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漆黒の風  作者: ST
四章 闇の中で――
119/123

5話 戦闘開始

遅くなりました。

 ギルドに戻って肉の壁に押しつぶされたザックを回収した後、六人は集合場所であるシルクの街の門まで向かう。

 六人が歩いていると、街の人たちが不安そうな表情で過ごしている事が分かった。

 どうやらこの魔物の急増は街の住民にとっても無関係な話ではないようだ。

 まあ、もしもこれ以上魔物の数が増大して街まで押しかけるような事になれば…それこそ、このシルクの街の危機である。

 住民にとってはそれが不安なのだろう。

 確かにこのまま魔物の数が増え続ける事になればその危険性も出てくる事は否定できない。

 ……ただしそれはこのまま増え続ければだ。


 今現在その魔物の駆逐に参加する冒険者は後を立たないようで、次々に参加者が増えてくるようである。

 それは何も冒険者の正義感からではなく、単純に利益になるからだ。

 連合国はこの魔物の数の増大により、フィーリア王国とシラン国を結ぶ街道が閉じられる事を危機と感じている。

 故に報酬もそれに見合った多額の金銭を用意している。

 こういった魔物の大繁殖による緊急依頼では魔物を倒した数に応じて…つまり活躍に応じて得られる金銭が変化する物が多く、これもそれに当てはまるのだが、その金銭の量がかなり多いのだ。

