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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
12/123

11話 笑顔

ヤマトが現代の言葉を口にするには理由があります。

もちろんネタバレの為に今は言えません。



「さて、何処に行こうか?」


「最初は広場に行こうと思うけど?」



 ヤマトの訊ねにセラは疑問系で答える。

 つまり、こちらの意見を待ってくれているのだ。

 随分今日は優しいんだな~、とヤマトは思う。

 ……言いながらそっぽを向かなければ。



「……じゃあ広場に行こうか」



 そう言って二人は広場に向かって歩き出す。

 そこでふとヤマトはセラをチラリと見る。

 セラは今日は赤い髪をツインテールにしており、いつものピンクのワンピースとは違い、濃い目のピンクのブラウスに深緑の短パンを身に着けている。


 13歳の彼女は幼いながらも綺麗な顔立ちをしており、村の人々から「将来は美人になるぞ」と煽てられている程である。

 そんなセラがヤマトの隣に並んで歩くのを見て村の皆はニヤニヤしたり、同年代の少年や40代の一部の男性からは睨むような視線がヤマトに飛んできた。



(――――なんでこんなに俺を睨むの? つーか、あのおっさんもかよ!?)



 決して口には出さないが、ヤマトは「このロリコン!」などと、あまりの気持ち悪さに悪態をついた。


「ロリコン?」


「――ん? ――そういや、何か口に出てきたな」



 セラも聞いたことの無い言葉を言ったヤマトはどうしてそんな謎の言葉を口にしたのか考える。

 しかし、それがどうしてか自分にも分からない。

 またもや記憶喪失が原因かと思い、やはりどうにもならないので今は保留しておく事にする。


 そうして二人はまたさらに歩き続ける。

 そんな時、村の唯一の装飾品店の店長である30後半くらいの茶色い髪に金色の髪飾りを着けている女性が二人に声をかけた。



「あら、これは珍しい組み合わせね」


「こんにちは。おばさん」



 セラが挨拶したのでそれに合わせヤマトも後からお辞儀する。

 この装飾品を扱っている店は良くセラとソラとフィーネの三人が通っている。

 やはり女の子なのでアクセサリーには興味があるのだろう。

 そういう理由で少女三人は店の店長であるこの女性と仲が良かった。



「そうそう聞いたよ。もうすぐこの村を出るんだってね。この村も寂しくなっちゃうわねぇ……」



 そう呟く店長の言葉に二人も悲しそうに下を向く。

 その姿を見て「やめやめ」と店長は手を振った。



「辛気臭い話はするもんじゃないわね。ごめんね。デートの最中に……」



 店長の爆弾発言に顔を引きつらせて苦笑を浮かべるヤマトだが、セラは「別に、そんなんじゃない!」と頬を膨らませて怒鳴る。

 「ふふっ」と何か勘違いをしている店長が「そうだ!」と何かを思いついたように手のひらにポンっと拳を乗せた。



「村を出るのは明後日でしょ? それまでに餞別としてセラちゃんとソラちゃんとフィーネちゃんに一つずつアクセサリーをプレゼントしてあげる」



 我ながらナイスアイディアと微笑む店長。

その言葉にそっぽを向いていたセラの顔が神速の速度で輝いた。



「いいの!?」



 わかりやすいな、と苦笑するヤマトなど眼中になく、嬉しそうな顔をして店長と話しているセラ。

 「約束ね」と指きりする姿にヤマトは表情を和らげた。





     ★★★





 装飾品店を去った二人は村の中の一つの宿屋の一階にある食堂で昼食をとっていた。

 アル達が村から借りているような使われていないような古い宿ではなく、この宿屋はしっかりと舗装されており、偶然に村を見つけて訪ねたであろう旅人や冒険者が何人も泊まっていた。


