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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 王宮襲撃編
111/123

19話 ギルド総議会

投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。

 帝都について次の日。

 ヤマトはローラ達四人を連れて宮殿に赴いていた。



「いいのですか? 私たちを連れても……」


「ルリアの許可は貰っといたし、大丈夫だろ」


「でも……今からギルド総議会をお目にかかれるのか…」



 宮殿の中のタイルの敷かれた石造りの廊下の中でウルトだけでなく他の者も緊張している。

 あのスレイでさえも動きがどこか固い。

 ここでヤマトはずっと気になっていた事を言葉に出した。



「なあ、ギルド総議会って何?」


「なっ!?」


「知らないんですか!?」


「え? あ、ああ……」



 予想以上に呆れられてしまったようだ。

 ヤマトは皆の反応にあはは……、と苦笑するしかなかった。



「正式名ギルド総会議。つまりSSランクホルダーを交えたギルド最高権力の会議なんです」


「そうそう、これには各所の有名なギルドマスターも来るしな」


「へ~……。でもどんな事を話すんだ?」



 ヤマトは皆の説明を聞きながら挙手する。

 それに答えるのはローラである。



「そうですね……、いろいろありますが、多分今回は最近の魔物の多さとかじゃないですか?」


「な~る」



 ヤマトはポンと手を打ってそれに答える。

 確かにここ最近でさらに魔物の数が増えている。

 あのトローレで起こった魔物の大繁殖もそれに当たるだろう。


 そんな事を考えているといつの間にか大分歩いたようで大きな扉の前まで来ていた。



「――――ヤマト殿とその一行ですね?」


「ああ、そうだけど」


「ではお通り下さい」



 どうやら門番らしいがその男がそう言うと扉がギギギと開いていった。

 そして中の光景がヤマトの目に晒される。

 何と言えばいいのか彼らには答えようもない……言えることは最高会議の場に相応しいといったところか。


 床には紫色の絨毯がびっしりと敷き詰められている。

 壁には装飾が施されているが、その量はあまり多くない。

 真ん中には大きな円形の机が置かれていて、既に数名が座っている。

 その中には歴戦を思わせるものもいれば、何と幼い少女も居るではないか…。

 どんな会議が開かれるんだよ……ヤマトが内心そう思っていると不意に声がした。



「ヤマト! やっと来たか。おぬしも席に着くのじゃ」



 見るとルリアも座っていた。

 他にもカーラやゼウス、ドクマもすでに席についている。

 ヤマトはこの場の雰囲気を一瞬で感じ取った。


 その雰囲気とは一切の隙を見せない者達が集まっており、油断すら出来ないもの。

 ヤマトには見えないが、後ろの四人も息を呑んでいる筈である。


 ヤマトはとりあえず言われたとおりに席に着いた。



「それでは全員そろったようだな……」



ヤマトが到着した事によって全員が揃ったのか一人の男が席を立ち、口を開いた。

その言葉に他の者も意識を向ける。



「まず初めに、此度のギルド総議会の為にこの場を提供して下さったガラン皇帝ルリア様に深く感謝申し上げます」


「うむ」



 男の言葉にルリアがゆっくりと頷く。

 ヤマトは自分達と一緒に居る時のお転婆な皇帝が、この場ではしっかりと威厳のあるような態度をしている事に多少驚く。

 ヤマトがそんな視線を向けている事に気付いたのかルリアがチラッとヤマトを一瞥して頬を膨らませた。



「では次に冒険者ギルドの最高責任者であるトーネ様の入場です」


「トーネ様が……!?」


 どうやらこの場には当たり前だがギルド最高責任者が来ているようである。

 ここでその名に息を呑むのはおなじみのローラである。

 ヤマトはローラは有名な冒険者に相当興味があるのな…とこれまでを思い返してみて苦笑する

 だが、ヤマトもその名に聞き覚えがあった。

 確かアルから聞かされた筈である。



「40年前に邪神復活を止めた、三人の英雄の内の一人……」


「あ、それだ!」



 ヤマトが思い出したように腕を打つ。

 確かアルがそんな事を言っていたのだ。

 ちなみにアルもその三人の内の一人である。



「一体どんな人なんだ……」



 ヤマトはそんな凄い(ヤマト自身あまり良く分かっていないが)人物が来るというのだ。

 どんな人物か……多少気になった。



「それでは入場を――」


「――――あはははは! もう席に着いちゃってたりしてぇ~!」



 男が全てを言い終わらない内に部屋の中で女の子のような声が響いた。

 何と声を上げたのは、ヤマトが入って来て、一番意外感を隠し切れなかった幼い少女であった。

 その姿は6,7歳くらいで赤色の髪に金色の瞳を持ち、ピンク色のブラウスに白いスカートを履いている、顔立ちの可愛い普通の少女である。


 しかし、その背中にはその小さな体型には全く似合わない縦二メートル横幅八十センチ程はある大剣を、切っ先が地面につかないように横にして背中に提げている…それでも地面を掠めているが。

