表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 王宮襲撃編
112/123

最終話 “黒風”の誕生

長かった三章も遂にラストです。

 静まり返るWSM内の者達。

 誰もが“その名”に恐怖して、身を震え上がらせた。

 そんな中、遂に耐え切れなくなったのか一人の男が席を立った。



「トーネ様! お言葉ですがそのような冗談はやめて欲しいものです!!」



 男は怒りを表情にだし、しかし、時折瞳が揺れている事から不安な心情もあるのだろう。

 それが分かっているからこそ、皆はこの無礼に対して口を開かない。

 それどころか今だトーネの悪ふざけであって欲しいと祈る者がほとんどだ。

 ……ギルドマスターのほとんどは40年前のあの事件を知っているのだから。



「認めたくないのはわかるけどねぇ。――残念だけどホントだよ」



 そうして放たれた、人に化けたドラゴンの言葉に皆が呻いた。

 “ノア”が生きている……それはあの40年前の再来を意味している。


 40年前のあの時は大規模な事件ではなかった為、秘密裏にしかし着実に根を生やすあの魔人の動向を追えた者は数える程しか居なく、“紋章持ち”五人が集まったところでかの魔人は大陸中に自らの正体と目的を明かした。


 人々は突然のその言葉に驚愕と恐怖を抱いた。

 今まで平和であった大陸に遂に再び邪神が復活するのか……誰もがそう思った。


 幸いにしてその動向を追っていたトーネ達英雄三人が邪神復活を阻止する事に成功。

 他の仲間であった者も国同士が協力して駆逐したのであった。


 だが、それで魔人の恐怖が消えたわけではない。

 いつ再び彼のような魔人が現れ、同じように邪神を復活させようとするかわからない。

 そして最悪な事にその彼自身が出現してしまった。



「落ち込んでいても仕方が無い。それよりも対策を立てる方が重要ではないか?」



 カーラはこんな場でも取り乱さずに凛としていた。

 いや、カーラだけではない、他のSSランクホルダーの二人、そしてヤマトも落ち着いている。

 皆はこれらの姿に頼もしさを覚えた。



「そうね。まあ、対策と言っても彼は今回は邪神の復活は目論んでないよ」


「それは本当ですか!?」



 トーネの言葉に皆が一斉に顔を輝かせる。

 しかし、トーネは良い表情をしていない。

 むしろさらに悪いといったように……。



「彼は今度は――――古代兵器を狙っているんだ」


「な――――っ!」



 今度は一同が一斉にどん底に落ちた。

 古代兵器……それは大陸中の魔道士が集めた魔力をも上回るとまで言われた存在で、邪神を退ける程の強力な魔道兵器だと伝承に伝えられている。



「まあ、あのときにちょっとした事があってね。すでに邪神を復活させる事は出来なくなったの。だからかな……。今度はそっちを狙っている訳ね」


「ちょっと待ってくれ」



 ここで口を挟んだのはヤマトだった。

 皆がそちらの方向に一斉に向く。

 ヤマトは何かを確信したような、動揺した表情で言葉を発した。



「じゃあ……アルの言っていた古代兵器の鍵を狙う“奴ら”って」


「ヤマト君はアル君に聞いたみたいだね。そうだよ、その魔人が指揮している“組織”ね」



 ヤマトは笑った。

 まさかこんなところで“奴ら”の情報を得られるとは思っても見なかったのだ。

 そう、彼らに近づけば自分の失われた記憶について分かるかもしれない。

 その彼らの情報は少しでも手に入れたかったヤマトにとってこれは嬉しいものであった。



「そっか! それで古代兵器の鍵を狙っているんだろ? なら、その鍵の在り処がわかれば――」


「残念だけど、あたしもまだその在り処は分からないのね」



 しかし、ヤマトの頭のどこかで何かが、引っかかっていた。

 それが何か……ずっと思い出そうとすると遂にピンときた。

 昔にアルはあの銀水晶……あれをカーラに預けた筈であった。



「カーラさん! あの時の銀水晶、どうしたんだ!?」



 ヤマトは思わずカーラに訊ねた。

 ヤマトの記憶が正しければカーラが所持している筈である。


 だが、カーラはヤマトに申し訳なさそうに言った。