 この食堂ではそうした人々が良くいろいろな事を話すので、アルも良くここに訪れては聞き耳を立てて情報を仕入れている。

 ヤマトはちょっと試してみるかと思い、聞き耳を立ててみた。

 すると隣の三人の冒険者と思われる人物達から気になる話が聞こえてきた。



「しっかし、本当かよ! この近くに魔物が出たって」


「村の近くには魔物はあまり寄り付かないはずだが……」


「それが出たんだとよ。まあ何匹かは他の冒険者やらが狩ってたし、そこまで気にすることでもないがな」


「なんだよ。驚かせるなよ」


「でも魔物ってどんな奴がでたんだ?」


「いや、そこまで大したことはねえ。せいぜいFからDランクだとよ」


「なんだ、そんなもんか」


「すでに仕留められてるような奴らだぜ? 強いわけがないだろう?」


「確かにな」


「まあそんなにビビるこたーねえだろう」


「だな、まあ注意するのはDランクの奴ぐらいだろ」


「そうだな、Dランクのあの悪魔が来たらめんどくさいよな……」


「ああ、あいつな……。Dランクとは言え、危険度Sランクのデーモンの子どもだし、気をつけないと」



 比較的に大きい声で何より隣の席で話しているのだ。

 良く聞こえる、と内心思いながらさらに聞き耳を立てていると不意にセラが「どうしたの?」と訝しげに訊ねてきた。



「何でもないよ。ちょっと考え事してただけだから」


「……ふ~ん」



 セラの機嫌の悪そうな顔に内心冷や汗をかきながらヤマトは誤魔化す。

 一瞬疑っているような視線を向けるが「まあいっか」と呟き次の動向をセラが訊ねる。



「そうだな。もう一度広場に出でみていろいろ挨拶しといた方がいいかな?」


「いいんじゃない? ソラ達もしてる事だし私達もお世話になったから」


「じゃあ決まりだな」



 本来誘った側が決める事じゃないのかという疑問を頭の隅に閉まったヤマトは食堂を出て再び広場に向かい歩き出した。

 そこでふとヤマトは視線を受けているような錯覚に囚われた。



「――ん……?」


「ん? また何か考え事?」



 急に立ち止まるヤマトにセラが訊ねる。

 しかし、それに首を振ってヤマトは周囲を確認した。



「いや、誰かに見られてるような気がして……」



 ヤマトはどこからか、自分達を見ているような視線を感じて周りを見渡すが時間も昼過ぎで人が多いため見分けがつかない。

 気のせいか、とヤマトは深く考えず二人は食堂を後にするのだった。



 ……茶色のローブを身に纏って二人を尾行している、二人の人物に気が付かずに……。






     ★★★





 二人は広場に着くと明後日に村を出ることで自分達が世話になった人たちに別れの挨拶をしていた。

 そんな時、ふと広場の向こうで聞き覚えのある声が二人の耳に入ってきた。



「ザック君、もう止めようよ!」


「いいや、この村とももうすぐお別れなんだ! 俺は村のお姉さん全員に別れの挨拶をする義務がある!」


「そんな義務ないよ! みんな引いてるし!」


「ええい、離せロイ! 道行く度に俺のハーレムを横取りしやがって! 俺がそんなに憎いか!?」


「そんなの知らないよ!」



――うん、もうここからでも誰だかわかるな。



「まさか、今までずっとあの調子だったんじゃないでしょうね……?」


「いや、ザックでもさすがにそれはありえ……るだろうな……」



 聞こえてくる会話に表情を引きつらせる二人。

 さらにその後も会話が聞こえてくるが「もういいや」と関わりを持たないように村を大きく回るように迂回する二人は心の中で、今頃振りまわされているであろう金髪の美少年に「ご愁傷様」と手を合わせるのだった。





