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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 王宮襲撃編
106/123

14話 放つは大嵐

 地下で二人の女性が戦っている時に、王城内の大広間でもまた二人の男が激闘を繰り広げていた。



「はあ!」


「シッ!」



 ヤマトは二重身体強化デュアルチャージングを駆使してシードの目にも止まらぬ速さに何とかついて行く。

 シードはヤマトのように身体強化魔法を使えないにも関わらず、その動きはヤマトよりも上。

 いや、速さだけならカーラとも匹敵するだろう。



「そこ!」


「ほう、やるな」



 しかし、武道大会でカーラと戦った為に前回に見たよりは遅く感じられた。

 最もついて行くことで精一杯であるが。



「面白い!」



 シードはそのままヤマトの背後に回る。

 どうやら反応できなかったようでヤマトは振り返ってはいない。

 ゆえにシードはヤマトを縦に斬りつける。



「かかるか!」



 だが、ヤマトは目の前からシードの姿が消えた瞬間に背後に居る事を悟り、振り返ってから真後ろに風の爆発を放つ。

 これもまた武道大会でカーラとの試合に学んだ事である。

 ヤマトは戦闘を重ねるごとに着実に力をつけていた。


 シードはこれに舌打ちして爆風に耐えるように腕を交差して身を守る。

 そしてそれに耐えることは出来た。

 しかし、ヤマトは既にシードの間合いに入っていて風の竜巻を纏わせた刀をシードに振る。


 シードはすぐに避けるようにサイドステップするが、ヤマトがその刀を振ったと共にその場で竜巻が起こる。

 シードはそれには堪らず飛ばされた。


 それでもシードは空中で素早く持ち直して地に足を付ける。

 その際にヤマトは風の斬撃をいくつも放つ。


 だが、それをシードは加速した超速度の走りで避けて、ヤマトの間合いに入ってはカットラスで素早く攻撃する。

 それをヤマトは刀で受け止めた。


 そこから数十合打ち合う。

 何度も甲高い金属音が辺りに響き、その空間を覆う。

 そしてそれがいくつか続いた次の時には二人は同時に身体を離した。


 ここでヤマトは大広間の現状に目が入った。

 あれほど装飾されて綺麗だった大広間は悲惨な事になっていた。


 床は砕かれ、壁には切り傷やら凹んだ跡やらがある。

 大広間の隅の方ではバーンやセリーナを初め、兵や騎士が此方の戦いを眺めている。

 どうやら護衛の兵や騎士ではこの二人の戦いについて来ることは出来ないようだ。


 ヤマトはここで舌打ちする。

 それはヤマトの戦闘スタイルである、魔法を打ちまくって隙を作る戦い方が出来ないでいるからである。


 カーラ戦の時はむしろ打って構わないというようにカーラは待ってくれていた部分があった。(全部打ち落とされたが)