 よって冒険者の数は増えていき、今では百を軽く超えるほどの人数になっていた。

 いかに大量の魔物が居ようとこれだけの冒険者が討伐に当たればかなり駆逐されるだろう。


 しかし、犠牲者もやはりかなりの人数が予想される。

 それも当然で、冒険者の数の何倍も魔物の数が多いのだ。

 危険度の高いランクの魔物程その数は減っているのだが、E,Dランクの魔物となればその数は一種あたりで冒険者の人数を越えるものも有る程だ。

 もちろん危険度E,Dランクの魔物は中堅の冒険者一人当たりで五匹程度は狩れるだろう。

 それでもかなりの数が居る為、犠牲者や負傷者の予想数もまたかなり多いものである。


 これらを省みたサイはギルド側も焦っているのではとも考えた。

 いかに連合国の依頼であろうとこのような危険な魔物の大繁殖を討伐する為に一斉に攻撃を仕掛けるような事をするだろうか。

 自分だったら少しずつ着実に魔物を駆逐するように方針を定める。

 おそらく、ギルド側も各地で起こる魔物の増大に手を焼いていて、少しでも早く不安要素を取り除いていたいのだろう。



「――面倒臭いものだな」


「サイ? どうしたのよ?」


「何でもない」



 セラは考え込むサイに首を傾けるが、本人が何もないと言うのならば別段心配する事もない。

 サイは本当に危険な状況になれば意外と皆に話すのだ。

 勿論自らの問題であったり、自らで解決できる事は自分でするのだが、仲間が巻き込まれている時や関係がある時は遠慮なく自分の考えを言ってくる。

 逆に言わないということは別に知る必要のある事ではないという事だ。



「あ、見えてきました」


「うわ~……人多っ!」



 フィーネが目的地であるシルクの街の門を指差し、その方向を見たロイが苦い顔をする。


 ロイの言った通りに、今門にはたくさんの冒険者が群れを成している。

 全員が今回の賞金に興奮しているらしく、相当なやる気が伝わってくる。



「竜頭蛇尾にならなければいいんだがな……」


「竜頭蛇尾?」


「ああ。昔の英雄が使っていた言葉で、最初は勢いがあるが後の方ではその勢いも無くなっているということらしい」


「ああ……そうならないといいね~」



 あの冒険者の集団を見るにその通りになりそうでソラ達は恐かった。

 さすがに訊いたほどの魔物を自らだけで相手できるとは思っていない。

 万が一ということもありえる。

 いや、サイやヤマトならば駆逐できなくとも死にはしないだろうが、他の五人は気を緩めればやられると思う程が丁度いいぐらいだと緊張を高める。

 とにかく、あの冒険者に変な期待をするのは止めよう…それが全員の気持ちであった。



「そろそろのようだな」


「――そうみたいね」



 サイが見据える方向を見て、セラも頷く。

 そこにはシルクの街の扉がゆっくりと開いていく光景があった。

 そこから冒険者達が我先にというように門を出て行く。

 どうやら魔物の殲滅戦が幕を開けるようだ。



「私たちも行くわよ!」



 セラの一言が合図となり、六人も他の冒険者と同じように門を潜った。

 ……これより魔物の殲滅戦が始まった。





     ★★★





 セラ達が門を潜った後に広がる光景は驚くべきものだった。

 普通、魔物は街から多少離れたところに居て、街を出てからすぐに魔物と対峙するようなことは皆無と言って良い。

 だが、今六人の目の前に映る光景はその常識を覆すものだった。


 他の冒険者の中には唖然としている者もいるが、それも分かる気がするとセラは思う。

 何せ門を出てすぐにはもう冒険者と何匹もの魔物との戦いが始まっているのだ。



「マジかよ……」



 ザックの呟きが宙に溶け込むように消える。

 そしてそれに対しての返答は……爆発音であった。



「うわ……」



 シルクの街を出ればそこには冒険者や旅人が歩く街道とその脇に広がる草原がある。

 その草原が今や魔物と冒険者との戦場となっていた。

 草花は燃え、地には何匹の魔物と冒険者の死体があり、所々が血で濡れている。

 岩や地面は砕けていたり、陥没していたりなどの状態である。

 幸いというべきが、まだ殲滅戦は始まったばかりでそういった無残な状態の場所は少なかったが、これからどんどんと増えていくだろう。


 それにしても、とセラは思う。

 話には聞いていたが、いざ目の前に出てみるとその魔物の数は凄い事が分かる。

 今は見えていなくても気配で分かるのだが、奥にはかなりの魔物が潜んでいる。

 それにせらは気配察知はかなり得意な方であるが、それも完璧ではない為、自分の気配察知の届かない領域にはさらに魔物が居るだろうと思われる。



「き、来た!」



 ロイがビビったような声を上げた為にロイの指差す方向…上に視線を向けた。

 すると危険度Dランクに該当するワイルドホークが何十もの群れで此方に向かってきた。



「あの数は多いわね……」


「うん」



 危険度Dランクと言えど、その数には多少驚かされる。

 とにかくも、めんどくさいと思いながらセラは懐からタガーを、ソラは弓を取り出す。



「邪魔だ」



 ……その瞬間、サイは強烈な殺気を伴うプレッシャーを放つ。

