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漆黒の風  作者: ST
四章 闇の中で――
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4話 緊急依頼

 宿を取って一晩が経ち、セラ達は慌てて用意を済ましていた。

 昨日にサイが道具の買出しと情報収集から戻って、街の周りに潜む魔物の数が急増している事を皆に伝えた。

 ただの魔物の急増ならば別段慌てなくても良いのだが、サイの話を聞くうちにそういった事も言えなくなった。

 サイが言うには、魔物の数が増えたのはこのシルクの街とフィーリア王国を繋ぐ街道らしく、その規模もあってかこのままではフィーリア王国とを繋ぐ街道がしばらくの間に閉鎖される恐れが出てきたらしい。


 そうなってはヤマトと再会を果たす為の時間が延びてしまう。

 セラはすぐさま皆に頼み、出発を今日にした。



「全く……! よりによってなんで今なのよ!」


「俺に聞くな」



 セラが不機嫌な表情で怒鳴るが、サイとしてはそんな暇があるのならば少しは早くしろと言いたかった。

 だが、ここでそんな面倒な事をする意味は無い。

 別にサイに急ぐ理由は無かったが、他の五人が急いでいる為にやはり自分も急ぐ必要がある。

 ……その割にはサイが一番用意が早かったが。



「早くしろ」



 サイの渇もあってか、急いで用意を済ませる六人。

 そのまま宿代を支払い、急ぎ足で街を出る為に門まで足を運ぶ。



(間に合うと良いんだがな……)



