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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 王宮襲撃編
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10話 激突の予感

「明日に“奴ら”が動く。私が入手した情報はこのくらいしかないな」



 すまない、と頭を下げるカーラにヤマトは慌てた様子で手を大きく振る。



「いや、全然大丈夫さ! むしろナイスだ!」



 ヤマトとしては明日に“奴ら”が動くという事が分かれば上出来であった。

 その情報を手に入れる為にどのくらいの苦労を要したか、言われなくても理解はできたのだから。



「しかし、情報屋に行ってこれだけとは“奴ら”、想像していたより手ごわいかもしれん」


「大丈夫さ。カーラさんも居るし、どんな奴が来ても負けはしないだろうな」



 それはヤマトにも絶対の自身がある。

 今の二人はおそらく大陸の中でも最上級の実力者に当たるのだ。



「んじゃ、俺が手に入れた情報を言うかな」



 そして次はヤマトが話していく。


 ヤマトは五日前から第一王女のセリーナと一緒にくまなく地下水路を調べてみた。

 勿論他の兵士達と手分けして探していたのだが、目ぼしい発見は見つからずに居たのであった。


 しかし、昨日についにヤマトはある物を見つける事となった。



「隠し通路か……」


「そういうこと」



 おそらく侵入者が出入りに使用したと思われる通路。

 勿論、その中を探索しようと思ったのだが、そこでヤマトは考える。



「明日に決行と分かっているならそこで待ち伏せしようか」


「そうだな、相手の戦力も分からずに奇襲を仕掛けようとして逆に失敗したらばかばかしい」



 その通路は決して大きくは無い。

 おそらく兵士が一人ずつ入らなければならないだろうが、もしも敵に気付かれでもしたら返り討ちにあうだろう。



「それに、今回相手を逃がしたくはないしな。ここは慎重に動こうと思う」


「そうだな。私もその方が良いと思う」



 ヤマトにとって今回は運良くめぐってきた特大のチャンス。

 それを逃す事は絶対にしたくなかったのだ。



「ならば、その通路を私たちが見張っておくか?」


「そうしたいけど……」



 ヤマトはそこで考え込む。

 それは本当に通路だけを警戒していていいのかどうかという事。


 ヤマトはここで仮説を立てる。

 もしかしたら陽動を使ってくるかもしれない。

 そして城の兵士や騎士の注目がそちらに向いている間に目的を成すのではないか。



「仕方ないな……」



 ここまで仮説を立てたのなら…とヤマトは魔力を集める。

 カーラは超感覚能力マストについて知っているのでそれを黙って見届けた。


 そして三十秒……ヤマトがゆっくりと目を開けては明日の動きをカーラに伝えた。





     ★★★





「姫様。あの青年はどこにいったのでしょうか?」


「なにやら情報収集に行くと言っていたわ」



 ヤマトを探しているザクロがセリーナに居場所を尋ねるが王宮内には居ないようである。

 ザクロは溜め息をついた。



「全く…、怪しげな通路を発見した功績は認めるのだが、まだ入るなとは一体どういう事なのでしょうな」


「――多分何か考えがあっての事と思うわ」



 どうやらセリーナはヤマトに疑問を持っているわけではないようだ。

 そんな王女の姿にザクロは不安に思いながらも、姫様がそういうのであればと頷いた。



「しかし、随分と彼のことを信用しているのようですな」



 ザクロはヤマトを信用しているセリーナに微笑する。



「そうかもしれないわね……。でも私たちの敵ではないことは確かよ」


「その根拠は?」



 ザクロは王女の言葉に面白そうな表情を浮かべたまま問う。

 それにセリーナはきっぱりと答えた。


「――――女の勘ね」


「そうですか……」



 ザクロは笑いを押し殺している。

 彼女の護衛幼き頃からしていた彼からしてみれば王女の言葉は面白いものであった。



「まあ、あの青年……ヤマトは信頼はまだですが、信用はしてもよろしいと思います。私も剣を交えましたが、純粋な心が伝わってきました」


「なるほど、ザクロが言うからには大丈夫よね」



 嬉しそうな表情を見せるセリーナにザクロもまた微笑を見せる。

 ザクロは決してヤマトの事を悪く思ってはいないのだから。


 ザクロは最初、ヤマトに警戒していた。

 ザクロが相対していたからこそ感じられた異常な魔力、この者が敵になれば…と始末まで考えたほどに。


 だが、武道大会で実際に試合をして、その考えは変わった。

 純粋に剣技での勝負をして、ヤマトを何故か認めてしまったのだ。

 負かされはしたが、むしろ気持ちが良いくらいに剣で負けたのだ。


 そして、此度の件でヤマトが王宮内の者から好意的に受け止められている事もザクロにとっていい意味で意外であった。

 しかも侍女はともかく兵士、騎士からもである。


 バーンの意見から仮にだがヤマトを将軍に就かせる事が決まった。

 それは必ず他の騎士や兵からすれば嫉妬や嫌悪の視線を向けられるだろうと思っていた。


 しかし、ヤマトは早くもこの王宮に溶け込んでいる。

 勿論すべての者がヤマトを認めたわけではないが、認めている者の数はかなり大勢であった。


 そして、ザクロが最もヤマトを信用に値すると認めた原因は、セリーナが王都に帰還を果たすまでの間に襲撃者たちを撃退、セリーナを護衛した事である。

 聞けばセリーナもかなり危ういところを助けられたようで、傍に居なかった自分を恨み、またそのときに救助してくれたヤマトに感謝していた。



「姫さんにザクロ。こんなとこに居たのか」



 そんな時二人を呼ぶ声が聞こえた。

 その声の主は先ほどの会話の中心になっていたヤマト本人。



「今から国王と一緒に手に入れた情報を話しに行くんだけど、一緒に来てくれ」



 ヤマトにそういわれて二人はヤマトについて行った。

 明日の事を伝える為に向かうはバーンの下。

 ヤマトはいよいよ明日と決意を固めるのだった。





 そうしてそれぞれの準備は整いつつあり、明日に交わる事となる。


 明日に三年の時を得て、両雄は激突する。


 その運命から逃れられる術は……無い。






読了ありがとうございました。

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