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漆黒の風  作者: ST
一章 旅立ち
11/123

10話 克服の為の動き

魔法修業難航中。

「ああっ! ――また失敗した……」


「まだまだじゃのぅ。フィーネの方がまだ上手かったように感じるが……」


「フィーネと比べるなよ……」


「そんなことありませんよ。系統魔法の魔力操作は属性魔法の何倍もかかりますが、その割にはヤマトさんはどんどん操作の質が上がってますよ?」



 ヤマトが魔法の訓練を始めて五日が経った。

 だが、この五日間の間に何度も魔法の操作の練習をしているのだが、未だ一回も成功していなかった。



「いいか? 身体強化魔法のイメージは体を魔力の膜で覆う感じじゃ」


「う~ん、こうか……?」



 そう言って身体の奥に眠る魔力を引っ張り出しては、それを身体に覆うように纏わせる。

 しかし、それも一瞬で次第に弱くなっては消えてしまう。

 五日間、若干魔力を纏わせる時間は延びたがこれの繰り返しであった。



「――はあっ!」


「ふむ、まだまだ集中が足りんのぅ。これでは詠唱しても魔法が発動せんぞい。まあそんなにすぐに発動出来るまで上達することは難しいじゃろうがなぁ」



 汗をかき、疲れてぶっ倒れるヤマトにアルが呟く。

 中々上手くいかないヤマトは自分の落ち度を省みるが、どこに失態があるのかがわからないでいた。



「結構、集中はしてるつもりなんだけどなぁ……」


「まだまだ足りん。もっと練習せねばのう」



 アルの言葉にはあ、と溜め息をつくヤマト。

 すると、一通り自分の武器を振り終わったセラ達五人が近づいて来た。



「今日も上手くいかないようだな」



 ヤマトの様子から訓練が難航していることを悟り、サイが呟く。

 それにソラは仕方ないよ、と苦笑する。



「フィーネも一ヶ月くらいかかったし、私はヤマトもそのくらいで習得すると思うけど?」


「いや、フィーネの方は属性魔法だからさ。使えるようになったのは早かったらしいよ。――俺は系統魔法だから、いつ使えるようになるんだろうなぁ」



 ソラの言葉にヤマトが答える。

 自分よりも才能があり、属性魔法の魔力操作でフィーネですら一ヶ月かかったのだ。

 自分は一体どのくらいかかるのだろうと考えたヤマトはどこか遣る瀬無い表情を浮かべた。



「じゃあヤマトも『属性魔法』から覚えていったらどう?」


「いや、俺の身体能力を向上させる身体強化から覚えた方がいいらしいんだ」



 アルが言うにはその方が戦闘では便利だという。

 それにまずは身体強化魔法で魔力操作になれさせるという事も含まれているらしいのだ。



「さて、最後に実践訓練でもするかのう」



 魔法修業で肉体的にではなく精神的に疲れたヤマトは今回は実践には参加しない。

 仰向けの状態で顔を横に向けて、アルと六人の戦いを観戦していた。





     ★★★





 訓練が終わり、いつも通り広場で周りの村の人からいろいろと声をかけられ、土産をもらったヤマト達八人は自分達の家に戻って食卓で夕食をとっていた。

 そんな時、アルがおもむろに口を開け、語りだす。



「――さて。早速じゃが後二日ほどでこの村を離れようと思う。異論はないな?」



 アルの言葉に皆がシンと静まる。

 その表情は別れを惜しむような悲しい顔であった。



「――結構に滞在してたからね。仕方ないって言えば仕方ないけど……」


「いざ離れるとなると辛いですね……」



 ソラとフィーネが悲しそうに俯いた。

 その言葉にセラもザックも悲しげな表情を浮かべる。

 サイは仕方ない、といつも通りだがそれでもどこか別れを惜しむような感じがしていた。



「それで、今度は何処にむかうんだ?」



 そんな空気を打開するが如くにサイはアルに訪ねる。



「今度は南に向かう。途中で街もいくつかあるからいろいろ寄って見るかのう」


「――しばらくは移動生活ね」



 アルの告げるこれからの動向にセラは溜め息をついた。

 別に移動しながらの生活が嫌な訳ではないのだが、この村があまりにも過ごしやすかった為、今後の生活が少しばかり大変になるだろうと思うと、セラはどこか村を離れたくないような表情を浮かべる。


