17話 帝都
ヤマトがフィーリア王国の将軍という地位について早くも二ヶ月が経った。
ヤマトは現在ローラ達と共にガラン帝国の領内にいた。
「いやぁ、未だに思うが、まさかフィーリア国からの護衛がヤマトとはの」
「……国からの指名依頼だしな」
ルリアが面白そうな表情でヤマトを見ているのに対し、ヤマトはふてくされたような顔をする。
この現場を見る人が見れば、何ゆえガラン? と思うかもしれないがヤマトは国からの指名依頼で要人である皇帝ルリアとその護衛の騎士達を帝都まで守護している最中である。
「全くよ~。ヤマトは何で将軍なんかになったんだ?」
「……あの状況じゃ仕方無かったんだ」
ウルトがヤマトが国に仕える事になったのに対して愚痴るがヤマトはそれに反論する。
リリーとローラの機嫌もこの話題になると悪くなるので早々に終わらせたかった。
「ふふふ……。ヤマトは私たちの誘いは蹴るけど国の誘いは受けるのですね……」
「全くよ。何が、『目的があるから~』よ!」
「……悪かったって」
「ヤマト殿。貴公も大変だな」
今現在に馬車に乗っているのはヤマト、ローラ、リリー、ウルト、スレイ、ルリア、ゼウスである。(ラーシアとミルはトローレで待機中)
これだけの量が入るこの馬車にも驚きだが、護衛の…しかも冒険者を馬車に乗せるルリアの度量も凄まじかった。
……ヤマトはこのお転婆皇帝に仕えるゼウスに軽く同情した。
「それで後どのくらいだろ?」
「もうすぐだと思うのじゃがの」
ガラン帝国に向かって馬車を向けて二週間以上は立っている。
勿論それまでにいくつかの街に寄ったし、魔物も中々倒したのでヤマトの懐は着実に暖かくなっていっている。
二ヶ月前に旅の餞別の金や武道大会での賞金、その他もろもろの自らの金を根こそぎ取られてしまった。(主に城の弁償代)
故にヤマトはそれからコツコツと金銭を溜めていき、現在は城の弁償代を払いつつも金貨十枚ほどまで懐に納めるが出来た。
「最近魔物の数が多発しているし、盗賊も増えているからな。依頼を受ける方としては助かるな」
「……不謹慎ですね」
確かにこの二ヶ月の間に討伐された盗賊、魔物の数は測り知れない。
武道大会優勝者という名目もあり、Bランク以上の高ランク依頼を受けていたのだが、狂暴で実力ある冒険者でさえ匙を投げそうな魔物の中でもヤマトの敵になるような者はいなかった。
「今度はSランクいってみるか」
「――……Sは気軽に受けない事をオススメする」
現役ばりばりで働く最強の騎士、SSランクホルダーたるゼウスから注意を受けてしまった。
彼からの言葉とあらばヤマトはそうですね、と頷くほか無い。
「そういえば、カーラもガランに居るんだっけ」
ヤマトはそこでふと思い出す。
カーラは二週間以上前にヤマト達より先にフィーリアを旅立った。
何でもガランに用事があるとかなんとか。
「いや、カーラ殿だけではない。――……今は“炎神”もいる」
「“炎神”ってSSランクホルダーの!?」
そこでヤマト以外のメンバーが驚きを示す。
“炎神”というのはウルトが声を上げたように、“戦乙女”、“剣聖”の二人の他にSSランクホルダーの座に就いているもう一人の人物である。
二つ名の通り、炎の魔法を極めた存在で、実力はもちろんSSランクホルダーの他の二人に劣る事は無い。
そのような人物が今から行く帝都にいると思えば、それだけ感嘆の声も上げてしまう。
そんな中で、ヤマトはただ、へ~と声を発するだけであったが。
そうしていると馬車についている外を伺えるように作られた窓から、遂に一つの巨大な建物が見えてくる。
