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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 王宮襲撃編
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12話 相打つ

 セリーナとバーンを護衛しているヤマトは感知魔法を出来るだけ広げて、侵入者が居ないかどうかを確かめる。


 ヤマトはカーラがヘマをすることは全くといっていい程考えていないが、襲撃者が地下水路以外から侵入してくることもある。

 騎士団が離れたところにある地下牢付近で盗賊と戦闘を行っている為に不在の今、王城の警備が薄い事は言うまでも無い。



「どうだね、ヤマト君。侵入者は?」


「今のところゼロだな」



 それでも油断はしない方がいい、とヤマトは続ける。

 普通に考えれば王宮に侵入できるなどという芸当を遂行できるような軍隊というものは存在しない筈。

 仮に警備が薄くなることで可能になったとしても、それは数人程度である。


 しかし、相手はヤマトが予想通りの敵ならばSSランクホルダーに匹敵しかねない人物達だ。

 全く少しは休ませてほしい、そういいながらもヤマトは切にそう思いながら、しかし感知魔法をやめる事は無い。

 感知魔法の範囲を広げて警備の穴を突いた敵の居場所を早急に感知する。

 これが戦争ならば王宮に入られた時点で勝負はついているのかもしれないが、相手は数人程度ならば、むしろ迎え入れて直接この王宮内で叩けばいい。

 敵が入った時点で一気に殲滅する、それがヤマトの狙いだった。


 思考しながら感知魔法を続ける。

 膨大な魔力を持つヤマトにとってはこの程度は造作もないが、その行動は護衛の中にいる魔道士は多少なり感心していた。


 感知魔法は結構な集中力を要するもので、それを実行しながらに他の事にも気が向けられるのはある程度熟達したもの達である。

 ヤマトは見た目からしてまだ二十は超えていないだろうから幼い頃から感知魔法の経験をしていたのだろうと賞賛を密かに送った。


 最もヤマトが感知魔法を覚えたのは二年半ほど前で、幼い頃からではないが。


 ともかくも今のところ侵入してくる者はいない。

 それにいくら警備が薄いとは言ってもしっかり衛兵が見張っている。

 何か以上があれば何かしら騒ぎにはなるだろう。



「――――!?」



 そのとき、ヤマトは三つの生命体を感知。

 どうやら衛兵達は突破されたようで、裏の方の入り口から堂々と入ってきた。

 いくら薄くなったといっても、王宮の警備を突破できる相手となれば、それは恐らくかなりの実力者。

 ヤマトは自らの警戒心を格段に引き上げる。



「ヤマト!」


「ああ!」



 セリーナも魔力感知で侵入者に気付いたようだ。

 その侵入者は真っ直ぐと此方に向かってくる。

 どうやら王座の間をカモフラージュとして大広間に避難しているのはバレているようだ。



「はあ……」



 ヤマトはここで目を閉じ魔力を集めだす。

 本当はセリーナの前では使いたくなかったのだが、使う用途が三重身体強化トライデントチャージングなので、瞬間移動のような魔法の為に魔力を使用したのだろう、と思われる為に特に怪しまれる事は無く問題は無い筈だと開き直っての事だ。

 勿論、まわりのものにも膨大な魔力量は分かるようでただただ驚いている。


 さすがに超感覚能力マストを使うには感知魔法は邪魔なので解いているが足音から近いのは分かる。

 そして次の瞬間に扉が大きく大破した。


 中からは三人の黒フードを被った全身真っ黒の人物達が現れてくる。

 全員が全員、異様な雰囲気を纏っている。

 そしてその三人の人物は辺りを見渡す仕草を見せて、やがてこちらに視線を固定させた。

 狙いは恐らく国王とセリーナだろう、その姿を見つけてはすぐに駆け寄ろうとした。


 ……その瞬間、真ん中の男が血を流して倒れた。


 左右にいた二人はいきなりの事で分からなかったはずだ。

 その証拠に呆然と仲間の倒れて呻いている姿に呆気にとられている。

 そしてその倒れた人物のすぐ前で刀を持って佇んでいる一人の青年にも。


 それからは三秒とかからなかった。

 ヤマトは一人に風魔法、暴風ストームを放ち一人を大きく吹き飛ばす。

 その人物は思いっきり壁に叩きつけられたようで気を失ってしまった。


 そして次にヤマトは刀を地面に突き刺し、それを支柱にして回し蹴り。

 しかもつま先に小さな風の爆発を起こして威力と速さを高めたものをだ。

 そしてヤマトが車輪のように回転してのキック、それを腹から受けた黒フードの人物は吹き飛び、前の人物と同じように気絶した。



「一応侵入者は討伐しといた」



 一連の動作は正しく卓越した技術による上位の実力者によって行われるものだ。

 それをあっさりとしてのけたヤマトはケロッとした様子で皆の下に歩み寄っていく。

 その姿にセリーナやバーンは見慣れている為に感心しているだけであるが、他の者は唖然としていた。



「――――……恐れながら国王様、将軍は一体何者でありますか?」


「武道大会優勝者だ」


「――――……は?」


「――え?」



 バーンの言葉にセリーナ以外は絶句。

 初めて聞かされるその情報に目がチカチカとし出す。

 それだけ、今の言葉は衝撃的なものであった。



「――――安心するのは早いかもな」



 傍らで行われる会話のやり取りを聞きながら、ヤマトはそれだけ呟いてゆっくりと振り返り、一人の人物に目をやった。



「――いつの間に!」



 先ほどまではその姿は無かった筈である。

 それが今のやり取りの間にそこに現れた。


 その者の姿は他の者と同じように黒のローブを着てはいたが、フードは被っていない。

 顔は中々に整っていて、白い髪を長く生やしている。

 そして、その瞳は赤い眼光を発しながらヤマトただ一人を見つめている。


 目の前で佇む敵は間違いなくシードだった。



「――久しぶりだな、小僧」


「……ああ、三年ぶりだっけ」



 この二人が対峙するのは、今回で二回目である。

 だが、この再会はヤマトにとって長年待ち望んだ再会であった。



「さて、いろいろ聞きたい事があるんだけど」


「内容によるな」



 ヤマトは目の前の男をただ見つめている。

 そして口をゆっくりと開いた。



「“黒の民”。一体俺は何者なんだ?」


「ふっ……。そんな事か」



 シードは微笑しながら自らの腰にかけている緑色のカットラスを手に持ちゆっくりと構えた。

 それに合わせてヤマトもゆっくりと刀をシードに向けて構える。



「それは俺を斬ってからにしろ」


「もちろん」



 両者は強く踏み込み、両者は自らの身体に加速魔法をかけ、両者は間合いを詰めて盛大に火花を散らす。


 ……ここに両雄が相打った。






読了ありがとうございました。

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