18話 最後の一人“炎神”
ヤマトが聞き取ったのは小さな爆発音と悲鳴、そして周りの者が息を呑む音であった。
ヤマトはすぐにその現場までたどり着く。
そこは帝都の大きな広場であった。
そして底には一人の男を中心に三人の冒険者が煙をプスプスと立てて地面に転がっている。
「その程度で俺に喧嘩売ってきたってのか? 雑魚共」
「う……」
倒れた三人はかなり重傷であった。
ヤマトはこれは不味いと三人の傍に駆け寄り、
「傷を癒せ。治癒」
治癒魔法を詠唱、そのまま三人の治癒に移る。
「――誰だてめえは?」
「――――一般も一般の冒険者さ」
ヤマトは三人を治療しながらその男に返事を返す。
しかし、それは適当なもので男の癇に障ったようだ。
「ほぉ……ただの冒険者ねぇ……?」
「――――!?」
その男がヤマトにいきなり魔法を放ってきた。
それはヤマトに向かう火炎放射。
ヤマトはそれに手をかざし、風の防壁で阻止した。
「何のつもりだ?」
「決まってんだろうが。お前がただの冒険者かどうか見極めてやるよ」
男は自らの短い灰色の髪を揺るがし、鋭い視線の金の瞳でヤマトを見ている。
服装は黒い装束を全身に着ているだけで、武器は持っていないようである。
ヤマトはその男を注意深く見ていた。
「おせえ」
「なっ……!」
ヤマトは確かに注意深く男の動向を探っていたはずである。
しかし、呼吸をまるで合わせたかのように容易にヤマトの懐に入っていった。
「くそ!」
男はそのままヤマトの腹めがけて殴りつけてきた。
ヤマトはそれを避ける為に上に跳んで足元に風魔法の爆風を起こす。
ヤマトは男から離れた位置に着地。
そしてヤマトはそのまま男と距離をとろうとするが、男の動きは早く、すぐにまた距離を縮められる。
「はっ!」
ヤマトはこれは不味いと刀の柄に手を置いた。
そしてそのまま抜刀ど同時に男を両断しにかかる。
だが、男はなんと拳でそれを受け止めた。
男は拳に炎を纏っていた。
それがゆらゆらと揺れている。
「拳が武器って……。――お前はザックかっ!」
「何言ってんだ、てめえは」
男はそのままヤマトにラッシュをかける。
ヤマトはそれを刀でいなすがさすがに全部いなす事は出来ない。
そのまま腹に一発うけて吹っ飛んだ。
(こいつ……強いな)
ヤマトはここで本気の目つきになる。
空中で身体を逆さにした状態で風の爆風を足裏に起こし、そのまますぐに地面に着地。
そしてヤマトは刀を連続で振りまくる。
そこから発動するのは風斬。
一気に風の斬撃が嵐のように放たれ、男の目が一瞬だけ見開かれる。
しかし、すぐに表情を戻し、拳をラッシュし空を殴った。
するとそこからは炎の衝撃波が次々と飛んでいく。
両者の魔法をそのままぶつかり合い、爆発する。
だが、ヤマトはその時すでにさっきまでの立ち位置には居なかった。
男が自分の魔法を相殺しようと魔法を発動した瞬間にヤマトは素早く男の背後に回りこんでいたのだ。
「くらえ!」
ヤマトはそのまま刀を男に向かって縦に斬りつける。
そして勝負が決まった……筈だった。
「は……?」
確かにヤマトは男を斬った筈であった。
しかし、男はそこに居ない。
何故だ……そう考えて、ヤマトは突然背中に悪感が襲った。
不意にしゃがみ込んでそのまま前方に転がる。
そしてヤマトはさっきまで居た場所に目をやる。
すると男が不気味にニヤリと笑っていて、拳を振り切った姿があった。
「今のを避けるとはな」
「お前こそ、俺は斬ったと思ったけどな」
先ほどにヤマトが斬ったものはおそらく陽炎である。
陽炎とは太陽の強い日射に地面が熱せられ、上昇気流が起こり、それにより密度の違う空気が光の屈折を起こして起こるもの。
ヤマトはそれほどまでに一箇所の温度を高めるこの男の炎魔法に恐怖した。
そう、ヤマトの周りの気温は全く上がっていない。
それはおそらくこの男が一箇所のピンポイントでそれを行っているということ。
「どんな魔力操作だよ……」
「はっ! 魔力操作なんかと一緒にすんなよ!」
しかし褒めてやる、と男は続ける。
「この俺相手にここまで生き残ったのは久しぶりだ。それこそ“剣聖”と“戦乙女”くらいのもんだ」
「どういう……」
「――まあいい。終わらすぞ」
男はそのまま右の拳に魔力……いや、炎を溜め始める。