 その少女はあっはっはと面白そうに腹を抱えて笑っていた。

 それにはSSランクホルダー以外が「は?」と目を丸くしている。


 中でも一番驚いていたのはローラ達で「へ?」と状況を飲み込めないらしく呆けていた。



「い、一体いつからおいでに!?」


「いや、最初からいたよな!?」



 ヤマトは思わずツッコんでしまった。

 それだけヤマトにとって少女は目立っていた。

 というか一人だけ場違いな人物なのに気付かない方がヤマトにとってはおかしかった。



「なんだと!?」



 しかし、思いの外驚かれてしまった。

 ヤマトはまさか自分がおかしいのではと錯覚してしまうほどに。

 ヤマトは救いの手が舞い降りる事を願って、唯一落ち着いているSSランクホルダーの面々に目をやった。


 するとどうだ、カーラは物凄い笑顔で「さすがだ」と言ってるし、ゼウスはふっと笑って此方に向かい頷いてくるし、ドクマは一瞬だけ目を丸くしてその後舌打ちをならした。



 ――というかゼウスさん……、俺はあんたの無表情以外の顔を初めて拝みました。



「ヤマト君は気付いてたようね! さっすが~~~!」


「? 気付いてたって?」



 ヤマトが純粋に首を傾げる。

 それに幼い少女のトーネは説明した。



「実は今のはある一定以上の実力者じゃないと気配すら読めない、あたしの魔力込みの隠密術なの~!」


「……そんな術があるのか」



 すごいでしょ~? と笑顔を向ける少女にはとても出来そうにない芸当。

 というかそれ以上に……。



「あなたがあの有名なトーネ様……?」


「うんうん! その通り!」



 トーネは天にVサイン。

 その瞬間ローラの腰が落ちた。



「いや、でもさ! トーネ様は何十年も昔から生きてるんだよな? そんな幼かったら割りにあわないぞ!?」



 その手がありましたとウルトに珍しく賞賛を送るローラ。

 というかどんだけ英雄が少女だと認めたくないんだとヤマトは顔を引きつらせた。

 それにこの少女は間違いなく強い、ヤマトの本能がそう告げている。



「大丈夫! 私これでも367歳のピチピチの竜人だから!」


「はいいいいいい!!?」



 ウルトが今度は気絶した。

 既にローラは地面にもたれつき、顔を下に向けている。

 スレイは変わってないが、リリーは笑顔のまま気絶していた。



(それにしても竜人か~……)


「で、話を戻そうか。何か理由があって俺を呼んだんだろう?」


「そうでっす! 本当はアル君の事をいろいろ聞きたかったんだけどね。それはまた今度にして、会議を続けようね~」



 あははは! とあどけなく笑う少女はどこか神秘的である。

 さすがは竜人といったところか。

 そこでヤマトはいや、待てと踏みとどまる。



「その前になんで竜人がギルドの最高権力者?」



 本来、竜人は魔人や神獣などと同じ危険度SSランクの魔物に分類されている。

 その昔、人間と竜が交わったことがあり、その場合に出来る人の血を僅かに引いた限りなく竜に近い存在――それが竜人だ。

 普通ならば魔人と同じようにひっそりとどこかの隠れ里で暮らしているのだと、ヤマトが昔に読んだ書物にかかれていたのだが、それがどうして人間に紛れ込み、人間の文化圏で生活しているのかヤマトには疑問であった。



「竜人の中にも人間に肩を持つ者も居るってことで」



 それだけ言うとトーネはさっさとこの話題を打ち切った。

 どうやらあまりこの手の話はしたくないらしい。

 向こうがそうなら、とヤマトもそれ以上首を突っ込むのをやめた。



「分かった。それじゃあ会議の内容を聞こうかな」


「物分りが良くてよろしい!」



 ヤマトの言葉を聞くと飛びっきりの笑顔を向けてくる。

 ヤマトはその笑顔に思わずかわいいな……と呟いてしまった。



「ヤマト……。私はどうやら幻覚をみているみたいです……。こんな幼い女の子がギルドの最高権力者……どうかヤマトは私の屍を超えて行ってください」


「何ゆえ!?」



 いきなりの力のない微笑みに思わずヤマトの体に冷たい汗が伝ってしまう。

 その様子をクスクスと笑って見ているトーネにヤマトは心の中で一睨みした。



「とりあえず用件を話してくれ……」


「そうね~。まずはこの会議の議題についてかな~」



 トーネはそこで表情を真剣なものに変えた。

 今さっきまでのおどけた少女が嘘のようなプレッシャーを一瞬だけ放つ。

 その効果は覿面でここにいるすべての者が押し黙った。



「最近になって魔物の数が増えてきたよね?」


「確かに……」


「ここに来るまでの間に稀にしか見ない規模の魔物の群れを見ましたし……」



 幼き少女の言葉に皆が納得したように頷く姿は何と言うかシュールであったが、ヤマトはそこに触れないように頭から除去、皆と同じように頷いた。



「そうなの。最近は魔物が大量に出現するよね。――もしかしたら、それが人為的なものかも知れないの」


「人為的……だと!?」



 ここにいる皆が、それこそローラ達やルリアも「そんな馬鹿な!」と目を見開いている。

 だが、ヤマトは落ち着いている。

 何故なら三年前にも似たような事があり、似たような結論をつけたのだ。


 あの時はハドーラの街の近くの森での魔物の大繁殖のときであった。

 ハドーラが無法地帯のバラン内であった為にそこまで重要視していなかったようだが、バランだけでなく大陸全土の大量の魔物が人為的だとするならば、この総会議をひらく必要はあるわけである。