 聞き耳を立てながら移動する……アルに教わった旅の処世術を使用しながら移動するサイの耳にはなにやら自分達にとって都合の悪い情報が流れ込んでくる。

 魔物の数がさらに増えたやら、このままではフィーリア王国とシラン国とで物資の輸送が出来ないやら。


 そのような会話を聞きながら、サイはただ事が無事に済む事を祈っていた。







 ……だが、この時には既に遅かったのだ。

 話の通りに昨日の夜にさらに大きく魔物の数が増えた。

 それに対して危機感を持ったギルド。


 そして、それが対策を早める事になった事は言うまでも無かった。





     ★★★




 それからしばらく歩いて門にたどり着いた六人。

 だが、門は固く閉じられており、開く様子はない。



「ちょっとすいませ~ん」



 その光景を見た六人はソラを筆頭に門番の衛兵に話しかける。



「どうしたんだ?」



 衛兵は三人居て、その内の一人がソラに言葉を返す。

 その衛兵にソラは尋ねた。



「私たち、今からフィーリア王国に行きたいんだけどぉ……」


 ソラが上目遣いでそう頼む。

 それに頬を赤らめながらうっと呻く衛兵達。

 その光景に馬鹿じゃないの? と思うセラだが、其処はぐっと我慢。

 もしこれを我慢することによってこの門が通れるのならばいくらでも我慢できるというもの。

 だが、そんなソラの作戦も虚しく、その中の一人が非常にバツの悪い表情で答えた。



「――すまないな。今、フィーリア王国とを繋ぐこの街道に大量の魔物が出現して来て、被害を防ぐ為にも通すわけにはいかないんだ」


「私たちの心配なんていらないわよ。お願いだから通して」


「そうは言っても……」



 それから散々とセラが文句や頼みを言うのだが、衛兵達はその重い門を開いてはくれなかった。

 セラは悔しそうに唇を噛む。



「もうすぐギルド側でも緊急依頼が張り出される筈だ。それが完了すればおそらく通れると思うのだが……」



 この衛兵の言った通り、おそらくすぐに緊急依頼が張り出されるだろう。

 なぜならこのフィーリア王国とシラン国を結ぶこの街道はとても大切な物資輸送経路だからだ。

 この街道が閉鎖する事にあればフィーリア王国への輸送が極めて困難且つ時間が掛かるものとなる。

 そうなれば連合国としても痛いものであるのだ。


 この理由からすぐに国、もしくはギルド側から依頼が張り出されることになるだろう。

 それを訊いてセラはギルドの方に歩き出した。



「どこに行くのだ?」



 衛兵が踵を返したセラに向かって訊ねる。

 するとその答えが返ってきた。



「ここが通れないなら、私がギルドで依頼を受けて魔物を一掃すればいいだけよ」



 簡単に言ってくれるとサイは思う。

 確かにセラは強い、というよりここに居る六人は冒険者のなかでも上位の部類だ。

 だが、魔物の数は聞けばかなり多いとの事。

 果たしてすぐに終わるかどうか、サイにはそのような不安があった。


 とはいえこのままでは進めないのは事実。

 セラの言う事にも一理はあるのだから、受けない理由は少なかった。



「私たちも行く!」


「そうですよ、みんなで協力すれば大丈夫だと思います」



 ソラとフィーネが真っ先にセラについていく。

 その光景を見てロイは頷き、ザックは仕方ないな~とおどけた表情で駆けて行った。



「君達のような子供には危険だと思うが……」



 もう19だと言いたいサイだが、彼らからして見れば子供にも見えるだろう。

 衛兵のほとんどが40代以上、自分達よりも遥に上だ。

 だが、それと実力が比例するわけではない。



「悪いが俺はあんたらよりは強い。心配は無用だ」



 その言葉に衛兵の何人かがムッとし、サイに突っかかろうとして来た。

 だがしかし、サイはプレッシャーを放ってそれを押し止めた。

 サイの放ったプレッシャーに恐怖の表情を見せる衛兵達。

 その中でも比較的冷静を保っている男がサイの顔を凝視する。



「まさか君のような青年からこのようなプレッシャーを……」



 冷や汗をかいてはいるが、表情を表には出していないこの男は多少は実力があるのだろう、もしくは経験が。

 どちらにしてもサイにとってはどうでも良いことだが。



「君のような冒険者がいれば安心だ。依頼、頑張ってくれよ?」


「――気が向いたらな」



 サイはそれだけ告げて後ろを振り返る。

 どうやら既にギルドに向かって行ったらしく、五人の姿は見えない。



「――ったく……、まあいい。今回の依頼は暇つぶし程度にはなるだろ」



 サイもまた皆を追いかけるようにギルドに向かっていった。





     ★★★





 サイがギルドに着く頃には既にセラ達が緊急依頼の受注を完了させていた。

 既に依頼が出ていた事に、サイには連合国側が焦っている事が窺える。

 だが、スクムト王国及び従属国との全面戦争が控えているこの時期にフィーリア王国とを結ぶ街道が使えない事は確かに痛手である為、それも分かるものだ。

 連合国側にしても早急に手を打って速めに解決したいのだろう。



「少し見せろ」


「あ、サイ」



 サイがセラ達が見ている依頼の説明が書かれた掲示板に顔を覗かせる。

 その姿を見て、皆があわあわしているのはおそらく彼に気付かずにギルドまで来てしまった事に気づいたのだろう。

 まあ、サイはその事にとやかく言うほどに度量が小さいわけではない。

 後できっちり仕置きしてやる、とは思っていたが。



「中々多いな……」



 サイが現時点での魔物の推定数を見るに、おそらく四年前のハドーラでの緊急依頼よりも不味い状況らしい。

 これならば早急に街道を閉鎖するのも頷けた。

 だが、サイは別段慌てたり取り乱したりしない。

 サイにとっては予想より多かった……その程度なのだ。



「今回は昔と違ってみんな一斉に討伐を開始するらしいの」



 ソラが言うにはこの討伐依頼は最早人間と魔物との一種の戦争のようであるらしかった。

 確かに予想されている数の魔物と今ここに居る冒険者達が一斉に戦えば、規模はかなり小さいが戦争ではあるだろう。



「それと、フィーリア王国の方でも同じように緊急依頼があるらしいわよ」



 セラが言った言葉の意味は、フィーリア王国の方のギルドも同じ緊急依頼を設けているらしく、そこと合同で魔物を駆逐するらしい。

 サイはこの緊急依頼が今まで受けてきた依頼の中で、最も大規模である事を悟った。



「それだけこの依頼が連合国にとって大切であるって事だろう……それにしても――」


「どうしたの?」



 サイはふと黙りこんで思考に耽る。



(この緊急依頼が其処まで大切ならば……。――奴らが派遣されてもおかしくはないな)