「実はあの銀水晶、師匠に言われた通り、ある人物に渡してな。今は私の手元にはない」



 ヤマトはがくっと項垂れた。

 もし、一つでも在り処が分かればそれを見張っていればおのずと敵の方から近寄ってくる。

 それが出来ない現状にヤマトは呻いた。



「ちなみに誰に?」


「――すまない。誰にも教えるなと師匠に言われている」



 はあ、とヤマトは盛大な溜め息。

 これはある程度予想できたのでそこまで期待はしてなかったのだが、それでも今は何も出来ない事にもどかしさを感じる。



「じゃあどうすんだ? 白旗でも振るか?」



 ドクマはあまり興味がなさそうにそう吐き捨てた。

 しかしトーネは、んりゃと首を振る。



「場所が分からないなら探せばいいと思うのだ~。それに今は魔物の数を何とか減らさないといけないしね。という訳で今からギルドは魔物討伐に全力を注ぐ予定なの」



 確かに今の現状はそれしか方法は無いだろう。

 魔物を増やしていることはおそらく何か目的があっての事だろうし、こちらの目を欺く為かもしれないが放って置くことは出来ない。

 皆が不満だが、仕方ないと言うようにそれに納得して首を縦に振った。



「でもね、そうなってくると強力な冒険者の力が要るし、SSランクの依頼も出るかもしれないの」



 SSランク依頼、それは放っておけば国一つが崩壊しかねない、ギルドにおいて最大級の危険度を誇る依頼である。

 これを受けられる事を許されているのはSSランクホルダーだけであるのだ。


 しかし、トーネが言うに、これからの魔物の数や凶悪度を考えるとSSランクの依頼がいくつか起こるかもしれない。

 それだと、どうしてもSSランクホルダーが三人では人手不足になる。



「このままじゃ、これから先は厳しいかもしれないんだよね~」


「ではどうするのじゃ?」



 トーネの言葉に驚きまくっていたルリアがここで口を開く。

 確かに今にSSランクホルダーは三人しかいない。

 これでは今から増えるであろう魔物に対しての対処は追いつかないだろう。



「勿論、決まってるよ」



 トーネは少しだけ微笑み、言葉を続けた。



「人手が足りなければ増やせばいいだけ」



 確かに道理はあっているだろうが、そもそもSSランクホルダーは並のものは愚か、熟達した冒険者でさえなることは出来ない。

 その圧倒的強さはそれこそ一騎当千の実力者で無いとならないのだ。


 そんな者がそう居るだろうか。

 ルリアはそこまで考えてニヤッと笑った。

 どうやらルリアにはトーネが言わんとしている事に気付いたようだ。



「そういうことじゃな、ゼウス」


「はい、そういうことです」



 ゼウスは無表情のままに返事を返す。

 その言葉を聞いてルリアはヤマトににんまりと笑って見せた。



「まあ、ヤマトそういうことだ」


「――は? 何が?」



 カーラまでヤマトに笑いかけてくる。

 ヤマトは一体何事と身構えてしまう。



「いいのかよ? こんな雑魚で」


「大丈夫よ。だってあたしの隠密術に気付いた程だもん」



 なにやらドクマは忌々しげに舌打ちして、それにトーネが笑っている。

 どうやら今の会話で大体のものがこの流れの先にある結論を見出したようだ。



「まさか……」


「うそだろ……」


「――こんなところをこの目で拝める日が来るなんて」


「…………凄い」



 ローラ達四人も何故か分かったようで目を開かせている。

 ヤマトはいい加減うっとおしくなってきた。



「一体なんなんだ!?」


「じゃあ教えようかな」



 皆がヤマトの方に視線を向ける。

 部屋中に緊張が走る。

 全員がヤマトとトーネの二人に釘付けだった。



「今の現在であなたは選ばれた」


「……………」



 ヤマトはトーネの言葉を静かに聞いている。



「武道大会優勝、あたしの試験のパス、そしてその佇まい。あなたはSSランクホルダーの器に相応しい」



「――――まさか」



 ヤマトはここで目を見開き、大きく動揺した。

 ヤマトはトーネの言いたい事がようやく分かってきた。


 皆が次の言葉を逃すまいと耳を傾けている。