 その一方でヤマトは村との別れを惜しんではいたが、初めて冒険者らしく街を転々とすることに興味が湧いていた。



「移動しながらの生活ってどんな感じなんだろう?」



 ヤマトがこれからの動向について多少の期待感を含めてそう呟く。

 それが聞こえたのかアルがヤマトに答えた。



「最初のうちは中々大変じゃぞ? この村のように食べ物を分けてくれる人もおらんしのう」


「その場合どうすんの?」



 アルが苦笑しながらの言葉にヤマトは首を傾ける。

 この村では訓練が終わるたびに取れた野菜や入荷した食べ物などを少しずつ分けてくれた。

 故に食べるものに困る事がなかったのだ。

 しかし、他の場所の場合、こんなことは無いだろう。

 そんな時の飢えを凌ぐ方法にヤマトは疑問を持った。



「そのときは街にあるギルドで依頼を受注して金を稼ぐのじゃ。冒険者の基本じゃろう?」



 アルとしては当たり前のような感じで答えるが、この村を離れた事のないヤマトにはアルの言葉にさらに疑問をもつ。



「じっちゃん。ギルドって?」



 ヤマトは極普通に訊ねた筈だった…が周りは目を丸くさせてヤマトをじっと見つめた。



「じーさん。記憶がなくなったとしてここまで酷いもんなのか?」


「ふむ……、わからんのう……」



 ヤマトの周りはヤマトの言葉に多少動揺していた。

 それだけ今の説明は常識知らずもいいところだったのだ。

 しかし、記憶のないヤマトは訳が分からず、目をキョロキョロさせるしかない。



「すまんのう、ちと取り乱しただけじゃ。そうじゃのう……冒険者として知っておかねばならんしのぅ」



 そう言ってアルはヤマトに説明する。



「まずギルドについてじゃな。ギルドとは冒険者が依頼を受けるところでのう。依頼人の出した依頼に応じ、それに見合った用意されている報酬を受け取る。その仲介役がギルドなんじゃ。」



 うんうんと頷くヤマトにアルは言葉を続ける。



「そして依頼なんじゃが……。これには様々なものがあってのう。護衛や討伐、採集さらには探検など幅が広い。これらを受けて実行した上で報酬をもらうのじゃ」



 話をまとめると、ギルドというのは街を転々とする冒険者にとっての稼ぎの場のようなもので、さらにはギルドに依頼人となる者が頼みたい用件をギルドに持っていってその頼みを受けてくれる者を探す場である。

 そして冒険者の方は様々な依頼の中から自分の受けたいもしくは受けるものを選んではギルドに受注を伝える。


 つまり、ギルドは依頼人と受注する者の仲介役なのである。

 それらの説明を聞いて、「なるほど」と口ずさむヤマトに「ついでに」とアルが口を開ける。



「特に魔物討伐においては討伐した証拠に、その魔物の決められた部位をギルドに渡さねばならんのじゃ。その部位が換金品なら追加報酬ももらえるんで討伐したら部位を確実に取り出すように注意せねばならん」


「へぇ……。でもそういった部位って何かに使われるのか?」



 アルの言葉にヤマトが口を開いて質問する。

 別にその魔物の部位を取り出す事は討伐の証拠であるのだろうが、そういった物はどうなるのか気になったからだ。

 そんなヤマトに、アルは賢いのうと表情を和らげる。



「そうじゃ。そういった部位は薬に使われたり、武器の生成に使われたりなどするのじゃ」


「ああね……。だから欲しい部位の魔物を討伐するように依頼があるわけか」


「そういうことじゃ」



 アルが言うには、今の世の中は冒険者とギルドがあって成り立っているらしい。

 確かにこれだけ幅広い仕事を請ける職業も珍しい。

 昔までは何でも戦争に冒険者を使ったとも聞く。

 それにヤマトは少しばかり驚いた。


 そうして説明を終えては、こんなもんかのうと言ってヤマトに質問があるかを促すアル。

 そんなアルにヤマトは頷いた。



「魔物ってどのくらい強いんだ?」



 ヤマトの質問にアルがう~ん、と唸る。



「そうじゃのう……。魔物にも危険度というのがあってのう。FランクからSSランクまで魔物の強さも様々じゃ。危険度Cランクを倒せるレベルなら立派な冒険者で、Bランク以上となるとそれはもう上級者レベルじゃな。まあ、今のお前さんではせいぜいEランクに届くかどうかかのう」