 サイが考えている事……それはSSランクホルダーの事である。


 もし、この依頼がそれほどの重要なものならば、SSランクホルダーが来てもおかしくは無い。

 ともすれば、あいつが……サイはそこまで考えて思考を打ち切った。


 サイにとってはSSランクホルダーの参上などにはあまり期待してはいない。

 なぜなら、この程度の魔物の数で怖気づくような者はこの六人の中には皆無であるからだ。




「サイ?」


「――何でも無い。気にするな」



 サイはそう言っては視線を掲示板に再度移す。



(……ん?)



 そして、緊急依頼の事柄について書かれた依頼書の中から一つの注意事項に目が入った。



「ギルド側の助っ人?」



 書いてあることはギルド最高責任者が直々に頼んでこの依頼に参加するという謎の冒険者の事であった。

 何でも、最初はSSランクホルダーの内の誰かを送ろうと思っていたらしいのだが、生憎四人が現在に手当たり次第にいろいろな国で魔物を駆逐していて、この緊急依頼には参加できないようであった。

 そこで、ギルド最高責任者の推薦により、数名の凄腕の冒険者によるチームを呼んだと言うものであった。



「どんな人だろうな~」


「凄腕って事は有名なチームなのかな~。<バーサーカー>、<流離う者>、<赤い彗星>とかかな?」



 ザックが首を傾げながら、ソラは数ある有名なチームの内の何処が助っ人として現れるかを予想している。

 サイにとってはどうでもいい事だが、依頼が早くに終わるのならばそれで良かった。



「どんな助っ人が来るにしても、俺達のやる事は変わらん」


「確かにサイ君の言うとおりだけど……」


「やっぱり期待しちゃうよね~」



 サイの言葉にロイとソラがやっぱり気になると言った。

 セラの方はさほど気にはなっていないようである。

 ザックは……。



「まあ、美人な女性なら何でもいいけどな!」



 ははは! と笑うザックにフィーネとロイは溜め息を吐き、ソラとセラは呆れ果てて…サイはザックを蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされたザックはそのまま空中に放りだされ、人ごみの中に消えていった。

 今、緊急依頼の受付が開始されているので、ギルドに集まっている冒険者の数は尋常ではない。

 その中の屈強な冒険者の集まったポイントに、サイはザックを飛び込ませた。

 故にザックは今頃むさ苦しい肉の壁に囲まれて、踏み潰されそうになっているだろう。

 いや、最早潰されているかもしれない。

 サイはそんなザックの事など考えもせずに、行くぞと他の四人を促しギルドの外に出ようと足を運んだ。



「――――サイ君はやっぱり恐ろしいです……」


「――――絶対に敵に回したくない人物よねぇ……」



 ソラとフィーネが引きつった顔でザックが飛ばされた方を見る。

 そこにあったのは必死でもがいているザックとそれを囲む肉の壁。

 ザックが手を伸ばして涙ながらに此方に向かい何かを叫んでいるが、肉の壁がザックを奥へ奥へと押し込んでいる。

 あれが女性だらけの壁ならばザックも幸せだっただろうに、生憎その肉の壁には女性はほとんど居ない。

 大半がむさ苦しい男達であった。



「あのままでいいんでしょうか……?」


「――いいのよ。自業自得よ」



 セラもさすがに多少顔を引きつらせているが、元はと言えばザックの余計な一言が原因である。

 それを助けてやる程にセラはお人よしではない。

 確かに可哀想で哀れであるが、自分達もあそこに飛び込む勇気が無かったとも言える。

 よって四人はザックを見捨てて回れ右……そのままギルドの出口に向かう。



 ――助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!



 ……何処からかそのような声が聞こえる気がするが、四人が足を止める事は無い。

 そのままギルドの出口を出て、サイを追いかけていった。



 ……後には肉の壁に押しつぶされた哀れな一人の冒険者が居たそうな。





読了ありがとうございました。

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