクホルダーの他の三人と自分くらいである。
そして今の彼が一年前の武道大会決勝のような、予知の如き反応と動きをするような状態になれば……一対一ならば誰も傷一つ付けることも出来ないだろう。
それは勿論ハールにも言える。
ハールが今まで会って来た中で最も強いと思っていたのは、自らの父を殺したあの“ノア”だった。
しかし、この一年でそれは変わって行く。
もしかしたらあの黒髪の青年の方が……今はそう思ってしまうのだ。
「さて……今日は遅い。もう寝ようか」
「そうですね」
「うん」
三人は思考を打ち切り、今日を終了しようとベットにつく。
ソールとルーナが一緒に寝たいというのを押し止めて別々のベットで眠るようにする。
そうして横になって……ハールは考える。
今はスクムトの動きも怪しくなっている。
おそらくもう少しで再度戦争を始めようと動き出すだろう。
それまでには自らの用も粗方片付けておきたい。
とにかく今は自分で情報を集めて様子見だな、とハールは其処まで考えて睡魔に身をゆだねていった。
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