 そこまで考えてヤマトは次の言葉を待った。



「驚きだよね。でも、三年前のある街の近くで起こった魔物の大繁殖をきっかけにね、あたしがちょっと長い間に単独で調査してたんだ~。……そうしたら魔物の繁殖が急増してたのね。しかもその原因がトリル草に魔人の血を混ぜたものを振りまかれたって事だからおっどろき!」



 この台詞にはヤマトすらも驚愕し身震いした。


 トリル草はドラゴンや神獣などの繁殖率が極端に低い魔物が摂取する繁殖率を上げる強力な薬草で、普通の魔物ならその匂いをかいだだけで、その匂いの成分で繁殖率が何倍も増えるほどである。

 その薬草は大陸の南に位置する、とある王国のとある森の最奥に生えているのだが、その森は危険度Aランク以上の溜まり場でまともの冒険者なら入って五分と持たない凶悪な森である。


 そんな危険な森に生えているトリル草に、最悪な事にそれに魔人の血を混ぜたものが振りまかれたのだ。

 魔人の血は生命力や魔力を高める効果があるのだが、魔物を強悪な性質に変えてしまう効果もある。

 さらにいえばその薬草の効力を高めることもできる。


 しかし、そのことよりも重要なのはそんな魔人の血を魔物が求めたがるゆえに魔物が匂いをかいで集まってくる事である。

 魔人の血はその独特な匂いゆえに人間にはまるで分からないが、魔物にはたとえ十キロ離れていても匂いが分かるそうである。


 昔はそれゆえにその血は高価だった事もあり、魔人という魔物は人のそれと変わらない姿であるのだがその容姿に特徴がある故に多くの冒険者に狙われた種族である。

 勿論SSランクの魔物ゆえに滅多なことでは仕留める事は出来ないが、狙う冒険者が後を絶たずに数に押されてしまったのだ。


 よって今の時代に魔人を見かけることは無い。

 たとえ生き残っていたとしても冒険者に狙われる事を畏れて隠れてしまうだろう。

 魔人の知能は人のそれより高いのだから当然であるが。



「だから最近の魔物の数が増えているのか。……でも待てよ、それって何者かが魔人を仕留めて手に入れたって事か?」



 ヤマトはトーネの言葉に納得したのだが、ここで気になった事はその行為を行ったものが魔人を狩る程に強い、もしくは多いということである。

 しかも、それを実行する意図がつかめない。


 だからヤマトは疑問を声にだした。

 確かに今聞いただけでも十分大変なことだが、もしかするとさらに悪い方向に行くのかもしれない。

 ヤマトは自分の予想が外れてくれる事を祈るばかりであった。



「う~ん、それならまだ良かったかも……」



 しかし、トーネはそんなヤマトの期待を打ち砕く。

 それだけなら……、これ以上に一体何があるというのかさすがのヤマトにも分からないでいた。



「実はあたしが現地で調査してもう一つ分かった事があるの。あたしはドラゴンだからね、そこにいた人物の魔力とかが分かるんだけど……」



 トーネはそこで一旦言葉を区切った。

 全員がギルド最高責任者であるドラゴンの少女に目を向けて、その姿を…口元を凝視している。

 そして、皆に衝撃の事実が伝わった。



「――――実はね、そこに居たのは魔人だったの」



 皆の身体が硬直した。

 そして確認の為なのか…自分の聞き間違いだという事を信じて再度訊ねる者がいた。



「――――……魔人? それは本当なのですか?」


「うん。そういう事になるよ」


「じゃあ……」



皆が一斉に息を呑んだ。

そして誰もが聞きたくないその言葉を待っているしかなかった。



「――――残念だけどね。相手は危険度SSランク以上の魔人なの。しかも全員が知っているね」



 その言葉を聞いた瞬間、誰もが絶望した。

 何故か、それは魔人に対する恐怖ではない。

 逆にただの魔人ならばここにはSSランクホルダーが三人もいるので恐れる必要はない。


 しかし、その相手はおそらくただの魔人ではない事が考えられる。


 ……40年も昔にこの世界に邪神を復活させようとする者がいた。

 その者は何匹もの強力な魔物を連れて、何人もの凶悪な犯罪者を従え、さらには“紋章持ち”を五人も集めた最悪の人物。


 その人物は三人の英雄に打たれて死んだ……筈であった。


 だが、どうやらその人物は生きていたようだ。

 この時代に魔人はそう何人もいない。

 それに全員が知っているという。


 そこから考えられる魔人はただ一人。

 そう、その最悪の人物の正体は魔人であり……。



「その人物ね……。なんと“ノア”だったの」



 ……皆がその名前に恐怖した。






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