 皆が次の光景を逃すまいと目をこじ開けている。

 そう、皆が次の瞬間を期待した。



「あなたをSSランクホルダーに任命する」



 少女の金色の瞳が輝いたようにヤマトには見えた。



「――――何で俺なんだ?」



 ヤマトは大いに焦っていた。

 確かに自分はこれまで遊んでいたわけではない。

 周りからもある程度は認められていると自負していた。


 しかし、このSSランクホルダーの名はヤマトには如何せん重すぎる。

 ヤマトはこれを断ろうと言葉を並べる。



「だめ。これは決定なの」


「強制……か……」



 しかし、最早トーネの結論は決まっていた。

 いくらヤマトが何と言おうとまともに聞いてくれない。



「逆に何が不満なの?」


「いや、俺はSSランクホルダーになる程強くないしな」


「でも、あなたはカーラに勝って、ドクマと互角に渡りあった。これの何処が強くないと?」



 ヤマトはこれにウッと言葉が詰まる。

 確かに自分がこれを辞退すれば二人の(ヤマトにとってドクマはどうでも良かったが)名に傷が出来るだろう。


 ヤマトはカーラの方をちらっと見る。

 するとそこには大丈夫だ、と力強く頷いてくれるヤマトにとっての先輩の姿があった。



「それにあなたがこれを受ける事で救われる人が居るかもしれない、これで“奴ら”の野望を阻止できるかも知れない」


「……………」



 ヤマトは俯いて目を閉じる。

 こんなときこそ損得を考え超感覚能力マストを使えばいいのだろう。


 だが、ヤマトがこれを使う事は無い。

 このくらいは自分の意志で決めたかったのだ。



(あのときに奴が言った言葉……)



 ヤマトはあの赤い仮面のソロという男の事を思い出す。

 彼はあの時に聴力強化を施したヤマトにしか聞こえない声で確かに言ったのだ。



 ――今から一年、我らは目的を果たす為に動く事となる。



 “奴ら”は間違いなく強い。

 あのシードがトップだと思っていたのに、まさかそれ以上の力を持った者が現れた。

 そんな奴らが本気で古代兵器を狙ったならば…。


 ……そしてヤマトは決意した。



「俺は自分の記憶を取り戻す為に旅をしていた。自分が何者かを知りたかったから旅をしていた」



 ヤマトはそこで目を閉じて、今は遠い無法地帯に居るであろう仲間たちの姿をまぶたの裏に映す。

 そして最後に映った赤髪の相棒である少女を見送った後に静かに目を開けた。



「俺は力不足かも知れないし、何も出来ないかもしれない。でもここで覚悟を決めれば前に進めそうな気がするんだ」



 あくまで気がするだけど、とヤマトは続けるが、その瞳にはすでに答えを見出しているように感じる。

 どちらにせよヤマトにデメリットはないのだ。

 後は自分に自信を持つだけである。



「じゃあ……」


「――受ける。やってやるよ」



 その言葉と共に周りから拍手が送られた。

 皆がその青年の覚悟を認め、また期待する。



「それじゃあ、よろしくね」



 ヤマトはこうしてSSランクホルダーの次元に立った。

 そしてその二つ名は大陸中に広まることとなる。

 誰もが予想できないほどにこの青年は力をつけ、その地位を確固たるものにしていくのだ。



 ……こうしてSSランクホルダー“黒風”が誕生した。





   





   三章 黒風の通る道   ===完===






これにて三章は終了です。

当初はこの話数の半分程度で済ませる予定だったんですけど、予想外に長くなってしまいました。反省しております。


四章の開始は自分の身の回りの環境が一旦落ち着いてからにしたいので、八月まで待っていただけると幸いです。八月の初旬までには四章に入りますのでご容赦を。


四章のことを少し話すと、四章からは遂にセラ達が登場します。

時はヤマトが“黒風”になってからおよそ一年後。

セラ達はヤマトが会った人物達に出会いながら、最終的には大人数になります。

そしてこの四章の後半から、すいませんが一気にシリアスに入ります。


読了ありがとうございました。

感想・評価を頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