それはガラン帝国の帝都にある宮殿であった。
「でっか!」
「すっげ!」
ヤマトとウルトは声を大にして前方に見える巨大な建物に感嘆した。
その表情にルリアは満足そうな表情をしている。
「そうじゃろう! そうじゃろう!? あれは帝国の誇る最大級の宮殿であるのじゃ!」
恐れ入ったか! とルリアは高らかに胸を張った。
確かにこの帝都にすら入っていない状況で、ここまで宮殿の外観が露わになっているということは驚くべきことだ。
大きさで言えばフィーリア王国の王宮よりも巨大な建物である。
その自らの国が誇る巨大な宮殿に思いっきりドヤ顔を決め込むのはルリア。
こちらが不快に思うことも出来ないような自慢げな表情には年相応の幼さが伺える。
そんな彼女の様子にゼウスは無言で目を閉じ、護衛に集中している。
彼女を注意するでもなく、賞賛するでもなく、飽きれることでもなく。
まるで見慣れているように、彼は冷静な表情を貫いている。
今の彼を見ると、この大陸がひっくり返っても驚きはしないのではないのかと思わせるほどに落ち着いている。
まさに人間としての鏡であった。
他のものはこの者の立ち振る舞いに心から賞賛を捧げた。
「なんじゃ、つまらんのう……」
ルリアはゼウスの方をちらりと見てぷいっとそっぽを向く。
そんな美少女している皇帝の姿にウルトはグッと来る、と親指を突き立てて呟くととローラに殴られた。
もちろんこの間の動作は皇帝には気づかれないように。
普通ならば不敬罪で処刑される。
「とにかく入りますか」
ヤマトの一言と同時に馬車が帝都の門にたどり着く。
ヤマトは二週間の日を経てようやく帝都に入った。
★★★
「毎度毎度…、バランにいた質素な風景が恋しくなってきた…」
ヤマトが帝都に入って最初に漏らした言葉はそんなものだった。
この帝都はほとんどが鉄や石造りでまるで所々に階段、橋などがあり迷路のような町並みである。
おそらく初めて入る者はすぐに迷子になってしまうであろう。
「さて妾達は宮殿に戻るとする。悪いがヤマト、ここらにしばらく留まっておいてくれんかの?」
「別にいいけど……、なんで?」
「少しヤマトに用があるんじゃ」
そういい残してルリアとゼウスは宮殿に向かっていった。
残されたヤマトはどうしたもんかと苦笑する。
「とりあえず、どこかに宿を取りませんか?」
「そっか、ローラ達は普通にここに留まるんだったな」
ローラ達はヤマトのようにフィーリアに留まる理由は無い。
ローラ達はまだ残ると言っていたのだが、ヤマトが気にする事は無いとガランに留まる事を進めた。
「ローラ達にはローラ達の道があるしな」
それがヤマトの言い分だった。
確かに国に(仮にだが)仕える事になってしまった以上はローラ達と一緒に旅をすることはもう出来ないだろう。
それなら今が別れるのに丁度いいと思ったしだいである。
「まあ、俺はフィーリアに居るし、またどっかで会えるだろ?」
「そうですね……」
ローラは俯きながら返事をする。
だが、浮かない顔をしているがこれで一生の別れではない。
そう、またどこかで会える筈なのだ。
ヤマトはそのまま微笑み、歩を進めた。
「ん?」
そんな時、聴力強化をしているヤマトが向こう側から何かを聞き取った。
ヤマトはそれから表情を真剣なそれに変えて走り出した。
「みんなは宿とっといて。俺はちょっと様子見てくる」
「ちょっ……、ヤマト!?」
四人はヤマトの名を慌てて呼ぶがその姿は既に遥か前方に移動していた。
そんな彼に溜め息をついたそれぞれはそのまま後を追っていった。
読了ありがとうございます。
感想・評価を頂けると嬉しいです。