魔力ではない、魔力で既に発動した炎を溜めているのだ。
ヤマトは得たいの知れないこの男の魔法に驚きを隠せなかった。
「これは古代魔法の一つ、圧縮魔法。名の通り、俺は自らの炎を圧縮している」
ヤマトは納得した。
先ほどの一箇所にピンポイントで温度を上昇させたのもこの圧縮魔法をその空間に使ったのだろう。
ともかくもヤマトもこれに対抗する為に目を閉じて魔力を溜め始める。
「何のつもりだ?」
「……………」
ヤマトはその問いには答えずに黙って魔力を集める。
どうやらこれまでの度重なる超感覚能力の使用でヤマトもまた一段と魔力操作の精度が上がったようで、魔力が集まるのがいつもより早い。
ヤマトは今は二十秒ほどで必要な魔力を溜める事が出来るようになっていた。
「「行くぞ!」」
男はそのまま拳に溜めた炎をぶつける為にヤマトに駆け出し、ヤマトは三重身体強化を発動する。
それぞれが一瞬で間合いを詰めてそのまま激突……するはずだった。
だが、それは適わない。
二人の攻撃は二人の人物に止められていたのだ。
「二人とも、何をしているんだ?」
ヤマトは自分の動きを止められた事に驚いたように目を見開くが、目の前の人物に納得した。
目の前の人物は赤いコートの下に銀の鎧を着込み、レイピアを持った女性……カーラであった。
「貴公もだ。ここはその牙を振るう場所ではない」
「“剣聖”……っ!」
一方の男もまたゼウスに止められていた。
ゼウスは二本のロングソードを交差させた状態でその合わさった一箇所に灰色の鋭い目つきの男の拳を止めていた。
「また問題を起こしたようだな……“炎神”ドクマ」
「ちっ……」
ドクマといわれたその男は拳を下げて纏った炎を消す。
どうやら戦う意志は今のところ消えたようである。
「こいつが“炎神”……」
ヤマトはそのドクマをまじまじと見ている。
しかし、それに気付いたのかドクマはヤマトに鋭い視線をぶつける。
「何だ、俺とまたやるか? まあ死ぬのはてめえだろうがな」
「……どっちが」
「――やるか?」
ドクマが再び戦闘準備として拳を構えてくる。
それを止めるようにゼウスがロングソード二本をドクマに向けた。
「これ以上やるならば私も戦う貴公を止める必要がある」
「あぁ? なんならやってみるか? お前と戦うのはこれで二度目になるが、次は殺せるぜ?」
その会話と共に二人が一気に臨時体勢になる。
カーラはこれに呆れたように首を振っている。
彼女は戦いに参加するほど判断力が低いわけではないのだろう、ヤマトは少しばかり安堵を覚える。
しかし、戦闘狂である彼女が肩を震わせている様子を見ると冷や汗を禁じ得ない。
どうやら彼女は自分も混じりたいようでウズウズしているようだ。
……これで大丈夫なのかSSランクホルダー、とヤマトは心底思った。
「ヤマトォ~~! ここにいますか~~!」
しかし、救いの手が来た。
この雰囲気をぶち壊す平和的呼び声が。
そうして此方に向かってきたローラ達はヤマトに駆け寄る。
「良かった、こんなところに……」
「――……………………」
四人が一斉に固まった。
ヤマトはここで気付くのだが、今自分達はたくさんの人ごみに囲まれている。
そしてその全員がワナワナと震えていた。
「「「「「――SSランクホルダーが全員揃っているぞぉぉぉぉ!!!」」」」」
……どうやらそういうことのようだ。
「……興ざめだ、俺はさっさと用を済ませに来たんでな」
「それは奇遇だな。此方も同じにある」
そう言ったゼウスがヤマトに視線を向けて歩み寄ってきた。
ヤマトは何事かとカーラを見れば、カーラも微笑んで頷いている。
「ヤマト殿、明日に宮殿を訪れてくれないだろうか? 重要な事を伝えたい」
「いいけど……。何かあるのか?」
ヤマトは別段何もした記憶はない。
ドクマの件も確かに帝都で暴れる結果となったが、仕掛けてきたのは向こうである。
何事かとヤマトが考えているとゼウスが言葉を続けた。
「何てことはない……SSランクホルダーの緊急集会、ギルド最高総議会に参加してもらいたいだけさ」
その言葉にヤマト以外の人物が固まった。
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