 それは以前にセラが感じた白髪の男に匹敵するかどうかという程であり、危険度Dランクのワイルドホークに耐えられるものではなかった。

 その強いプレッシャーを感じたワイルドホーク達はすぐさま引き返し、怯えたように逃げていった。



「――サイ。それずっと使えばいいんじゃない?」


「それは無理だな」



 セラの最もとも言える意見にサイが首を振る。



「あれを放つのには精神を削られる……それも結構のな。あまり乱用は出来ない」


「ふ~ん。まあ、今度は私たちが出張る番ね」



 セラがそう言って前方を見据える。

 すると今度はワイルドウルフの群れが此方に向かって来ていた。



「じゃあ私が突っ込むから――」


「その必要は無いと思います」



 セラが駆け出そうとすると同時にフィーネがそれを止める。

 セラはなんでよ? と文句を言おうとして……ピタッと止まる。

 そして突如、けたたましい爆発音が響いた。


 セラが引きつった顔で前を見る。

 何故なら此方に向かって来ていたワイルドウルフの群れは突然に現れた爆発に飲み込まれて全滅していたからである。



「フィーネ……、飛ばしすぎじゃない?」


「そうでもないですよ。このくらいなら何発でも打てます」



 セラは爆発した場所から出る煙や草の燃えている光景を目に止めながらフィーネに訊ねるがフィーネは大丈夫だと言った。


 フィーネが今しがた発動された大爆発エクスプロージョンは上級魔法の中でもかなり威力の高い魔法である。

 だが、それと共にかなり魔力量を必要としている。

 そんな魔法を初っ端から打てば、普通の魔道士ならばすぐに魔力が尽きる。

 だが、フィーネの魔力量は普通の魔道士の何倍もあるのだ。

 確かに乱用すればフィーネと言えど魔力は尽きてしまうだろうが、魔力の残りはこの魔法一発打っただけでは余裕であった。



「フィーネも大胆になってきたよね~」



 そう言いながらソラは弓で魔物の頭を一つ一つ性格に射抜いていく。

 だが、驚くべきはその正確さよりも矢を放つ速度である。

 ソラは矢を放ったその次の瞬間には次の矢を放っている。

 その速さは最早、矢の弱点の一つである攻撃の連発不可を無効にしていた。



「ちょっと! 数が! 多いよぉ!」



 泣き言を言いながらもロイは迫り来る魔物を次から次へと斬り捨てていく。

 その動きは速いというよりは鮮やかで、魔物は反応できずにどんどんと倒れていく。

 ロイが二つのショートソードを握って舞うように地や宙を踊る。

 その姿をもし若い村娘や女性が見ていたならば黄色い声援が止まないだろう。

 それほどに鮮やか且つ見事な舞であった。


 そうして今度は三人の活躍により、近づいてくる魔物はすべて駆逐された。



「――私の出番無いじゃない!」



 セラが頬を膨らまして三人に怒鳴るが、そんな事言ってもと苦笑いするしかない。



「まだまだ魔物はいるし、セラが活躍するのは近いよ!」


「俺もまだ動いてないんだぜ。一緒だなぁセラ」



 ザックが俺も暴れたいぜ~と言いながら腕をブンブンと振るう。

 そんな光景を見てセラが膝を突いた。



「こんな奴と一緒なんて……。ヤマト……私もとうとう終わったわ……」



 セラが放心している中でも他の冒険者は止まらない。

 ここらの魔物の大半を駆逐した三人に尊敬や嫉妬、羨望などの様々な眼差し向けながら奥へと進んでいる。



「ここらの魔物はほとんどお前らによって駆逐されたからな。全員が奥へと向かうんだろう。俺達はどうする?」



 サイが五人の返事を待つが、その瞳は既に返事の内容が分かっているようで、諦めが混ざっている。

 そして、サイの予想通り全員が奥へ進むと言った。



「私はまだ何もしてないし、こんなんじゃヤマトに追いつけない。私は行く!」


「――お前の行動原理はヤマトというわけだ」



 別に変な意味じゃないわよ! と顔を真っ赤に染めながら抗議するセラに、サイは呆れたような表情で、他の者はニヤつきながら視線を向ける。

 その様子にもういい! とセラは不貞腐れてそっぽを向いた。



「とにかく行くんだったら早くするぞ……」



 何より俺が退屈だ……サイはそういい残して奥に向かって疾走した。

 その動きは速く、あっという間に距離が開いていく。

 その様子に他の者も苦笑いする。



「結局は自分も暴れ足りないだけなんじゃ……」



 ソラが言うとおり、サイは暴れたり無いようである。

 確かに最近では依頼を受けるのは自分達であり、サイは何かと情報収集うや旅の準備に徹する事が多い。

 それもアルの下を離れてそういったことが一番出来るのがサイであるからだ。


 サイはこの中の誰よりも自分で訓練する時間が多く、暇な時はほとんど剣を振っている。

 だが、先ほどの理由からサイにとってもこれは普段のストレス解消になっているのだろう。


 ともかくも、このままでは自分達の出番が無い事を悟ったセラとザックが急いでサイを追っていく。

 その姿に少しだけ微笑みながらソラ達もまた、その背中を追っていくのであった。






読了ありがとうございました。

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