 しかし、シードは素早い動きで魔法を目いっぱい打たせてくれる隙がない。

 ゆえにヤマトは攻めあぐねていた。



「どうした? 来ないならこちらから行くぞ」


「!?」



 シードは話しながら接近してきた為に、喋り終える頃には既にヤマトの目の前にいた。

 ヤマトは咄嗟に刀を振るう。

 だが、シードはそれを悟っていたようにヤマトが刀を振る前に後ろに回りこんだ。


 ……その時、ヤマトは危険を察知し、本能のままにしゃがんだ。

 すると頭上には風を切る音が聞こえた。


 そこで見えたのは黒い魔力が先の方まで伸びている光景。

 色からして間違いなく闇の魔法であった。

 先ほどした音はそれをシードが後ろからカットラスを水平に振った音である。


 ヤマトはシードの方に目を向ける。

 すると、シードのカットラスの先から闇の魔力が伸びている。

 シードはそれを鞭のように撓らせた。



「魔道具……!」


「そういうことだ」



 あのカットラスは魔道具だったのか、とヤマトをさらに焦らせる。

 カットラスの剣身を覆い、切っ先から伸びている闇の魔法のその姿はまさに鞭である。

 ただでさえ素早いのに、その上にリーチも長くなると思うと…ゾッとした。


 もしあのままヤマトが本能に従ってしゃがんでいなかったら……その先は想像に難くない。



「らああああ!」



 ヤマトは次に来るであろう攻撃の前に素早く床を転がる。

 するとさっきまで居た場所にシードのカットラスから流れ出る闇の魔力が叩きつけられる。



「うおおおお!」



 ヤマトはすぐさま立ち上がり、シードに突撃して刀を振るった。

 それをシードはわずかばかり驚いた表情を浮かばせながら、カットラスで防いだ。





     ★★★





 セリーナ達は今現在ヤマトの戦いを見守っていた。

 護衛の兵たちは将軍であるヤマトに加勢に行きたいようであるが、あれほどの実力差を見せ付けられては介入したところでヤマトの足手まといになるだけである。


 それを十分に分かっているからこそ兵たちは見守るだけなのだ。



「それにしても、将軍の戦いは凄まじいものですね……」


「俺には全く付いていけないっす……」


「――これが武道大会優勝者の力」



 もはや兵たちはその戦いに感嘆さえしていた。

 セリーナから見てもそれだけ今の戦いは凄まじいものである。


 しかし、多少ヤマトが押されているようだ。

 あの白髪の男は相当の実力者のようで、ヤマトも苦戦している。


 それでもセリーナはヤマトの勝利を信じている。

 それは、あの絶体絶命の武道大会決勝戦の時も奇跡を起こしたからである。



「ヤマト、頑張って」



 セリーナはそう願う事しか出来なかった。





     ★★★





「「はあああああ!」」



 今、二人はひたすらに手に持った武器を振るっている。

 しかも横や後ろや前に足を運び、大広間の中を移動しながら。


 ヤマトは決してシードからは離れず風の付与を纏わした刀で追いすがっている

 それはリーチの長くなったシードに距離を取るのは不味いと接近戦に持ち込ませる為。

 今二人は大広間を駆け回りながら武器を合わせている。



「ふははは! あのときの小僧がこれほどまでに力をつけて来るとは!」



 シードは狂喜していた。

 これほどの掘り出し物を見つけるとは……シードはヤマトに心から賞賛を送っていた。


 あの自分に全く歯が立たなかった少年が三年間で成長して、青年となり、今まさに自分と同じ次元に立っている。

 シードにとってはヤマトは最高の遊び道具であった。


 シードの闇の鞭剣を操り振るう速度が早くなるが、ヤマトはそこから一歩も引かない。

 むしろどんどんとシードに追いついていく。

 シードは自らと同じ速さで刀を振るうヤマトに不敵に笑いかける。



「たった三年で俺まで追いつくその才能、惜しいな」


「そいつはっ! ありがたいなっ!」



 ガキンガキンと打ち合う二人は既にあちらこちらから血を流している。

 そのとき、ヤマトは突きをフェイントに刀を足払いをした。

 それにシードは反応するが、ヤマトにも避けられることくらい分かっている。

 そのまま突きの体勢の刀をそのまま足払いの回転の勢いに乗せて回し斬り。


 シードはそのままそれをカットラスで受け止める。

 しかし、ヤマトの刀がカットラスにぶつかると風の爆発を起こし二人がそのまま吹き飛んだ。



「地面に干渉せよ! 地面干渉コントロールグラウンド



 ヤマトはシードの体制が崩れたことや距離が離れたことで詠唱し床の石によるドームにその身を隠す。



「硬度を上げよ。硬化ハードタイプ



 そして次には硬化魔法。

 その石のドームの硬度を向上させた。


 そしてヤマトは決着を着けるべく目を閉じ魔力を根こそぎ集める。


 ヤマトが今にこの戦法を使ったのにも理由がある。

 それはシードの狙いはあくまで自分ではない事、つまりセリーナもしくはバーンである事。

 もしもこの戦法の間にその二人を狙われたのならば、おそらくヤマトは二人を守れないだろう。

 しかし、今のシードは完全に自分に注意を向けている。

 今ならば全力の一撃を叩き込めるのだ。


 ドームの外から叩く音が聞こえてくる。

 おそらくシードがこのドームを崩そうとカットラスから流れ出る闇魔法の鞭をを振るっているのだろう。


 だが、このドームはカーラでさえ壊すのに多少なり時間がかかった。

 ならばそれはシードにも適応する筈。

 ヤマトはそう願いひたすらに魔力を溜める。


 …そして、時が来た。


 それと同時にシードが遂に石のドームを破った。

 ここでヤマトはふっと笑ってみせる。

 カーラの時もそうだが、ギリギリまで耐えてくれるこの干渉魔法は本当に使えるな、と。


 そしてヤマトは放つ。

 以前までなら超感覚能力の自然発動が無いと使えなかった魔法。

 カーラと戦った事によりさらに強くなったヤマトは超感覚能力マストの自らの力だけで放てるようになったと直感で悟った。

カーラに放ったときと同じような最高の魔法を。



「大いなる嵐を巻き起こせ――」



 ヤマトの目前には闇の鞭剣を振るおうと構えるシードが居る。

 その表情はヤマトの姿に驚いたように目を開かせ、その後すぐに不敵に笑う。


 そしてヤマトは大広間に響く目いっぱいの声で叫んだ。



「<大嵐の息吹テリブルバースト>!!!」



 そこから現れるのは大広間を蹂躙する大嵐。

 幸いにセリーナ達はヤマトの後ろに居るので巻き込まれる心配は……多分ないだろう。

 勿論、ヤマトはこれを計算にいれて魔法を唱えたのだが。



「――――最上級魔法!! まさかここまでとは……」



 そうして大嵐はシードごと大広間を破壊する。

 その光景は大広間を破壊し、それでも威力は殺せずに王城の壁までぶち破った。

 そう、大きな爆発音と共に。



 ドッカーーーーーン!!



 城の外からこの光景を見たのならば人はどのような表情をしたのだろうか。

 おそらく顔を蒼白させて気絶するのではないか。

 何せこのかなり大きな王城の十分の一程が大破したのだから。



「将軍が最上級魔法を……!」


「なんて威力だ!」


「凄すぎる!」



 見ていたものはただこの光景に驚き戸惑っている。

 最上級魔法を使える魔道士がこんな身近なところに居たなどと信じられないからだ。



「――私の城が……」



 一方のバーンは違う意味で呆然としていた。

 この歴史あるフィーリア王城が大破した事は王としては見過ごす事は出来ないだろう。



「なんじゃこりゃぁぁぁ!!」



 その時、様々な足音が此方に向かってくる。

 それから他の兵や騎士、侍女や貴族、大臣までもがこの大破した大広間に集まって来た。

 その度に皆が絶望の悲鳴をあげる。



 皆はそれを発した一人の青年に一斉に目を向けた。

 身体中が傷だらけで、それでもその漆黒の瞳に強い光を潜ませた青年を。


 誰かがその青年を見て一つの言葉を発した。


 まるで自然災害、荒れ狂う暴風。



 ……黒い風と……。





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