表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 王宮襲撃編
103/123

11話 動き出す双方

「諸君、宴の時間だ!」



 場所は王城の外にある地下牢。

 その中心で立っているのはフィーリア王国の将軍、ジャマールである。



「やっとこのときが来たぜぇ!」



 捕まっていた盗賊達が一斉に地下牢の扉を開ける。

 その様子に不敵に笑うジャマールはそのまま盗賊達を自らの下に集める。



「今からお前達は城の中を混乱させろ。城の中の物品はあるだけ全部持っていって構わん」



 牢獄の主の気前の良い言葉に、ひゃっほーー! と奇声のような声で叫ぶ盗賊達を見ながらクックとジャマールは笑う。



(馬鹿な奴らめ、貴様ら盗賊如きがこの国の騎士に敵うものか。だが、混乱させる事はできるな…。その隙に――)



 王を討つ! そう決心を固める。


 元々ジャマールはフィーリア王国に忠誠を誓ってはいない。

 すべては権力が欲しいままに国に近づく為の手段である。


 元々ジャマールは貴族であったのだが、ジャマールの家は没落してしまった。

 しかし、ジャマールには剣の才があった。

 それにより今の将軍の地位まで上り詰めることが出来たのだ。


 しかし、将軍になれたはいいが自らの家が再興することは敵わなかった。

 それに対してジャマールはひどく唇を噛みしめる思いだったのである。


 そんなある時、ジャマールにある男が近づいた。

 全身を真っ黒なローブで包み、白い髪を生やした男であり、その瞳はギラギラと光る禍々しいものであった。



「貴様に力を貸してやろうか?」



 ジャマールは自らの権力を取り戻す為に根回しを続けていた。

 だが、今の国王は人徳と人望があり、中々上手く事が運ばない。

 しかし、この男やその仲間、部下の戦力は凄まじいものだと分かるや否や、もしかするとと思い始める。


 ジャマールにそう思わせるほどに、この男から放たれるプレッシャーは凄まじいものであった。


 男が言うには国王を殺した後に自らの“組織”と手を組み、その支配下に置かれる事を了承しさえすれば他の反対する将や騎士、貴族までも圧力をかけ、必要ならば殺してやるという事。


 ジャマールはすぐに国王暗殺を計画した。

 まず、国王を暗殺する為には護衛の騎士や将軍を王の下から離れさせることが必要である。

 そのための陽動もしかり。


 その陽動は何処から手に入れるか……そこで男はこう言った。



 ――貴様はこの王城の騎士なのだろう? ならば我らが盗賊をけしかけそちらの牢屋に送ってやる。そこで貴様は牢の鍵を手に入れ、期が熟した時にそいつらを解放しろ。



 そう言われて一週間後くらいからだろうか。

 国に、特に王都の外に盗賊が多く出現するようになった。

 そして騎士団が盗賊の下にたどり着けばすぐに盗賊達は降伏して自ら牢の中に入っていく。


 後は自分が鍵を手に入れて牢の鍵を開け開放し……そして今に至るわけである。



「さあ存分に暴れるが良い!」



 その声が地下牢に響いたかと思うと、盗賊達はすぐに王城の中に向かって階段を駆け上る。

 そして一気に扉を開いた。

 自分の野望が着実に達成されつつある、その事実にジャマールは笑いを抑えることが出来ずに表情に漏れてしまう。


 ……しかし、ジャマールは気付くべきであった。

 地下の牢屋に衛兵が居なかった事。

 勿論、衛兵の交代時間を狙ってのことであったが、それでも数人は居てもおかしくない。


 ならば何故衛兵が居ないのか……それは今の盗賊達の目前に答えがある。



「何故だ!? 何故騎士団が展開している!?」



 ジャマールは叫んだ。

 そう、今彼らの前には王宮騎士団や王宮魔道士隊が戦闘準備を終えた状態で待ち伏せていた。



「やはりあの青年の言う通りだったか」



 その騎士団を統率しているのは勿論ザクロである。

 しかし、そこで武器を構えているのは騎士団や魔道士隊だけではない。

 数十人の冒険者の姿もあった。



「これより盗賊を殲滅する! かかれぇぇぇ!!」



 ザクロが剣の切っ先を敵軍に向けて叫んだ。

 すると騎士団や冒険者達は一斉に盗賊達に襲いかかった。





     ★★★





「これで“奴ら”も動いてくれるだろう」



 ヤマトは今、国王とセリーナの護衛に当たっていた。

 場所は大広間で数人の兵や騎士も一緒である。


 昨日にヤマトは今まで手に入れた情報をまとめて、仮説を立てる。

 それが合っているかをマストを使っての直感で確かめた。


 それが概ね正しい事が分かるとヤマトはすぐに国王にその事を伝える。(勿論、超感覚能力マストのことは黙っている)