 アルの告げる言葉に自分の弱さを自覚したヤマトは若干溜め息をつく。

 だが、そんなヤマトに「まあ、まだそこまで気にすることでもない」とアルは励ます



「今から強くなればいいのじゃよ」


「そうだなぁ……」



 納得するヤマトを見て、「さて……」とアルは話を戻す。



「ともかく、もうすぐ村を離れることを明日伝えるのでのう。明日から二日は訓練は休みにして思いっきり遊ぶと良い」


「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!」



 アルの提案にザックが万歳する。

 他もザックほどでは無いにしろ嬉しそうな表情を浮かべている。

 ここまでの間に全員の食事はすでに終わっていた。

 各々はそれぞれ明日は何をしようかと楽しみに部屋に向かって行ったのだった。





     ★★★





 その日の夜、少女三人は部屋で明日は何をしようかと話し合っていた。



「明日はどうしようかなぁ」



 明日の自由行動にソラが顔を輝かせる。

 何と言ったって久しぶりに羽を休ませる事ができるのだ。

 ソラの言葉にセラとフィーネも頷いた。



「本当、いざ休みだと言われても何をすればいいか全然わからないじゃない」



 セラは文句口調で言うがその表情は決して休みに対する嫌悪感は欠片もないだろう。

 今からでも楽しみと言ったように内心ではウキウキしている。



「私は村の人に一通りご挨拶に行ってきます」



 休みをもらったこのときでも村の人と別れなければならないことに悲しむフィーネはそう口に出す。

 その言葉にソラもそうだね、と納得して二人は明日は村を回ることに決めた。



「セラはどうするの?」



 まだ明日のことを決めてないセラはソラの言葉に考え込む。

 セラには特にしたいことも無いしこれと言った用事も無い。

 ソラ達と一緒に村を回ろうか、と考えて口に出そうとするが先にソラが口を開けた。



「そうだ! ヤマトと一緒に行動すれば?」


「――はあぁぁぁぁ!!?」



 ソラの提案に驚きを隠せないセラは大層デカイ声で叫んでしまった。



「確かにいい考えですね」


「でしょ? ここらで一気に苦手意識を取り除いちゃおう!」



 そう言って本人の意思を無視したまま話がトントンと進む二人にセラが顔を膨らませて言った。



「何で私があいつなんかと出かけなくちゃならないのよ」


「ほら! そうやって苦手意識があるままだとこれから先が大変だよ?」



 ソラの言葉に「んぐっ」と口を塞ぐセラ。

 その後もソラとフィーネに散々説得され、遂には「わかったわよ!」とセラは頷いてしまった。

 ソラとフィーネのハイタッチを横目にセラは愚痴をブツブツと呟くがどうでもよくなったのか、そのまま布団に潜り込む。

 布団の中では、はあ、と深い溜め息をつくセラに睡魔が襲ってきて、そのまま深い眠りへと誘ったのであった。





     ★★★





 翌朝、太陽の光が窓から差し込み、ベットで横になっている少年を照らしている。

 光を受けている少年はやがて目を覚まし、青いパジャマを脱いでいつもの白い装束を身に纏った。

 部屋に他の三人がいないところを見るに先に下に降りて食事を取っているのだろう。



「俺もさっさと降りるかな……」



 そう呟いた少年、ヤマトは自らも朝食を取るべく部屋を出た。



「おはよう」



 目を擦りながら食卓に入るヤマトにソラはニヤニヤと、フィーネは頬を和らげてクスクスと笑みを浮かべていることに気づきヤマトは首を傾ける。



「どうしたんだ? ソラ、フィーネ?」


「な~んでもないよ」


「何でもないですよ」



 ソラとフィーネに一応聞いてみるのだがあっさりかわされたヤマトは訝しそうに二人を眺めて「何かあったのか?」とセラに訊ねる。

 しかし、当のセラは顔を赤くして「何でもない!」と上擦った声をあげて、さらにヤマトの頭に疑問符を打った。



「まあいいや。他の四人は?」