     ★★★





 そんなこんなで村の人に挨拶を済ませていくと、すぐに時間が過ぎていって気づけばもう夕方だった。



「そろそろ帰ろうか?」



 さすがに夜中まで挨拶周りをしていけば迷惑がかかるだろう。

 ヤマトの言葉に頷くセラはヤマトに付き添いそのまま自分達の家を目指す。

 そうして帰路に着く二人だが、セラはどこか悲しげな表情を浮かべていた。



「もうすぐこの村ともお別れなのね」


「――――そうだな……」



 帰る途中でも村の人に声をかけられて、明後日にはこの村を旅立つのかと思うと少し気が重い感じがする。

 今まで何度もお世話になったし、とても住みやすいのどかな村だった為に余計悲しくなってくる。



「まあ、今日一日はいろいろと挨拶とか出来たしな」


「そうよね。アクセサリーも貰えるし」


「店長も太っ腹だよなぁ」


「そういえば、あの馬鹿は今頃なにしてるんだろう?」


「さあ? その辺でまだ女の人に飛びつこうとしてるんじゃないか?」



 ははっ、と他愛のない話を続けていき笑うヤマト。

 そんなこんなで自分達の家の目の前まで来ていたヤマトは今日も終わりか、と感慨深そうな顔を浮かべた。

 そんなヤマトを見て何を思ったのか、頬を朱色に染めてセラがおもむろに口を開いた。



「――――……今日はありがと」


「――――え?」



 自分が何を言われたのかがヤマトにはこの短い時間では理解が出来なかった。

 故にもう一度聞き返す。



「ごめん……。今何て?」


「――別に何でもないわよ」



 顔を真っ赤に、頬を大きく膨らませてセラが怒鳴った。

 そして同時に家の扉を開け、中に飛び込む。

 何か悪いこと言ったかな、と頭をかきながらヤマトも中に入っていった。


 しかし、そんなヤマトの脳内ではさっきのセラの表情が印象深くしっかりと残っていた。

 ……おそらく初めて自分に向けられたであろうセラの笑顔が……。





     ★★★





 そんなヤマトの後ろでは茶色のローブを着て姿や顔を隠している二人の人物、ソラとフィーネが家の前での光景をニヤニヤしながら眺めていた。



「やっぱり、付けた甲斐があったね。セラのあんな表情が見れるなんて」



 余程満足したのであろう、ソラが大きな笑みを浮かべ呟く。

 ソラの言葉にフィーネもクスクスと笑いながら頷く。



「これで、ヤマトさんへの苦手意識が改善されるといいですね」



 フィーネも嬉しそうに表情を和らげてそう呟く。

 フィーネもセラのヤマトに対する苦手意識をどうにかしたいと思っていた為に、今日のことで二人も仲良くなれるといいなと思っていた。

 そんなフィーネにちっち、とソラが人差し指を立ててそれを振る。



「もしかしたら、もっと面白いことになるかもね」


「―――――?」



 ソラの言葉にフィーネは首を傾ける。

 フィーネにはまだ早いか、と笑顔でソラはヤマトらが入っていった家を向いた。



「親友としてこれはセラを応援しないとね」


「――――何を応援するんだ?」


 後ろから聞こえた声にギョッとして飛び上がり、急いで振り返る二人。

 その目の前ではいつからいたのか……腕を組んで佇んでいるサイの姿があった。



「サイ君……いつからそこに……?」



 フィーネが全く気づかなかったとサイに向かい訊ねた。

 サイはやれやれ、といった様子でフィーネの言葉に答える。



「お前らが食堂でヤマト達を尾行してるのを見つけてな。何をしているかと思ってついて来てみたら……これだ」


「うっ……」



 サイの言葉にギクっとしたソラは内心冷や汗をかきながら、最悪の結末にならないように自らの生まれ持ったその美少女顔の上目遣いでサイに懇願する――がサイはそこまで甘くなかった。



「一応このことはセラに伝えておこう」



 サイの言葉にうなだれるソラ。

 フィーネに至っては顔を蒼白させ、絶望の表情を浮かべている。



「サイの意地悪ーーーーッ!!!」



 ソラの叫びは夕焼け空に響いた。


 ……しかしソラの叫びは虚しく、サイの心に響くことはなかったのであった……。





読了ありがとうございます。

次回は「守る者」です。

戦闘入ります。

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