 そうして騎士団に盗賊の討伐を命じさせた。


 一方でヤマトとカーラは冒険者ギルドにも依頼する。

 その内容は盗賊の討伐。

 しかし、普通に依頼していては“奴ら”の耳に届いてしまう。


 そこで秘密裏に信用の出来る冒険者をギルドのマスターに教えてもらい、SSランクホルダーのカーラが頼みこむ。

 カーラは冒険者の間でも有名であり、憧れの的であるのだ。

 この頼みを断るものは居なかった。


 だが、それならばジャマールを動く前に捕らえればいいのではとバーンは言う。

 確かに、裏切り者の捜索及び捕縛が依頼ならばヤマトはそうしていたであろう。

 しかし、この依頼は侵入者の捕縛である。

 侵入者をおびき出す為にはどうしてもジャマールを泳がせる必要があった。


 そして、ジャマールは盗賊を解放した。

 おそらくこれで“奴ら”も動きをみせる筈だ。



(カーラ……頑張ってくれよ)



 ヤマトは切にそう願うのだった。





     ★★★





「さて、来るか……」



 地下水路の秘密通路をたった一人で見張っているのは“戦乙女”のカーラ。

 その姿は薄暗い地下水路の中でも凛としたものであった。


 そんなカーラの前の秘密の通路からは数人の黒ローブの男達が姿を現してくる。

 そして目の前の女性の姿にただただ全員が驚くばかりであった。



「何故ここに“戦乙女”が――」



 先頭の男が全てを言い終える前に吹き飛ばされる。

 カーラが一瞬で間合いを詰めて蹴りを一発お見舞いしたのだ。

 そのまま動けずにいた他の仲間の目の前で綺麗なアーチを描きながら水路にザブンと落ちていった。



「数は……七人程だな」



 カーラは其処から電光の速さで狭い通路の上を走る。

 他のものは身構えるようとするがカーラの前ではそれすらも許さない。

 あっという間に三人が水路に飛ばされ落ちていった。



「この!」


 だが、まだ四人居る。

 それらが一斉にカーラに襲い掛かるがカーラの速さを捕らえる事は出来ない。

 ひらりと次々に攻撃をかわされ、防がれ、四人は一人、また一人と水路に落ちていく。



「はあ!」



 そうして最後の一人を雷魔法を駆使して水路に叩きこむ。

 カーラは八人の襲撃者を全員水路に送った。



「まだだ!」



 しかし、当然水路に落ちただけでは気絶すらしない。

 全員びしょ濡れになりながらも水路から出ようと泳いで進んでくる。


 しかし、カーラの狙いはこれである。



「くらえ!」



 カーラはこれを待っていたとばかりに雷魔法の電撃を水路に向かい放った。

 すると水が電気を通して八人に襲いかかる。



「ぐああ!」



 八人が悲鳴を上げながら一気に感電して水の上に浮かぶ。

 そうして地下水路に立っているのはカーラのみとなった。

 これによりカーラは八人を撃破したのである。



「――――いや、まだ一人居たか……」



 カーラはゆっくりと後ろを振り返る。

 そこには黒ローブを着た一人の女性が立っていた。


 目鼻立ちははっきりしており、カーラほどではないが異性を惹きつける顔立ちである。

 体は小柄な方でこげ茶の髪に青い瞳を所持していて、手には長いナイフを逆手に持っている。



「まさかあのカーラが敵なんてね」



 恐い恐いとわざとらしく自分の体を抱きしめている。

 その声色からは恐怖や焦りは感じられない。

 おそらく逃げるきれる、もしくは勝てる自身でもあるのだろうか。



「貴様も侵入者の一人か?」



 カーラは目の前の小柄な女性が本当に敵かを疑問に思ってしまった。

 それほどに殺気が感じられないのだ。



「一応ね」



 そうして小柄な女性はカーラに歩み寄ってくる。

 カーラは一切警戒を緩めずに黙って女性を見ている。

 そんなカーラに女性はにっこり笑って……ローブの下からいくつものナイフを投合してきた。



「あまい!」



 だが、カーラは素早くレイピアを横に一閃。

 レイピアから雷がほとばしり、ナイフをすべて打ち落とす。



「どっちがかな?」



 いつの間にか女性はカーラの懐に潜っていた。

 それはカーラを一瞬驚かせる程に素早いものである。

 そして女性は持っていた長いナイフをカーラに突き出した。


「やるな!」



 カーラはそれを地面を蹴って大きく上に飛びかわす。

 そのまま空中でダンサーのように回転しながらトンと軽やかに着地した。



「すっごい……」



 女性は敵ながら天晴れと簡単の声を漏らす。

 そしてにんまりと笑ってみせてから再びカーラに襲い掛かった。



「私の名はヘッジ。よろしく」



 そして地下水路内に金属音が響いた。





読了ありがとうございます。

感想・評価を頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