 この食卓にはヤマトの他にセラとソラとフィーネしかいない。

 他の四人について聞いたヤマトにソラが答えた。



「おじいちゃんは村の人に離れることを伝えにいったよ。サイは家の裏で素振りしてる。ザックは――ロイを連れて……ね」



 ソラはザックが何をしに行ったかは言葉に出さないでいたが、それでもヤマトがそれを理解するのに時間はかからなかった。

 ソラの答えになるほど、と頷いてみせる。



(ザック、お前ももう少しは弁えたほうがいいんじゃないか……?)



 おそらく、いつもの如く若い女性を探しに行ったであろうザックにヤマトは心の中で呟いた。

 今頃ロイを餌に若い女性に飛びつこうとしてるザックを、連れてこられたロイが必死に止めている姿がありありとヤマトの頭に浮かぶ。

 他の四人も同じような光景が頭に浮かんでいるのか、四人は同時に顔を引きつらせた。



「じゃあ私達も出かけてくるね」


「ああ。――って何処に行くんだ?」


「村の人に一通り挨拶しに行くんですよ」



 ヤマトの質問にはフィーネが答える。

 そうして、食事を終えた二人はニヤニヤしながら部屋を出て、扉を閉めた。

 今の会話の何処にニヤニヤとする要素があるのだろう、と考えるヤマトにある疑問が浮かんだ。



「あれ、セラは一緒に行かないのか?」


「……………………」



 いつもならセラが自分と二人きりになる筈が無く、三人について行く。

 しかし、今日はどういう訳かここにはセラが残っていた。

 今日は何かあるのかと身構えたヤマトにセラが訊ねる。



「――――ヤマト、あんた今日暇でしょ?」


「――――は?」



 また冷たい一撃を放つのかと思っていたヤマトにとって予想外の言葉に顔をキョトンとさせた。

 今言われたことを冷静に分析し、今日は暇かと言われた事を悟るヤマトはその言葉に対して自分の予定を考える。



(う~ん……。今日はどこかぶらぶら出かけるつもりだったけど、暇っちゃ暇だよな)



 頭のなかで答えを出したヤマトはそれをセラに伝えた。

 だが、それがどうしたんだろうとヤマトは本気でその真意を考えようとする。

 すると……。


「――じゃあ、ちょっと私に付き合ってよ」


「――――はいぃ!?」



 今度こそヤマトは心の底から驚いた。

 ヤマトは困惑した頭をなんとか働かせて思考の回転力を加速魔法をかけたが如く高めた。



(――落ち着け。今、何て言われた? 俺の聞き間違いじゃなければあれは一緒に来いってことだろ!?)



 ヤマトは戸惑いを隠せない表情で目の前のセラをまじまじと見つめる。

 セラの顔は大分赤く染まっていて、何やら機嫌が悪そうにも見える。



(――――わかった! これは夢だ! 俺はきっと悪夢でも見てるんだ!)



 そう推測するヤマトは自分の頬を抓る。

 ヤマトとしてはこれで目が覚め、快適な朝を迎える筈であったが現実はヤマトが思うほど甘くなかった。



――痛い。



 痛みがあることから、これが夢でないことを悟ったヤマトはますます困惑した。



(夢じゃないとして、何の為に……。――わからん。いや、もしかしたら純粋に誘ってるだけかもしれないし)


「――別にかまわないけど」



 この場合セラはヤマトを誘ってはいるが、それはソラとフィーネが促した為、事実としては半分正解で半分不正解である答えを導きだしたヤマトは、それを呟くように了承。


 実際、ヤマトも困惑してはいたがこの申し出を断る理由は無い。

 今までセラと打ち解けようと頑張ってきたのだ。

 その努力が今報われたのだ、そう考えることにしたヤマトはセラの申し出に応じた。



「……じゃあ行きましょ」



 こっちが誘われたのにぶっきらぼうに返答された。

 既に準備は済ませているらしく、そんなセラに苦笑するヤマトはセラに連れられて家の外にへと出て行った。





読了ありがとうございます。

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